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妊娠中絶理由の不法行為責任否認平成26年5月7日東京地裁判決全文紹介2

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平成26年12月22日(月):初稿
○「妊娠中絶理由の不法行為責任否認平成26年5月7日東京地裁判決全文紹介1」を続けます。





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(11) 原告は,平成24年12月10日,五の橋産婦人科を受診し(妊娠11週3日),迷っていて受診が遅くなってしまった,まだ中絶を迷っている旨述べ,同日中に決めて翌日に返答するよう指示された(甲2の2,甲20)。 

 その後,原告は,同日午後2時30分から翌11時午前5時59分にかけて,被告にメールを送信し,胎児が育ちすぎているので合法的に中絶することはできず,違法ではあるが死産させる方法しかない,そのためには被告に一筆書いてもらう必要があるが,そうすれば,被告も違法行為に加担したとして医師免許を剥奪される,出産するのであれば原告一人では育てられないので養子に出すか,親族に引き取ってもらうか,二人で育てるかの選択肢になる,被告が認知をしても外に子がいると公言することになるのだから,それならば,互いに愛情はなくても割り切って結婚し,二人で子を育てた方がよいのではないかなどと縷々訴えた(乙3の18ないし20,乙10の10ないし13)。 

(12) 原告は,平成24年12月11日午後3時頃,五の橋産婦人科に電話をかけ,中絶することに決めたが,同日はつらくて来院できない旨告げ,同月13日に中絶手術の時間帯を仮に確保してもらった(甲20)。 
 原告は,同月11日午後4時36分から翌12日午前零時32分にかけて,被告にメールを送信し,自分が死んでもいいから中絶すれば丸く収まるなどとして,被告に一筆書くよう求めるとともに,同日が中絶手術の期限であり,翌13日に中絶手術を受ける予定であることなどを伝えた(甲10の1,乙3の21,乙10の14,15)。 
 原告は,同月11日深夜頃,被告の勤務先を訪れ,被告と話し合った。原告は,被告に対し,胎児のエコー写真を示すなどして,出産への承諾を求めたが,被告は,妊娠中絶手術の同意書に署名した。その際,被告は,勤務の都合上,手術には立ち会えないことを伝えた。 

(13) 原告は,平成24年12月12日,五の橋産婦人科を受診し,妊娠中絶手術の説明を受け,翌13日に手術を受ける予約をし,その際,自身は出産したいが周囲が反対している旨述べた(甲2の3,甲20)。 
 原告と被告は,同月12日午後7時15分から同22時38分にかけて,メールのやり取りをした(甲10の2ないし8)。上記やり取りにおいて,当時勤務中であった被告は,原告の「明日どうしたらいいの? なんとか言ってよ!! 無視するなんて薄情者!!」(甲10の3)との問いかけに対し,いったんは「明日いけ!」(甲10の4)と,中絶手術を受けることを促したものの,原告が出産したいと縷々懇願するのに対し,「産んでももちろんいいよ」と返答した(甲10の8)。 

(14) 原告は,平成24年12月13日午前8時40分頃,五の橋産婦人科に電話をかけ,決心がつかないので同日は手術を見送りたいが,タイムリミットはいつかと尋ねたところ,医師から,最終月経日からの計算上は同日が同院において手術できる期限であり,エコー上での胎児の大きさからはもう少し待てるが,同月15日が限界である旨伝えられ,同日に手術を受ける予約をした(甲20,21)。 
 原告は,同月13日午後8時46分,養育費や出産費用等についての話合いを求めるメールを被告に送信したところ,被告は,同9時30分,話合いには応じるが,両親と相談できるように翌週まで待ってほしい旨返信した(甲10の9,10,乙11の1,2)。すると,原告は,同10時12分,「もう,入籍しようよー そしたら,認知も養育費も慰謝料も受診費も出産費用も存在しないじゃん」などと,結婚を求める趣旨のメールを被告に送信した(乙10の16)。 

(15) 原告は,平成24年12月15日午前9時頃,五の橋産婦人科に電話をかけ,出産する方向へ決定したとして,同日の妊娠中絶手術の予定をキャンセルした(甲20)。 
 原告と被告は,翌16日午後7時32分から同月20日午前零時34分にかけて,メールのやり取りをした(甲11の1ないし5,乙3の22,26,乙8,乙10の17,18,乙11の3)。上記やり取りにおいては,原告は,被告を「子殺しの偽善者」(乙3の22,乙10の17)などと非難し,「せんせーがICUでたことでうえが動き出して,今月ミーティングで妊娠は公表するから,それまでに今後のことふたりで決めろってさ。」(乙3の26)「もう何週間も病院いってないから,何週かもわかんない...」(乙11の3)などと,あたかも出産や結婚が不可避であるかのように述べつつ,「やっぱり独り無理!」(乙8)「お金の問題じゃないから,お金で解決しないで。」(乙10の18)「そっちの親がなんて言っても,妥協するつもりはないです。」(同)「お金はいりません...」(乙11の3)「父親にならないなら,今は話聞きたくない 私の希望はそこだけだから」(甲11の4,乙11の3)などと,金銭での解決を拒否し,結婚を求めた。これに対し,被告は,当初は「結婚出来ないって言ったじゃん! いざ産む事になったら結婚してもらえるっておもってたら,それは甘すぎる考え方じゃない?」(乙8)などと,結婚を拒否していたものの,最終的には話合いに応じる態度を示した。 
 そして,原告と被告は,話合いの結果,結婚の可能性について検討するため,平成25年3月までの間,可能な限り一緒に過ごす時間をとることとなった。 

(16) その後,原告と被告は,双方の当直勤務の合間を縫って,互いの自宅に宿泊するなどして一緒に過ごす時間をとり,その間,被告は「産婦人科受診した?」「初産まじきついよ」「a病院で出産するん?」などと,出産を前提に原告を気遣うメールを送信した(甲12の1ないし16)。 

 ところが,被告は,平成24年12月29日,原告との食事中,原告に対し,やはり結婚はできない旨告げた。原告は,翌30日,翻意を求めるメールを被告に送信したが,被告は応じなかった(甲13の1,2)。 

(17) 原告は,平成25年1月1日,被告の寮を訪れ,被告と話し合ったが,被告は,結婚を明確に拒絶し,出産するのであれば全て原告の責任であるなどと述べ,原告との間で罵り合いとなった。 
 原告と被告は,同日夜からメールのやり取りをした(甲13の3ないし11,甲14)。上記やり取りにおいては,原告が,「私は結婚しないって約束した覚えないってば!」(甲13の6)「私を好きじゃないのはわかってる でも,ふたりの子どもなんだからふたりで育ててよ」(甲13の7)「好きじゃないから無理なの?」(甲13の8)「心変わりしない? 三月から一緒に住む約束忘れないでねー」(甲13の10)「子どもおちつくまではいいじゃん...そのくらいやってよ」(甲14・画面6,7)などと,なおも執拗に結婚を迫るのに対し,被告は,「正面向けて結婚を断ります」(甲14・画面2)「最初から結婚しないっていってて,それでも生むんだから,お前の責任だろ」(甲13の3)「結婚してない子持ちの責任はとる」(甲14・画面14)「結婚せないから,その他の方法で助けになる方法ん模索するよ」(同)などと返答し,原告との結婚を断固として拒絶した(甲13の3ないし11,甲14)。 

(18) 原告は,平成25年1月4日,妊娠中絶手術のため東京レディースクリニックを受診した(妊娠14週0日)(甲4の1,甲5)。 
 原告と被告は,同日夕方から翌7日朝にかけて,メールのやり取りをしたが,「で,結婚しない代わりになにしてくれるの?」(甲14・画面20)との原告の問いかけに被告は答えず,「赤ちゃんおろすから,せんせーも死んでよ」(甲14・画面22)との原告のメールにも被告は返答しなかった(甲14)。 

(19) 原告は,平成25年1月7日,新宿レディースクリニックで妊娠中絶手術を受けた(当時妊娠14週3日)(甲3の1,2,甲5)。 
 その後,原告と被告は,同日午後7時5分から同月9日午後5時49分にかけて,メールのやり取りをした(甲14,乙12)。上記やり取りにおいては,原告は,「おい!無責任男!」(甲14・画面22,23,乙12・1枚目)「結婚しないなら選択肢なんてない。だって私だけの子どもだもん。認知だけの人に何ができるの?中途半端な手だしはお断りー」(乙12・2枚目)などと,結婚に応じない被告を激しく非難するとともに,中絶手術を受けた事実を秘したまま,治療費が70万円を超えているとして,その支払を求めた。これに対し,被告が,なぜそのような高額な費用がかかるのと疑問を呈すると,原告は,領収書を提示する旨返答した。 

(20) 被告は,原告に対し,治療費の支払等に関する協議を求め,原告と被告は,平成25年2月2日,被告宅で協議することとしたが,被告宅において,原告は,被告に飲酒を勧めるなどして話をはぐらかし,被告との性交渉に及び,翌3日,被告が,妊娠中絶したのではないかとのメールを原告に送信したのに対し,妊娠継続中である旨返答した(乙7の1ないし4)。 
 その後,被告が,原告に対し,治療費についての領収書の提示を要求したところ,原告は,同年3月14日頃,自宅に被告を呼び寄せたが,被告に飲酒を勧めるなどして話をはぐらかし,被告との性交渉に及び,妊娠中絶したのではないかとの被告の問いに対しても,妊娠継続中である旨述べた。 
 被告は,同年4月末,原告代理人から中絶費用等70万円及び慰謝料250万円の支払を求める書面を送付され,初めて原告が妊娠中絶手術を受けたことを確知するに至った(乙6の1)。 
 その後,原告と被告は,それぞれ代理人弁護士を介して協議をしたが,被告が中絶費用等の半額に50万円を加えた金額を支払うとの和解を提案したのに対し,原告は,和解金総額150万円の支払を求め,合意に至らず(乙6の2ないし6),同年6月28日,原告が本訴を提起するに至った。 
 
2 以上を前提に判断する。 
(1) 男女が合意の下で性交渉に及んだ結果,女性が妊娠した場合,胎児の生物学的な父親たる男性が,妊娠した女性に対し,妊娠及び中絶により当該女性が被る身体的,精神的苦痛や経済的負担を軽減,解消するための行為を提供し,あるいは,これらの不利益を当該女性と等しく分担する行為を提供しないという不作為は,場合によっては,当該女性に対する不法行為責任を生じさせるものと解する余地はある。 

 なお,被告は,原告の妊娠が被告との性交渉によるものであることを争うが,原告と被告は,原告の懐胎時期であると推定される平成24年10月10日に避妊せずに性交渉をもっており,同日ないしこれと近接する時期に原告が他の男性と性交渉をもったとの事実は何らうかがわれないことからすれば,原告の妊娠が被告との性交渉によるものであることは優に認められるというべきであり,この認定を覆すに足りる証拠はない。 

(2) しかしながら,前記認定のとおり,そもそも,原告と被告の交際は,将来の結婚を視野に入れた真摯なものではなかった上,原告と被告は,避妊をすることなく性交渉を行い(なお,原告と被告が,原告が出産することに合意していたとの事実は認められない。),その結果として原告が妊娠した後は,原告は,出産を望み,出産や結婚に消極的な態度を示す被告に対し,時に懇願や強迫,侮辱にわたる言辞を用い,また,出産しないのであれば違法な堕胎行為をせざるを得ず,これに関与した被告も医師免許を剥奪されるなどと虚偽の事実を述べるなどして,執拗に結婚を迫り,また,いったん予定していた妊娠中絶手術も取り止めるなどの経過を経て,被告が,いったんは原告との結婚の可能性を検討することとしたものの,結局は原告を結婚相手として考えることはできないとの結論に至り,その旨原告に伝え,これに対し,原告は,激しく反発し,必死で翻意を求めたものの,被告の態度が変わらないことから,ようやく被告との結婚が無理であることを悟り,中絶を決意したものといえる。 

 上記の経過において,被告は,それなりに原告の体調を気遣い,研修医として多忙な生活を送る中で,原告に対し,可能な限り話合いにも応じ,援助をするとの意向を示していたものであって,原告の提案や要求を断る際にも,殊更に原告に対し侮辱的な言辞を用いたとは認められない。 

 以上の経過によれば,原告が,被告との性交渉の結果として妊娠し,いったんは妊娠中絶手術を予定しながら,出産を諦めきれずに上記手術を取りやめ,その後,被告も一時は結婚を前向きに検討する姿勢を見せたものの,結局は原告との結婚を拒絶したことから,出産を断念し,母体に負担の大きい中期妊娠中絶手術を余儀なくされたことについて,強い不満を抱くのは無理からぬところではあるが,これら被告の一連の対応をみても,未だ被告に慰謝料請求権の発生を是認し得る不法行為と評価すべき行為があったということはできない。 

(3) 原告は,被告が,悪阻や切迫流産により自宅療養中の原告を見舞うこともなく,原告に励ましや話合いの電話をすることもなく,また,原告の通院への付添い,治療費や中絶費用の負担もせず,その申出すらしなかった旨主張する。 
 しかしながら,前記のとおり,被告は,それなりに原告の体調を気遣っていたものであって,妊娠発覚までの原告と被告との交際の態様や,被告が研修医として多忙な生活を送っていたことなどに照らせば,実際に原告の見舞いをしなかったことや,励ましや話合いの電話をしなかったことが違法であるということはできない。 

 また,前記のとおり,原告は,出産を強く望んでいたのであるから,原告が出産するか中絶するかを決断する前に,中絶費用の負担の申出をすることは,かえって原告の心情を傷つけかねないものである。また,原告は,妊娠中絶手術を受けた後は,その事実を秘匿したまま,被告に対し,治療費の支払を要求し,領収書の提示を求める被告の申出にも真摯に対応しなかったものであって,被告は,真実を知っていれば中絶費用の負担をしていなかったとは考えられない。したがって,被告が実際に治療費や中絶費用の負担をしていないことが違法であるということもできない。 

(4) 原告は,被告が,将来の出産に伴う各種費用の相応の負担や,子を認知した上で将来の養育費の支払の申出をすることもなかった旨主張する。 
 しかしながら,前記のとおり,被告は,原告に対し,できる限りの援助はする旨告げているところ,原告が,あくまでも被告と結婚して出産したいという強い希望を有しており,未婚のまま出産するという選択肢は,原告にとっては受け入れ難いものであったと考えられることに照らせば,被告が,出産を前提とした認知や養育費等の負担を具体的に申し出なかったことが違法であるということはできない。 

(5) なお,不法行為の成否とは別に,被告は,条理上の義務に基づき,原告が妊娠中絶手術やそのための検査等に要した費用に関して,一定の範囲でその費用を負担すべき義務を負うものと考える余地はある。しかしながら,本件において,原告は,かかる条理上の費用負担責任の主張をしていないので,この点についての判断はしない。 

第4 結論 
 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 
 (裁判官 川﨑聡子) 


以上:6,401文字

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