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不貞行為慰謝料2000万円不動産財産分与支払約束書を無効とした判例紹介1

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平成30年 8月11日(土):初稿
○「不貞行為慰謝料2940万円支払約束公正証書を無効とした判例紹介」で、妻の不貞行為相手方に対し慰謝料として2000万円の支払義務を認める書面を作成させて執拗に請求してきた事案を取り扱ったことを記載しました。

○平成21年2月26日仙台地裁判決(判タ1312号288頁)に更に凄まじい事案でした。事例概要は以下の通りです。
・X(1968年4月生まれの外国人男性)とY(昭和49年7月生まれの日本人女性)は,平成6年9月に結婚し,2男1女をもうけたが,平成17年8月に協議離婚
・Yは,平成17年3月ころから,2人の男性と肉体関係を持ち,このことを知ったXに対し,同年8月に不動産財産分与・平成18年2月に慰謝料2000万円支払約束文書作成交付
・Xは,これらの約束文書に基づき、Yに対し、不動産所有権移転登記手続,慰謝料2000万円の支払請求の訴訟を提起


○これに対し、仙台地裁判決は、本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書は、いずれも、Xが、Yの不貞行為を責める態度に終始し、Yに対する暴力を繰り返し、Yを自己のコントロール下に置いた上で、YをしてXの指図どおりの内容で本件財産分与合意書及び本件慰謝料支払約束書を作成させたものであって、被告の自由意思に基づいて作成された文書ではなくYの意思表示はいずれも無効としてXの請求を棄却しました。

○請求の相手方は、不貞行為第三者ではなく、自分の妻ですが、不貞行為を理由に不動産譲渡に加えて、2000万円もの多額の慰謝料支払約束文書を、判決の認定では、身の毛もよだつような凄まじい暴力と暴言を繰り返した挙げ句に、正に無理矢理書かせています。裁判でXは、暴力の事実を否定したはずですが、おそらく判決はYの主張をそのまま認めています。

○判決認定通りの事実関係とすれば、Xが傷害罪等で刑務所行きになり、また、Xの方がYに対し1000万円以上の慰謝料支払義務を認めて然るべき凄まじい事案で、Yはそれほど凄まじい暴力を受け、よくぞ我慢していたものだと驚きます。世の中には色々な事案があると実感するものでした。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨

(1)被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の各不動産について,財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(2)被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成18年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は,被告の負担とする。
(4)第2項につき仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は,原告の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告に対し,財産分与の合意に基づき,別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)について所有権移転登記手続を求めるとともに,慰謝料等の支払約束に基づき,2000万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成18年7月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 本件不動産の所有権の取得経緯について

(1)原告は,本件土地売買契約及び本件建物請負契約の実質的当事者は原告であり,その代金もすべて原告が支払ってきたから,原告は,本件土地及び本件建物の所有権を原始的に取得したと主張するが,当裁判所は,上記主張事実を認めるには足りないと判断する。その理由は以下のとおりである。

ア 原告はイスラエル国籍を有する者である(前提事実)が,本件土地売買契約及び本件建物請負契約の締結当時,日本の永住権を取得すれば,金融機関からその取得代金の融資を得ることは可能であったにもかかわらず,これをせず(原告が永住資格を取得したのは平成16年12月28日である。甲6),いずれの契約についても,妻である被告の名義で契約書が作成され,被告名義で所有権移転登記がなされ,本件建物の所有権保存登記がなされた。後記2のとおり,上記各契約締結当時,原告と被告との間の夫婦関係は円満に推移しており,原告が,日本国籍を有する被告に本件不動産を実質的に取得させる意思であったことは十分に考えられるところである。

イ 後記2のとおり,本件不動産の取得代金の大部分の出捐原資となっていたグッピー(アクセサリー小売業)は,その代表者は原告ではあったものの,妻である被告も実質的に関与し,実質的には原告と被告との共同経営と見るのが相当であるから,本件不動産の取得の対価という観点から見ても,これを原告の単独所有と見るべき合理的根拠はないというべきである。

ウ 前記前提事実及び後記2のとおり,原告は,平成17年8月24日,被告に命じて,本件不動産の所有権が被告に帰属していることを前提とする本件財産分与合意書(甲7)を作成させており,この時点においては,原告自身も,本件不動産の所有権が被告に帰属していたことを認めていたと推認するのが合理的である。

(2)したがって,原告が本件不動産の所有権を原始的に取得したとする原告の主張は採用できない。

2 本件財産分与及び本件慰謝料等支払約束の効力如何について
(1)前記前提事実に証拠(〈証拠等略〉)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書の作成経緯について,以下の事実が認められ,この認定に反する原告本人の陳述(甲18,36,39,44,49)及び供述は採用することができず,他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

ア 原告と被告は,平成5年12月ころ,被告が,仙台市青葉区クリスロードでアクセサリー販売の露天商をしていた原告の店に客として立ち寄ったことをきっかけに交際するようになった。平成6年3月ころ,原告から被告に結婚の申し込みがあった。被告は,当時19歳で,白百合短大に在学しており,まだ結婚は早いと考えていたが,原告が結婚できないなら別れると言い出したため,被告は,20歳になったら結婚すると話した。同年5月ころ,被告は,原告を両親に紹介し,結婚したい旨を伝えたが,被告の両親は,原告がきちんとした職についていないため,原告との結婚に反対し,その場で大喧嘩となった。被告は,同年6月,家出をし,仙台市太白区向山のアパートで原告と同棲を始め,同年9月29日,被告は両親の承諾を得ることなく入籍した。

イ 平成7年3月,被告は短大を卒業し,同年6月,被告は,原告とともにシルバーアクセサリーの卸業を始めた。平成8年8月ころ,原告と被告は,仙台市青葉区中央二丁目にテナントを借り,シルバーアクセサリーの小売業を始めた。

ウ 平成9年1月ころ,原告は,店の客である女性と親しくなり,男女関係を持つようになり,家に帰らない日が続いた。被告は,原告を失いたくないという気持ちから,何事も原告の言うとおりにするように努め,自分の意見を言わないようになった。被告は,このことのショックのため,体重がかなり落ちてしまった。同年4月ころ,被告が上記女性に対し,夫を愛しているからあなたにとられたくない旨を伝えたところ,ようやく原告は家に帰ってくるようになった。

エ 平成9年12月ころ,原告は,仙台市青葉区本町に新店舗をオープンさせた。平成10年4月ころ,原告は,女性スタッフとともに店の内装をするため,毎晩午前2時,3時ころに帰宅するようになった。同年6月ころ,内装を手伝っていた女性スタッフが突然辞めたいと言い出したため,被告がその理由を尋ねたところ,原告からわいせつ行為をされた旨を訴えてきた。被告が,原告に問い質すと,原告はこれを否定し,被告が原告を疑ったことに腹を立て,「私たちに何かあったら,被告には絶対子供は渡さない。」と怒鳴りつけた。

オ 平成10年7月,被告は長男を出産した。被告は,退院後,実家で1か月ほど静養する予定であったが,原告はこれに不満を持ち,被告が帰省して2日目の夜には「子供だけ連れて帰る。」と怒鳴るなどしたため,被告は,やむなく翌日長男を連れて家に戻った。被告は,長男をかわいがる一方,長男が夜泣きをすると「うるさい」と被告を怒鳴りつけた。被告は,長男が夜泣きをするたびに恐怖を感じるようになり,産後の体調不良もなかなか回復しなかった。原告は,体調の芳しくない被告にも仕事をするように命じ,被告が仕事に集中できないでいると,「被告はスタッフと同じだ。頼んだ仕事もできない。」「被告に仕事は任せられない。」などと責め立てた。

カ 平成10年8月,本町の新店舗の売上は芳しくなく,わずか8か月余りで閉店することになった。

キ 原告は,長男が生まれてから,無免許運転を繰り返すようになった。平成10年9月ころ,原告が違法駐車をして警察に出頭しなければならなくなった際には,原告は被告が違法駐車をしたことにし,そうするのが妻として当たり前という態度であった。原告は,その後も約7年間無免許運転を続けた。被告は,このような状態で大事故でも起きたら,保険も下りないといつも心を悩ませていたが,原告は,被告が免許を取って欲しいと話しても一向に気に留めず,逆に怒り出す始末であった。また,原告は,勝手に40万円をかけて車を改造したり,友人と飲みに行くといって出かけたまま朝方まで帰ってこないことが頻繁にあった。

ク 平成12年4月,仙台市青葉区新川に土地を購入し,家を建てることになった。従前から,被告は,原告が永住権を取るのに必要な書類を取り寄せていたが,原告は,「まだいい。」と放置して取ろうとせず,家を建築する段になっても永住権を取ろうとしなかった。そのため,原告は住宅金融公庫の融資を受けることができず,被告が借り入れることになった。家の建築は大工をしている被告の叔父に依頼したが,原告は,叔父たち大工との間でもトラブルを起こし,争いが絶えなかった。

ケ 平成13年3月,被告は,長女を出産した。同年6月ころ,原告と被告は新川の新居(本件建物)に転居したが,原告は,自分の頼んだとおりにできていない,見積に入っていたはずだなどと理由を付けては建築代金を叔父に支払わず,毎月請求書が送られてくるようになった。また,原告は,近隣の住民が草刈りや雑草を燃やすことが気に入らず,怒鳴り込んだりして大騒ぎすることがしばしばあった。被告が,ここは田舎なんだから仕方がないんだよと諭すと,原告は,「被告は誰の味方なんだ。どんなときでも夫の味方をするのが妻なんだ。」と被告を怒鳴りつけた。被告は,このとき,また原告を怒らせてしまったと後悔した。

 原告は,無免許で,幼い子供を乗せているにもかかわらず,スピードを出したり,追い越し禁止区域で追い越しをするなど危険な運転をするため,被告が,「標識は分かっているの?」と尋ねると,原告は,激怒し,「これから楽しい思いをさせてやろうとしているのに,被告は何を考えているんだ。もう行くのは止めた。全部被告のせいだ。」と怒鳴りつけた。

 被告は,このように,原告に責められてばかりいるため,何事においても自信が持てなくなり,情緒不安定となり,スプレー缶で両足を叩き付けるといった自傷行為を行ってしまった。これを見た原告は,被告の母を呼びつけ,「見ろ,この馬鹿な娘を。何をやっているんだ。こんな女母親じゃない。仕事もできない無能な女だ。私は子供を連れてイスラエルに帰る。」と被告の母を怒鳴りつけた。

 被告は,子供たちのため,何とか原告との生活を立て直そうと必死であったが,原告は,被告が自分の気に入らない人と会うことを許さず,このため,被告は,誰にも相談できない状態が続いた。

コ 被告は,平成15年3月,二男を出産した。原告は,家事育児を全く負担しない一方,被告に対しては,家事の外,4歳,2歳,0歳の子供の育児の外仕事もやるように要求し,仕事ができていないと被告を怒鳴りつけた。

サ 平成16年11月,原告が頻繁に高級車を乗り換えるため,被告は,原告に対し,余りお金がないことを伝えた。原告は,被告が子供たちの前でお金がないと言ったことに激怒し,それまで,被告が管理していた預金通帳などを自分で管理するようになった。
 被告は,家計をやりくりしつつ月2,3万円ずつ貯めた預金80万円と,被告の生命保険を解約した返戻金70万円があることを原告に伝えていなかった。これは,原告の父が体調が悪いと聞いていたため,いざというときの渡航費としてとって置いたものであった。しかし,原告は,被告がお金を隠し持っていたと激怒し,子供たちのパスポートも持っていってしまった。被告は,原告が子供たちを連れてイスラエルに行ってしまうのではないかという不安を抱えながら生活するようになった。

シ その後,原告は,「飲み屋を開きたい。」と言い出し,友人とリサーチと称して遅くまで出かけるようになった。原告は,飲食関係の仕事をしている友人Mにも出店について相談した。原告は,友人Mに夫婦仲のことも相談したらしく,この友人Mから被告に夫婦仲を心配する電話がかかってくるようになった。被告は,原告が夫婦仲について話していたことに気を許し,友人Mに悩みを相談するようになった。そして,平成17年3月ころ,被告は友人Mと交際するようになった。

ス 平成17年6月,原告は,山形市に新店舗を開店し,経費節減のため,被告が店に出るようになった。同年6月12日夜,原告は,被告に対し,「正直に話して欲しい。浮気しているんだろう。」と尋ねてきた。被告が,「好きな人がいた。」と答えると,原告は怒り出し,不貞の相手に電話をかけるよう怒鳴りつけた。原告は,電話の相手が友人Mだと分かると,Mを呼び出した。その後,M夫人も呼び出せとMに命じた。

 同日夜12時ころ,自宅にMが来ると,原告は,いきなり金属バットでMに襲いかかり,Mが乗ってきた車のガラスもたたき割り,大声で怒鳴り,Mにバットで殴ったり蹴ったりといった暴行を加えた。後から自宅にやってきたM夫人は,この様子を見て逃げ出し,近隣の人に助けを求めた。同月13日午前8時過ぎころ,パトカーが臨場し,原告は,傷害罪の現行犯で逮捕された(以下「本件傷害事件」という。)。

セ 原告は,本件傷害事件を被疑事実として勾留された。勾留中,原告は,毎日のように被告に「愛している。」と手紙を書いてきた。被告は,原告に対する恐怖心を抱えながら,家事,育児の傍ら,仙台と山形の店,警察,検察庁,弁護士事務所を走り回った。Mとは,原告が200万円の慰謝料を支払うほか,同年9月30日までにイスラエルに帰国し,再入国しないことを約束し,示談した。被告は,学資保険の解約金とバイクの売却代金で慰謝料を捻出した。

ソ 被告は,原告が勾留中,山形店の隣のテナントの社長が親身になって話を聞いてくれたことから,同人と性関係を持ってしまった。
 平成17年7月1日,原告は,罰金30万円の刑に処せられ,釈放された。原告は,自宅に戻って来るなり,結婚10周年の記念に植えた木を根こそぎ抜き放り投げ,被告の下着をはさみで切り刻む一方,被告の両親に対しては,「申し訳なかった。自分が悪かったので直していきたい。」と謝罪した。

 原告は,被告に対しては,「被告の不貞行為について,正直にすべてを話して欲しい。」と問い質した。しかし,被告は,原告の暴力が恐ろしくて話せないでいた。被告は,「子供たちを連れて先にイスラエルに帰国して欲しい。」と頼んだが,原告は,「新しい生活を始めるなら,家族みんな一緒じゃないと駄目だ。」と帰国を拒んだ。

タ 原告は,感情の起伏が激しく,一旦怒りの感情が吹き出すとこれを自制できない性格であったが,上記の傷害事件を起こした後,一層その傾向が激しくなり,被告に対して優しく接することもある一方,被告に対する不信感が増幅されると,被告を一方的に問いつめ,暴力を振るうという行動を繰り返すようになった。

 平成17年7月中旬ころ,原告が夫婦だけで旅行に行きたいと希望したため,原告と被告は,子供たちを被告の実家に預け,韓国に旅行に行った。しかし,旅行先で,原告は,被告の手帳をバラバラに壊し,「まだ,浮気相手のことが好きなんだろう。」と怒鳴りまくったり,ホテルの部屋で被告を突き飛ばしたりした。原告は,被告に対し,Mのことを正直に話すよう執拗に求め,被告がやむなく本当のことを言うと,被告を突き飛ばし,顔を平手打ちにし,蹴りつけた。

 帰国後も,原告は,常に被告が不貞をしたことが頭から離れない様子であり,ちょっとした会話からも目の色を変えて,被告を追及し,暴力を振るうようになった。原告は,子供たちの前でも被告を怒鳴りつけ,髪をわしづかみにして,「こんなママは最悪だ。嘘つきだ。こんなママいらないよな。」と子供らに尋ねたり,「何も不自由なく生活してきたのに,ご立派な生活をしていたのに,今では,子供たちまでおかしくなってしまっている。全部被告のせいでこうなってしまっている。本当のことを知りたいだけなのに,何でこんなことにならなければならない。」等と言って,被告の頭や顔を殴るなどの暴力を振るった。


以上:7,103文字

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