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不貞行為慰謝料請求訴状の被告関係者送付行為に慰謝料を認めた判例紹介

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平成31年 2月 4日(月):初稿
○原告が公務員である被告に対し、被告は原告の妻である訴外Aと不貞行為をしたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた(第1事件)のに対して、被告が原告に対し、原告が一部黒塗りをした第1事件の訴状等を被告に関係のある国会議員の議員会館事務所等にファクシミリにより送信したことが名誉毀損に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償を求めました(第2事件)。

○これに対し、平成28年10月17日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)は、被告と訴外Aとの不貞関係を認めた上で、被告と訴外Aとが不貞関係に至った時点で、訴外Aにより離婚調停が申し立てられていたものの、原告と訴外Aとの婚姻関係が破綻していたとまで認めることはできないとして、被告の不法行為責任を認め、第1事件に係る原告の慰謝料を150万円と認定しました。

○同判決は、第2事件について、ファックスによる原告の本件送信行為は、名誉毀損に当たり、公共の利害に関する事実には当たらず、公益を図る目的があるともいえないとして、原告の不法行為責任を認め、被告の慰謝料を50万円と認定しました。以下、判決文のうち主に第2事件に関係する部分を紹介します。

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主   文
1 被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成27年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 原告は,被告に対し,50万円及びこれに対する平成27年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,第1事件,第2事件を通じ,これを4分し,その3を原告の,その余を被告の負担とする。
6 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 第1事件
 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成27年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
 原告は,被告に対し,200万円及びこれに対する平成27年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 第1事件は,被告が原告の妻と不貞行為をしたとして,原告が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料1000万円及びこれに対する不法行為の後の日(第1事件の訴状送達の日の翌日)である平成27年3月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 第2事件は,原告が一部黒塗りした第1事件の訴状等を被告に関係のある国会議員の議員会館事務所等にファクシミリにより送信したことが名誉毀損に当たるとして,被告が,原告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料200万円及びこれに対する不法行為の日である平成27年2月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いがない事実等

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 争いがない事実及び後掲各証拠(人証については,末尾に調書の該当頁を示す。)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

         (中略)

(12)原告は,平成27年2月4日,農林水産省の大臣官房秘書課に対し,被告がcと不倫しているので処分を求める旨申入れた(原告本人25頁)。
 原告は,平成27年2月18日,東京地方裁判所に対し,第1事件に係る訴えを提起した(当裁判所に顕著)。
 原告は,平成27年2月22日,自民党競馬推進議員連盟に属する国会議員を中心とした20名ないし25名の国会議員の議員会館事務所等に宛てて,本件書面とともに,一部黒塗りした第1事件の訴状をファクシミリにより送信した(乙1,原告本人24,25頁)。

(13)原告とcは,平成28年5月20日,cが提起した離婚訴訟において,離婚する旨の訴訟上の和解をした(甲14)。
 その調書には,「原告は,被告に対し,別居前からbと不適切な男女の関係となったことにより被告に精神的苦痛を与えたことを陳謝する。」という条項がある(甲14)。また,cは,上記和解において,原告に対し,財産分与として,本件マンションの2分の1の持分を譲渡した(甲14)。

2 争点(1)(被告が平成26年8月頃からcと不貞行為をしたかどうか。)について
(1)前記認定事実によれば,cは,平成26年8月頃,ネット上でデートにふさわしい飲食店やラブホテルを検索し,平成26年8月27日の後に原告に対して好きな人がいてラブホテルに行きたいと思っていると述べており,遅くとも平成26年8月頃には,被告に対して好意を持ち交際したいと思っていたものと推認することができる(これに反する証人cの陳述(乙4)及び証言はおよそ不自然で合理的でなく採用できない。)。

        (中略)

4 争点(3)(原告の慰謝料)について
 原告とcの婚姻生活は,被告とcが不貞関係に至るまで約14年間余り継続していたこと,原告とcとの間には子が二人いること,被告とcとの不貞関係は平成26年11月下旬から開始し,原告がcと別居し,原告も離婚やむなしと決意した平成27年1月上旬まで短期間であること,原告とcとの夫婦関係は,cが平成17年頃から原告との性交渉を拒絶し,平成25年頃には寝室を別にし,原告の実家に新年の挨拶の電話をすることを拒否するなどし,原告の方も風俗に行ったりcの携帯電話のメールを盗み見するなどcに対して不信感を持っていたし,原告とcは,育児,家事等について喧嘩をすることがあってその際に「離婚」という単語も口にされていたなど良好なものではなかったこと,cは,平成26年9月,本件離婚調停を申し立て,その後,自宅で原告との会話を無視するようになり,夕食もともにしなくなったこと,原告とcは平成28年5月20日に離婚するに至ったこと,原告とcとの関係が決定的に悪化したのは,原告が職場でcの不貞を疑って上司や同僚を問いただすなどしてcに恥をかかせたことが発端となったことが推認され,原告としては本来はこのような手段を執るべきでなくcと直接向き合って話し合うべきであったといえること,原告としても本件離婚調停の申立てから比較的早期の平成27年1月9日の段階で離婚もやむなしと決断していることなどの事情を総合考慮すると,原告の慰謝料としては,150万円を認めるのが相当である。

5 争点(4)(本件送信行為による被告に対する名誉毀損の成否)について
 本件送信行為は,本件書面と一部黒塗りされた第1事件の訴状を,約25名程度の国会議員の議員事務所に宛ててファクシミリにより送信する行為である。
(1)本件書面及び一部黒塗りされた第1事件の訴状は,要旨,被告の所属部署と氏名を明らかにした上で,原告が,被告が原告の妻と肉体関係を含む不貞行為に及んだものであり,原告が多大な精神的苦痛を受けたため,慰謝料1000万円を請求すること,それらを記載した訴状を裁判所に提出して訴えを提起したこと,原告において不貞行為の確実な証拠を有していると認識していることなどの事実を摘示するものである。

 そして,一般人の通常の注意と読み方を基準とすれば,これらの内容は,単に原告が被告に対して訴訟を提起したという事実を摘示するにとどまるものではなく,被告が原告の妻と不貞行為を行ったこと,少なくとも被告が原告からその妻と不貞行為を行ったことを相当に高度な確度をもって疑われ訴訟提起されるに至った人物であるとの印象を与えるものであり,被告の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものであることは明らかである。これに反する原告の主張は採用することができない。

(2)原告は,原告がファクシミリを送信した相手方は,特定の国会議員であって,守秘義務を負っており,他者への伝播可能性がないものである旨主張する。
 しかし,本件送信行為は,被告と原告の妻との不貞行為の有無という,被告の職務に関連のないプライベートな事柄に関するものであり,守秘義務の対象となり得る性質のものではない。原告の前記主張は採用することができない。

6 争点(5)(違法性阻却の成否(抗弁))について
 原告は,前記のとおり,本件送信行為は,公共の利害に関する事実に当たり,公益を図る目的がある旨主張し,証拠(原告本人10頁)がこれに沿う。
 しかし,本件送信行為は,被告と原告の妻との不貞行為の有無という,被告の職務に関連のないプライベートな事柄に関するものであって,公共の利害に関する事実には当たるということはできないし,本件送信行為に公的を図る目的があるということもできない。
 したがって,原告の抗弁は採用することができない。

7 争点(6)(被告の慰謝料)について
 証拠(乙5,被告本人12,13,14頁)によれば,本件送信行為によって,農林水産省の官房秘書課だけでなく被告が当時所属していた生産局の局長、総務課長等の幹部職員が第1事件のことを知るに至ったこと,被告は幹部職員から今後行動に気を付けるようにとの注意を受けたこと,被告は,改正法案の担当者として関係する複数の国会議員に対する説明を頻繁にしており,その際,本件送信行為に関する話題は出ていないもののの,被告としては,多大な精神的苦痛を受けながら説明を行っていたことが認められる。
 これらの事情を総合考慮すれば,被告の慰謝料としては50万円を認めるのが相当である。
 

第4 結論
 よって,第1事件は,原告が,被告に対し,150万円及びこれに対する不法行為の後の日(第1事件の訴状送達の日の翌日)であることが明らかな平成27年3月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

 第2事件は,被告が,原告に対し,50万円及びこれに対する不法行為の日(本件送信行為)である平成27年2月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

東京地方裁判所民事第34部 裁判官 上村考由

以上:4,166文字

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