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支援措置申出による面会交流妨害に損害賠償を命じた地裁判決要旨紹介

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令和 1年 9月12日(木):初稿
○判例時報令和元年9月11・21日合併号に、不和別居中の妻Bが夫Aと長女Eとの面会交流を妨げる別目的のために住民基本台帳事務における支援措置の申出をしたことにより損害を被ったとして夫Aが妻Bに対し、慰謝料330万円等を請求したところ、原審平成30年4月25日名古屋地裁判決が55万円等を認容したのに対し、別目的のための支援措置申出ではないとして原判決を取り消し請求を棄却した控訴審平成31年1月31日名古屋高裁判決が掲載されています。夫Aの子Eとの面会交流を巡る深刻な紛争ですが、ここまでこじれた例も珍しいと思われます。

○先ず妻Bに対し夫Aへの55万円の支払を命じた第一審平成30年4月25日名古屋地裁判決の要旨を紹介します。判決全文は膨大な量に及んでおり、訴額が小さいので弁護士費用は低廉と思われますが、代理人弁護士の労力は大変なものです。

○原告Aが、妻である被告Bと、被告愛知県に対して、被告Bは原告及び被告Bの子であるEに係る確定した面会交流審判に基づいて、原告に対してEの学校行事への参加や、Eに対する手紙や贈り物の送付を許す義務を負っていたにもかかわらず、これを免れるために虚偽の事実を申告して、住民基本台帳事務における支援措置の申出を行い、原告に対して住民票等の閲覧等を困難にさせたうえで転居し、原告とEの面会交流を妨害するとともに原告の職場における名誉・信用を毀損したことが、原告に対する不法行為及び債務不履行に当たると主張しました。

○原告Aは、さらに、愛知県半田警察署長は被告Bが支援措置の要件を満たしていないことを認識し得たにもかかわらず、本件支援措置申出に際して、これを撤回しなかったことが国家賠償法上違法であると主張して、慰謝料及び遅延損害金の連帯支払を求めました。

○これに対し、第一審平成30年4月25日名古屋地裁判決は、被告Bによる不法行為(本件支援措置申出)と被告愛知県による違法行為は、いずれも本件支援措置決定による原告の信用低下等の損害と相当因果関係を有するものであり、同損害との関係で、社会通念上、一連の行為として客観的な関連性を認めることができるから、被告Bによる不法行為と被告愛知県による違法行為は共同不法行為(民法719条1項前段)に該当すると認められるとして、被告Bと愛知県に対し連帯して55万円の支払を命じました。

○その理由ですが、先ず被告Bは、支援措置の要件である「暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれ」がないことを認識していたにもかかわらず、専ら、原告とEが面会することを阻止する目的で(支援措置制度本来の利用趣旨に反した目的で)、本件支援措置申出を行ったものと認められ、支援措置が、加害者とされた者の住民基本台帳法上の権利行使を事実上制約するものであり、社会的評価の低下等の影響を生じさせることからすると、被告Bの本件支援措置申出は、原告の権利利益を侵害する違法行為であり、被告Bには故意又は過失があると認められるから、被告Bは、原告に対する不法行為責任を負うとしました。

○愛知県に対する請求については、被告Bが本件援助申出時に危険性要件を満たしているか否かに関しては、更なる事実確認が必要な状態であり、しかも、目的外利用の可能性を疑うべき端緒も十分にあったのだから、愛知県警の半田署員としては、原告が被告Bの避難先を把握した時期がいつであるのか、その時から本件援助申出の間に原告が被告Bに接近してきたことがあったか、原告と被告Bの間で面会交流に関してどのような争いがあり、どのような取決めや審判等が存在するのかを確認すべきであり、既に半田署に相談に訪れている被告Bに対して、この程度の確認を行うことは極めて容易であったのに、半田署員は、危険性要件を独立に認定すべき要件として考えていなかったため、その事実確認を全く行わなかったものであり、半田署員の調査義務懈怠を看過して本件意見付記を行った半田署長には、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と意見を付した違法が認められるから、被告愛知県は、原告に生じた損害を賠償する義務を負う(ただし、半田署長が本件意見を撤回することは制度上予定されていないから、その撤回義務を負うとは認められない。)としました。

○被告Bと愛知県の関係については、被告Bによる不法行為(本件支援措置申出)と被告愛知県による違法行為(本件意見の付記)は、いずれも本件支援措置決定による原告の信用低下等の損害と相当因果関係を有するものであり、同損害との関係で、社会通念上、一連の行為として客観的な関連性を認めることができるから、被告Bによる不法行為と被告愛知県による違法行為は共同不法行為(民法719条1項前段)に該当すると認められ、被告らの債務はいわゆる不真正連帯債務となるとしました。

住民基本台帳事務における支援措置制度は、DV等被害者を保護するため、住民基本台帳の一部の写しの閲覧、住民票の写し等の交付及び戸籍の附票の写しの交付について、制限する制度です。しかし、名古屋地裁判決は、この制度には、加害者とされる者の手続保障がない上に、事実誤認があった場合の簡易迅速な救済制度もないことから、加害者とされる者の利益保護の観点も考慮すれば、警察署長等が意見付記時に負担する注意義務を大きく緩和することはできないが、支援措置申出の件数が少なくないことや被害者保護のために支援措置に迅速性が求められること等を踏まえれば、本来、制度としては、相当緩やかな認定判断に基づいて仮の支援措置を講じて被害者の安全をまず確保した上で、加害者とされる者の意見聴取をするなど加害者側の手続保障を図り、その結果に応じて簡易迅速な見直しができる制度とすることが望ましいとしました。

○名古屋地裁判決は、さらに、そのような制度設計であれば、現在、社会問題化している制度悪用の弊害も概ね防止できるはずであり(このような仮の制度は、ストーカー行為等の規制等に関する法律5条3項などにも存在する。)、現在の支援制度を前提とする以上、警察署長等の注意義務の内容・程度は前記のとおり判断せざるを得ないが、DV被害者の安全を確保しつつ、加害者とされる者の手続保障にも配慮し、警察署員に過大な負担をかけないためには、より合理的な制度設計があるはずであり、制度の弊害も看過し得ない状態となってきている現在、制度改善に向けた検討が期待されるところであるとしました。

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主   文
1 被告らは,原告に対し,連帯して55万円及びこれに対する被告愛知県については平成28年8月7日から,被告Bについては同月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを6分し,その5を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して,330万円及びこれに対する被告愛知県については平成28年8月7日から,被告B(以下「被告B」という。)については同月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が,妻である被告Bと,被告愛知県に対して,次のとおり,330万円及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

(1)被告Bに対する請求
 被告Bに対する請求は,原告が,被告Bは原告及び被告Bの子であるE(以下「E」という。)に係る確定した面会交流審判に基づいて,原告に対してEの学校行事への参加や,Eに対する手紙や贈り物の送付を許す義務を負っていたにもかかわらず,これを免れるために虚偽の事実を申告して,住民基本台帳事務における支援措置の申出(以下「本件支援措置申出」という。)を行い,原告に対して住民票等の閲覧等を困難にさせた上で転居し,原告とEの面会交流を妨害するとともに原告の職場における名誉・信用を毀損したことが,原告に対する不法行為及び債務不履行に当たると主張し,被告Bに対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として,330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計)及びこれに対する不法行為の後の日であり催告の後の日である平成28年8月20日(被告Bに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

(2)被告愛知県に対する請求
 被告愛知県に対する請求は,原告が,愛知県半田警察署長(以下「半田署長」という。)は被告Bが支援措置の要件を満たしていないことを認識し得たにもかかわらず,本件支援措置申出に際して,同人が支援措置の要件を満たす旨の「相談機関等の意見」(以下「本件意見」という。)を付し,さらにこれを撤回しなかったことが国家賠償法上違法であると主張し,被告愛知県に対し,国家賠償法1条1項に基づき,330万円(費目の内訳は,上記(1)と同じ。)及びこれに対する違法行為の後の日である平成28年8月7日(被告愛知県に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

2 関係法令の定め等

(後略)
以上:3,796文字

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