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成年に達した子を15歳以上未成年子として婚姻費用認定した高裁決定紹介

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令和 1年 9月29日(日):初稿
○相手方妻が,別居中の抗告人の夫に婚姻費用分担金の支払を求めた事案で、抗告人夫は,長男は平成27年○月○日に成年に達している上,別居又は婚姻関係破綻の原因は,抗告人に無断で財産を持ち出し,抗告人宅を出て行った相手方妻にあるから,抗告人の婚姻費用分担義務は,二男の養育費相当部分に限るべきである旨主張しました。

○これに対し、その請求時に既に成年に達している長男を15歳以上の未成年の子と同等に扱うのが相当であるとした上で,婚姻費用分担金の額を算定した平成30年6月21日大阪高裁決定(家庭の法と裁判21号87頁、判タ1463号108頁)全文を紹介します。

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主   文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 抗告人は,相手方に対し,316万7192円を支払え。
3 抗告人は,相手方に対し,婚姻費用分担金として,平成30年6月から当事者双方の離婚又は別居解消まで,1か月18万円を毎月末日限り支払え。
4 手続費用は,原審及び当審とも各自の負担とする。

理   由

第1 抗告の趣旨及び理

 別紙抗告状,抗告理由書,抗告審主張書面(各写し)のとおり

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 抗告人(昭和38年○月○日生)と相手方(昭和38年○月○日生)とは,平成2年12月13日,婚姻し,両名間に,平成7年○月○日に長男が,平成14年○月○日に二男がそれぞれ出生した。

(2) 抗告人と相手方とは,平成13年に抗告人が取得した抗告人の肩書住所地の居宅(以下「抗告人宅」という。)において長男及び二男とともに同居していた。抗告人は,平成19年,C株式会社○に転職してDに配属され,単身赴任した。

(3) 長男は,平成26年3月,高校を卒業したが,志望大学には平成26年度も平成27年度も合格しなかった。また,二男は,平成27年4月,中学校に入学したが,学業成績が悪かった。そこで,抗告人は,長男及び二男の学業不振を憂慮し,同年2月から同年3月にかけて長男の大学受験を支援し,二男を学習塾に通わせた。

(4) 抗告人は,そのころ,自ら希望して平成28年7月1日付けでE株式会社○に出向し,F下で勤務することになり,同年6月21日,相手方に対し,同年7月から抗告人宅へ帰る旨連絡した。ところが,相手方は,何の連絡もなく,同年6月30日,長男及び二男とともに抗告人宅を出て,抗告人と別居した。以後,相手方は,長男及び二男と同居し,抗告人は,同年7月3日以降,抗告人宅で独居している。

(5) 相手方は,抗告人に対し,平成28年7月15日,婚姻費用として毎月19万円を支払うよう請求した(乙8の1,2)。相手方は,抗告人に対し,同年11月30日,婚姻費用分担調停(神戸家庭裁判所尼崎支部同年(家イ)第999号)を申し立てたが,平成29年4月26日,不成立となり,本件審判手続に移行した。

(6) 抗告人は,Eに出向した平成28年7月から同年12月までの間に,Cから合計418万0187円の給与・賞与を支給された(甲29,30,40ないし44)。
また,抗告人は,平成29年には,Cから合計848万2352円の給与・賞与を支給された(甲106)。

(7) 相手方は,給与所得者であり,平成28年の年収は,134万4764円(乙4),平成29年の年収は,157万9658円(乙18)である。

(8) 長男は,平成29年4月,大学に入学し,現在も在学中である。二男は,遅くとも平成28年5月からG塾(月謝2万8080円)に通っていたが,平成29年4月からはH塾(月謝1万7820円)に通っていた。二男は,平成30年4月,高校に入学した。

(9) 抗告人は,相手方に対し,平成29年1月から平成30年5月までの17か月間,婚姻費用として月額5万8000円合計98万6000円を支払った。また,抗告人は,平成28年7月から平成29年2月までの間に二男の学校諸費2万0481円及び学校給食費1万3365円,G塾の費用7万3980円,相手方を被保険者とする生命保険料3万2488円,ウイルスソフト代金1万0994円並びに○カード利用代金500円合計15万1808円を支払った(当事者間に争いがない)。

2 判断
(1) 婚姻費用分担義務

ア 当事者双方は,抗告人が相手方に対して婚姻費用分担義務を負う始期を平成28年7月とすることを合意した(原審の平成29年7月27日の審判期日調書)。

イ 抗告人は,長男は平成27年○月○日に成年に達している上,別居又は婚姻関係破綻の原因は,抗告人に無断で財産を持ち出し,抗告人宅を出て行った相手方にあるから,抗告人の婚姻費用分担義務は,二男の養育費相当部分に限るべきである旨主張する。

 しかし,長男は,成年に達した後に大学に入学し,現在も在学中であり,抗告人も長男の大学進学を積極的に支援していたのであるから,婚姻費用分担額算定に当たり,長男を15歳以上の未成年の子と同等に扱うのが相当である。
 また,前記1(1)ないし(4)の本件の経緯からは,相手方において抗告人の単身赴任解消間際に唐突にも別居するなど,些か不相当な行状もなくはないが,これのみをもって,別居又は婚姻関係破綻の原因が専ら又は主として相手方にあるとし,抗告人に対する婚姻費用分担請求を権利の濫用であるとして排斥すべきとまではいえない。
抗告人の上記主張は採用できない。

(2) 婚姻費用分担額の算定
 婚姻費用分担額の算定は,標準的算定方式によるのが相当である。
ア 抗告人の収入
 抗告人は,平成28年7月から同年12月までの間にEから6か月分の給与及び1回分の賞与合計418万0187円を支給されたから,平成28年の年収は,その2倍である836万円程度であると推計される。抗告人の平成29年の年収は,前記1(6)のとおり,約848万円である。

 抗告人は,Cから支給されている月額5万6800円の家族手当につき,相手方,長男及び二男は,抗告人と別居しているから,上記家族手当は抗告人の収入から除外すべきである旨主張する。しかし,上記家族手当は,相手方,長男及び二男が抗告人と別居した後も現に支給されているし,抗告人も婚姻費用分担義務を負うのであるから,婚姻費用を算定する基礎となる抗告人の収入から除外すべきではない。抗告人の上記主張は失当である。

イ 相手方の収入
 相手方の年収は,前記1(7)のとおり,平成28年が約134万円,平成29年が約158万円である。

ウ 算定表による試算
 長男は,15歳以上の未成年の子と同等に扱うべきであり(上記(1)イ),二男は,平成29年○月○日に満15歳に達したから,平成28年7月から平成29年12月までは,算定表の表14〔婚姻費用・子二人表(第1子15~19歳,第2子0~14歳)〕を使用し,平成30年1月以降は,算定表の表15〔婚姻費用・子2人表(第1子及び第2子15~19歳)〕を使用するのが相当である。そうすると,婚姻費用分担額の試算結果は,次のとおりとなる。
(ア) 平成28年7月から平成28年12月まで
 同年の抗告人の年収約836万円と相手方の年収約134万円を上記表14に当てはめると,「16~18万円」の枠の下限付近となるから,月額16万円とするのが相当である。

(イ) 平成29年1月から平成29年12月まで
 同年の抗告人の年収約848万円と相手方の年収約158万円を上記表14に当てはめると,「16~18万円」の枠の中からやや下となるから,月額17万円とするのが相当である。

(ウ) 平成30年1月以降(二男が満15歳に達した後)
 抗告人及び相手方の各年収は平成29年と同程度と推認するのが相当であり,同年の抗告人の年収約848万円と相手方の年収約158万円を上記表15に当てはめると「16~18万円」の枠の中からやや上となるから,月額18万円とするのが相当である。

エ 二男の学習塾の費用
 抗告人は,二男に学習塾に通わせたのであるから(前記1(3)),その費用についても相応の負担をすべきであり,抗告人と相手方との収入の較差に照らすと,抗告人がその8割ないし9割程度を負担するのが相当である。したがって,G塾(月謝2万8080円)に通っていた平成28年7月から平成29年3月までは月額2万5000円,H塾(月謝1万7820円)に通い始めた同年4月から中学校を卒業した平成30年3月までは月額1万5000円を負担すべきである。

 相手方は,上記月謝以外にも臨時に費用を支払ったことがうかがわれるが,その支出を抗告人が承諾したと認めることはできず,相手方及び二男の判断により婚姻費用の範囲内で賄うべきであるから,抗告人に負担させることは相当ではない。なお,二男が高校に入学した平成30年4月以降の費用については,その主張及び資料もないから,同月以降は,抗告人に特別の負担をさせないこととする。

オ 抗告人の婚姻費用分担額
 以上によれば,抗告人が分担すべき婚姻費用の額は,次のとおりとなり,既に履行期が到来した平成30年5月分までの合計額は,下記(ア)ないし(オ)のとおり,430万5000円となる。

(ア) 平成28年7月から平成28年12月までの6か月
 月額18万5000円(上記ウの試算額16万円に上記エの学習塾月謝負担額2万5000円を加えた額)6か月分合計111万円

(イ) 平成29年1月から同年3月までの3か月
 月額19万5000円(上記ウの試算額17万円に上記エの学習塾月謝負担額2万5000円を加えた額)3か月分合計58万5000円(ウ)

(ウ) 平成29年4月から同年12月までの9か月間
 月額18万5000円(上記ウの試算額17万円に上記エの学習塾月謝負担額1万5000円を加えた額)9か月分合計166万5000円

(エ) 平成30年1月から同年3月までの3か月
 月額19万5000円(上記ウの試算額18万円に上記エの学習塾月謝負担額1万5000円を加えた額)3か月分合計58万5000円

(オ) 平成30年4月以降
 月額18万円(上記ウの試算額)4月及び5月分合計36万円

(3) 既払金
 抗告人は,相手方に対し,平成29年1月から平成30年5月までの17か月間,婚姻費用として月額5万8000円合計98万6000円を支払ったほか,婚姻費用の一部として合計15万1808円を負担した(前記1(9))。
 抗告人は,二男を被共済者とする○共済(乙12)の掛金の支払は,婚姻費用分担金の既払と認められるべきである旨主張する。しかし,上記共済は,抗告人が契約者であるから,その掛金の支払は抗告人の債務の履行であり,婚姻費用分担金の既払金とは認められない。
 そうすると,既払金は,上記98万6000円に15万1808円を加算した113万7808円となる。

(4) 婚姻費用支払額
 以上によれば,抗告人は,相手方に対し,平成28年7月から平成30年5月までの未払額316万7192円(上記(2)オの430万5000円から上記(3)の既払金合計113万7808円を控除した額)を即時に支払うとともに,同年6月から当事者双方の離婚又は別居解消まで,月額18万円を支払う義務を負う。

3 結論
 よって,上記判断に抵触する限度で原審判を変更することし,主文のとおり決定する。
 大阪高等裁判所第9民事部  (裁判長裁判官 松田亨 裁判官 上田日出子 裁判官 髙橋綾子)
以上:4,710文字

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