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同性カップル不貞行為に損害賠償を認めた地裁判例理由部分紹介2

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令和 1年10月30日(水):初稿
○「同性カップル不貞行為に損害賠償を認めた地裁判例理由部分紹介1」の続きです。

不貞行為第三者は男性の被告Bですが、この地裁判決では、不貞行為第三者に対する離婚慰謝料を原則として否定した平成31年最高裁判決に従って、夫婦の他方と不貞行為に及んだ第三者に対して離婚に伴う慰謝料を請求するためには特段の事情が必要であり、これは本件にも妥当するところ、被告Bには、「原告と被告Aの関係を破綻させることを意図して,その関係に対する不当な干渉をするなどしたとはいえず,前記特段の事情があるとは認められない」として、被告Bに対する請求は棄却しました。

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3 争点2(不貞行為の有無)について 
 原告は,被告らが平成28年12月28日から平成29年1月3日まで一緒に宿泊し,キスや挿入を伴う性行為(不貞行為)を行ったと主張する。 
⑴ これに対し,被告らは,被告Bは性同一性障害であった上,勃起不能であったから,挿入を伴う性行為は行っていないと主張する。 
 そこで検討するに,認定事実⑹のとおり,同月4日に原告及び被告らで話合いを行った際,原告が被告らに対し,セックスしたのか否かを確認したのに対し,被告Bは,「そういう風に言えばそうですね。」と述べ,「もちろん,思いとどまった時ももちろんあったから,1回目は何かそういう雰囲気になっても思いとどまって,やってないです。やらなかったんですけど,次の時に,多分流産した時かな。」,「その時は,なんかもう,見てられなくて。」などと述べているのであって,セックスを明確に否定しない被告Bの返答からすると,被告らは,被告Aが流産した後に,少なくとも1回は性行為を行ったという原告の推認が明らかに誤りであるとまでは認められない。 

 しかしながら,被告Bは,男性機能障害(勃起不能)及び性同一性障害であったことから,挿入を伴う性行為はできなかったと供述している。この点,被告Bが男性機能障害であったことを裏付ける客観的な証拠は提出されていないけれども,被告らはシリンジ法(採取した精液をシリンジにより膣内に注入すること)により妊娠を試みていること(認定事実⑸)なとに照らすと,被告Bの前記供述が一概に虚偽であるとまではいえない。性同一性障害についても,被告Bは,後日女性への性別適合手術を受けていること(前提事実⑻)からすると,これにより実際にどの程度性行為への抵抗があるかは明らかでないものの,性行為を行っていないことを推認させる事実であるといえ,これらの点を踏まえると,被告Bの前記返答のみをもって,被告らが挿入を伴う性行為を行ったと認めるにはなお十分でないといわざるを得ない。 

⑵ もっとも,挿入を伴う性行為は行っていないという被告らの主張を容れるとしても,不貞行為は,挿入を伴う性行為がその典型例ではあるものの,前記2⑴のとおり,内縁関係に準じて認められる原告の法的保護に値する利益が侵害されているか否かが本件の不法行為の成否を左右すると解する以上,必ずしも挿入を伴う性行為を不貞行為の不可欠な要素とするものではないと解するのが相当であり,かかる解釈に立つ以上,被告らが被告B宅で数日間を共にし,被告Bも認めるキスやペッティング(挿入を除いた性行為)をしたことだけであっても,前記の利益を侵害するものとして不貞行為に当たることは明らかである。この点に関する被告らの主張は採用することができない。 

4 争点3(被告Bの故意及び特段の事情の有無)について 
⑴ 故意について 
 被告Bは,原告と被告Aが同性であり,同性婚は認められないことを認識しており,原告と被告Aの間に特別に法的な権利義務関係が生じていることの認識はなかったと主張する。 
 しかしながら,前記2⑴のとおり,同性のカップルの間であっても,内縁関係と同視できる生活関係にあったと認められる場合には,法的保護に値する利益が認められるのであって,その基礎となる事実関係を認識している場合には,故意があるというに妨げないというべきである。

 そして,本件において,被告Bは,原告本人とも会っている(認定事実⑶)ばかりでなく,被告Aを通じて,両者が交際・同棲している状況や,今後,被告Aが出産した子は,基本的には原告と被告Aが育てていく意向であることなどを聞かされ,その詳細を十分に認識した上で精子提供をすることに同意していたと認められる(被告B本人・5~6頁)から,その認識をもって,原告と被告Aの関係が内縁関係と同視できる生活関係に当たるとの基礎事実の認識に欠けるところはなく,不法行為の故意があると認められる。 

⑵ 特段の事情について 
ア 平成31年判決は,夫婦の他方と不貞行為に及んだ第三者に対して離婚に伴う慰謝料を請求するためには特段の事情が必要であるとするところ,当該判示は,内縁関係(事実婚)を破綻させた第三者に対し,破綻に係る慰謝料を請求する場合,更には本件のような場合にも妥当すると解するのが相当である。 

イ そこで,本件について,被告Bが原告と被告Aの関係を破綻させることを意図して,その関係に対する不当な干渉をするなどして原告と被告Aの関係を破綻のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情が認められるか否かについて検討するに,そもそも,被告Bが被告Aとのつながりを持つに至ったのは,被告Aが原告との間で子を育てていきたいとの考えから第三者による精子提供を求め,被告Bがそれに応じたからであって,被告B自身も,被告Aが被告Bから提供を受けた精子で妊娠・出産した子について,将来的にその子の成長を見ていければ望ましいという程度の意思は有しているものの,少なくとも原告を排してまでその子に関わっていく意思を有していたとは認められない(乙2,被告B本人・6頁)のであって,被告Bが当初から原告と被告Aの関係を破綻させることを意図していたとは認められない。そのような中,被告らが本件の不貞行為に至ったのは,被告Aが,原告との間で育てていく子をもうけたいという気持ちもある半面,被告Aが流産した際の原告の対応(認定事実⑶)等から,原告との共同生活を今後も続けていくことに対する消極的な気持ちを抱くに至り,被告Bとの関係を求めたことによると推認されるのであって,被告Bというよりはむしろ被告Aが本件の不貞行為について主たる責任を負う立場にあると認めるのが相当である。 

 さらに,本件の不貞行為が発覚した後の被告Bの対応について見ても,被告Bは,平成29年1月4日の話合いの中で,被告Aとの関係を継続したいという意向は述べているものの,最終的には,原告と被告Aの決めたことに従うとしたため,今後のことは原告と被告Aで決めるということで話合いが終わっている。そして,被告Aは,一旦は被告Bと連絡を取らない旨原告との間で約束をし,原告と被告Aの関係を継続することとしている(認定事実⑹)。それにもかかわらず,結局,被告Aが原告との別居を開始するに至ったのは,被告Aが被告Bを捨てて原告と二人での生活を継続することを決意することができなかったことによるものであって,この間,被告Bが原告や被告Aに対し,何らかの働き掛けを行っていたことを認めるに足りる証拠はない。結果的に被告らは婚姻にまで至っているが,これも,同年8月に被告Aが被告Bに対して連絡を取ったことによりその関係が再開されたことによるものであって(認定事実⑻),被告Bが原告及び被告Aの関係を破綻させることを意図していたことを推認させるものとまでは認められない。 

 なお,原告は,被告Aが出産した子を認知することを予定していなかった被告Bが原告と被告Aの関係を壊すことは,未成年者の養育基盤を自ら破壊することになるから,これに介入することは特に許すべきではないと主張するが,この点は,平成31年判決の判示に照らし,特段の事情を基礎付ける事情とはならないというべきである。また,原告は,被告Bの三者間での話合いにおける発言は信用できないことやマンションについて被告Bが言及したこと等を取り上げ,これらも特段の事情を基礎付ける事実となると主張するけれども,三者間での関係を継続することでも構わない旨の被告Bの発言が虚偽であるとまではいえない(むしろこれは,被告Bの真意であると認められる。)し,マンションについての発言も飽くまで被告Bの意見にすぎず,これらが原告と被告Aとの関係に対する不当な干渉に当たり,特段の事情を基礎付けるものとは認められないから,原告の当該主張を採用することはできない。 

ウ これらの事情を併せ鑑みると,被告Bについて,原告と被告Aの関係を破綻させることを意図して,その関係に対する不当な干渉をするなどしたとはいえず,前記特段の事情があるとは認められない。 
5 争点4(損害)について 
⑴ 財産的損害 
 原告は,本件の不貞行為に係る財産的損害として,①不妊治療の費用(50万円)及び②米国ニューヨーク州での離婚手続に要する費用(200万円)を請求する。 

 しかしながら,①不妊治療の費用は,本件の不貞行為前に原告が支出したものであるから,本件と相当因果関係のある損害とは認められない。 
 また,②離婚手続に要する費用については,その額を裏付ける立証は何らされていない上,日本での同性婚関係を解消することになったとしても,原告及び被告Aは,差し当たり米国ではなく日本で生活していく予定をしていることにも照らすと,あえて多額の費用を掛けてまで,既にしたニューヨーク州での婚姻登録を抹消しなければならない必然性はないというべきであるから,本件の不貞行為から通常生ずべき損害とは認められない。なお,被告Aについては,原告との間で米国においてされた婚姻を解消することを合意し,相互に必要な協力をして当該婚姻の解消の手続を取る旨の調停に代わる審判がされている(前提事実⑹)ものの,これをもって直ちに不法行為法上,原告が同手続を取るのに要する費用全額を被告Aに請求できる根拠とはならない。また,被告Bが原告らの同州での婚姻登録の事実を知っていたか否かは明らかでないところ(被告B本人・14頁),仮に知っていたとすればその登録抹消手続に要する費用が特別損害となる余地はあるけれども,その額が原告の主張するとおり少なくとも200万円にも上ることに加え,それでもなお原告及び被告Aが婚姻登録を抹消することについてまで,被告Bが予見しており又は予見することが可能であったとは認められない。 
 したがって,原告が主張する前記の財産的損害について,被告らが賠償義務を負うとは認められない。 

⑵ 慰謝料 
ア 被告Aについて 
 前記2⑵でも述べたとおり,原告及び被告Aは,同性であることによる法律上及び生殖上の障害を除けば,ほぼ男女間の内縁関係と変わりない実態を備えている。この点,被告Aは,流産後の原告の対応(術後検診に付き添わなかったこと(認定事実⑶参照)などから,原告が自分を家族として見てくれていないのではないかという不信感も感じ,原告との関係を今後も続けていくかについて消極的な考えも抱いていたところであり,このような点を踏まえると,原告と被告Aとの関係が本件の不貞行為前は完全に円満であったとまでは認められないけれども,被告Aも,少なくとも表面上は,原告との共同生活の解消を求めるなどの行動に及ぶことはなく,平成28年の年末の時点でも,仮に子を授かれば,その子は原告と育てていく意向を有していたのであり(被告A本人・28頁。なお,被告Aは,前記の流産に関する点以外にも,原告との考え方の違いがあり,喧嘩から別れ話に至ることもあったと述べるものの,これは円満な夫婦関係でもあり得ることであり,これをもって両者の関係が円満でなかったとは認められず,原告及び被告Aの関係が既に破綻していたとは認められないことも明らかである。),だからこそ,原告も,被告Aが被告Bと人工授精を行うものと信頼して,被告Aが被告Bの下に行くことを認めていたのである。しかるに,本件の不貞行為の結果,このような関係が破綻し,解消に至っているのであるから,原告としては,当該破綻について大きな精神的苦痛を被ったと推認される。 

 これに対し,被告Aは,原告と被告Aとの関係解消については原告も合意しており,被告らの不貞行為や被告らが関係の継続を希望したことが原因ではないと主張するけれども,原告は,被告らの不貞行為や関係継続の意向を踏まえ,やむなく合意せざるを得なかったにすぎないから,当該合意の事実をもって不貞行為との相当因果関係を否定する被告Aの主張は到底採用することができない。 

 もっとも,原告と被告Aとの関係は,日本の法律上認められている男女間の婚姻やこれに準ずる内縁関係とは異なり,現在の法律上では認められていない同性婚の関係であることからすると,少なくとも現時点では,その関係に基づき原告に認められる法的保護に値する利益の程度は,法律婚や内縁関係において認められるのとはおのずから差異があるといわざるを得ず,そのほか,本件の一切の事情を踏まえると,原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる額としては,100万円を認めるのが相当である。 

イ 被告Bについて 
 被告Bについては,前記4⑵で述べたとおり,平成31年判決にいう特段の事情があるとは認められないから,被告Bは,原告に対し,同性婚の破綻に係る慰謝料の支払義務は負わない(平成31年判決も指摘するとおり,不貞行為自体を理由とする不法行為責任を負うべき場合があるとしても,本件において,被告らが原告に対し,本件における慰謝料の根拠(不貞慰謝料か離婚慰謝料か)について求釈明をしたのに対し,原告は,原告準備書面2において離婚慰謝料に係る前記特段の事情があるとの回答しかしておらず,同準備書面3においても離婚についての精神的苦痛を求めるとしていることに照らすと,原告がいわゆる不貞慰謝料を請求しているとは解されない。

 なお,原告は,同準備書面において,貞操義務違反によって生じる精神的苦痛に係る慰謝料を請求するとも主張しているが,貞操義務は夫婦(内縁を含む。)間において生ずるものであり(民法752条),本件でいえば原告と被告Aとの間において,内縁関係に準じて認められる余地があるにすぎないものであるから,第三者である被告Bとの関係では,前記のとおり被告Bに特段の事情が認められず,強い違法性があるとまではいえない以上,原告の被告Bに対する貞操義務違反に係る慰謝料請求も認め難いというべきである。)。 

⑶ 弁護士費用 
 原告は,これまでの協議,調停及び本件訴訟に係る弁護士費用(報酬)として合計87万4000円の損害を主張するが,協議及び調停については,必ずしも法律専門家である弁護士に依頼する必要性が高いとまでは認められず,本件の不貞行為との相当因果関係は認められない。他方,本件訴訟については,前記⑵アで認定した慰謝料額の1割である10万円を認めるのが相当である。 

第4 結論 
 よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し(なお,遅延損害金の起算点は,原告が主張する本件の最終不貞行為の日(被告らが被告Bのアパートで共に過ごした最終日)の翌日である平成29年1月4日とする。),その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 
 宇都宮地方裁判所真岡支部 
 (裁判官 中畑洋輔)
以上:6,385文字

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