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誤嚥による窒息死を外来事故とした平成25年4月16日最高裁判決全文紹介

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平成26年 6月30日(月):初稿
○傷害保険約款解釈に関する平成25年4月16日最高裁判決(裁判集民243号315頁、判時2218号120頁)全文を紹介します。
亡Aは、嘔吐した吐物を誤嚥して、気道閉塞により窒息死しましたが、これが、傷害保険普通保険約款で死亡保険金支払対象となる「急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害」に該当するか、保険金を支払わない「脳疾患、疾病又は心神喪失によって生じた傷害」に該当するかが争われた事件です。

○一審の平成22年9月14日神戸地裁(判タ1338号220頁、判時2106号141頁)は「外来の事故」、二審の平成23年2月23日大阪高裁判決(判時2121号134頁)は「疾病」に該当すると正反対の解釈がなされ、亡A遺族が上告していましたが、最高裁は、吐物の誤嚥は、傷害保険普通保険約款において保険金の支払事由として定められた「外来の事故」に該当すると判示しました。

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主  文
 原判決を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 
 
理  由
 上告代理人○○○○の上告受理申立て理由1ないし7について
1 本件は、普通傷害保険契約の契約者兼被保険者が嘔吐した物を誤嚥して窒息し、死亡したことについて、保険金受取人である上告人らが、保険者である被上告人に対し、死亡保険金の支払を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、Aとの間で、同人を被保険者とする普通傷害保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた。本件保険契約に適用される傷害保険普通保険約款(以下「本件約款」という。)には、次のような定めがあった。
ア 被上告人は、被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して、保険金を支払う。
イ 被上告人は、被保険者の脳疾患、疾病又は心神喪失によって生じた傷害に対しては、保険金を支払わない。
ウ 被上告人は、被保険者が上記アの傷害を被り、その直接の結果として、事故の日からその日を含めて180日以内に死亡したときは、死亡保険金を支払う。
エ 死亡保険金が支払われる場合において、死亡保険金受取人の指定がないときは、被保険者の法定相続人を死亡保険金受取人とし、その法定相続分の割合により支払う。

(2) Aは、平成20年12月24日、飲酒を伴う食事をした後、鬱病の治療のために処方されていた複数の薬物を服用した。その後、Aは、うたた寝をしていたが、翌25日午前2時頃、目を覚ました後に嘔吐し、気道反射が著しく低下していたため、吐物を誤嚥し、自力でこれを排出することもできず、気道閉塞により窒息し、病院に救急搬送されたが、同日午前3時18分に死亡が確認された。Aの死因は、吐物誤嚥による窒息であった。
 Aが服用していた薬物は、いずれもその副作用として悪心及び嘔吐があり、その中には、アルコールと相互に作用して、中枢神経抑制作用を示し、知覚、運動機能等の低下を増強するものもあった。
 Aの窒息の原因となった気道反射の著しい低下は、上記誤嚥の数時間前から1、2時間前までに体内に摂取したアルコールや服用していた上記薬物の影響による中枢神経の抑制及び知覚、運動機能等の低下によるものである。

3 原審は、本件保険契約における保険金の支払事由である外来の事故は、外部からの作用が直接の原因となって生じた事故をいい、薬物、アルコール、ウイルス、細菌等が外部から体内に摂取され、又は侵入し、これによって生じた身体の異変や不調によって生じた事故を含まないとした上、Aの窒息の原因となった気道反射の著しい低下は、体内に摂取したアルコールや服用していた上記薬物の影響による中枢神経の抑制及び知覚、運動機能等の低下によるものであるから、Aの窒息は外部からの作用が直接の原因となって生じたものとはいえないと判断して、上告人らの請求を棄却した。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 本件約款は、保険金の支払事由を、被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に傷害を被ったことと定めている。ここにいう外来の事故とは、その文言上、被保険者の身体の外部からの作用による事故をいうものであると解される(最高裁平成19年(受)第95号同年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1955頁参照)。
 本件約款において、保険金の支払事由である事故は、これにより被保険者の身体に傷害を被ることのあるものとされているのであるから、本件においては、Aの窒息をもたらした吐物の誤嚥がこれに当たるというべきである。そして、誤嚥は、嚥下した物が食道にではなく気管に入ることをいうのであり、身体の外部からの作用を当然に伴っているのであって、その作用によるものというべきであるから、本件約款にいう外来の事故に該当すると解することが相当である。この理は、誤嚥による気道閉塞を生じさせた物がもともと被保険者の胃の内容物であった吐物であるとしても、同様である。


5 以上と異なり、Aの窒息は外来の事故による傷害に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、保険金支払の可否を判断すべく、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官田原睦夫の補足意見がある。

裁判官田原睦夫の補足意見は、次のとおりである。
 誤嚥は、通常経口摂取したものによって惹起されるところ、本件では、誤嚥の対象物が吐瀉物であったところから、原判決はその外来事故性に疑問を抱いたものと思われる。
 しかし、誤嚥とは、一般的な医学用語辞典によれば、本来口腔から咽頭を通って食道に嚥下されるべき液体又は固体が、嚥下時に気管に入ることをいうものであって、誤嚥自体が外来の事故であり、誤嚥の対象物が口腔に達するに至った経緯の如何、即ち経口摂取か、吐瀉物(吐物、吐血を含む。)か、口腔内の原因(口腔内出血、破折歯片等)によるかは問わないものである。
 (裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春) 
以上:2,615文字

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