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もやもや病脳内出血死亡に医療過誤が認められた判例紹介4

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平成29年10月 5日:初稿
○「もやもや病脳内出血死亡に医療過誤が認められた判例紹介3」の続きです。


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(2)一般的医学的知見
ア 水頭症の画像所見に関する医学文献の記載
(ア)平成19年10月1日発行の「グリーンバーグ脳神経外科ハンドブック」(甲B2)244頁ないし246頁には,「CT/MRIによる水頭症の判定基準」として,以下の内容の記載がある。
 多くの方法が,定量的に水頭症を定義するのに試みられてきた(ほとんどは,初期のCTによるデータである)。ここでは,いくつかを完全に紹介する。慢性水頭症の放射線学的所見については,別に述べる。
 静水学的水頭症は,次のどちらかのときに示唆される。
a 両方の側脳室下角(TH)の大きさが,幅2mm以上(水頭症がない場合,側脳室下角はかろうじてみえる)で,シルビウス裂,大脳半球間裂,大脳の脳溝がみえない。
b または,両方の側脳室下角が2mm以上で,FH
ID比が0.5以上(FHは前頭角の最大幅で,IDはこのレベルでの内板から内板までの径)
c 静水学的水頭症を示唆する他の所見
(a)側脳室前頭角のballooning(ミッキーマウス脳室Mickey Mouse ventricle)と第三脳室のballooning
(b)CTでは脳室周囲低吸収域,MRIのT2強調画像では脳室周囲高信号域で,経上衣性吸収像または髄液の迷入を示唆する。
(c)FH
ID比の単独使用(40%以下は正常,40~50%は境界領域,50%以上は水頭症を示唆)。
(d)Evans比:最大両側頭頂経に対するFHの比で,30%以上。
(e)MRI矢状断で脳梁が上方に弓状になる。

(イ)平成23年4月1日発行の「標準脳神経外科学」(乙B2の1)322頁には,以下の内容の記載がある。
 CTによって観察される脳室拡大の程度は,Evans index(エヴァンス指数),Cella media indexなど種々の計測値によって客観的に評価される。Evans indexは0.3以上,Cella media indexは0.25以上の場合に水頭症を疑う。

(ウ)平成17年11月発行の「小児外科」vol.37,no.11(乙B5)1252頁には,以下の内容の記載がある。
 水頭症では側脳室の拡大がみられることが多く,その程度からEvans指数(側脳室前角部最大幅
大脳最大横径),Cella media指数(側脳室体部最外間距離
頭頂骨内板間距離)などさまざまな指標が提唱されている。
 いずれにせよ,一指標のみに依存せず,診断は時間経過を観察するなど総合的に行うべきであり,単回の画像から水頭症が必ずしも確定診断できない。

イ 頭蓋内圧亢進の診断,治療に関する医学文献の記載
(ア)平成23年3月2日発行の「病気がみえる vol.7 脳・神経」(第1版)(甲B5)131頁以下には以下の内容の記載がある。
 頭蓋内圧亢進を疑った場合,まずCTで原因の検索を行い,確定診断として頭蓋内圧の測定を行う。
 頭蓋内圧亢進に対する治療で大切なのは,脳ヘルニアへの移行を極力防ぐことである。治療には,頭蓋内圧を下げる降圧療法(内科的治療)と原因疾患に対する根治的治療(外科的治療)がある。
 内科的治療としては,抗浮腫薬の投与があり,抗浮腫薬には,浸透圧利尿薬グリセロールなどがある。外科的治療としては,脳室ドレナージ,V-Pシャント等がある。

(イ)平成26年4月8日発行の「脳神経外科診療プラクティス1 脳血管障害の急性期マネジメント」(甲B11,12)には,以下の内容の記載がある。
a「〈5〉.脳出血と血管奇形 1.急性期診断 a.脳出血初期診療手順と診断-出血原因検索のポイント-」(143頁)
 超急性期の切迫脳ヘルニア状態の頭蓋内圧亢進患者に対しては,グリセオール又はマンニトールの急速点滴静注を行いながら,出血原因の検索を行う。ヘルニアを伴わなくても頭蓋内圧亢進症状を伴う大きな脳出血の症例に対して,同様の薬剤の点滴静注を行うが,逆に意識障害がなく,頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状が無い症例に対する投与は不要である。
b「〈5〉.脳出血と血管奇形 2.各種脳出血の急性期治療 b.出血発症もやもや病の急性期マネジメントと手術適応」(159頁)
(a)出血型もやもや病特有の問題点-高血圧性脳出血との違い-
 通常の高血圧性脳出血と下記の相違点がある。
 出血源が視床や尾状核頭など傍側脳室部であることが多く,側脳室前角・体部・三角部への穿破例がきわめて多い。すなわち急性期に脳室ドレナージ手術を要する頻度が高い。
(b)急性期マネジメント
 十分な脳灌流圧を維持するために,頭蓋内圧亢進のある重症例ではその是正が必要である。本症において調整呼吸による過換気法は採用できず,浸透圧利尿薬による頭蓋内圧降下が主体となる。ただ効果は一時的であり,コントロール困難であれば早期に脳室ドレナージや開頭処置による減圧を決断しなければならない。
(c)手術適用の判断
 出血量が少なければ保存的に治療するが,重症例では脳灌流圧維持の観点から,高血圧性脳出血よりも積極的な外科的介入を考える。発症年齢から言っても,外科処置を阻害する要因は少ない。
 出血が実質内に大血腫をつくらず,主に脳室内に穿破し急性水頭症を呈する例が多い。頭蓋内圧降下のために脳室ドレナージをためらう理由はなく,重症例ではただちに実施する。

(3)平成25年7月16日作成のZ12医師作成の意見書(甲B1。以下「Z12意見書1」という。)
 Z12意見書1の要旨は,次のとおりである。
ア Z4が入院した頃,どのような診療がなされるべきであったか。
 Z4が入院した10月18日,遅くとも10月19日には,もやもや病によって脳室内出血を招いて水頭症を合併していると診断し,水頭症に対して脳室ドレナージを設置し脳圧を適正に管理しながら本疾患の急性期管理を行わなければならなかった。
 小児における脳出血の原因としては全身性疾患以外では,頭部外傷及び脳血管障害(もやもや病,脳動静脈奇形等)が考えられる。本例では10月18日に造影CTスキャンが行われており,両側中大脳動脈起始部狭窄,右内頸動脈狭窄,前大脳動脈,後大脳動脈の狭窄を認め,更に脳底にもやもや血管が認められているのであるから,もやもや病と確定診断できる。

 本例における水頭症の診断は10月18日のCT画像でなされるべきである。本来CT上両側側脳室の側頭角はほとんど見えないのが正常所見である。側頭角が2mm以上観察されれば,水頭症と診断されるが本例では,10月18日のCT画像で両側の側頭角が明らかに2mm以上に拡大していることが認められるので,10月18日の時点で水頭症を発症していたと診断ができる。更に右基底核領域背側の脳出血が認め,造影CTで脳底部の動脈狭窄の所見からもやもや病が強く疑われ,10月19日のMRAにより確定診断がなされている。遅くとも10月19日には,もやもや病によって脳室内出血及び脳梗塞が生じ,更に水頭症を合併していると診断できる。

イ 10月18日のCT上の側脳室の側頭角の拡大は,脳室内出血を原因とするものではないか。
 10月18日のCT上,出血が認められるのは右脳である。ところが,本例では,両側の側頭角が拡大している。血腫の影響を受けていない左側頭角も拡大しているのである。仮に,水頭症を発症していないなら,左側脳室の側頭角は拡大しない。したがって,本例の両側頭角の拡大は,脳室内出血による拡大で説明できず,水頭症を発症していると判断できる。

ウ Z4は脳室内出血を起こしているが,脳室ドレナージを行うにあたり注意すべきことは何か
 高血圧性脳出血後急性期に脳室ドレナージを実施して急激に脳圧を降下させることは再出血を助長し,出血の拡大をもたらす可能性もあるため,慎重に適応を判断すべきである。しかし本例では発症から時間が経過しており,臨床症状が進行している。頭蓋内圧亢進を症状悪化の原因の一つと判断し,頭蓋内圧を適正に保つために早期の脳室ドレナージ実施が必須と考えられる。
 脳室ドレナージは脳外科の手術の中では基本的な手技であり,身体への侵襲は必ずしも大きくない。

エ 上記のとおり,脳室ドレナージを実施して急性期管理をした場合のZ4の予後はどのようなものであったと考えられるか。
 脳室ドレナージを実施して臨床症状が改善した後にもやもや病に対する精査を行う。もやもや病は血流不足を補うためにもやもや血管が発達する病気であるから,本例に脳虚血状態を合併していると診断された場合には脳虚血を改善するため,直接的又は間接的血行再建術を行うことになる。

 私の経験上,小児のもやもや病出血発症例においては,成人の場合と異なり,死の転帰を取ることは極めて稀である。急性期管理が適切ならば,その後,血行再建術を実施するなどにより,あるいは運動麻痺は残るかもしれないが,長期予後は決して不良ではないことが一般的である。本例は,出血で発症しているが,それゆえ特に生命予後が悪いということはない。この点は,「Child’s Nervous System Volume28 Number2 February2012」の237~245頁の「Hermorrhagic moyamoya disease in children:clinical features and surgical outcome」に書いている。

オ 本例では,Z4はどのような機序をたどって死亡したと考えられるか。
 基礎疾患として,もやもや病があり,10月18日に脳室内出血を起こし,水頭症を発症した。しかし,水頭症に対する治療が行われず,漫然と経過観察が続けられ脳圧亢進が進行した。もやもや病患者は脳灌流圧が低く,脳灌流圧が低いと,脳梗塞を発症しやすくなる。頭蓋内圧が亢進すると,脳灌流圧がさらに低下する。したがって,わずかな頭蓋内圧亢進が脳梗塞の悪化をもたらす危険性が大きい。
 Z4の場合,水頭症が発症しているのに診断がなされなかったため,頭蓋内圧亢進が進行し,10月23日から痙攣発作が起こり脳腫脹によってさらに頭蓋内圧が亢進し,10月24日には広範な脳梗塞に至り,死の転帰を辿ったと考えられる。

カ Z4が入院後,痙攣が起きている報告を受けた場合は,通常医師はどのような処置をするか。
 可及的早期に抗痙攣薬を投与し痙攣を止め全身管理を行う必要がある、痙攣発作は脳腫脹を助長し更に頭蓋内圧を亢進させるからである,単に経過観察を指示することはありえない。

キ 本例は,どのような医療機関によって,治療されることが必要だったか。 
 小児期発症のもやもや病は全国で年間数十件程度しか発生しない疾患である。急性期の管理も含めて,経験と知見のある専門医療機関でなければ適切な治療が困難である。よって,小児もやもや病の経験が乏しかったならば,小児もやもや病の疑いと診断したらすぐに,少なくとも専門医にコンサルトすることが必要であり,専門施設に搬送すべきであった。

ク 先生の小児もやもや病の診療経験をお教えください。
 本疾患に関しては32年間,東北大学病院,またその関連施設,そして宮城県立こども病院にて診療及び研究に携わっている。

(4)平成28年11月17日作成のZ12医師作成の意見書(甲B15。以下「Z12意見書2」という。)
 Z12意見書2の要旨は,次のとおりである。
ア 10月23日午後5時頃の痙攣発作発生時に,既に,10月24日午前11時34分撮影のCTで確認されたような広範な脳梗塞が発症していた可能性はあるか。
 10月24日午前11時34分のCTで確認されたような右大脳半球及び左前大脳動脈領域,左中大脳動脈領域というような広範な脳梗塞が生じれば,その患者は意識障害や失語等の神経症状を呈していると考えられる。ところが,Z4は,診療録によると,10月23日午後5時頃に痙攣が生じているが,その直前に会話が成立しており,痙攣発生後も午後5時55分,午後8時47分に発語がみられる。

 また,10月23日午後5時頃に痙攣が発生した以後,10月24日午前7時30分の硬直性痙攣まで,痙攣の頻度は徐々に頻回になり,重症化している。
 したがって,Z4については,10月23日午後5時頃に痙攣が発生し,その後に痙攣重積になり,脳浮腫が発生,頭蓋内圧が更に亢進し脳灌流圧が低下,その結果として脳梗塞が徐々に拡大していったものと考えるのが論理的である。脳梗塞の発生は何時なのかは断定できないが,少なくとも痙攣発症の段階では,10月24日のCTで見られるような広範な脳梗塞は形成されていなかったと考えられる。

イ 10月23日午後5時頃の痙攣発作発生時に痙攣を止めていた場合,Z4は救命できたか
 痙攣発作発症時は,可及的速やかに痙攣を止めなければならない。あわせて,痙攣の原因を精査し,その原因に対し治療を行う。
 Z4については,10月23日午後5時頃の痙攣発作発生直後に,抗痙攣薬を投与して痙攣を止める努力をすると同時に,原因の精査のため速やかにCT,或いは可能ならばMRIにより脳の画像診断を行い,頭蓋内圧亢進が疑われれば,必要に応じて減圧開頭術,脳室ドレナージ,投薬などの頭蓋内圧亢進を改善するような管理をされたであろう。このような対応をしていたら,Z4の死亡の結果は避けられたと考える。

ウ Z4の痙攣発作は予測されたか。どのような対応が必要だったか。
 一般に小児では,頭蓋内に何らかの異常が生じると,痙攣発作を起こしうる。これは,小児診療を行う医師であれば誰でも知っていることである。
 したがって,もやもや病で脳出血,脳梗塞を発症していたZ4が,痙攣発作を起こす可能性は,十分に予測された。
 上記のとおり,痙攣発作は重篤な合併症や後遺障害につながる可能性のある状態であり,直ちに止めて対応しなければならないから,本例でも,担当医は,他の医師や看護師に対して,痙攣発作時の対応について必ず事前に予測指示を出しておかなければならなかった。

エ 10月18日から同月23日までの間,Z4の頭蓋内圧については,どのように管理する事が必要だったか。また,実際に頭蓋内圧は,どのような状態であったと推測されるか。
 もやもや病の患者はもともと脳灌流圧が低いため,わずかな頭蓋内圧の亢進でも症状の悪化を招きやすい。その上,Z4は,脳出血と脳梗塞を発症しており,当初は状態が安定していても脳浮腫が進行するに伴って頭蓋内圧亢進を来すことが考えられる状態にあった。
 したがって,CTで成人に認められるような典型的な脳室の拡大が認められなくても,脳室内出血による髄液循環障害によって頭蓋内圧が亢進することを想定して,管理しなければならない。
 頭痛,嘔気,嘔吐は脳室内出血に伴う髄膜刺激症状であると共に典型的な頭蓋内圧亢進症状でもある。さらに頭蓋内圧が亢進した場合には意識障害も出現する。

 Z4は,10月18日から頭痛,嘔気,嘔吐の各症状が持続し,10月22日,23日には意識レベルの低下が認められた。意識レベルの低下は右大脳病変に著しい変化が認められないことから,頭蓋内圧が亢進していたと疑うべき徴候である。10月22日のCTではわずかではあるがミッドラインシフトが認められ,これも脳梗塞による脳浮腫に伴う頭蓋内圧亢進があることを示唆するものである。
 頭痛,嘔気,嘔吐,意識レベルの低下の症状がある以上,頭蓋内圧亢進は臨床的に否定できない。上記症状が頭蓋内圧亢進症状ではないという積極的な理由があれば否定できるが,そのためには,脳室ドレナージを行うか,或いは脳圧モニターを留置して,頭蓋内圧を測定することが必要である。

 しかし,Z4には,10月24日に減圧開頭術をするまで脳圧を測定する試みはなされていない。したがって,上記の症状が頭蓋内圧亢進症状ではないと判断する根拠がなく,根拠もないのに,頭蓋内圧亢進を否定して管理したことは臨床的には誤りである。
 以上は,子どものもやもや病の診療に経験のある医師にコンサルトすれば,理解されたところである。

オ Z4の側脳室の下角は,本件のもやもや病による脳出血,脳梗塞発症前から元々,大きかったといえるか。
 脳梗塞を繰り返し発症するもやもや病の患児は,血流が不足し,脳の発達が妨げられ,正常脳よりも脳が委縮していることがある。その場合,側脳室の下角が元々大きいということはありうる。

 しかし,Z4はこれまでに脳梗塞を発症したことはない。本例のようにこれまでに脳梗塞や脳虚血性発作が見られない小児もやもや病患者の安静時脳血流量は通常児と変わらないため,Z4の脳は脳萎縮を合併していたとは考えられない。正常に発達していたと考えられるため元々側脳室の下角が大きかったことはないだろう。
 したがって,側頭角の下角の拡大は,脳室出血に伴う髄液循環障害(水頭症)が存在し頭蓋内圧亢進がもたらされていると判断し,脳室ドレナージ等の対応が必要であったと考える。

カ 被告病院の診療体制に問題があれば指摘して頂きたい。
 もやもや病は脳神経外科では一般的な疾患であっても小児の頻度は少なく,医師免許取得後4年程度の医師が治療方針を判断できる疾患ではない。少なくとも,上級医や専門医による適格な指導監督が必須である。
 本件では,主治医が他院にコンサルトすべきだったと証言しているが,そもそも,コンサルトすべきかどうかの判断は上級医がするものである。また,主治医は痙攣時の予測指示も出していないが,これも上級医が予測指示を出すよう指導監督すべきことであった。
 被告病院は,経験のない医師を主治医にし,かつ,主治医に対する上級医の指導監督も全くなされていない。そのために,Z4が入院後,頭蓋内圧亢進症状と判断すべき状態で,画像上も頭蓋内圧亢進の存在を疑うべきであったにもかかわらず,結果として痙攣発作が起きても対応できずに,痙攣重積状態のままで長時間放置し,頭蓋内圧亢進状態が長時間続いた結果としてZ4は死亡するに至った。


以上:7,443文字

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