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佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介6

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平成30年 2月18日(日):初稿
○「佐村河内守氏対プロモーション会社間訴訟第一審判決紹介5」の続きです。


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(3)実施された公演による利益(前記〔1〕)について
 先に述べたとおり,実施された公演については,通常得られる利益を超過して得られた利益を通算対象とすべきであるところ,前記のとおり,原告が実施した本件公演により得た利益は,本件公演における販売実績が,近年原告が手掛けてきた音楽公演における販売実績を特に上回るものでないと認められることから,原告が通常行ってきた業務により得ていた利益と同視し得るものといえる。したがって,実施された公演から得られた上記超過的利益があるとは認められないから,通算対象とすべき利益は存しない。

(4)弁護士費用 500万円
 本件事案の内容等を考慮すると,上記額を認めるのが相当である。

(5)小括
 以上から,原告が被告の不法行為により被った損害額は,(2)及び(4)の合計額の5677万8421円と認められる。

4 争点3(被告には本件楽曲に係る損失があるか)について
(1)本件で,被告は,原告が,本件楽曲に係る使用料を支払うことなく,実施された本件公演において本件楽曲を演奏させたことについて,使用料相当額の不当利得が成立すると主張していることから,これが認められるためには,まず,被告が本件楽曲の著作権を有していたことが必要となるところ,P2は,会見において,本件楽曲を含む被告の作品として発表されている楽曲については,その著作権を放棄したいと述べ,被告との間で本件確認書を作成していることからすれば,P2において,少なくとも,本件楽曲の財産的な著作権を被告に対して譲渡したものと解するのが相当である。

 これに対し,原告は,仮に譲渡契約があるとしても,その実質はゴーストライター契約であるから,著作権法121条に反する,あるいは公序良俗に反するもので無効である旨主張する。しかし,本件確認書に係る著作権譲渡合意が,それ自体としてゴーストライター契約であるとは認められない。また,本件楽曲に関して,被告とP2との間で,著作権譲渡合意とともに,原告主張のような趣旨の合意がされたとしても,本件確認書が,真の作曲過程の発覚後に,なお著作権の譲渡だけを特に確認することを対象として作成されていることからすると,被告とP2との間で,著作権譲渡合意が上記の本件楽曲に関する合意と不可分一体のものとされていたとまでは認められず,また,性質上不可分一体のものとも認められない。そして,著作権法121条は,著作者名を詐称して複製物を頒布する行為を処罰の対象とするにすぎず,著作権を譲渡することを何ら制約するものではないから,本件確認書自体が同条に反するものではなく,また,そのことは公序良俗違反についても同様であるから,被告とP2との間における本件楽曲の著作権譲渡合意は無効とはいえない。

(2)そうすると,被告は,本件楽曲についての著作権を有するものであるから,本件公演における本件楽曲の演奏について,本件楽曲利用の対価である使用料を取得する権利を有するところ,その支払を受けていないのであるから,被告には,本件楽曲に係る使用料相当額の損失があると認められる。なお,先に述べたとおり,被告は,原告に対し,本件公演における本件楽曲の利用を許諾していたとは認められるが,弁論の全趣旨によれば,本件公演に当たり,原告と被告は,使用料の支払について協議をしようとしていたものの,結局,協議が具体化しないまま本件公演が実施され,その後も協議がされないままとなっていると認められ,無償で利用させる旨が合意されていたわけではないから,原告による本件楽曲の利用利益の享受という利得は,なお法律上の原因を欠くものというべきである。

5 争点4(原告の利得額)について
(1)原告が,本件公演における演奏に関し,本件楽曲に係る使用料として支払うべき額については,原告が主張するような,被告との間の合意を認めるに足るものはなく,平成26年12月にJASRACが被告との間の著作権信託契約を解除するまでは,本件楽曲はJASRACにより管理されており,原被告間で使用料が合意されなければ,原告は,JASRACに対して所定の使用料を支払うことで足りたはずであるから,本件における原告の利得額としての使用料相当額は,原告がJASRACに対して支払うべき使用料の額と認めるのが相当である。
 この点,原告は,被告が受け取るのはJASRACの管理料を除いた金額である旨主張するが,原告が本来支払うべき使用料相当額を定める場合に考慮すべき事由ではない。

(2)そして,原告は,本件公演の実施当時,JASRACとの間で年間の包括的利用許諾契約を締結していたと認められるところ(乙3の2),JASRACの使用料規程によれば,年間の包括的利用許諾契約を前提とする場合,平均入場料額(税抜き)を算出し,これに,定員数を乗じて得た額が800万円以下の場合は,その50%,同額が800万円を超える場合には,800万円を超える額の25%に400万円を加算した額を総入場料算定基準額とし,同額の5%の額に消費税相当額を加算した額と定められている(甲165・4,21頁)。
 そして,実施された本件公演について,弁論の全趣旨によれば,包括的利用許諾契約を前提とする場合のJASRAC所定の使用料額が別紙著作物使用料算定表のとおり410万6459円となることが認められ,同額が原告の利得と認められる。

 これに対し,被告は,原告は包括的利用許諾契約を無視して使用料を直接被告に支払うことを持ちかけていたとして,原告が包括的利用許諾契約を前提とする使用料額を主張することは禁反言に反する,あるいは,不当利得における一般的な使用料相当額については妥当しない旨主張し,使用料の額を争う。しかし,前記のとおり,本件公演の実施当時,本件楽曲はJASRACにより管理されており,原被告間で使用料が合意されなければ,原告は,JASRACに対して所定の使用料を支払うことで足りたはずであるから,JASRACにおいて,原告が包括的利用許諾契約を前提とすることを否定したような事情がない以上,包括的利用許諾契約を前提として算定した額が,原告が支払を免れた額であるといえ,被告の主張は理由がない。

 なお,被告は,原告は民法704条の悪意の受益者であるとして,最終公演日の翌日からの遅延損害金の支払を請求するところ,不当利得返還義務は期限の定めのない債務と解されるから,原告が遅滞の責任を負うのは,悪意か否かにかかわらず,反訴状が原告に送達された日の翌日である平成27年6月23日からであると認められる。

 また,被告は,商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求するが,反訴請求に係る不当利得返還請求権が商行為によって生じた債権であるとはいえないし、それに準じる債権とも認められないから,被告は,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し得るにとどまると解するのが相当である。

第4 結論
1 以上からすると,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,5677万8421円及びこれに対する不法行為日後の平成26年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 
 また,被告の原告に対する不当利得返還請求は,410万6459円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成27年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

2 よって,原告の被告に対する本訴請求,被告の原告に対する反訴請求は,いずれも上記1の限度においてこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないから,これをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之 裁判官 田原美奈子 裁判官 林啓治郎

(各別紙添付省略)
以上:3,318文字

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