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スーパー水濡れ床滑り転倒事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介

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平成30年 5月 7日(月):初稿
○「コンビニ店舗床滑り転倒事故と土地工作物管理瑕疵判断判例紹介」の続きで、この判例と同様、民法第717条土地工作物管理瑕疵責任に関する判例紹介です。いずれも当事務所取扱事案に関連する参考判例です。

○事案は、被告の経営するスーパーマーケットにおいて転倒した顧客である原告が、本件転倒は店舗内の床の管理が不十分で床が濡れていたために生じたものであるから、被告には建物の管理につき瑕疵があり、また、被告の従業員は床を濡らしたままにしないよう水分を拭く等の注意義務を怠っていたなどとして、民法717条、同715条に基づく損害賠償約226万円の支払をを求めたものです。

○これに対し、平成22年12月22日名古屋地裁岡崎支部判決(判時2113号119頁)は、本件店舗の転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまるものであったこと、他に転倒事故が発生した形跡が全くないことなどからすると、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえないから、本件店舗の床の管理につき瑕疵があったとは認められず、被告従業員において床の管理に関する注意義務違反があったとも認められないとして、請求を棄却しました。

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主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求

 被告は原告に対し、226万5511円及びこれに対する平成20年12月17日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
一 本件は、被告が経営するスーパーマーケットを顧客として訪れた原告が、店舗内の床の管理が不十分で、床が濡れていたために店舗内で転倒し傷害を負ったとして、被告に対し、①建物の管理について瑕疵があったとして民法717条に基づき、また②被告の従業員において、床を濡らしたままにしないよう水分を拭く等の注意義務があったのに従業員らがこれを怠ったものであるとして民法715条に基づき、治療費2万2875円、休業損害194万2636円及び慰謝料30万円の合計226万5511円及びこれに対する平成20年12月17日(事故日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

二 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。証拠によって認める場合には証拠番号を付する。)
(1) 当事者
ア 被告は愛知県内等においてスーパーマーケットを経営する株式会社であり、aスーパー(以下「本件店舗」という。)を経営している。
イ 原告は本件店舗に顧客として訪れた者であり、当時38歳の女性である。

(2) 原告の転倒事故
 平成20年12月17日、原告は本件店舗内豆腐売り場付近で転倒し、右膝蓋骨骨折の傷害を負った(甲一)。

三 争点
(1) 転倒に関する責任の所在
ア 当時の床面の滑りやすさ、水分の有無
イ 転倒の原因
ウ 被告において要求される管理の程度ないし注意義務の内容

(2) 損害

四 争点に関する当事者の主張
(1) 転倒に関する責任の所在

ア 当時の床面の滑りやすさ、水分の有無
(ア) 原告の主張
 当時、原告が転倒した場所付近は、従業員二人が雑巾をもってきて拭いた程度に濡れていたのであり、うっすらと水気があったという水準のものではなかった。
 当日事故があった午前10時前後において雨は全く降っておらず、北側出入り口にも傘袋は用意されていなかった。

(イ) 被告の主張
 本件店舗において、被告従業員は開店前に清掃を行っており、長時間にわたって床が濡れていたまま放置されていたということはない。転倒後に被告従業員が把握した範囲では、転倒場所においてはうっすらと水気がある程度であった。
 また、当日愛知県内は雨であり、原告は傘を持っていたものであるところ、原告の傘から雨水がしたたり落ちており、水たまりが生じたとすれば原告の衣服ないし傘から生じたものであると考えられる。
 そして、そもそも本件店舗の床材は、「コーデラ」というものであり、その滑り抵抗値(CSR)は乾燥時0・83、水濡れ時0・54、水+ダストの際でも0・4であるところ、仮に当時の滑り抵抗値が0・4であったとしても、この数字は東京都福祉のまちづくり条例において認められている数字であり、本件店舗の床に水濡れがあったとしても、特段転倒事故を招くような危険な状況はなかった。

イ 転倒の原因
(ア) 原告の主張
 原告は、上記のように著しく濡れた床面において滑って転倒したものである。
 原告は当日スニーカーを着用しており、原告の服装に特段転倒を招くような要素はなかった。

(イ) 被告の主張
 被告従業員は当日原告が健康サンダルを着用しているのを見ている。また、本件店舗で原告以外に転倒者はなく、上記のように、仮に本件において水濡れが生じていたとしても、その原因は原告自身の傘等からのしずくが原因であり、原告の転倒は専ら原告自身の不注意によるものである。

ウ 建物管理及び注意義務の程度
(ア) 原告の主張
 被告は店舗という不特定多数の人が自由に出入りする建物を管理するものであるから、建物の管理には万全を期すべきであり、来客が建物内で安全に買い物できるよう建物を管理する注意義務がある。しかし、被告は床の濡れを十分に点検せず、床が濡れているのを漫然と放置しており、被告は建物の保存管理に瑕疵があったものである。
 また、被告は従業員に対し、顧客が安心して買い物をできるように、床が濡れたまま放置しないよう注意すべき義務がある。しかし被告がそれを怠った結果、従業員が床を濡れたまま放置していたのであって、被告の従業員がその事業の執行につき過失によって原告に損害を与えたといえる。

(イ) 被告の主張
 被告において、利用者の履き物や傘等に付着した雨水が全く床に落ちないようにする義務、あるいは落ちた場合にすぐその全てを拭くなどの義務が課されることは、被告に対して不可能を要求するものである。
 被告は、開店前に店舗の清掃を行っており、また入り口に
傘袋を用意するなどして、雨水による転倒事故を防止するための努力は十分に行っているのであって、被告の建物保存管理に瑕疵はなく、また従業員の注意義務違反もない。

(2) 損害
ア 原告の主張
(ア) 治療費 2万2875円
 原告は本件事故による傷害の治療のため、平成20年12月18日から平成21年3月23日まで整形外科への通院治療を行った。

(イ) 休業損害 194万2636円
 原告は平成20年12月22日から平成21年2月20日まで休業し、同日に解雇予告を受け、3月20日付で解雇となった。そして、治療終了日である3月23日から三か月間は再就職のために必要とされるべき期間であって、平成21年6月23日までが休業期間というべきである。そして、原告は仕事と別に主婦業も行っており、その基本となる収入は賃金センサス(平成18年度、女子学歴計、35歳から39歳)の385万3600円とすべきである。
 そうすると、休業期間は184日であるから
 ¥3853600/365×184=¥1942636となる。

(ウ) 慰謝料 30万円

イ 被告の主張
(ア) 治療費について
 原告の膝には初診時から可動域制限はほとんどなく、平成21年3月6日の段階で骨癒合しているなどの事情に照らすと、原告の症状は既に同日の段階で治癒ないし症状固定しているというべきであり、同日以後の治療費は本件との因果関係を有しない。

(イ) 休業損害について
 原告の事故直後における必要な休業期間は一か月と診断されており、また平成21年2月3日に可動域が回復していて、同月18日の段階で「疼痛なし」等との記載があることからすると、遅くとも同日の段階では休業の必要性は消滅していたというべきである。
 また、原告の解雇は上記のとおり休業の必要性が消滅した後のことであり、因果関係がない。
 主婦休損についても、原告が主婦業を行っていた証明がない。

(ウ) 慰謝料は争う。

第三 当裁判所の判断
一 《証拠省略》によれば、以下のとおりの事実が認められる。
(1) 当日における周辺地域の天気

ア 愛知県岡崎市
 岡崎市においては、当日午前6時に降水量0・5ミリメートル、同7時に一ミリメートル、同8時に1・5ミリメートル、9時に0・5ミリメートル、11時から12時に0・5ミリメートルの降水量が記録された。午前10時の降水量は0であった。

イ 愛知県豊田市
 豊田市においては、当日午前7時に降水量1・5ミリメートル、同8時に0・5ミリメートル、9時に0・5ミリメートルの降水量が記録された。午前10時の降水量は0であった。

ウ 愛知県東海市
 豊田市においては、当日午前6時に降水量0・5ミリメートル、同8時に0・5ミリメートル、9時に0・5ミリメートルの降水量が記録された。午前10時の降水量は0であった。

(2) 被告における清掃態勢
 被告においては、営業終了後に化学雑巾でモップがけをし、翌朝9時ころから10時までの間に、前日の夜に十分汚れが取れなかった部分を、30分程度かけて水モップがけをすることとなっている。水モップがけの後のから拭きは特にしない。営業時間中は原則として掃除をせず、ただ商品等が破けるなどして濡れた場合には、適宜従業員が掃除を行うこととなっている。

(3) 本件店舗の床材の材質と滑り抵抗値
ア 本件店舗の床材の材質は「コーデラ」であり、その滑り抵抗値は、合成ゴム底靴を前提として、乾燥時に0・83、水濡れ時に0・54、水+ダストの状態で0・4であった。

イ 東京都福祉のまちづくり条例中の施設設備マニュアルによれば、下足によって歩行する部分の滑り抵抗値は0・4から0・9とすること、また同一の床において滑り抵抗に大きな差がある材料(滑り抵抗値で0・2以上)の複合使用は避けるべきであり、突然滑り抵抗が変化すると滑ったり躓いたりする危険が大きいとされている。
 そして、下足によって歩行する場合において、対象を事務所や工場、店舗等とした場合、許容範囲の滑り抵抗値が0・4から0・9で、それ未満だと転倒を招くとされ、また最適範囲は約0・45から約0・7程度とされている。

(4) 当日の状況に関する原告の供述内容
 当日、原告は本件店舗まで自転車で向かい、開店直後である朝10時過ぎころ本件店舗に到着した。天気は曇りであり、雨は降っていなかったが、地面がうっすら濡れていた。当日の服装は、下はジーンズで、上はパーカーか何かを羽織っており、バッグをもって、スニーカーを履いていた。
 入店後、豆腐等が配置されている和日配コーナーの商品棚を見ながら歩いていたところ、突然滑って、前のめりで、右膝がついて、両手をついて転んだ。どちらの足が滑ったかは覚えていない。床は濡れており、二人の店員が雑巾をもって拭いていた。滑ったのは水を踏んだからだと思う。転んだ後に足元を見
たら水があるなと思った。靴に水がついていたのは確認していない。靴下は濡れておらず、上の服も濡れなかったが、ジーパンが濡れたかどうかは覚えていない。
 その後、自転車に乗って帰った。

(5) 当日の状況に関して証人Bが聞いた内容
 当日朝8時半ころ出勤した際、強い雨が降っていた。
 開店前の時点で、Bがゴミ、汚れなどがないかと確認したところ、和日配コーナーにはないという報告を受けた。また、商品の袋が破れた等の報告もなかった。
 午前10時30分ころ、お客さんが店内で転んだとの報告を従業員から受けた。転倒するところは従業員は誰も見ていなかったが、転倒した大きな音を聞いた者はいた。かけつけて原告に謝罪すべく頭を下げた際、原告がピンクの健康サンダルを履いているのを見た。その後、現場の確認をした際、水気は確認できなかったが、従業員から、うっすら濡れていたというくらいの水分はあり、拭いたとの報告を受けた。

二 以上を前提として検討する。
(1) 当日の転倒現場における床の状況について

ア 上記各事実によれば、以下のとおりの事情が認められる。
(ア) 床の材質について
 上記各事実によれば、①本件店舗の床材は「コーデラ」という材質になっているところ、同材質の滑り抵抗値は乾燥時に0・83、水濡れ時に0・54、水+ダストの状態で0・4であり、いずれもそれ自体として転倒の危険を有する状態ではないこと、②もっとも、滑り抵抗値が同一の床で急に変化した場合には転倒の危険を生じうるものであること、といった事情が認められる。
 これらによれば、本件店舗の床はそれ自体として特段危険性を有するものではなく、床に水濡れが生じたとしても直ちに危険となるものではないが、床の一部分についてのみ大きな水濡れが生じ、周辺と大きな滑り抵抗値の差が生じた場合には、一応転倒の原因ともなりうる状況にあったものというべきである。

(イ) 当日の天気について
 上記各事実によれば、①原告は当日自転車で本件店舗に向かっていること、②Bが雨天を確認したのは出勤の際であり、午前8時半以前の時間帯であって、その後天気を確認してはいないこと、③当日の気象記録によれば、岡崎市、豊田市、東海市のいずれにおいても午前10時において降水は記録されていないこと等の事情が認められ、これらによれば、少なくとも原告が本件店舗に向かう間において、原告の服に水滴をもたらすような降雨はなかったものと考えられる。

(ウ) 床の清掃状況について
 上記各事実によれば、①本件店舗では前日の夜に化学モップをかけた後、翌朝開店前にモップで水拭きをすることになっていたこと、②水拭きの後のから拭きは行われていなかったこと、③当日は冬であり、また降雨の有無はともかく雨天気味で湿気は相当にあったと考えられ、床に水分があった際に乾燥するまで時間がかかると考えられる状況にあったこと等の事情が認められる。
 これらによれば、本件当日に転倒現場付近で開店前の水モップ拭きが行われた可能性は必ずしも否定できず、床に多少の水分が残っていたとしても必ずしも矛盾はしないと考えられる。

イ このような状況の下で見ると、①当日の開店前に若干の水分が転倒現場付近に残っていた可能性は必ずしも否定されないにせよ、大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段なく、②開店時間前後において本件店舗付近、あるいは原告宅から本件店舗までの道のりにおいて強い雨が降っていたと考えることはできず、原告の衣服等(そもそも原告が傘を持っていた事実を含め、原告の服装に関するBの供述は全体として曖昧な部分が多く、また記憶が鮮明だと述べる部分の理由についても容易に首肯しがたいところであり、当日の衣服や持ち物については原告の供述を採用すべきものと考えられる。)から多量の水が床に落ちたと考えられるわけでもないのであって、転倒当時の床の状況としては、床が多少水分を帯びていた状況自体はあったとしても、それを越えて、床の上に水が浮いているような状況であったとは考えられない。

 原告は、転倒したときに足下に水があった旨供述するが、原告が供述するような転倒態様で、撥水性のある可能性がある靴はともかく、靴下やズボンが全く濡れなかったとは考えられないし、またズボンが濡れたとしてその認識が原告になかったとも考えられないのであって、この点に関する原告の供述は採用の限りではない。

(2) 被告における床の管理の瑕疵等について
 以上のような床の状況を前提とすると、元々本件店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではなく、また転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまるものであったと考えられ、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下していたり、あるいは床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められない。
 そして、本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないことにも照らすと、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえない。
 そうすると、本件店舗の床の管理について瑕疵があったとは認められず、また被告従業員において床の管理に関する注意義務違反があったとも認められない。

 (なお、原告の服装については原告の供述を採用すべきであることは上述のとおりであり、そうすると原告が健康サンダルを履いていたから滑ったとか、傘等からの落水により滑った等の事実が容易に認められるものではない。しかし、本件における立証命題は被告における管理の瑕疵ないし従業員の注意義務違反であり、それが認定できない以上、傘や健康サンダルに関する認定が上記のとおりであることから直ちに被告の損害賠償責任が基礎づけられるわけでもない。)

三 以上より、原告の請求は、工作物責任・使用者責任のいずれについても理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判官 長島銀哉)
以上:6,969文字

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