仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > 不動産・登記等 >    

新設建物所有者から既設建物所有者への目隠し設置要求を棄却した判例紹介

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
平成30年11月20日(火):初稿
○「民法第235条”目隠し”設置要求が一部認められた判決紹介まとめ1」の続きです。

○以下の、民法第235条に関して、目隠しを付けなければならないのは、後に境界線から1m未満の距離に建物を建てる者だけか、以前から境界線から1m未満の距離に建物を建てている者は隣地に建物が建つことで目隠しを付けなければならなくなるのではないかとの質問がありました。
民法第235条
境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
2 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する


○これについて注釈民法の解説では、1m未満の距離に建物を建てている者が、他人の宅地を見通せる窓又は縁側を設けている場合、建物建築の前後を問わず双方に目隠し設置義務があると説明されています。

○判例を探したところ、土地の境界線をはさんで、双方の土地に建物が建築され、いずれの建物も1メートル以内に窓が設置されている場合に、双方の土地の所有者が互いに民法235条に基づき目隠しの設置を求めたところ、一方の所有者の請求のみが認められ、他方の所有者の請求が権利濫用になるとされた平成20年1月30日さいたま地裁判決(判決裁判所ウェブサイト)がありましたので、関係部分を紹介します。

○この判決では、一般論としては、先に境界線から1m未満の距離に建てられた建物の窓も「他人の宅地を見通すことのできる窓」に該当するとしながら、この事案では先に建物を建てていた側は、建物建築当時,隣地は畑として使用されており,地目も「宅地」ではなかったことから窓の設置にあたって境界線からの距離を必ずしも考慮する必要がなかったことを理由の一つとして、先に建物を建てていた側への目隠し設置要求は権利濫用として棄却されました。

*******************************************

主  文
1 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)X1及び同X2に対し,別紙物件目録記載5の建物に設置された窓のうち,別紙被告建物図面記載の1階及び2階の各⑧及び⑨の各窓にそれぞれ縦90センチメートル,横180センチメートルの金属製又は樹脂製の目隠しを設置せよ。
2 原告(反訴被告)X1及び同X2のその余の請求,原告X3及び同X4の請求,被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用中,原告(反訴被告)X1及び同X2と被告(反訴原告)との間に生じたものは,本訴反訴を通じてこれを3分し,その1を被告(反訴原告)の負担とし,その余を同原告ら(反訴被告ら)の負担とし,原告X3及び同X4と被告(反訴原告)との間に生じたものは,全部同原告らの負担とする。 
 

事実及び理由
第1 請求
1 本訴

(1) 被告(反訴原告。以下「被告」という。)は,原告X3及び同X4に対し,別紙物件目録記載8の建物西北側壁面に設置された別紙被告建物図面の各階①ないし④の各窓に,別紙目隠目録記載の目隠しを設置せよ。
(2) 被告は,原告X3及び同X4に対し,別紙物件目録記載8の建物西北側壁面に設置された別紙被告建物図面(1)ないし(3)の台所換気扇からの排気風を別紙物件目録記載1の宅地内に直接吹き込ませないようにするための別紙台所排気風遮蔽物目録記載の遮蔽物を設置せよ。
(3) 被告は,原告X3及び同X4に対し,別紙物件目録記載8の建物西北壁面中,別紙物件目録記載1の宅地に面した部分に,同宅地に直接空調排気風を吹き込ませないようにするため,空調施設室外機を設置する場合は,その排気口に別紙排気風遮蔽板目録に記載した物と同様の遮蔽板を設置せよ。
(4) 被告は,原告X3及び同X4に対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成15年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告は,原告(反訴被告。以下「原告」という。)X1及び同X2に対し,別紙物件目録記載8の建物西北側壁面に設置された別紙被告建物図面の各階⑤ないし⑯の各窓に,同原告らの宅地内を観望できない構造の別紙目隠目録記載の目隠しを設置せよ。
(6) 被告は,原告X1及び同X2に対し,別紙物件目録記載8の建物北西側壁面に設置された別紙被告建物図面(4)ないし(12)の台所換気扇からの排気風を別紙物件目録記載3及び4の宅地内に直接吹き込ませないようにするための別紙台所排気風遮蔽物目録記載の遮蔽物を設置せよ。
(7) 被告は,原告X1及び同X2に対し,別紙物件目録記載8の建物の北西壁面中,別紙物件目録記載3及び4の宅地に面した部分に,同宅地に直接空調排気風を吹き込ませないようにするため,空調施設室外機を設置する場合は,その排気口に別紙排気風遮蔽板目録に記載した物と同様の遮蔽板を設置せよ。
(8) 被告は,原告X1及び同X2に対し,それぞれ110万円及びこれに対する平成15年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴
 原告X1及び同X2は,被告に対し,別紙物件目録記載5の建物の東南面に存する1階及び2階に設置された別紙X1建物図面記載①ないし⑥の各木製窓枠に接着して,その窓全面に,アルミ枠に,別紙サンプル図1及び同2に各記載の,エンジニアプラスチック製ホワイトパネルを取り付ける方法による各目隠しを設置せよ。

第2 事案の概要
 本訴は,その所有地に3階建て賃貸マンションを建設した被告に対し,同土地の西北側にそれぞれ宅地建物を有する原告X3,同X4,原告X1,同X2が,民法235条に基づき同マンションの各階の西北側の窓すべてに目隠しの設置を請求するとともに,同マンションが建設されたことにより,プライバシー侵害,日照権侵害,換気扇の排気風による悪臭被害等が生じたと主張して,不法行為に基づく損害賠償及び差止等を求める事案である。反訴は,被告が,原告X1及びX2に対し,民法235条に基づきその住居の東南側の窓すべてに目隠しの設置を求める事案である。

     (中略)

第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告らの被告に対する目隠設置請求の可否)及び争点(2)(被告の原告X1及びX2に対する目隠し設置請求の可否)について


     (中略)

(3) 次に,被告の原告に対する目隠設置請求について検討する。
ア 上記争いのない事実等に上記(1)で認定した事実を併せて判断すると,X1建物は本件境界線から0.9メートルの位置に建築されており,同建物のいずれの窓も本件境界線から1メートル未満の距離に設置されていることが推認される。そして,これらの窓は,いずれも透明なガラスを使用しており,その大きさ,設置場所を考慮すれば,日常的に開放することを予定されている窓であることから「他人の宅地を見通すことのできる窓」に該当するということができる。

イ そこで,被告の目隠設置請求が権利濫用にあたるかについて検討するに,そもそも民法235条の趣旨は,プライバシーの保護を目的とするものであるところ,被告建物は,被告自身が居住する建物ではなく,賃貸用として使用されているところ,被告本人が,居住者からプライバシーを侵害される旨の苦情等はない旨供述していることからすれば,被告本人はもちろん,居住者についても具体的なプライバシー侵害は認められない。

 また,上記(1)で認定したとおり,被告建物は南西壁面にも窓及びベランダが設置されており,X1宅地側の窓は,採光,換気を目的とする窓であって,日常的に開放して使用することは予定されておらず,開放時間も1日に2,3時間程度であると認められる。他方,X1建物の窓は,居間,ダイニング等の窓であり,日常的に使用し,開けることが予定されていることからすれば,原告X1及びX2がこれらの窓に目隠しを設置することによって被る不利益は大きいと言わざるを得ない。加えて,A及び原告X1は,X1建物を昭和60年に建築したものであるところ,当時,被告宅地は畑として使用されており,地目も「宅地」ではなかったことから,A及び原告X1が,窓の設置にあたって境界線からの距離を必ずしも考慮する必要があったとはいえない。

 以上の諸事情を総合考慮すれば,X1建物の窓に目隠しを設置しないことにより被告が被る不利益より,目隠しを設置することにより原告X1及びX2が被る不利益の方が大きいと言わざるを得ず,被告の原告X1及びX2に対する目隠設置請求は権利濫用として許されないというべきである。
以上:3,530文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > 不動産・登記等 > 新設建物所有者から既設建物所有者への目隠し設置要求を棄却した判例紹介