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管理会社名義預金は区分所有者団体に帰属するとした高裁判決紹介2

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平成31年 1月11日(金):初稿
○「管理会社名義預金は区分所有者団体に帰属するとした高裁判決紹介1」を続けます。


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3 本件定期預金1、2の預金者
(一)参加人らの地位

 現行区分所有法3条は、「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成」すると規定している。この規定は、昭和58年法律第51号改正法によって新設されたものであるが、この規定によって新たに権利義務を創設するものではなく、区分所有者が、1棟の建物を区分所有し、その共用部分を共有して共同使用するものであるが故に、必然的にこれらを共同して管理しなければならない立場に置かれ、これらの管理を行うことを目的とする団体の団体的拘束に服するものであることを、確認的に宣言したものである。したがって、右改正の前後を通じ、マンションの区分所有者は当然に区分所有者団体を構成しているものと解すべきであり、昭和52年ないし昭和53年に分譲された本件各マンションの区分所有者も、当初から区分所有者団体を構成していたものであり、その団体の人格は、法人格を取得した後の参加人らに引き継がれているものと認められる。

(二)「管理者」の立場
 前記のとおり、区分所有法の改正の前後を通じ、区分所有者は、供用部分を共同して管理するために一種の組合的結合関係にあり、その管理のための団体を構成しているものであり、同法の定める「管理者」は、その団体の行う管理業務の執行者であるものと解される。
 そして、区分所有法は、「管理者」はその職務に関し区分所有者を代理すると規定している(法26条2項、旧法18条2項)が、区分所有者が共用部分の共同管理のための団体を構成し、「管理者」がその団体の行う管理業務の執行者であることを前提とすれば、右にいう代理とは、個別的代理ではなく、団体の代理を意味し、その効果は、団体を構成する区分所有者全員に合有的又は総有的に帰属すると解すべきである。

 また、区分所有者は、マンションの購入時に管理規約及び使用細則を承認し、同時にB社との間で管理委託契約を締結しているが、区分所有者が共用部分の共同管理のための団体を構成し、「管理者」がその団体の行う管理業務の執行者であることを前提とし、旧法24条が管理規約の設定、変更等は区分所有者全員の書面による合意によってすると定めていたことに照らすと、この管理委託契約は、区分所有者団体を構成する区分所有者全員と団体の行う管理業務の執行者である「管理者」(B社)の間において、「管理者」(B社)の行う管理業務の権限と義務につき管理規約の細則を定めたものと解するのが相当である。

 なお、区分所有法は、供用部分の共有者はその持分に応じて供用部分の負担に任ずると規定し(法19条、旧法14条)、管理規約は、各区分所有者は供用部分の管理費、修繕費等を「管理者」に支払う旨規定しているが、区分所有者が共用部分の共同管理のための団体を構成し、「管理者」がその団体の行う管理業務の執行者であることを前提とすれば、各区分所有者が管理費等の支払義務を負うのは右団体に対してであると解される。すなわち、「管理者」たるB社は、区分所有者に対し、管理費等の支払を請求し、これを受領、保管する権限はあるが、管理費等についての債権自体は右団体ひいては管理組合に帰属すると解するのが相当である。

(三)「管理者」たるB社のした預金行為における預金者
 前記1、(二)ないし(四)の事実及び前記3、(一)、(二)の検討結果によれば、B社は、本件各マンション分譲後一貫して、各マンションの区分所有者団体の「管理者」の職務として、各マンションの管理費等の金銭を管理してきたものであり、前記1、(四)の各預金行為を、各区分所有者団体の預金として行ったものというべきである。

 すなわち、区分所有者の管理費等の支払債務に対応する債権の帰属者はB社ではなく区分所有者団体であり、B社は、区分所有者団体の行う管理業務の執行者たる「管理者」として、区分所有者から送金されてきた管理費等についてこれを管理する権限を与えられており、その管理の一環として、管理費等入金のための区分所有者団体の預金口座を開設する権限を与えられていたところ、当時、区分所有者団体は観念的には成立していても、実際には管理組合は結成されておらず、管理組合等の名義で口座を開設することは困難であったことなどから、区分所有者団体の預金口座とするために、団体の表示としてB社名義を用いて、銀行との間で普通預金契約を締結し、本件普通預金口座1、2を開設し、各区分所有者から区分所有者団体に対する債務の履行としての管理費等の送金を受けたものというべきであり、したがって、これらの普通預金口座の預金者は各マンションの区分所有者団体であるというべきである。

 この場合における区分所有者、区分所有者団体、B社及び銀行の四者間の法律関係についてみると、「管理者」たるB社は、区分所有者に対し、管理費等の支払を請求し、これを受領、保管する権限はあるが、管理費等についての債権自体は区分所有者団体に帰属し、区分所有者の銀行に対する送金(自己の取引銀行からの振込みを含む。)によって区分所有者の区分所有者団体に対する債務(すなわち、区分所有者団体の債権)が消滅し、いわばその代償として、銀行に対する区分所有者団体の預金債権が発生ないし増加すると解することができる。

 そして、普通預金の金額が一定の金額に達した場合に、これを定期預金に組み替えることは、預金の管理の方法としては当然許され、区分所有者団体もこれにつき黙示の承諾を与えていたものと解すべきであり、したがって、B社が本件普通預金口座1、2において保管中の各預金を(同口座1については住友銀行神田支店から一審被告荻窪支店に変更したうえで)定期預金に組み替えたとしても、その預金者が各マンションの区分所有者団体であることには何ら変更はないと解すべきである。そして、この理は、B社がその後右定期預金について一審被告のA社に対する債権の担保として質権を設定した場合でも同様である。

 以上によれば、本件各マンションの区分所有者団体は、本件定期預金について、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、「管理者」たるB社を代理人として銀行との間で預金契約をしたものであり、本件定期預金の預金者であると解される。

 したがって、本件定期預金1、2の預金者は、各マンションの区分所有者団体であり、本件定期預金2は、ルイマーブル乃木坂マンションの区分所有者団体が法人格を取得する前においては、団体を構成する区分所有者全員に合有的又は総有的に帰属し、団体が法人格を取得して管理組合法人となった後においては、管理組合法人たる参加人ルイマーブルに帰属しているものであり、本件定期預金1は、アルベルゴ御茶ノ水マンションの区分所有者団体が法人格を取得する前においては、団体を構成する区分所有者全員に合有的又は総有的に帰属し、団体が法人格を取得して管理組合法人となった後においては、管理組合法人たる参加人アルベルゴに帰属しているものと認められる。

二 本件質権実行についての民法478条の類推適用の可否について
1 本件定期預金の預金行為者はB社であり、預金名義は「株式会社B社」であり、預金証書及び印鑑はB社が保管していたものであるが、〈証拠略〉及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一)一審被告は、昭和51年ころA社との取引を、昭和53年ころB社との取引を開始したが、その段階において、B社に関する情報を入手しており、B社がA社の建築、分譲したマンションの管理業務を行うことを主な目的として設立された同社の子会社であることを知っていた。

(二)一審被告は、A社との間で同社の分譲マンションに関する提携ローン契約を締結し、ルイマーブル乃木坂マンションほかの購入者に対する融資を行ったが、その際、当該マンションの管理規約、管理委託契約書を入手した。右管理規約及び管理委託契約書には、前記1、1、(一)のとおり、B社が「管理者」の地位にあること、各区分所有者は「管理者」であるB社に毎月管理費、修繕積立金等を支払うこと等が明記されていた。

(三)一審被告は、本件普通預金口座2の預入銀行として、また、各区分所有者との間で自動引落(振替)契約を締結した銀行として、本件普通預金口座2がルイマーブル乃木坂マンションの区分所有者が管理費等を送金支払するために開設された口座であることを知っていた。

(四)B社は、昭和58年2月14日、アルベルゴ御茶ノ水マンションの区分所有者からの管理費等を原資とする住友銀行神田支店の預金口座から合計800万円を送金して一審被告荻窪支店にB社名義の定期預金口座(口座番号〈略〉)を開設する際、同マンションの預金であることを特定するために、口座名義を「株式会社B社 御茶ノ水口」とした。

 右預金については、同日、一審被告のA社に対する債権を担保するため質権が設定され、平成3年2月25日、質権の解除を受けたうえ、他の4口のマンションの預金と一体化して大口定期預金とされ、これに質権が設定され、平成4年2月25日、質権の解除を受けたうえ、元の原資どおりの金額に従って5口に分割され、そのうちのアルベルゴ御茶ノ水マンションの管理費等を原資とする本件定期預金1に質権が設定された。
 このような質権の解除及び新たな設定を伴う定期預金の合体又は分割をするため、B社は、一審被告に対し、その必要性を説明しているが、その説明の中にはこれらの預金が各マンションの管理費等を原資とする預金であることの説明が当然に含まれていた。

(五)一審被告は、預入銀行として、前記一、1、(四)の預金の変遷を知り得る立場にあった。

(六)一審被告は,B社の決算書を毎年入手していた。前記一、1、(三)のとおり、第10期(昭和59年9月1日から昭和60年8月31日まで)までのB社の決算報告書の貸借対照表においては、各マンションの管理費等を原資とする預金がB社自身の預金とは区別されて各マンション名を付記して資産の部に計上される一方、各マンションの管理金預り金等が「マンション管理預り金」として負債の部に計上されていたが、第11期からは、これらの預金は資産の部に計上されなくなり、これらの「マンション管理預り金」も負債の部に計上されなくなっていた。

2 本件においては、金融機関である一審被告が、本件定期預金につき真実の預金者である区分所有者団体(参加人ら)と異なるB社を預金者と認定して、B社から質権の設定を受け、その後右質権実行として、被担保債権を自働債権とし本件定期預金債権を受働債権とする相殺をしたのであるが、この質権実行が民法478条の類推適用により区分所有者団体(参加人ら)に対して効力を生ずるためには、右質権設定時において、B社を預金者本人と認定するにつき金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしたと認められることを要するものと解される(最高裁昭和59年2月23日第一小法廷判決・民集38巻3号445頁)。 

 そして、前記一のとおり、一審被告は、本件質権設定当時、B社が区分所有者団体の「管理者」として各マンションの管理費等を原告とする預金を管理していること及び本件定期預金がそうした預金であることを知っていたのであるから、本件定期預金につき、B社より、右「管理者」の職務ではあり得ないA社のための質権設定を受けるに当たっては、本件定期預金の預金者をB社と認定すべきか否かについて、単なる預金の払戻しの場合とは異なり、より慎重に判断すべき注意義務があったというべきである。

 しかし、一審被告は、前記一のとおり、当裁判所が本件定期預金の預金者は区分所有者団体(参加人ら)であると認定した根拠となっている事実のうち、B社が毎年本件各マンションの区分所有者に配付していた管理費収支決算書の記載内容を除くその余の事実を知っていたにもかかわらず、B社を預金者と認定したものであり、右認定に当たり金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしたと認めることはできない。
 したがって、一審被告の本件質権実行に民法478条が類推適用されるとの抗弁は理由がない。


三 本件質権設定についての民法94条2項の類推適用の可否について
 本件においては、金融機関である一審被告が、本件定期預金につき真実の預金者である区分所有者団体(参加人ら)と異なるB社を預金者と認定して、B社から質権の設定を受けたものであるが、この質権設定が民法94条2項の類推適用により区分所有者団体(参加人ら)に対して効力を生ずるためには、右質権設定時において、B社を預金者本人と認定するにつき金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしたと認められることを要するものと解される。

 しかし、前記二のとおり、一審被告が右認定に当たり金融機関として負担する相当の注意義務を尽くしたと認めることはできないのであるから、その余の点を判断するまでもなく、一審被告の本件質権設定に民法94条2項が類推適用されるとの抗弁も理由がない。

四 以上によれば、参加人らの原審〔2〕〔3〕事件における預金帰属確認請求及び預金返還請求はいずれも理由があるから、原判決中参加人ら敗訴部分を取消し、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 山崎まさよ
以上:5,546文字

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