仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 法律その他 > マンション法 >    

管理会社名義預金は管理会社に帰属するとした地裁裁判決紹介1

法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
平成31年 1月21日(月):初稿
○「管理会社名義預金は区分所有者団体に帰属するとした高裁判決紹介1」の続きで、その第一審である平成10年1月23日東京地裁判決(金商1053号37頁)を紹介します。

○マンションの管理会社が破産し、その破産管財人である原告が,3口の定期預金について,預けた銀行に対し、質権設定の無効を主張してその返還を求め,破産会社の管理に係る二棟のマンションの区分所有者らの構成する管理組合法人である参加人が,この預金中各1口(預金1及び2)が各法人に帰属することの確認とその返還を求めたところ、被告の銀行は,各預金について質権を設定し,その実行により弁済を受けた等主張しました。

○判決は、預金1及び2は,マンションの区分所有者らが送金した普通預金の口座の金員から,破産会社が自社の名義をもって被告に預け入れたもので,預金1及び2も破産会社に帰属することは明らかであるとして、参加人らの請求は失当とし、被告銀行担当者がこの質権設定契約について破産会社の取締役会の承認がなかったことを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく,この承認がなかったことを知らなかったことについて被告担当者に重大な過失があると認めることもできないなどとして,破産管財人・参加人いずれの請求も棄却しました。

**************************************

主   文
一 原告及び参加人らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用のうち、参加により生じた費用は各参加人の、その余の費用は、すべて原告の、各負担とする。

事実及び理由
第一 請求

一 被告は、原告に対し、4771万2047円並びに右金員のうち、別紙預金目録〈略〉1から3までの預金(以下「預金1」等という)の各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から平成5年10月25日まで各利率欄記載の割合による金員及び同月26日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二 参加人ルイマーブル(乃木坂管理組合法人)
1 預金2の債権(元本額1668万8055円)が同参加人に帰属することを確認する。
2 被告は、同参加人に対し、1668万8055円及びこれに対する平成4年9月19日から支払済みまで年2・695パーセントの割合による金員を支払え。

三 参加人アルベルゴ(御茶ノ水管理組合法人)
1 預金1の債権(元本額899万5516円)が同参加人に帰属することを確認する。

2 被告は、同参加人に対し、899万5516円及びこれに対する前同年2月26日から支払済みまで年2・4パーセントの割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、破産したマンションの管理会社の破産管財人が、三口の定期預金について、質権設定の無効を主張してその返還を求め((1)事件)、破産会社の管理に係る二棟のマンションの区分所有者らの構成する管理組合法人が、右預金中各一口が各法人に帰属することの確認とその返還を求めた((2)及び(3)事件)事案で、右三口の預金中二口は破産会社又は各参加人のいずれに帰属するか、右三口の預金についての質権設定契約の効力(公序良俗違反の有無、契約締結についての破産会社の取締役会の承認決議の有無)、被告の質権の実行による不当利得の成否、被告の質権の実行について民法478条の類推適用の可否、などが争点となった。


         (中略)

第三 当裁判所の判断
一 破産会社の破産及び原告による預金の払戻請求

 破産会社が、平成4年11月30日、当庁において破産宣告(当庁平成4年(フ)第3644号事件)を受け、原告がその破産管財人に選任されたこと、被告(東京駅前支店)に、最終預入日を別紙預金目録中預入日欄記載の日として、自動書替継続の約定(利息元加継続)により、預金3を預け入れ、原告が、同5年10月18日ころ、被告に対し、預金1から3までを解約し、一週間以内に払い戻すよう催告したことは、いずれも、原告と被告間に争いがなく、各参加人においても、明らかに争わないところである(預金3は、各参加人の参加の対象ではない。)。

二 預金1及び2の成立と帰属
1 区分所有者による管理費等の支払と破産会社による取扱い

(一)破産会社は、マンションの管理業務を目的とする会社であり、主として豊栄が建築、分譲したマンションについての管理業務を行っていた〈証拠略〉。

(二)ルイマーブル及びアルベルゴはいずれも豊栄が昭和52年又は昭和53年ころから分譲販売したマンションで、各マンションの区分所有者全員は、購入に際して豊栄から提示された管理規約を承認し、これにより、持分に応じて定められる管理費(規約上、管理要員の人件費、火災保険料その他の損害保険料、エレベーター設備その他の機械の定期保守費、動力費、清掃費、廊下灯、外灯の電力費や電球の取替費、共用部分の水道費、光熱費、給排水設備等の維持運営費、町内会費、管理委託報酬、その他共用部分の維持管理に要する費用に充てるものと定められている。)及び管理費の1割に相当する修繕積立金、一定額の給湯基本料及び管理者の計算に従い使用量に応じた料金を毎月管理者に支払い(給湯基本料のみ、翌月分を前払いする。)、建物の引渡時に管理費及び修繕積立金の三か月分に相当する金額を管理者に預け入れ、ルイマーブルについては当初3年間、アルベルゴについては当初1年間、破産会社を管理者とし、集会決議により解任されない限り、右管理者の任期を継続すると定めた。

 また、各区分所有者らは、破産会社との間で、管理費、修繕積立金、保証預り金、給湯基本料等についての会計・金銭出納業務、建物の修繕業務、右規約に定められた業務、受付、清掃業務等のために管理員を派遣する業務などの委託を内容とする管理委託契約を締結し、これにより、破産会社は、管理費から、15パーセントを報酬として受け取り、管理員人件費、清掃費、物品購入費、保守費用等を支払い、剰余金を管理費の不足に備えて管理預り金として積み立て、また、給湯基本料から燃料費、水道料、給湯設備の保守点検費用、管理手数料、給湯設備積立金等を控除した残額を給湯預り金として積み立て、保証預り金をもって任意に区分所有者が負う債務の弁済に当てることができると合意した。〈証拠略〉

(三)ルイマーブルの区分所有者らは、右規約及び契約に基づき、右分譲に当たって破産会社の開設した被告六本木支店の破産会社名義の普通預金口座(口座番号〈略〉)に管理費(平成3年9月当時、月額合計129万3900円)、修繕積立金(同月額合計12万9430円)及び給湯基本料(同月額合計37万6000円)を送金し、区分所有者らが破産会社に送金した金額(水道料金等を含む。)の累計と破産会社が支出した管理費用、改修工事費用、給湯設備の燃料費等及び支払を受けた報酬又は手数料の累計額との差額は、平成4年8月31日現在、未収金122万5030円を控除すると、合計7418万3463円であった〈証拠略〉。

(四)アルベルゴの区分所有者らは、右規約及び契約に基づき、右分譲に当たって規約及び契約に基づき、右分譲に当たって破産会社の開設した住友銀行神田支店の破産会社名義の普通預金口座(口座番号〈略〉)に管理費(平成3年9月当時、月額合計169万0600円)、修繕積立金(同月額合計17万7350円)及び給湯基本料(同月額約67万円)を毎月まとめて送金し、区分所有者らが破産会社に送金した金額(水道料金や給湯設備積立金、保証預り金等を含む。)の累計と破産会社が支出した管理費用、改修工事費用、給湯設備の燃料費等及び支払を受けた報酬又は手数料累計額との差額は、平成3年8月31日現在、未収金102万7054円を控除すると、合計5843万6167円であった(甲6、17の各一から三まで、20)。

(五)破産会社は、区分所有者らから各普通預金口座に送金された右管理費等の残高がある程度多額になると、適宜これを引出し、被告や三井銀行等の銀行に破産会社名で定期預金として預け入れるなどし、年一回、管理組合ごとに決算書を作成し、右普通預金や定期預金の利息なども収入として含めて各管理組合の総会で収支決算の報告を行う一方、昭和60年ころまで、貸借対照表において右各預金を自社の流動資産として計上し、同61年ころ右取扱いを止めたものの、別紙預金担保設定一覧表〈略〉のとおり、自社の管理する他のマンションの管理剰余金とともに、被告に対し、自社の名義で定期預金として預け入れ、豊栄の被告に対する債務の担保とするため質権を設定した〈証拠略〉。

2 普通預金債権の帰属
(一)右認定の各事実によれば、破産会社は、ルイマーブル及びアルベルゴの各管理組合の管理者の地位にあるとともに、区分所有者との管理委託契約上の受任者の地位にあり、各区分所有者から破産会社に支払われる管理費は、町内会費等ごく僅かの部分を除いて、破産会社の管理委託契約上の事務の遂行のために要する費用及び報酬の支払に充てるためのもので、破産会社は、管理委託契約(委任契約又は準委任契約)の事務処理に要する費用の前払として本件管理費を受け取っていたものと認められる。前払いされた費用は、委任事務が継続している間は返還を求めることができず、委任契約が終了し又は委任事務が終了して残額を生じた場合に、その残額の返還を請求できるもので、本件管理委託契約は、その性質上、月々の管理事務を終えたからといって、それだけでは委任事務が終了するものとはいえず、支払った管理費についての清算及び残金の支払を請求することはできないというべきである。

 したがって、管理費は、破産会社が管理費等の支払を受けるために自社名義で開設した普通預金口座に送金された段階で破産会社に帰属するものというべきで、その剰余金は、破産会社が被告のために預かっていた金員とはいえず、参加人らは、破産会社の破産に伴い右管理委託契約が終了した(民法653条)ことにより、破産会社に対し、確定した清算金の返還請求権を有するに至ったにすぎない。
 保証預り金も、区分所有者の管理費の弁済に当てることを予定された金員というべきであるから、右管理費と同様に解すべきである。

(二)これに対し、修繕積立金については、区分所有者らは管理委託契約上、修繕積立金を支払うべきものとされているものの、これを支出すべき場合については契約上何ら定められておらず、破産会社は、専ら管理者として修繕積立金の支払を受け、区分所有者のために保管するものと認められる(修繕積立金の対象となる修繕及びその費用の支払は、管理規約にも定めが見当たらず、管理組合の決定するところに従ってされるべきものと解される。)。
 給湯基本料は、管理規約及び管理委託契約上、必ずしも使途が明らかでなく、前記認定のとおり、一部は給湯設備積立金として給湯施設の修繕管理のために剰余金とは別に積み立てられていることが窺われる。

(三)しかしながら、前記認定のとおり、区分所有者は、管理費、修繕積立金、給湯基本料等の区別なく一括して被告名義の普通預金口座に振込送金しているのであり、管理費が前記のとおり破産会社に帰属すべき金員であること及び管理費の全体の金額に占める割合に照らしても、管理費部分は勿論のこと、修繕積立金等の部分についても本件各マンションの区分所有者らが右口座に自己の預金とする意思で送金したと認めることはできず、かえって、破産会社に対する支払の意思で送金しているものと認められる。
 したがって、破産会社が管理費等の振込を受けるために開設した普通預金の口座に管理費等が振り込まれた時点で、右金員に相当する部分の預金返還請求権も破産会社に帰属したものというべきで、右普通預金債権が区分所有者らに帰属することは、管理費部分についてはもちろんのこと、修繕積立金部分についてもありえないものと解すべきである。

3 預金1及び2の帰属
 預金1及び2は、前記のとおり、マンションの区分所有者らが管理費等を送金した普通預金の口座の金員から、破産会社が自社の名義をもって被告東京駅前支店に預け入れたもので、右各普通預金債権が破産会社に帰属する以上、預金1及び2も破産会社に帰属することは明らかである。

以上:5,017文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
法律その他無料相談ご希望の方は、「法律その他相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 法律その他 > マンション法 > 管理会社名義預金は管理会社に帰属するとした地裁裁判決紹介1