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製造物責任法の基礎の基礎-”欠陥”の主張立証に関する高裁判例紹介

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平成31年 4月16日(火):初稿
○「製造物責任法の基礎の基礎-”欠陥”の主張立証に関する地裁判例紹介」の続きで、その控訴審平成22年4月22日仙台高裁判決(判時2086号42頁)の関連部分を紹介します。

○原告Xが、こたつの中でズボンのポケットに入れていた携帯電話が過熱して左大腿部に熱傷を負ったとして、本件携帯電話を製造した被告Yに対し、製造物責任法3条等に基づき損害賠償を請求しましたが、原審平成19年7月10日仙台地裁判決は、原告の請求を棄却しました。

○そこで原告Xは、これに不服として控訴しましたが、控訴審仙台高裁判決は、本件熱傷は、本件携帯電話が低温熱傷をもたらす程度に異常発熱したために生じたものであると推認され、また、本件携帯電話には、使用中に温度が44度かそれを上回る程度の温度に達し、それが相当時間持続するという設計上又は製造上の欠陥が認められることなどから、製造物責任法2条2項にいう欠陥があったとし、調査費用150万円を含む221万円余りを損害として認めました。

○仙台高裁判決の論理で重要な点は、
製造物責任を追及する控訴人としては,本件携帯電話について通常の用法に従って使用していたにもかかわらず,身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証することで,欠陥の主張・立証としては足りる」、
それ以上に,具体的欠陥等を特定した上で,欠陥を生じた原因,欠陥の科学的機序まで主張立証責任を負うものではない
とした点です。

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主  文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は,控訴人に対し,221万2370円及びこれに対する平成17年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。 

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,545万7370円及びこれに対する平成17年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言

第2 事案の概要
1 本件は,平成15年5月下旬ころ,左大腿部に熱傷を負った控訴人が,その被害は当時使用していた携帯電話機の欠陥により生じたものであるとして,その製造業者である被控訴人に対し,製造物責任法3条又は民法709条に基づき,損害金545万7370円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成17年6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原審が控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が不服を申し立てた。

2 前提となる事実

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 本件に関する事実関係

 前記前提となる事実に証拠(甲1ないし7,8の1・2,9ないし25,26の1・2,27ないし45,46の1・2,47の1・2,48,49,50の1・2,51ないし57,58の1・2,59ないし69,70の1・2,71ないし76,乙1,2,3の1・2,4,5の1~6,6の1・2,7の1・2,8,9の1・2,10の1~4,11ないし20,21の1・2,22,23,証人C,同D,同E,同Fの各供述,控訴人本人尋問の結果,ドコモ東北,経済産業省及び独立行政法人製品評価技術基盤機構に対する各調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件に関する事実関係として,以下の事実を認めることができる。

(1) 控訴人の職業等

         (中略)


2 争点1(本件熱傷は本件携帯電話に起因するか)について
(1) 本件熱傷の受傷時期及びその原因等について

         (中略)

3 争点2(欠陥ないし過失の有無)について
(1) 本件は,控訴人がその左大腿部に熱傷を負い,その原因は当時使用していた本件携帯電話の欠陥にあるとして,本件携帯電話の製造業者である被控訴人に対し,製造物責任法3条又は民法709条に基づき,損害賠償を請求するものであるところ,被控訴人は,控訴人の熱傷が本件携帯電話から発生したという製品起因性について否認するとともに,本件携帯電話の欠陥の存在についてもこれを否認している。

 このような場合には,製造物責任法の趣旨,本件で問題とされる製造物である携帯電話機の特性及びその通常予見される使用形態からして,製造物責任を追及する控訴人としては,本件携帯電話について通常の用法に従って使用していたにもかかわらず,身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証することで,欠陥の主張・立証としては足りるというべきであり,それ以上に,具体的欠陥等を特定した上で,欠陥を生じた原因,欠陥の科学的機序まで主張立証責任を負うものではないと解すべきである。

 すなわち,本件では,欠陥の箇所,欠陥を生じた原因,その科学的機序についてはいまだ解明されないものであっても,本件携帯電話が本件熱傷の発生源であり,本件携帯電話が通常予定される方法により使用されていた間に本件熱傷が生じたことさえ,控訴人が立証すれば,携帯電話機使用中に使用者に熱傷を負わせるような携帯電話機は,通信手段として通常有すべき安全性を欠いており,明らかに欠陥があるということができるから,欠陥に関する具体化の要請も十分に満たすものといえる。

(2) これを本件についてみるに,携帯電話は,前記のとおり,無線通信を利用した電話機端末(携帯電話機)を携帯する形の移動型の電気通信システムのことをいい,その特性から,携帯電話機を衣服等に収納した上,身辺において所持しつつ移動でき,至る所で,居ながらにして電気通信システムを利用できることにその利便性や利用価値があるのであるから,これをズボンのポケットに収納することは当然通常の利用方法であるし,その状態のままコタツで暖を取ることも,その通常予想される使用形態というべきである。ちなみに,被控訴人も,ズボンのポケットに収納したままコタツで暖を取ることを取扱説明書において禁止したり,危険を警告する表示をしてないところである。

 なお,被控訴人は,取扱説明書の本件携帯電話を高温の熱源に近づけないようにという警告表示がこれに当たるかのような主張をするが,コタツがそこにいう「高温の熱源」に当たるとは直ちにはいい難いし,上記警告表示が,携帯電話機をことさらコタツの熱源に接触させるような行為はともかくとして,これをズボンのポケットに収納した状態のままコタツで暖を取るという日常的行為を対象にしているとは到底解されない(仮に,そのような日常的行為の禁止をも含む趣旨であるとしたならば,表示内容としては極めて不十分な記載であり,警告表示上の欠陥があるというべきである。)。

(3) そうすると,控訴人は,本件携帯電話をズボンのポケット内に収納して携帯するという,携帯電話機の性質上,通常の方法で使用していたにもかかわらず,その温度が約44度かそれを上回る程度の温度に達し,それが相当時間持続する事象が発生し,これにより本件熱傷という被害を被ったのであるから,本件携帯電話は,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているといわざるを得ず,本件携帯電話には,携帯使用中に温度が約44度かそれを上回る程度の温度に達し,それが相当時間持続する(異常発熱する)という設計上又は製造上の欠陥があることが認められる。

(4) その原因として,具体的には,
①前記のとおり,本件リチウムイオン電池に係る電池パック下部のコネクタカバーが喪失していたため,電池パック下部がむき出しになっていたことから,ホコリが電池パック内部に混入し,電池の内部に微少な物質が混入することによって,電池内部の電流が短絡(ショート)し,原因物質が融解して消滅するまで温度が上昇して,異常発熱した可能性が考えられるところ,ほかにも,
②何らかの理由で本件リチウムイオン電池に外部から力が加わった結果,電池内部に微細な損傷が生じ,その後の充放電の繰り返しにおいて損傷が拡大して電池の内部で短絡(ショート)が発生し,これにより本件リチウムイオン電池が異常発熱した可能性(甲74,独立行政法人製品評価技術基盤機構に対する平成21年1月20日付け調査嘱託の結果の〔別添4の番号107ないし112〕,〔同番号114,115〕,〔同番号118〕及び〔同番号121〕に類似と考えられる事例が報告されている。),
③本件携帯電話が何らかの理由により,本件時間帯において待ち受け状態から通話状態に切り替わり,それが持続したことに加えて,コタツ内にあったことから周囲温度が37度以上となり,これに連続通話状態における8.0度程度の温度上昇が加わった結果,本件携帯電話の温度が45度前後に達し,これが本件時間帯において持続した可能性(本件携帯電話を独立行政法人国民生活センターで調査した際,キー操作の異常があり,温度調査を行うことができなかったことは前記認定のとおりであり,控訴人によれば,本件以前から,待ち受け状態の本件携帯電話が着信していないのに,かすかに振動するなどの誤作動をしたと思われる経験が何度かあったようである。甲28,33),
④コタツの熱による加熱が外部熱源となって本件リチウムイオン電池に作用し,熱暴走を引き起こし異常発熱につながった可能性などを指摘し得るところである。

そして,前記のとおり,低温熱傷が問題となるような約44度かそれを上回る程度の温度上昇では上記PTCは作動しない事実が認められ,ほかにこのような事態が発生し,温度上昇が44度程度で持続した場合の対応策が本件携帯電話(本件リチウム電池を含む。)に施されていた形跡はない。

 しかしながら,いずれにしても,また,ほかの原因が考えられるとしても,製造物責任法においては,控訴人がその欠陥の部位,具体的原因,異常発生の科学的機序等を主張・立証することまでは必要でないことは,前記のとおりである。

(5) 以上によれば,本件携帯電話には製造物責任法2条2項にいう欠陥があったことが認められる。
 なお,製造物責任法は,その4条で,製造業者等が,当該製造物をその製造業者等が引き渡したときにおける科学又は技術に関する知見によっては,当該製造物にその欠陥があったことを認識することができなかったこと(同条1号)等を証明したときは,同法3条に規定する賠償の責めに任じない旨規定するところ,本件において,被控訴人は,上記同法4条の免責の主張はしていない。

4 争点4(損害額)について

         (中略)

5 よって,控訴人の本件請求は,被控訴人に対し,221万2370円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成17年6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却べきである。

6 以上の次第であるから,当裁判所の上記判断と一部異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小磯武男 裁判官 山口均 裁判官岡田伸太は,転補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官 小磯武男)
以上:4,682文字

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