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全店一括順位付方式による差押債権特定を不適法とした地裁決定紹介

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令和 1年 6月 5日(水):初稿
○「全店一括順位付方式による差押債権特定を適法とした高裁決定紹介」の続きで、その原審で申立を不適法として却下した平成30年5月16日富山地裁決定(判時2399号37頁)全文を紹介します。

○債権差押申立てに当たり、差押債権とする債務者名義の預金債権について、「第三債務者の複数の店舗に預金がある場合には店舗番号の若い順による」(「全店一括順位付け方式」)ものとして、同一店舗扱いの預金債権については、差押えの有無やその種別等による順位を付した上で、差押命令を求めたました。

○平成30年5月16日富山地裁決定は、本件申立てにおける差押債権の表示は、送達を受けた第三債務者において直ちにとはいえないまでも、差押えの効力が送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに確実に差し押さえられた債権を識別できるものであるということはできないから、本件申立ては、差押債権の特定を欠くものとして不適法であるとして、本件申立てを却下しました。

○債権者は、本件申立ての前に第三債務者に対して、特定の店舗(支店)を指定しない方式での債権差押命令に対応できるかを問合せ、第三債務者において上記1の最高裁決定の要求を満たす形での対応は可能であるとの回答を得ているとのことですが、私の経験では、債務名義があることを理由に弁護士法照会手続で預金の有無を照会すると、一部都市銀には本人の同意が必要として回答を断る例もありますが、地方銀行やゆうちょ銀行は支店と残高を回答してきます。

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主   文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。

理   由
第1 事案の概要

 本件申立ては、債権者が、債務名義である富山地方裁判所平成29年(ワ)第11号事件の執行力ある第1回口頭弁論調書(判決)の正本に基づき、同債務名義に表示された請求権(元金946万円、確定遅延損害金77万2875円、遅延損害金60万9988円)及び執行費用1万1286円の合計1085万4149円を請求債権として、債務者が第三債務者に対して有する預金債権について、差押債権額585万4149円に満つるまでの差押命令を求めるものである。

 債権者は、本件申立てに当たり、差押債権とする債務者名義の預金債権について、第三債務者の複数の店舗に預金がある場合には店舗番号の若い順によるものとして、同一店舗扱いの預金債権については、差押えの有無やその種別等による順位を付した上で、差押命令を求めている。

第2 当裁判所の判断
1 債権差押命令の申立てに際しては、差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項を明らかにしなければならない(民事執行規則133条2項)。ここでいう差押債権の特定とは、差押命令の送達を受けた第三債務者において、直ちにとはいえないまでも、差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別できるものでなければならないと解するのが相当であり、この要請を満たさない債権差押命令の申立ては、差押債権の特定を欠き不適法というべきである(最高裁平成23年9月20日第三小法廷決定・民集65巻6号2710頁)。

2 本件申立ては、大規模な金融機関である第三債務者の全ての店舗を対象として順位付けをし、先順位の店舗の預金債権の額が差押債権額に満たないときは、順次予備的に後順位の店舗の預金債権とする旨の差押えを求めるものであり、第三債務者において、先順位の店舗の預金債権の全てについて、その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無、定期預金、普通預金等の種別、差押命令送達時点での残高等を調査して、差押えの効力が生ずる預金債権の総額を把握する作業が完了しない限り、後順位の店舗の預金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないのであるから、本件申立てにおける差押債権の表示は、送達を受けた第三債務者において上記1の程度に速やかに確実に差し押さえられた債権を識別できるものであるということはできない。

3 債権者は、本件申立ての前に第三債務者に対して、特定の店舗(支店)を指定しない方式での債権差押命令に対応できるかを問合せ、第三債務者において上記1の最高裁決定の要求を満たす形での対応は可能であるとの回答を得ていることからすると、債権差押命令の送達を受けた第三債務者において差押債権の識別を速やかにかつ確実に行うことができるから、差押債権の特定に欠けるところはないと主張する。

 しかし、差押債権の特定は、本来、債権差押命令申立書の差押債権の表示から自ずと明らかにされるべきものであり,特定に際しては、一般的に公表されている情報を超えて外形的表示に表れない個別の事情(第三債務者の回答書を含む。)を考慮するべきではない。したがって、債権者の上記主張及びこれに沿う疎明資料の内容を踏まえても、本件において差押債権が特定されていると認めることはできない。

4 以上によれば、本件申立ては、差押債権の特定を欠くものとして不適法である。よって、主文のとおり決定する。
 

以上:2,138文字

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