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経由プロバイダは特定電気通信役務提供者に該当するとした高裁判決紹介

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令和 1年11月26日(火):初稿
○「経由プロバイダは特定電気通信役務提供者非該当とした地裁判決紹介」の続きで、その控訴審である平成21年3月12日東京高裁判決(最高裁判所民事判例集64巻3号706頁)関連部分を紹介します。

○判決は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項の規定に基づき、控訴人らが、被控訴人に対し、発信者情報の開示をそれぞれ請求した事案について、経由プロバイダがそのサービスの用に供する電気通信設備は、「発信者」からその不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信を受け、さらにこれを送信するものであるから、これが「特定電気通信」の用に供される電気通信設備に当たることは明らかであり、また、経由プロバイダは、これを用いて他人の通信を媒介し、その他これを他人の通信の用に供する者であることも明らかであるとして、被控訴人はプロバイダ責任法4条1項、プロバイダ責任法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当する等として、原判決を変更し、控訴人らの請求をそれぞれ一部認容しました。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人X1に対し,原判決別紙アクセスログ目録(1)の表の2,3及び5の「投稿日」及び「時間」欄記載の日時における,これに対応する同表の「icc」欄記載のFOMAカード個体識別子によって特定されるFOMAカードに係るFOMAサービス契約の相手方の住所及び氏名又は名称をそれぞれ開示せよ。
3 被控訴人は,控訴人X2に対し,原判決別紙アクセスログ目録(2)の表の1ないし3の「投稿日」及び「時間」欄記載の日時における,これに対応する同表の「icc」欄記載のFOMAカード個体識別子によって特定されるFOMAカードに係るFOMAサービス契約の相手方の住所及び氏名又は名称をそれぞれ開示せよ。
4 被控訴人は,控訴人X3に対し,原判決別紙アクセスログ目録(3)の表の1の「投稿日」及び「時間」欄記載の日時における,これに対応する同表の「icc」欄記載のFOMAカード個体識別子によって特定されるFOMAカードに係るFOMAサービス契約の相手方の住所及び氏名又は名称を開示せよ。
5 被控訴人は,控訴人X4に対し,原判決別紙アクセスログ目録(4)の表の1及び4の「投稿日」及び「時間」欄記載の日時における,これに対応する同表の「icc」欄記載のFOMAカード個体識別子によって特定されるFOMAカードに係るFOMAサービス契約の相手方の住所及び氏名又は名称をそれぞれ開示せよ。
6 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,第一,二審を通じてこれを2分し,その1を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人X1に対し,原判決別紙アクセスログ目録(1)記載の各日時における同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
3 被控訴人は,控訴人X2に対し,原判決別紙アクセスログ目録(2)記載の各日時における同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
4 被控訴人は,控訴人X3に対し,原判決別紙アクセスログ目録(3)記載の各日時における同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
5 被控訴人は,控訴人X4に対し,原判決別紙アクセスログ目録(4)記載の各日時における同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
6 訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要
1 本件は,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項の規定に基づき,控訴人らが被控訴人に対し,発信者情報の開示をそれぞれ請求する事案である。原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却した。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 被控訴人は法4条1項の「特定電気通信役務提供者」に当たるか(争点(1))について)


         (中略)

(6)以上の検討によれば,「特定電気通信」は,その定義規定に定められた字義のとおり,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信というべきであって(よって,不特定の者によって受信されることによって完結する電気通信〔公衆によって直接受信されることを目的とするものを除く。〕は,これが不特定の者によって受信されることを目的とするものといえ,最初に発せられてから最終的に受信されるまでの過程におけるそのすべての送信が「特定電気通信」に当たることになる。このように解すれば,法2条1号が「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」を「特定電気通信」から除外していることに関する上記のような疑義は,当該特定電気通信が発せられた経過に照らせば公衆によって直接受信されることを目的とするものでないことが明確となって,解消されることになる。),ウェブサイト等のサービスのための電気通信設備の記録媒体等に情報を記録等するために「発信者」がする電気通信の送信も,これが電気通信の送信といえる以上,「特定電気通信」に含まれるものと解される(法2条4号は「発信者」の定義を定めた規定であり,その定義をする上での必要があるために情報の「記録」〔又は「入力」〕との文言を用いただけで,これを「送信」と対置したり,「送信」から除外したりする趣旨ではないと解することができ,また,そのように解して特段の不合理も生じない。)。

 そうすると,経由プロバイダがそのサービスの用に供する電気通信設備は,「発信者」からその不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信を受け,更にこれを送信するものである(この送信が「特定電気通信」に当たる。)から,これが「特定電気通信」の用に供される電気通信設備(「特定電気通信設備」)に当たることは明らかであり,また,経由プロバイダは,これを用いて他人の通信を媒介し,その他これを他人の通信の用に供する者であることも明らかであるから,結局のところ,「特定電気通信役務提供者」に当たるというべきである(こう解すれば,法2条4号の規定上「特定電気通信役務提供者」から特定の者への1対1の通信が送信される場合もあり得ることが明らかであることに整合する上,法3条1項による損害賠償責任の制限が経由プロバイダにも及ぶこととなって,合理的な結果となる。

 なお,以上は,法の文言の忠実な解釈によるものであって,被控訴人の主張するような安易な拡張解釈でないことはこれまでに説示したところから明らかである。)。なお,上記説示は経由プロバイダが受信した電気通信を中継する場面を前提としたものであるが,以上から明らかなように,被控訴人のFOMAサービスのようにインターネットに接続可能な携帯端末(これが電気通信設備に当たることは明らかである。)をもって他者の通信の用に供する者は,当該携帯端末から「発信者」によって発せられる不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(これが「特定電気通信」に当たることは以上から明らかである。)との関係でも,「特定電気通信役務提供者」に当たることになる。

2 控訴人らが開示を求める情報は法4条1項の「発信者情報」に当たるか(争点(2))について

         (中略)

 以上によれば,被控訴人は,本件各発言の情報の流通に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に該当し,また,上記のFOMAカードに係るFOMAサービス契約の相手方の氏名又は名称及び住所(いずれも本件各発言が投稿された時点のもの)は,本件各発言の投稿,掲示によって控訴人らの権利が侵害されたとすれば,当該特定電気通信役務提供者たる被控訴人が保有する当該権利の侵害に係る当該権利を侵害したとする情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものに該当するということができる(既に説示した特定電気通信による情報の流通の特質にかんがみれば,特定電気通信役務提供者が保有することになる情報は,侵害情報の発信者を直接特定するもののほか,当該発信者が使用した電気通信設備等侵害情報を発する上で不可欠な構成要素を特定するものや,当該発信者が送信した電気通信を中継して更に送信した電気通信設備あるいはこれを用いる者を特定するものなどである場合が多いと考えられるところ〔本件省令が「発信者情報」として定める「IPアドレス」はこの種の情報の典型例といえる。〕,余り情報がないのが一般的と思われる中で,発信者を直接特定するに足りなくても,発信者が使用した電気通信設備等侵害情報を発する上で不可欠な構成要素や,発信者から発せられた電気通信を中継した電気通信設備,これを用いる者などを特定できる情報であれば,発信者の特定に極めて有用である。

 このことにかんがみ,本件省令は,「発信者情報」としての特定の者の氏名又は名称あるいは住所を定めるのに当たり,侵害情報の発信者に限定せず,「侵害情報の送信に係る者」の氏名等として規定して,「侵害情報の送信」に一定の客観的なかかわりを有する者の情報を開示の対象としたものと解すことができる。

 この観点から,発信者による侵害情報の送信に使用されたFOMAカードに係る送信当時のFOMAサービス契約の相手方は,その契約に係るFOMAカードが侵害情報の発信をする上で不可欠な構成要素であり,その者自身が発信者である蓋然性も高いと考えられることからすれば,「侵害情報の送信」について明らかに客観的なかかわりを有する者といえ,「侵害情報の送信に係る者」に当たると解することができる。とすると,その氏名等は開示の対象となるというべきである。)。

 よって,控訴人らが開示を求めている本件各発言が投稿された時点におけるFOMAサービス契約の契約者の住所及びその氏名又は名称は,法4条1項の「発信者情報」に当たるというべきである。

 しかし,以上に認定した事実のみでは,上記のFOMAカードに係るFOMAサービス契約の相手方が本件各発言の発信者であるとまでは認められず(認められるのは,既に説示したとおり,当該FOMAカードが装着されたFOMA端末を使用して,本件各発言が投稿されたことまでである。),他にこのことを認めるに足りる証拠はないから,当該契約の相手方の電子メールアドレスは「発信者の電子メールアドレス」ということができず,そうすると「発信者情報」には該当しないというべきである。

3 本件各発言の投稿,掲示によって控訴人らの権利が侵害されたことが明らかであるか(争点(3))について

         (中略)

4 控訴人らが被控訴人から発信者情報の開示を受けるについての正当事由があるか(争点(4))について
 以上に説示したとおり,控訴人会社が原判決別紙アクセスログ目録(1)の2,3及び5記載の,控訴人X2が同目録(2)の1ないし3記載の,控訴人X3が同目録(3)の1記載の,控訴人X4が同目録(4)の1及び4記載の各発言によって権利侵害を受けたことが明らかであるところ,前提事実に加え,証拠(甲7~9,11)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人らは,この権利侵害について弁護士である代理人を介して損害賠償請求をする方針であるが,上記の各発言を本件掲示板に投稿,掲示してこの権利侵害をした者が明らかとなっておらず,他にこれを明らかにする現実的な方法もないため,損害賠償請求権を行使するには,上記の各発言について,控訴人らが開示を求めている「発信者情報」に当たる当該発言を投稿するのに使用されたFOMAカードに係るその時点におけるFOMAサービス契約の相手方の住所及び氏名又は名称の開示を被控訴人から受け,当該相手方から必要な情報を得て権利侵害を行った者を明らかにすることが必要であることが認められる。
 よって,上記の各発言について,当該発信者情報が控訴人らの損害賠償請求権の行使のために必要であるといえるから,控訴人らが被控訴人から当該発信者情報の開示を受けるについての正当事由があることが明らかである。

5 まとめ
 以上の次第で,控訴人らの本訴請求は,被控訴人に対し,控訴人会社が原判決別紙アクセスログ目録(1)の2,3及び5記載の,控訴人X2が同目録(2)の1ないし3記載の、控訴人X3が同目録(3)の1記載の,控訴人X4が同目録(4)の1及び4記載の各発言について,当該発言に対応する当該目録の表の「icc」欄記載のFOMAカード個体識別子によって特定されるFOMAカードに係るFOMAサービス契約の当該表の当該発言に対応する「投稿日」及び「時間」欄記載の日時における契約の相手方の住所及び氏名又は名称の開示を求める範囲でいずれも理由があり,その余はいずれも理由がない。

第4 結論
 よって,本訴請求は上記の範囲でこれをいずれも認容し,その余はいずれも棄却するべきところ,これと異なる原判決は不当であるから,その範囲で原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。 
(東京高等裁判所第24民事部)
以上:5,629文字

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