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H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決全文紹介3

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平成21年 3月 7日(土):初稿
「H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決全文紹介2」の続きです。今回は、本件訴訟で最大の争点とされた「被害者の低髄液圧症候群,外傷性脊椎髄液漏の傷害の有無と交通事故との因果関係」についての裁判所の判断です。ポイント部分に下線を引いています。
尚、争点(2)原告に生じた損害額についての裁判所の判断を「H19.2.13福岡高裁脳脊髄液減少症否定判決全文紹介4」として掲載します。

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ウ 問題は,被控訴人に,低髄液圧症候群,外傷性脊椎髄液漏の傷害が認められるか否か,それが認められるとして,本件事故と因果関係があるかどうかである。

(ア) 低髄液圧症候群(又は低髄液症候群)については,従来の定説は,脳脊髄液が漏出してこれが減少し,脳が沈下して頭蓋内の痛覚の感受組織が下方に牽引されて生じる頭痛を特徴とすることから,最も特徴的な症状を起立性頭痛とし,画像所見や髄液圧が一定の数値より低いことなどの他,硬膜外血液パッチ後72時間内に頭痛が解消するなどを診断基準としている(乙7,32の1)。これは,低髄液圧症候群の症状とその機序を論理的に分かり易く説明したものということができ,その病名にも相応しいものである。ところが,髄液が漏出しても髄液圧が低下しない例もあり,また,その典型症状がなく,それ以外の症状が生じる場合があるところから,上記定説では説明できない患者があるとして,この病気の範囲をより広くとらえようとする新たな学説(以下,便宜「新説」という。)が提唱されるに至っている。新説によれば,病名も「脳脊髄液減少症」と称すべきであるとされるのである(甲12,108,161)。

 しかしながら,従来の定説では説明できない患者が出てくるという意味において,同説に限界があるというのは確かであるが,他方,新説によると,脳脊髄液減少症の範囲を画することが極めて曖昧になり,その機序も説明が困難になるということは否定できない。現に,当審証人lの証言(以下「l証言」という。)によっても,脳脊髄液減少症の症状としては実に多種多様なものが含まれることになるが,それらが脳脊髄液の減少といかなる関係にあるのかが説明できているとは言い難く,また,それらは極めて普遍的に見られる症状であるために,他の病気(例えば,頚椎捻挫)に因るものとの区別が不可能になってしまいかねないように思われる。

(イ) 上記のような医学上の論争はさておき,被控訴人に低髄液症候群があるとの診断をしたのはk病院のl医師である(他にも,同様の診断をした医師は少なくないが,それらの医師はl医師の上記診断に追随したにすぎないことは見易いところである。)から,被控訴人の低髄液症候群の有無については,l医師の診断内容を検討することが不可欠であるし,またそれで足りるものといってよい。

(ウ) そこで,この点を見るに,l医師は,被控訴人の脳MRIの画像で脳沈下の可能性があると判断し,脊椎髄液漏を疑い,被控訴人を入院させて,平成15年6月3,4日にRI脳槽造影を行ったところ,注入したアイソトープが早期に膀胱に到達し,腰椎レベルでもやもやした画像が出,さらに24時間後のアイソトープの残量が著しく少ないことが判明したことから,脊椎髄液漏の診断をしたものである(上記ア(ウ)前段)。

 しかしながら,定説によれば最も典型的な症状であるところの起立性頭痛は被控訴人には見られない(この点についてのl証言は多分に曖昧で,「夕方になってひどくなってくるということは,それは大体,起立性頭痛の症状になります」などと証言している。しかし,これをもって被控訴人の起立性頭痛を認めることはできない。)のであり,ブラッドパッチ療法を試みたものの,被控訴人の症状はあまり改善しなかったというのである(もっとも,造影剤による副作用が出たため,途中で中止せざるを得なかったということからすると,この点を余り重視することはできない。)。また,その後,実施したRI脳槽造影(平成15年12月3日,平成16年7月)では,いずれも脊椎髄液漏の所見は見出せず,脳MRI(平成15年5月1日,同年12月4日)でも病的所見はなかったし,ブラッドパッチ療法も見るべき効果はなかった(ただし,いずれも途中で中止)というのである(上記ア(ウ)中段及び後段)。

(エ) MRミエログラフィーの画像上,髄液の漏出が客観的に確認されたというのであれば,髄液漏を疑う余地はないが(乙32の1),上記(ウ)のRI脳槽造影において「腰椎レベルでもやもやした画像が出た」というのを,それと同視することはできない。また,アイソトープが早期に膀胱に到達したことと,24時間後のアイソトープの残量が著しく少なかったということは,楯の両面を表しているにすぎず,しかも,髄液は脊椎部分で相当程度吸収されていること及びそれには相当の個人差があること,そもそもアイソトープを注入するための腰椎穿刺部位からこれが洩れ出すということもあり得ること(乙32の1・3)などを考慮すると,1回だけのRI脳槽造影の結果に基づいて上記のような確定診断をすることには疑問があるものといわなければならない。

特に,その後,2回にわたり実施したRI脳槽造影ではいずれも脊椎髄液漏の所見は見出せず,脳MRIでも病的所見はなかったというのであれば,l医師としては,最初に下した脊椎髄液漏の診断を再検討して然るべきではなかったかと思われる。現に,同医師は,その後,被控訴人に対して「すべてが”水もれ”のためではなく,頚椎捻挫の一部ですぐ症状がとれるわけではない」と説明しているのであり,これは,被控訴人の症状が脊椎髄液漏によるものというよりは,頚椎捻挫によるものと見るべきであるということを強く示唆したものと見てよい。

然るに,その一方で,同医師は,それでもなお髄液漏がないのではなく,検出が難しい胸椎や頚椎レベルでの漏れ出しの可能性はあるなどと考えて,当初の診断を維持したのであるが,その場合には,1回目のRI脳槽造影で「腰椎レベルでもやもやした画像が出た」ということとの整合性が問われることになろう。

(オ) 以上によれば,被控訴人に脊椎髄液漏があるとするにはなお合理的な疑問が残るものといわなければならない。

(4) 争点(1)についてのまとめ
 以上の次第で,被控訴人が本件事故により頚椎捻挫(外傷性頚部症候群)の傷害を負ったことは認められるが,被控訴人主張の症状が脊椎髄液漏によるものと認めることはできないから,本件事故により脊椎髄液漏が生じたとはいえない
 とはいえ,被控訴人にその主張のような症状が持続していることは確かであり,本件事故前から,被控訴人にそのような症状があったとか,それにより治療を受けていたということは認められないから,上記症状は本件事故により生じた頚椎捻挫(外傷性頚部症候群)によるものと認めるのが相当である。
以上:2,872文字

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