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統合失調症既往症患者頚随損傷被害交通事故損害賠償請求事件判決紹介2

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平成27年 4月 9日(木):初稿
○「統合失調症既往症患者頚随損傷被害交通事故損害賠償請求事件判決紹介1」の続きで裁判所の判断です。


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第3 争点についての判断
1 争点① 事故態様と過失割合について

(1)本件事故の態様及び甲野の過失内容
ア 前記前提事実,証拠(甲2の3,2の4,2の9,2の10,15,16,乙4,証人甲野)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故は,本件交差点の東側下り車線の右折専用車線から右折可信号に従って本件交差点に進入した甲野車両が,本件交差点を富谷町方面に向かい時速約30km~40kmで右折進行した際,赤色信号を無視して本件横断歩道上を東側から西側(甲野車両から見て右方から左方)に向かい進行中の本件自転車の左側面に自車前部を衝突させ,原告X1を本件自転車もろとも路上に転倒させたというものであると認められる。

 そして,甲野車両を運転していた甲野は,本件交差点の右折方向(北側)出ロには本件横断歩道及び自転車通行帯が設置されていたのであるから,前方左右を注視し,本件横断歩道及び自転車通行帯を通行する自転車等の有無及びその安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのにこれを怠り,他車のクラクションに気を取られて左方向に視線を向けるなど,前方左右を注視しなかったため,本件横断歩道上を通行中の本件自転車に全く気付かず,前記速度のまま減速せずに自車を本件自転車に衝突させたと認められる。

イ 以上の認定に対し,原告らは,右折可信号に従って本件交差点に進入した旨の甲野の供述は信用できず,原告X1が赤色信号を無視して本件横断歩道を通行したとは認められないと主張するので,上記供述の信用性について補足して説明する。
 甲野は,要するに,対面信号機が右折可信号を示しており,本件交差点内で右折待ちをしていた車が右折進行したため,それほど減速せずに右折進行できると考え,時速約30km~40kmで本件交差点に進入した,右折進行中に他車のクラクションに気を取られて左方向に視線をそらし,視線を前方に戻したところ,ドーンという音とともに大きな衝撃を受け,本件自転車に衝突したと供述する。この供述は,その内容自体に不自然・不合理な点はなく,実況見分調書等の他の証拠によって認められる本件事故現場の状況とも矛盾しない上(原告らが提出した写真撮影報告書(甲15,16)を踏まえても,矛盾といえるような点は見当たらない。),事故直後から証人尋問に至るまで終始一貫している。また,衝突直前にクラクションに気を取られて視線をそらしたため,本件自転車に全く気付かなかったことなど,自己に不利となり得る点も含めて供述している(上記のような供述をすれば,右折可信号が表示される前に強引に右折しようとした甲野車両に対し,反対車線の直進車がクラクションを鳴らしたのではないかと指摘されることは容易に予測できるから,甲野が自己の責任を軽減するために右折可信号が表示されていたと供述するのであれば,上記のような供述をするとは考え難い。)。

 以上によれば,甲野の上記供述は信用することができ,甲野車両は右折可信号に従って本件交差点に進入したものと認められる。そうすると,本件交差点における信号サイクル(甲2の4)の論理的帰結として,本件自転車は赤色信号を無視して本件横断歩道上を通行していたと認められる。原告らの上記主張は採用できない。

(2) 甲野と原告X1の過失割合
 前記(1)のような本件事故の態様及び甲野の過失内容を踏まえ,甲野と原告X1の過失割合を検討する。
 本件交差点を右折可信号に従って右折進行する自動車にとって本件交差点のような交通量の多い大型交差点の出口に設置された本件横断歩道上を,赤色信号を無視して通行する自転車等があることを予想するのは困難であるから,本件事故の発生についての原告X1の過失は大きいといわざるを得ない。

 しかしながら,他方,本件交差点の北側出口は見通しがよく,本件交差点を右折進行する自動車にとって,本件横断歩道上の自転車等の発見を妨げるものは皆無であったのであるから,甲野が前方左右をよく見ていれば,本件自転車を衝突前に発見して衝突を回避し,又は減速して衝突回避を試みることは著しく困難ではなかったはずである。それにもかかわらず,甲野は,他車のクラクションに気を取られて左方向に視線をそらすなど,前方注視義務を全く果たさず,衝突回避を試みてすらいない。また,甲野車両の右折進行時の速度(時速約30km~40km)は,徐行とはいえないことはもとより,本件交差点が大型の交差点であることを考慮してもやや高速に過ぎ,これが衝突回避を困難にし,被害を大きくしたことは否定できない。

 さらに,本件事故は,歩行者であれば最大限その安全が確保されるべき横断歩道上で発生したものであり,本件横断歩道には自転車通行帯が併設されていたことをも考慮すれば,本件自転車についても,横断歩道外を通行している場合に比してより強く安全確保が求められるというべきである。これらの事情に照らせば,甲野には,本件事故の発生について著しい過失があったというべきである。
 以上によれば,甲野と原告X1の過失割合は,各50%をもって相当と認める。

2 争点② 原告X1の損害について
  前記前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告X1の損害は,次のとおり,弁護士費用を含めて7186万円であると認められる。
(1) 治療関係費 6万6780円
 前記前提事実のとおり,原告X1は,本件事故により頸髄損傷に伴う四肢麻痺という重篤な後遺障害を負い,後進障害等級1級1号の認定を受けており,このような後遺障害の内容・程度に照らすと,症状固定後も一定期間,入院を継続してリハビリを行う必要性が高かったというべきであるから,症状固定後である平成23年3月17日から同月31日までの入院料3万4890円(甲6の3)についても,本件事故と因果関係のある損害と認める。
 また,証拠(甲4の15~4の18,6の1,6の2,6の4)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件事故により上顎欠損部の義歯が破損したため,症状固定的から義歯を作る予定や治療中であったところ,東北大学病院における平成23年4月5日及び同月28日の歯科治療も,上記治療の延長線上で行われたものと認められる。よって,上記歯科治療の費用7740円についても,本件事故と因果関係のある損害と認める。
 なお,文書代2万4150円については争いがない。

(2) 交通費 3万0540円
 前記(1)のとおり,原告X1の後遺障害の内容・程度に照らすと,症状固定後も一定期間,入院を継続してリハビリを行い,症状悪化を防ぐ必要性が高かったといえるから,平成23年3月8日から同月17日までの東北厚生年金病院への入院及び同日から同年6月10日までの東北大学病院への入院のいずれについても,本件事故による傷害の治療に必要なものであったと認められる。上記交通費は,上記入院中における一時退院時の病院・自宅間の往復交通費(甲8の1~8の4)及び退院時の自宅までのタクシー代(甲8の5)であるから,本件事故と因果関係のある損害と認める。

(3) 入院雑費 33万9000円
 前記(2)のとおり,症状固定後の入院期間を含めた226日間の全入院期間につき,本件事故による傷害の治療やリハビリに必要なものであったと認められるのであるから,上記全入院期間に係る1日1500円の入院雑費について,本件事故と因果関係のある損害と認める。

(4) 付添看護費 158万2000円
 前記(3)と同様の理由により,226日間の全入院期間に係る1日7000円の付添看護費について,本件事故と因果関係のある損害と認める。

(5) 付添人交通費 5万6880円(争いなし)

(6) 休業損害 0円
 原告X1は,本件事故時に就業しておらず,本件事故がなければ,226日間の入院療養期間中に就業して収入を得た蓋然性があるとも認められない。原告らは,原告X1が家事を担当していたと主張するが,実質的に収入を得ていたと評価できる程度の家事労働を行っていたと認めるに足りる証拠はなく,同主張は採用できない。

(7) 逸失利益 1429万円
 証拠(甲9,乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,高校1年生であった昭和63年2月に統合失調症を発症し,平成元年5月に幻聴覚や妄想が顕在化した後は入通院を繰り返したこと,平成3年6月から約3年以上にわたる長期入院を経て平成6年10月に退院し,その後は通院治療を継続したものの,平成16年8月から平成17年5月にかけて再入院したこと,本件事故前も幻聴の持続が見られ,被害妄想に陥りやすく,意欲の減退,感情鈍麻などの問題があり,精神的なストレスがあると不穏状態を示しやすく,抑うつ状態も持続していること,作業所に所属しているが,参加できるときとできないときがあること,平成22年10月21日時点においても,幻覚妄想症状や神経過敏への対応や日常生活の継続的指導が必要であったこと,以上の事実が認められる。このような既往歴や事故当時の病状等に照らすと,原告X1が近い将来において就業し,収入を得る蓋然性があったと認めることはできず,労働能力や意欲は必ずしも高くなかったといわざるを得ない。

 しかしながら,証拠(甲22,24)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年5月の退院後,以前はできなかった単独外出や友人との交流を行うようになり,平成19年春頃から,クロネコヤマトのメール便の配達等に週2,3回,1日2時間から7時間程度従事するようになったこと,これと並行して,仙台市内の喫茶店で洗い物やウェイターに従事し,一般家庭の訪問清掃をするなどしていたこと,平成20年頃には,友人と話すのが楽しいなどと述べるようになったこと,同年11月には,上記メール便の配達体験について,福祉大学の聴衆の前でスピーチをしたこと等の事実が認められる。このように,原告X1は,幻覚妄想症状や神経過敏といった統合失調症の症状を呈する一方で,近年は回復の兆しを見せており,短時間であれば仕事に従事することもできており,他者とのコミュニケーションも図ることができるようになっていたと評価できる。これを踏まえると,原告X1に統合失調症の既往症があり,事故当時もその症状が見られたとしても,これをもって労働能力や意欲がほとんど皆無であったと断定し,後遺障害による逸失利益を一切否定するのは相当でない。

 そこで,上記の事情を総合的に考慮し,症状固定時である平成23年の賃金センサスの全学歴計・全年齢男子平均収入526万7600円の約20%に相当する105万円を基礎収入とし,統合失調症の既往症があることを考慮して労働能力喪失率を0.8に修正した上,逸失利益を認めるのが相当であり,平均余命39年のライプニッツ係数17.017を用いて算定すると,原告X1の逸失利益は,105万円×0.8×17.017≒1429万円(1万円未満切捨て)と認められる。

(8) 入院慰謝料 300万円
 入院期間を226日間として認定した。

(9) 後遺障害慰謝料 3000万円
 原告X1の後遺障害の内容・程度に照らせば,上記金額が相当である。

(10) 将来介護費用 1億2252万2400円
 前記のとおり,原告X1の後遺障害は極めて重篤であり,日常生活動作に全面的な介助・介護を必要とし,今後の改善は見込めず,より重度の介助・介護が必要になることが懸念される状況にある(乙1)。現在は,実父母である原告X2及び同X3が介護を行っているが,原告X2は昭和14年6月25日生の75歳と高齢で,平成23年1月に転倒事故で大腿骨骨折をしたほか,糖尿病等の持病があり,同X3も昭和17年3月3日生の72歳と高齢で,長年にわたり心臓弁膜症の持病を抱えており(甲17,30),同様の介護体制を長期間維持していくことは困難であるといえる。

 このような状況に照らせば,できる限り早期に職業付添人による介護体制に移行する必要があり,これに要する費用としては,日額2万円×30日×12×17.017(平均余命39年のライプニッツ係数)=1億2252万2400円をもって相当と認める。

(11) 将来の自宅改造費 56万7000円(争いなし)

(12) 将来の入浴時移動リフト・入浴用シャワーチェアー 227万8770円(争いなし)

(13) 将来の身体障害者用ベッド等購入費 259万3408円(争いなし)

(14) 将来の車いす購入費 349万0605円(争いなし)

(15) 将来車両購入代 343万2400円
 当裁判所は,前記(10)のとおり,職業付添人による将来介護費用を認めるが,その場合でも車いすごと移動可能な特殊車両の必要性は失われないというべきであるから,原告の主張どおりの費用を本件事故と因果関係のある損害と認める。

(16) 将来雑費 1021万0200円(争いなし)

(17) 物損 1万1000円(争いなし)

(18) 過失相殺
 前記(1)から(17)までの合計額1億9447万円(1万円未満切捨て。以下同じ。)について,甲野の過失割合が50%であることを考慮すると,本件事故と因果関係のある原告X1の損害額は,9723万円となる。

(19) 既払金 3776万円
 原告X1は,平成24年1月12日,自賠責保険から本件事故による損害填補金として3776万円を受領しており,これを前記(18)の9723万円及びこれに対する事故日である平成22年10月30日から上記既払金受領日である平成24年1月12日まで年5%の割合による遅延損害金586万に法定充当すると,残額は6533万円となる。

(20) 弁護士費用 653万円
 前記(19)の6533万円の約1割をもって相当な弁護士費用と認める。

3 争点③ 原告X2及び同X3の固有の慰謝料について
 証拠(甲22,24。乙2,3)及び弁論の全趣旨によれば,原告X2及び同X3は,原告X1が高校1年生であった昭和63年2月に統合失調症を発症し,入通院を繰り返す中で,原告X1と常に共に生活し,親子で手を取り合って療養に努めてきたものと認められ,前記2(7)でも認定説示したとおり,近年は長期の入院をしておらず,職業訓練や短時間の就労,友人とのコミュニケーション等も可能となるなど,回復の兆しも見られていた。このような状況下で,原告X1は,本件事故により,40歳の若さで頸髄損傷による四肢麻痺となり,日常生活において全面的な介護を要する状態に陥ったものであり,原告X2及び同X3は,本件事故後約3年半の長期にわたり献身的な介護を行い,今後も長期にわたり原告X1の後遺障害に向き合っていくことになる。

 以上のような原告X2及び同X3と原告X1との関係,本件事故時における原告X1の年齢,病状や生活状況,本件事故により原告X1が負った後遺症の重篤さ,本件事故後における原告X2及び同X3による介護の状況等に照らせば,原告X2及び同X3は,本件事故により,原告X1の生命侵害に比肩すべき精神的苦痛を受けたというべきであり,その慰謝料は各400万円をもって相当と認める(なお,その1割に相当する40万円を弁護士費用として認めるべきである。)。

第4 結論
 以上によれば,原告X1の請求は7186万円及び既払金受領日の翌日以降の遅延損害金の支払を求める限度で,原告X2及び同X3の各請求は各440万円及びこれに対する本件事故日以降の遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ理由がある。
 なお,仮執行免脱宣言については,相当でないため付さないこととする。

仙台地方裁判所第2民事部
裁 判 官  内  田 哲  也
以上:6,501文字

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