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傘で突かれた傷害とPTSD発症の因果関係を認めた地裁判例紹介

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平成31年 4月23日(火):初稿
○交通事故ではなく、4歳の子に、子ども用の傘の先端で腰を突かれたため傷害を受け、PTSD(外傷後ストレス障害)を発症したと主張して、その子の両親に民法第714条1項監督義務者責任に基づく損害賠償請求をした事案を判断した平成26年3月28日金沢地裁判決(自保ジャーナル1969号149頁)関連部分を紹介します。

○判決は、原告に本件行為後に生じた両下肢の脱力感・しびれは、反射性交感神経障害(RSD)と呼ばれる自律神経障害であると認められ、また、原告は、本件行為を原因としてPTSDに罹患したものと認められるとし、本件行為後に原告に生じた症状は、本件行為のみを原因として生じたものではなく、P8鑑定人のいう原告の「精神的な脆弱性、素因」のほか、夫の死などの原告側の事情も相当大きく寄与しているなどとして、原告としては、原告の損害から5割を減額する素因減額をするのが相当であるとして、原告の後遺障害を自動車損害賠償保障法施行令別表第2の第7級4号として、原告の請求約5500万円の内約1914万円を損害と認めました。

○しかし、控訴審平成27年12月9日東京高裁(自保ジャーナル1969号136頁)で後遺障害等級が変更され、認容額が大幅減額されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、1914万1963円及びこれに対する平成18年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その2を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。
4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請

1 被告らは、原告に対し、連帯して、5499万9999円及びこれに対する平成18年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言

第二 事案の概要
1 本件は、原告が、被告P2及び被告P3(以下、被告両名併せて「被告ら」という。)の当時4歳の子に、子供用の傘の先端で、腰を突かれ、そのため傷害を受け、外傷後ストレス障害(PTSD)になったなどと主張して、監督義務者(親権者)である被告らに対し、民法714条1項に基づき、損害賠償を請求した事案である。

2 当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認定できる前提事実

         (中略)

第四 裁判所の判断
1 認定事実等
(1)認定事実

 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件行為前の原告の心身の状態、本件行為後の経緯(原告の受診の経緯を含む。)及び本件行為後の原告の症状等について、次の各事実が認められる(末尾の括弧内は、裏付けとなる証拠等を表す。)。
ア 原告は、本件行為以前は、g局非常勤職員として勤務しており、小学校のミニバスケットボールのコーチをするなどして、普通に生活し、歩行等にも格別の支障はなかった(原告本人尋問)。

イ 平成18年5月11日午後5時30分頃、原告は、犬を連れて散歩をしていたところ、P4(当時4歳)が、金沢市<地番略>の下り坂になっている道路を走ってきて、本件傘(先端に直径約2センチメートルのプラスチックの球がついた子供用の傘)の先端で、原告の腰を突いた。その直後、原告は、激しい衝撃を受けて、その場に倒れ込んで、腰から下に力が入らないような状態となった。
(以上につき、原告本人尋問、弁論の全趣旨)

ウ その後、原告は、父親に自動車で送られて、平成18年5月11日午後6時30分頃、a病院を受診した。原告は、受診の際、子供に傘の先で突かれ、足がしびれて立てない旨を訴えた。原告は、平成18年5月11日から同月26日まで、a病院に入院して治療を受けた。原告に対して、レントゲンやMRIの検査が行われたが、担当医である整形外科のP5医師(以下「P5医師」という。)の診断では、レントゲン(腰椎X-P)や腰椎骨盤MRIには特記所見はなかった。原告は、入院後間もなく、左側の症状はほぼ消失したが、右側は殿部痛が出現し、車椅子移動が続いた。P5医師は、原告の症状が仙腸関節の機能障害であると判断して、2回にわたり仙腸関節注入を行った。原告は、仙腸関節注入により、杖歩行が可能になり、症状が軽快したため、平成18年5月26日、a病院を退院した。
(以上につき、原告本人尋問、弁論の全趣旨)

エ 平成18年6月1日、原告は、「家で用事をしていると、しびれる。長く座っていても、具合悪い。」などと訴えて、a病院を受診した。以降、原告は、継続的にa病院に通院した。原告に対して、仙腸関節注入が行われたが、その効果は一過性であり(1週間から10日間)、そのため、P5医師は、原告の治療に苦慮していた。

オ 原告は、a病院のP5医師の紹介で、平成18年8月1日に、c病院の整形外科を受診した。その際、原告は、「隣の子供に、坂道で、背中を傘で突かれて転倒して、両下肢脱力、しびれあり、立てなくなった。」「a病院に入院し、3、4日して左下肢のしびれはとれたが、右下肢のしびれが続いた。仙腸関節障害ということで、関節注射すると、1週間ないし10日間は楽になる。」などと訴えた。その後、同月8日、同病院で、原告につき、骨シンチグラフィ検査(骨スキャン)が行われたが、同検査上は、仙腸関節に異常所見は認められなかった。このため、同病院の整形外科担当医は、原告については精神的な面が大きいと診断して、原告に対し、心療内科の受診を勧めた。
(以上につき、鑑定人P6の鑑定の結果)

カ 原告は、前記勧めに従い、平成18年8月28日、bクリニックを受診した。その際、原告は、「自分をけがさせた少年とその家族の声を聞いたり、姿を見ると、恐怖心を覚える。」「外出ができない。」「家事はできない。」などと訴えた。このような愁訴等から、同クリニックのP7医師(以下「P7医師」という。)は、原告につき、外傷後ストレス障害(PTSD)であると診断した。同日以降、原告は、bクリニックに継続的に通院するようになり、抗不安剤や抗うつ剤の投与を受けた。

キ 原告は、bクリニック通院中、P7医師に対して、「子供に背中を突かれて、倒れて、また子供が来たときに、お母さんかお婆ちゃんを呼んできなさいと絞り出すように言った声が悪夢の際に出てくる。」「スーパーで、他の子供が恐ろしく思った。」「整形外科の隣が耳鼻科で、子供に会い、調子を崩した。それから外に出られなかった。子供が見えていると、息苦しい。」などと訴えていた。また、原告は、待合室で、子供の声を聞くだけで、恐怖心が湧き上がり、デイケア室に避難したり、耳をふさぎ、涙を流したりすることもあった。P7医師は、平成18年11月24日、原告に対し、e心理センターで心理面接等を受けるよう勧めた。

ク 平成19年1月22日、原告は、bクリニックの紹介により、e心理センターを訪れ、同センターの担当者に対して、本件行為のことやその後の原告の症状のことを相談した。原告は、同センターにて、同日以降平成23年1月19日まで、継続的に心理面接やトラウママネジメント技法の実施等を受けた。

ケ 他方、原告は、c病院の整形外科を受診した際、担当医師から、仙腸関節注入で治りが悪いのであれば、鍼灸院に行った方がよいと言われたことから、平成18年8月17日から平成19年11月30日まで、d接骨院に通院して、鍼灸の施術を受けた(ただし、原告は、c病院の整形外科からの紹介状は作成してもらわなかった。)。
(以上につき、原告本人尋問、弁論の全趣旨)

コ a病院のP5医師は、原告の仙腸関節障害が平成19年3月9日の時点で症状が固定した旨診断した。

サ 原告は、平成19年8月1日、体動時の疼痛を主訴として、i大学病院の神経内科を受診した。原告は、同年9月26日、同病院にて、造影腰椎・仙椎MRI検査を受けたが、特に炎症や占拠性病変は認められなかった。

シ 原告は、その後も、腰部や下肢の痛みが続き、また、歩行困難な状態が続いた。そして、原告は、平成20年7月7日に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第45条に基づき、保健福祉手帳(障害等級2級)の交付を受け、さらに、平成20年7月9日に、「右下肢機能の著しい障害」を障害名として、身体障害者等級4級の身体障害者手帳の交付を受けた。
(以上につき、原告本人尋問、弁論の全趣旨)

ス 原告は、本件行為後、g局非常勤職員の職を辞めて、以降、無職である(原告本人尋問、弁論の全趣旨)。

セ 原告は、鑑定人P8が鑑定を実施するに当たり、j大学病院(鑑定人P8の属する病院)に、平成23年11月25日から同年12月15日まで入院して、問診、医学的諸検査、心理検査等を受けた。
 入院時、原告は、室内では、T字杖を両手に持って歩行することができるが、室外では、概ね車椅子で移動を行う状況であった(ベッドと車椅子間の移乗は、自力でできた。また、浴室までは、杖で移動することもあった。)。そして、原告は、起き上がりや座位保持は自力ででき、食事摂取や衣服の着脱も自力でできた。

 原告は、同病院入院中も、腰部や下肢の痛みを継続的に訴えていた。そのため、原告は、ボルタレン座薬を服用していた。
 また、原告は、同病院の退院時のカンファレンスの際,看護師に対して、退院後の生活につき、「家の中は杖につかまったり、手すりになるようなものがあるし、それにつかまりながら移動できる。ベッドの側にトイレもあるので、家の中での生活では、事欠かない。」と話し、また、経済的問題につき、「遺族年金を受給している。時々、実家の家業を手伝っている。」と話した。
(以上につき、鑑定人P8による鑑定の結果、弁論の全趣旨)

(2)外傷後ストレス障害の診断基準について
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、外傷後ストレス障害の診断基準(外傷後ストレス障害に該当するか否かの診断基準)として、アメリカ合衆国精神医学会の定めたDSM-〈4〉の診断基準があること、同基準は、精度の高い基準として国際的に定評があり、日本においても、広く用いられていること及び同基準は、次のAないしFの要件を充足するときに、外傷後ストレス障害(PTSD)に該当する旨定めていることが認められる。

         (中略)
(※「交通事故傷害とPTSD発症の因果関係を認めた地裁判例紹介2」に記載したものとほぼ同じ)

(3)P7医師の診断及びその根拠
 証拠(略)によれば、本件行為後に原告が受診したbクリニックのP7医師は、原告につき、外傷後ストレス障害(PTSD)であると診断し、平成20年6月25日付けの「P1さんをPTSDと診断した事について」と題する書面において、その根拠につき、DSM-〈4〉の診断基準(以下「本件基準」ということがある。)に関連付けて、大要、次のとおり述べていることが認められる。

ア 原告は、平成18年5月11日の事件直後より下半身が動かなくなって、16日間入院したことや、事件から2年近く経過しているのに跛行のため杖で歩行する状態であることからすると、重傷を負ったといえるので、本件基準のAの〔1〕に該当する。
 重傷を負い、加害者の子供(P4のことを指す。以下、同様)が自分を見て笑っており、親に「知らないおばちゃんが倒れている。」と言っているにもかかわらず、助けにも謝りにも来ずに、子供のしたことだと笑いながら言われるなどの事情からすると、自分の状態と周囲の状況は戦慄すべき状況であったといえるので、本件基準のAの〔2〕に該当する。
 したがって、本件基準のAは満たされている。

イ しばしば夢にも事件のことが出てくることが、本件基準のBの〔2〕に該当する。
 加害者ではない男の子が大きな声を出して、ふざけていると恐怖で、その場にいられなくなり、その場を離れて震えているという症状は、本件基準のBの〔3〕に該当する。
 以上のような自分の心の中で外傷の再体験があり、本件基準のBを満たしている。

ウ 加害者が外にいるとわかるだけで、体が震える、動悸がする、泣いてしまう状態が続いたことや、加害者以外の幼児の声にも怯えるようになり、外出もできなくなったことは、本件基準のCの〔2〕に該当する。
 それまでしていた非常勤の仕事や子供のバスケットボールのコーチができなくなり、外出できないこともあいまって、他の人から孤立している感覚をおぼえることは、本件基準のCの〔4〕に該当する。
 以上のことから、本件基準のC(外傷と関連した刺激の持続的回避と、全般反応性の麻痺)を満たしている。

エ 事件後から睡眠障害が続き、夜間は3時間しか眠れず、昼間うつらうつらした状態が続いたことは、本件基準のDの〔1〕に該当する。
 加害者の子供に限らず、小学校前の特に男の子に対する過度の警戒心があることは、本件基準のDの〔4〕に該当する。
 そして、加害者や男の子の声がすると怯えてしまうという持続的な覚醒亢進状態があることは、本件基準のDの〔5〕に該当する。
 以上から、本件基準のDを満たしている。

オ 前記の症状は3ヶ月以上持続しているので、本件基準のEを満たしている。

カ 原告は、ひとりでは外出ができないし、買い物もできないから、社会的機能障害があり、本件基準のFを満たしている。

キ 以上のとおり、原告は、本件基準のAないしFのいずれも満たすから、外傷後ストレス障害(PTSD)と診断できる。

2 鑑定の結果

         (中略)

3 本件行為と、原告の症状との因果関係(争点〔1〕)及び素因減額の可否(争点〔2〕)について

         (中略)

4 原告の受けた損害(争点〔3〕)のうち弁護士費用を除く損害について

         (中略)

(6)後遺症による逸失利益
 前記認定に係る原告の症状等(前記1の(1)のセのとおり、原告は杖で移動することができることなどの事実も含む。)に鑑みれば、原告の後遺障害は、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(自動車損害賠償保障法施行令別表第2の第7級4号)に該当すると認めるのが相当であり、原告の労働能力喪失率を56%と認めるのが相当である。 

 したがって、原告の後遺症による逸失利益は、343万2500円(平成18年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者の平均賃金)を基礎収入として算定すると、次の計算式のとおり2395万4840円(1円未満切捨て)となる(症状固定日である平成19年3月9日時点で、原告は、満46歳であるが、誕生日直前であるので、就労可能年数については、47歳から67歳までの20年とするのが相当である。次の12.4622は、20年のライプニッツ係数である。)。
(計算式)343万2500円×0.56×12.4622=2395万4840円

(7)入通院慰謝料
 本件行為の態様、原告の症状や入通院経緯など本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告の入通院慰謝料は、170万円が相当である。

(8)後遺症慰謝料
 原告の後遺障害の態様や程度など本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告の後遺症慰謝料は、1000万円が相当である。

(9)前記(1)ないし(8)の合計
 前記(1)ないし(8)の合計は、3778万7618円となる。

5 素因減額による修正
 前記3の(2)認定のとおり、原告については、5割の素因減額をするのが相当であるから、素因減額による修正後の原告の損害は、次の計算式のとおり1,889万3,809円となる。
(計算式)3778万7618円×(1-0.5)=1889万3809円

6 争点〔4〕(原告の損害から控除される金額〔損益相殺の額〕)について

         (中略)

7 弁護士費用の損害について
 原告が原告代理人弁護士に本件訴訟の提起・追行を委任し、相当額の報酬の支払を約していることは弁論の全趣旨により認められるところ、前記6の(3)で認定された原告の損害額に、本件事案の性質、訴訟の経緯等を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用の損害は、170万円が相当である。

8 結論
 以上によれば、弁護士費用の損害を含めた原告の損害認容額は、1914万1963円となる。
 したがって、原告の本訴請求は、1914万1963円及びこれに対する不法行為の日である平成18年5月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
 よって、訴訟費用について民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成26年1月22日)金沢地方裁判所民事部 裁判官 源孝治
以上:6,934文字

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