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軽症外傷性視神経症から生じた膝下切断等と事故の因果関係認めた判例紹介

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令和 2年 1月 4日(土):初稿
○交通事故により軽症の外傷性視神経症を発症した結果、左眼を失明し、これにより極端な運動低下に陥って元々罹患していた糖尿病が増悪し、右足膝下切断という結果が生じた事案につき、左眼失明のみならず右足膝下切断と交通事故との間に因果関係を認めた平成30年7月17日東京高裁判決(判時2422号54頁)関連部分を紹介します。

○交通事故から右足膝下切断までの因果の流れは次の通りです。
(既往症糖尿病)→事故による頭部打撲→外傷性視神経症の発症→左眼失明→歩行機会の喪失・運動低下→糖尿病の増悪→下肢血行の重症化→右足の人差し指の壊疽→右足膝下切断

○その外傷性視神経症は、非典型例(軽症例)であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らなかったところ、被害者は、重篤な糖尿病(既往症)に罹患しており、視神経内血管に糖尿病による障害が存在していたために、最終的に左眼失明にまで至ったとして事故と失明の因果関係を認めながら、失明について素因減額5割としました。

○右足膝下切断は、糖尿病(既往症)の合併症である閉塞性動脈硬化症の増悪を原因とする上、本件事故によって、外傷性視神経症を発症し、左眼を失明したために、糖尿病が増悪し、下肢血行の重症化が早められ、右足の人差し指に壊疽を発症して右足膝下切断に至ったとして、事故と右足膝下切断との因果関係を認めながら、右足下切断について素因減額8割としました。

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主   文
1 本件控訴に基づいて、原判決中、控訴人らに係る部分を次のとおり変更する。
(1)控訴人らは、被控訴人X1に対し、連帯して、1169万2784円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人らは、被控訴人X2に対し、連帯して、389万7595円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人らは、被控訴人X3に対し、連帯して、389万7595円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)控訴人らは、被控訴人X4に対し、連帯して、389万7595円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被控訴人らの控訴人らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
2 本件附帯控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを2分し、その1を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判

1 控訴の趣旨
(1)原判決中、控訴人らに係る部分を次のとおり変更する。
(2)被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。

2 附帯控訴の趣旨
(1)原判決中、控訴人らに係る部分を次のとおり変更する。
(2)控訴人らは、被控訴人X1に対し、連帯して、2511万9019円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人らは、被控訴人X2に対し、連帯して、837万3007円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)控訴人らは、被控訴人X3に対し、連帯して、837万3006円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)控訴人らは、被控訴人X4に対し、連帯して、837万3006円及びこれに対する平成23年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要(略称は、特記しない限り、原判決が定めるところによる。)
 本件は、原審承継前原告亡A(以下「A」という。)の共同相続人である被控訴人らが、(1)控訴人Y1は、平成23年1月6日午前10時10分頃、控訴人会社が保有する普通貨物自動車を運転して、Aが降車しようとしていた普通乗用自動車(本件タクシー)に追突する事故(本件事故)を起こし、これによってAに左眼失明及び右足膝下切断の傷害を負わせたと主張して、控訴人Y1に対しては不法行為に基づく損害賠償として、控訴人会社に対しては使用者責任又は自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償として、被控訴人X1につき2511万9019円、被控訴人X2につき837万3007円、被控訴人X3及び被控訴人X4につきそれぞれ837万3006円及びこれに対する不法行為の日から民法所定の遅延損害金を連帯して支払うことを求めるとともに、(2)控訴人会社と自動車損害保険契約を締結していた原審被告Y3株式会社(以下「Y3」という。)の依頼を受けて控訴人らから前記(1)の事件を受任した弁護士が同事件において提出した準備書面には、正当な防御権の範囲を著しく逸脱するAに対する暴言や、A及び被控訴人X1の名誉を毀損する主張が記載されていると主張して、Y3に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

         (中略)

第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、被控訴人らの控訴人らに対する請求については、控訴人らが、被控訴人X1につき1169万2784円、被控訴人X2、被控訴人X3及び被控訴人X4につきそれぞれ389万7595円及びこれに対する不法行為の日から民法所定の遅延損害金を連帯して支払う限度で認容すべきであると判断する。その理由は、次のとおりである。

1 認定事実は、原判決の「第3 当裁判所の判断」1のとおりであるから、これを引用する。

2 本件事故と左眼失明との因果関係、素因減額(争点1)について
(1)本件事故と左眼失明との因果関係について
 Aが本件事故によって左眼付近に外見上明らかな外傷を受けたことを認めることはできないものの、本件タクシーは、本件事故当時、Aを降車させるために車道の左端に停止していたところ、本件事故の衝撃によって、約4・6mにわたり前方に押し出され、車体の後部が大破している(認定事実(4))から、本件事故の衝撃は大きかったと認められ、Aは、本件事故当時、本件タクシーの後部左座席から降車しようとしていたところ、本件事故の衝撃によって、道路左側の植え込み付近に転倒し、胸部左側の複数か所を骨折したほか、全身打撲の傷害も負っている(前提事実(3)エ及び(4)ア)から、Aは、本件事故によって、本件タクシーの車体や道路の路面、縁石等に左上半身を中心に全身を打ち付けたと認められる。

 そして、その結果、Aは、本件事故後、救急車に収容され、H1病院に救急搬送されたところ、その際の意識レベルは、JCS指標では、「1-1」(意識は清明なものの、今ひとつはっきりしない)であり、GCS指標では、開眼は「自発的」、運動反応は「命令に従う」であるものの、言語機能は「会話混乱」とされ、健忘所見も認められている(認定事実(4))から、本件事故直後、Aには意識障害が現れていたと認められること、Aが手動弁(左眼失明)と診断されたのは、平成23年4月11日である(前提事実(4)イ)が、Aは、本件事故日の翌日である同年1月7日には、「(病院の食事は)目が悪いからよくわからないけど大体食べれてると思う。」と述べ、同月14日には、視野の左側の上半分しか見えないと訴えている(認定事実(5))から、左眼の視力の低下は、本件事故後、早い時期から始まっていたと認められること、Aが本件事故前から罹患していた増殖性糖尿病網膜症については、本件事故の前後で、その増悪が認められていない(認定事実(5))から、増殖性糖尿病網膜症が左眼失明の原因であるとは考え難いことを併せ考えると、Aは、本件事故によって、左頭部又は顔面をも打撲したと認めることができる。

 これに加え、加島鑑定書及び加島鑑定補充書(認定事実(8))によれば、(ア)Aは、本件事故による左頭部又は顔面の打撲によって、左眼外傷性視神経症を発症した、(イ)その外傷性視神経症は、非典型例(軽症例)であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らなかった、(ウ)しかし、Aは、本件事故前から、増殖性糖尿病網膜症、慢性腎不全、右下肢閉塞性動脈硬化症等の合併症を伴う重篤な糖尿病に罹患しており(認定事実(1)及び(2))、視神経内血管にも糖尿病による障害が存在していた、(エ)そのため、外傷性視神経症によって視神経管内に出現した血管性浮腫の治癒が遅延し、視神経繊維に対する障害が持続した結果、進行性の視覚障害が出現し、最終的に左眼失明にまで至ったと認めることができるのであり、本件事故と左眼失明との間には因果関係があるというべきである。

(2)素因減額について
 前記(1)のとおり、本件事故によって発症した外傷性視神経症は軽症例であり、それのみであれば左眼失明にまでは至らなかったところ、Aが重篤な糖尿病(既往症)に罹患しており、視神経内血管に糖尿病による障害が存在していたために、最終的に左眼失明にまで至ったものであり、既往症が左眼失明に寄与した割合は5割とするのが相当である。

3 本件事故と右足膝下切断との因果関係、素因減額(争点2)について
(1)本件事故と右足膝下切断との因果関係について
 Aは、本件事故後、糖尿病の合併症である右下肢閉塞性動脈硬化症の増悪によって、平成23年10月26日までには右足の人差し指に壊疽を発症し、右足膝下切断に至った(認定事実(6))ところ、前田鑑定書及び前田鑑定補充書(認定事実(9))によれば、(ア)右下肢閉塞性動脈硬化症の重症度は、本件事故当時、フォンテイン分類〈1〉度「無症状」又は〈2〉度「間歇性跛行」であり、〈4〉度「虚血性潰瘍、壊疽」までには重症化しておらず、本件事故の約半年後である平成23年7月7日においても、特別に重症化してはいなかった、(イ)しかし、本件事故によって、外傷性視神経症を発症し、左眼を失明したこと(前記2(1))から、単独での歩行が困難になって、歩行機会を喪失したことが間接的な要因となり、また、心不全を発症して入院し、極端な運動低下に陥ったことが直接的な要因となって、閉塞性動脈硬化症の危険因子である糖尿病が増悪し、下肢血行の重症化が早められ、前記時期までに右足の人差し指に壊疽を発症したと認めることができるのであり、本件事故と右足膝下切断との間には因果関係があるというべきである。

(2)素因減額について
 前記(1)のとおり、右足膝下切断は、糖尿病(既往症)の合併症である閉塞性動脈硬化症の増悪を原因とする上、本件事故によって、外傷性視神経症を発症し、左眼を失明したために、糖尿病が増悪し、下肢血行の重症化が早められ、右足の人差し指に壊疽を発症したものであり、既往症が右足膝下切断に寄与した割合は8割とするのが相当である。

4 Aの後遺障害について
 前記1から3までによれば、Aには、本件事故によって、後遺障害等級第1級1号「両眼が失明したもの」(ただし、既存障害として同第3級1号「1眼が失明し、他眼の視力が0・06以下になったもの」がある。)と、同第5級5号「1下肢を足関節以上で失ったもの」との併合第1級の後遺障害が残存したと認めることができる。そして、これらの後遺障害の症状固定日は、左眼失明につき平成23年6月21日、右足膝下切断につき平成24年2月16日と認めるのが相当である。

5 本件事故によるAの損害(争点3)について
(1)治療費200万6350円

         (中略)


(6)傷害慰謝料200万円
 前提事実(4)のとおり、Aは、本件事故によって、左多発肋骨骨折、左肩甲骨骨折、左気胸、全身打撲の傷害を負い、その治療のため、(ア)平成23年1月6日から同年2月12日まで入院し(入院38日)、その後も同年7月22日まで通院した(通院5月10日)後、(イ)右足膝下切断の目的で平成23年10月28日から同年11月15日まで及び同月18日から平成24年2月16日まで合計110日入院したところ、(ア)の入通院期間については、併行して既往症の治療も行われたが、本件事故による傷害の程度が重いことによれば、既往症の影響を考慮するのは相当ではなく、また、(イ)の入院期間については、前記(2)と同様、その8割は既往症が寄与しているが、他方で、右足膝下切断という大きな苦痛が伴う治療を受けたことをも考慮すべきであり、傷害慰謝料は200万円とするのが相当である。

(7)後遺障害慰謝料1500万円
 前記4のとおり、本件事故による後遺障害は、後遺障害等級第1級1号「両眼が失明したもの」と同第5級5号「1下肢を足関節以上で失ったもの」との併合第1級であるところ、前記2及び3のとおり、左眼失明については既往症が5割、右足膝下切断については既往症が8割、それぞれ寄与しているから、後遺障害慰謝料は1500万円とするのが相当である。

 なお、Aには、右眼を失明し、左眼の矯正視力が0・04になったという後遺障害等級第3級1号に該当する既存障害があった(前提事実(2)ア)が、Aは、本件事故前、何らの介助をも要せず、日常生活を送っていたほか、独力で居酒屋の調理、接客等を行っていたところ、本件事故によって左眼を失明した後は、稼動不能となっただけではなく、単身での外出が困難となり、食事等にも介助を要するようになったから、Aの既存障害を斟酌するのは相当ではない。

         (中略)

第4 結論
 よって、本件控訴は、被控訴人X1につき1169万2784円、被控訴人X2、被控訴人X3及び被控訴人X4につきそれぞれ389万7595円及びこれに対する不法行為の日から民法所定の遅延損害金を連帯して支払う限度で理由があるから、本件控訴に基づいて、原判決中の控訴人らに係る部分を主文第1項のとおり変更し、本件附帯控訴は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 
(裁判長裁判官 甲斐哲彦 裁判官 内野俊夫 森健二)
以上:5,733文字

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