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第三債務者の差押債権者への弁済を否認対象にならないとした判例紹介

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平成30年 7月23日(月):初稿
○被上告人(Aの破産管財人)Xが、本件支払1及び本件支払2について、破産法162条1項1号イの規定により否認権を行使して、上告人Yに対し、167万8905円及び法定利息の支払を求めたところ、原審平成28年7月6日東京高裁判決は、本件支払1及び本件支払2は、いずれもAの財産である給料債権からの支払であり、これによりAの上告人Yに対する貸金債務が消滅するから、破産法162条1項の規定による否認権行使の対象となるなどとして、被上告人Xの請求を、法定利息の一部を除いて認容しました。

○そこで上告人Yが上告した事案において、本件会社は、本件差押命令の送達を受けた後も、Aに対し、その給料債権のうち本件支払1に係る部分を除いた全額の弁済をし、これによりAの給料債権が消滅した後、更に差押債権者である上告人に対して本件支払2をしたものであるから、本件支払2は、破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないというべきであるとして、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、被上告人Xの請求のうち本件支払2に係る部分を棄却すべきであるとし、原判決を変更した平成29年12月19日最高裁判決(判時2370号28頁)全文を紹介します。

○事案概要は以下の通りです。
・Aに対して貸金債権を有していたYは,AのB社に対する給料債権を差し押さえ,平成22年4月,その債権差押命令がB社に送達されるも,B社は,その後も給料の全額をAに支払
・Yは,平成25年10月頃,B社に対し,Aの給料債権のうち本件差押命令により差し押さえられた部分の支払を求める支払督促を申し立て
・B社は,督促異議の申立てをする一方,平成26年1月までに,Aに支払うべき給料から合計26万円を控除し,これを本件差押部分の弁済としてYに支払(「本件支払1」)
・督促異議により移行した訴訟において,平成26年2月,B社が本件差押部分の弁済として141万8905円をYに支払うことなどを内容とする和解が成立し,B社はこれを支払(「本件支払2」)
・その後,Aが破産手続開始の決定を受け,Xが破産管財人に選任
・A破産管財人Xが,破産手続開始の決定前にAのB社に対する給料債権を差し押さえて取り立てたY(上告人)に対し,破産法162条1項1号イの規定により,その取立てによる弁済を否認して,これによりYがB社から受領した金銭に相当する金額等の支払を求めた


破産法第162条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項第1号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
一 債権者が前条第2項各号に掲げる者のいずれかである場合
二 前項第1号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
3 第1項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前1年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。


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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1)上告人は,被上告人に対し,26万円及びこれに対する平成26年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを6分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○,同○○○○の上告受理申立て理由第3について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,Aに対する貸金請求を認容する確定判決を債務名義として,Aの日本冷凍輸送株式会社(以下「本件会社」という。)に対する給料債権の差押えを申し立て,平成22年4月,これを認容する債権差押命令(以下「本件差押命令」という。)が本件会社に送達された。しかし,本件会社は,その後も,Aに対し,その給料債権の全額の弁済をした。

(2)上告人は,平成25年10月頃,Aの給料債権のうち本件差押命令により差し押さえられた部分(以下「本件差押部分」という。)の支払を求める支払督促を申し立てた。本件会社は,督促異議の申立てをする一方,同月から平成26年1月までの間に,Aに支払うべき給料から合計26万円を控除して,上告人に対し,これを本件差押部分の弁済として支払った(以下,この支払を「本件支払1」という。)。

(3)上記(2)の申立てに係る督促事件が督促異議の申立てにより移行した訴訟において,平成26年2月,本件会社が上告人に対し本件差押部分の弁済として141万8905円を支払うことなどを内容とする和解が成立し,本件会社は,同年3月,上告人に対し,これを支払った(以下,この支払を「本件支払2」という。)。

(4)Aは,平成26年12月,破産手続開始の決定を受け,被上告人が破産管財人に選任された。

2 本件は,被上告人が,本件支払1及び本件支払2について,破産法162条1項1号イの規定により否認権を行使して,上告人に対し,167万8905円及び法定利息の支払を求める事案である。

3 原審は,本件支払1及び本件支払2は,いずれもAの財産である給料債権からの支払であり,これによりAの上告人に対する貸金債務が消滅するから,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象となるなどとして,被上告人の請求を,法定利息の一部を除いて認容した。

4 しかしながら,原審の上記判断のうち,本件支払2が破産法162条1項の規定による否認権行使の対象となるとした部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」とは,破産者の意思に基づく行為のみならず,執行力のある債務名義に基づいてされた行為であっても,破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものであれば,これに含まれると解すべきである(最高裁昭和38年(オ)第916号同39年7月29日第二小法廷判決・裁判集民事74号797頁参照)。しかるに,債権差押命令の送達を受けた第三債務者が,差押債権につき差押債務者に対して弁済をし,これを差押債権者に対して対抗することができないため(民法481条1項参照)に差押債権者に対して更に弁済をした後,差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合,前者の弁済により差押債権は既に消滅しているから,後者の弁済は,差押債務者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものとはいえず、破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に当たらない。
 したがって,上記の場合,第三債務者が差押債権者に対してした弁済は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないと解するのが相当
である。 

(2)これを本件についてみると,本件会社は,本件差押命令の送達を受けた後も,Aに対し,その給料債権のうち本件支払1に係る部分を除いた全額の弁済をし,これによりAの給料債権が消滅した後,更に差押債権者である上告人に対して本件支払2をしたものであるから,本件支払2は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,被上告人の請求のうち本件支払2に係る部分は棄却すべきである。
 被上告人の請求のうち本件支払1に係る部分に関しては,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除された。
 そうすると,原判決を主文第1項のとおり変更すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林景一)
以上:3,720文字

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