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多重債務整理事件訴額基準は個別債権額を基準とした最高裁判決紹介

平成28年 6月28日(火):初稿
○ここ数年、派手な宣伝をしない一般の弁護士・司法書士には多重債務整理事件が殆ど来なくなりましたが、数年前までは多重債務整理事件・過払金請求事件は弁護士・司法書士にとって最高に美味しい事件でした。事務員に殆ど丸投げして楽に稼げる事件だったからです。そのため、多重債務事件・過払金請求事件で一儲け企む一部の弁護士・司法書士間で、しのぎを削る多重債務整理事件受任宣伝合戦が繰り広げられました。

○司法書士に認められている紛争処理代理権は争いの額が140万円以下とされています。依頼者Aさんが、債権者Bに50万円、同Cに80万円、同Dに300万円の債権者3社合計430万円の債務を抱えていた場合、争いの額をどうみるかについて、日弁連と日司連で争いがありました。日弁連は、債務総額430万円を基準にして司法書士には、Aさんの債務整理事件は全て取扱権限がないと主張し、日司連は、総額ではなく個別に扱えば債権者B・Cはいずれも140万円なので取扱権限があり、かつ債権者Dについても、300万円の債権額を200万円と争う場合、その差額100万円で140万円以下だから司法書士にも取扱権限があると主張していました。

○この争いについて、平成28年6月27日最高裁判決は、債務整理の場合でも債権額140万円以下の各個別債権額の債権者については、司法書士に取扱権限があるとして日司連に軍配を上げ、140万円を超える債権額の債権者については、一律、司法書士には取扱権限はないと日弁連側に軍配を上げ、両者痛み分けの結論でした。

○多重債務整理事件・過払金請求事件は、中には法廷での難しい理論闘争となる事件もありますが、殆どの事件は、利息制限法を適用して充当計算をするだけの業務で、ちょっと勉強すれば素人でもできるもので、実際、何らの資格のない人が相当数扱っていました。日弁連・日司連の争いは、多重債務整理事件が激減した今となっては、余り実益はなくなっています。

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債務整理、債権額が基準=司法書士の範囲狭く―最高裁が初判断
時事通信 6月27日(月)18時30分配信

 弁護士に代わって司法書士が行える債務整理の範囲が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)は27日、「個別の債権額が140万円を超える場合は裁判外の和解を代理できない」とする初判断を示した。

 司法書士の業務範囲については、日弁連と日本司法書士会連合会(日司連)で解釈が対立。最高裁の判断は、日司連が示していた基準と異なるため、今後は司法書士の業務範囲が狭まりそうだ。

 訴訟では、和歌山県の男性らが司法書士に報酬の返還などを求め、司法書士法が定める上限「140万円を超えない額」の解釈が争点となった。

 原告側と日弁連は「債権の総額」と解釈したが、被告側と日司連は「債務整理で債務者が得る利益」と主張。一、二審で判断が分かれ、双方が上告した。

 第1小法廷は「依頼者や債権者にとって明確な基準で決めるべきだ」と指摘。和解成立時に初めて金額が判明するような日司連の考えではなく、日弁連の「債権者の主張する額」を基準として採用した。その上で、上限は借金の総額とはせず、個別の借金ごとに判断すべきだとした。

 日司連は「主張が認められなかった部分があることは極めて遺憾」とコメント。日弁連は「最高裁の判断は市民にも分かりやすく妥当」としている。
 

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主  文
本件各上告を棄却する。
平成26年(受)第1813号事件に関する上告費用は,同事件上告人の負担とし,平成26年(受)第1814号事件に関する上告費用は,同事件上告人らの負担とする。

理  由
平成26年(受)第1813号(以下「第1事件」という。)上告代理人木村達也ほかの上告受理申立て理由及び同第1814号(以下「第2事件」という。)上告代理人小寺史郎ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除されたものを除く。)について
1 本件は,司法書士法(以下「法」という。)3条2項各号のいずれにも該当する司法書士(以下「認定司法書士」という。)である第1事件上告人・第2事件被上告人(以下,単に「上告人」という。)に依頼した債務整理につき,第1事件被上告人・第2事件上告人(以下,単に「被上告人」という。)らが,上告人に対し,上告人は認定司法書士が代理することができる範囲を超えて,違法に裁判外の和解を行い,これに対する報酬を受領したなどとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき上記報酬相当額の支払等を求める事案である。

2 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人ら及び亡A(以下,両者を併せて「本件債務者ら」という。)は,それぞれ複数の貸金業者との間で,継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件各取引」という。)を行っていたところ,平成19年10月19日,上告人との間で,その債務整理を目的とする委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。

(2) 上告人は,本件委任契約に基づき,各貸金業者に対し,本件各取引について取引履歴の開示を求め,裁判外の和解やその交渉をするなどの債務整理に関する業務を行って,本件債務者らからこれに対する報酬の支払を受けた。

(3) 本件各取引を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると,平成19年10月19日当時,貸付金元本の総額は1210万円余りであり,過払金の総額は1900万円余りであった。また,本件各取引の中には,貸付金元本の額が517万円余りの債権や,過払金の額が615万円余りの債権など,貸付金元本の額又は過払金の額が法3条1項7号に規定する額である140万円を超える個別の取引が複数存在していた(以下,これらの個別の取引に係る各債権を「本件各債権」という。)。

(4) 本件各債権の一つであるB社の亡Aに対する貸付金元本の額が517万円余りの債権については,上告人が代理して,亡Aがそのうち493万円余りに年6 パーセントの将来利息を付して月額5万5000円ずつ120回に分割して支払う内容の裁判外の和解が成立した。なお,亡Aがこの弁済計画の変更により受ける経済的利益の額は,140万円を超えないものであった。

(5) 亡Aは,平成24年2月25日に死亡し,その子らである被上告人X2及び同X3が,本件訴訟に係る亡Aの権利を承継した。

上告人(※日司連側)の論旨は,認定司法書士が法3条1項7号により債務整理の対象となる債権に係る裁判外の和解について代理することができるのは,当該債権につき債務者が弁済計画の変更により受ける経済的利益の額が140万円を超えない場合であるところ,前記2(4)の債権に係る上記の額は140万円を超えないから,上告人は同債権に係る裁判外の和解を代理することができるというものである。

また,被上告人(※日弁連側)らの論旨は,認定司法書士が裁判外の和解について代理することができるのは,債務整理の対象とされた全ての債権の総額又は債務者ごとにみた債権の総額が140万円を超えない場合であるところ,本件各取引に係る債権についての上記の各総額はいずれも140万円を超えるから,上告人は本件各取引に係る全ての債権について裁判外の和解を代理することができないというものである。

4 法は,認定司法書士の業務として,簡易裁判所における民訴法の規定による訴訟手続(以下「簡裁民事訴訟手続」という。)であって,訴訟の目的の価額が裁判所法33条1項1号に定める額を超えないものについて代理すること(法3条1項6号イ),民事に関する紛争であって簡裁民事訴訟手続の対象となるもののうち,紛争の目的の価額が上記の額を超えないものについて,裁判外の和解について代理すること(同項7号)を規定する。法3条1項6号イが上記のとおり規定するのは,訴訟の目的の価額が上記の額を超えない比較的少額のものについては,当事者において簡裁民事訴訟手続の代理を弁護士に依頼することが困難な場合が少なくないことから,認定司法書士の専門性を活用して手続の適正かつ円滑な実施を図り,紛争の解決に資するためであると解される。

そして,一般に,民事に関する紛争においては,訴訟の提起前などに裁判外の和解が行われる場合が少なくないことから,法3条1項7号は,同項6号イの上記趣旨に鑑み,簡裁民事訴訟手続の代理を認定司法書士に認めたことに付随するものとして,裁判外の和解についても認定司法書士が代理することを認めたものといえ,その趣旨からすると,代理することができる民事に関する紛争も,簡裁民事訴訟手続におけるのと同一の範囲内のものと解すべきである。また,複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても,通常,債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なるし,最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されるといえることなどに照らせば,裁判外の和解について認定司法書士が代理することができる範囲は,個別の債権ごとの価額を基準として定められるべきものといえる。

このように,認定司法書士が裁判外の和解について代理することができる範囲は,認定司法書士が業務を行う時点において,委任者や,受任者である認定司法書士との関係だけでなく,和解の交渉の相手方など第三者との関係でも,客観的かつ明確な基準によって決められるべきであり,認定司法書士が債務整理を依頼された場合においても,裁判外の和解が成立した時点で初めて判明するような,債務者が弁済計画の変更によって受ける経済的利益の額や,債権者が必ずしも容易には認識できない,債務整理の対象となる債権総額等の基準によって決められるべきではない。

以上によれば,債務整理を依頼された認定司法書士は,当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が法3条1項7号に規定する額を超える場合には,その債権に係る裁判外の和解について代理することができないと解するのが相当である。

これを本件についてみると,上告人は,本件委任契約に基づき,本件各取引について裁判外の和解やその交渉をするなどの債務整理に関する業務を行って,これに対する報酬の支払を受けたものであるところ,本件各債権の価額はいずれも140万円を超えるものであったというのである。そうすると,上告人は,本件各債権に係る裁判外の和解について代理することができないにもかかわらず,違法にこれを行って報酬を受領したものであるから,不法行為による損害賠償として上記報酬相当額の支払義務を負うというべきである。他方,本件各債権以外の本件各取引に係る各債権については,その価額がいずれも140万円を超えないから,上告人は,当該各債権に係る裁判外の和解について代理することができ,これに対する報酬の支払を受けたとしても,不法行為による損害賠償義務を負わないというべきである。

5 以上によれば,これと同旨をいう原審の判断は,正当として是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。
なお,被上告人らのその余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕)

以上:4,727文字

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