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不動産売主なりすまし詐欺加担責任巨額損害賠償を弁護士に命じた判例紹介4

平成29年 7月14日:初稿
○「不動産売主なりすまし詐欺加担責任巨額損害賠償を弁護士に命じた判例紹介3」を続けます。
この平成28年11月29日東京地裁判決(金法2067号81頁)の裁判所判断部分3回目最終回です。


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(4) 次に,結果回避義務について検討する。
ア 不動産登記規則72条2項1号が,資格者代理人による本人確認は,運転免許証,住民基本台帳カード,旅券等,在留カード,特別永住者証明書又は運転経歴証明書のうちいずれか1以上の提示を求める方法によって行う旨定めていることからすれば,原則として上記方法により本人確認をすれば結果回避義務を尽くしたと評価することができる。

 そして,資格者代理人が面識のない者について住民基本台帳カードの提示を受けて本人確認をする場合,その方法は,「提示を求める」方法と定められているところ,被告は自称Bに本件住基カードの提示を求めて本人確認を行っており,提示された本件住基カードも,そのコピーが登記申請書の添付書類として東京法務局港出張所に提出され,その職員から住民基本カードの様式と異なるといった指摘を受けたものでもないから,不動産登記法及び同規則に定められた方法による本人確認は行われており,その内容も,申請者代理人として通常要求される程度のものを満たしているということができる。

 この点について,原告は,本人確認情報制度が事前通知制度に代替するものであり,資格者代理人になることができる者が公証人や弁護士,司法書士といった一定の職種の者に限られていること,住民基本台帳カードが導入された当時QRコードまでは導入されていなかったことから,不動産登記法及び不動産登記規則がQRコードの読取りに関する規定を設けていないとしても,現在においては,QRコードが一般的に普及し,その読取りが容易となっているなどの事情があるのだから,「提示を求める」方法にはQRコードの読取りが含まれるとの解釈をすべきとの主張をする。

 しかし,平成26年の時点で,住民基本台帳カードに付されたQRコードが,住民基本台帳カードの偽造ないし変造の有無を確認するためのものとして一般的に周知されていたとか,資格者代理人になることができる者を対象とするQRコードの読取りができる機器を使用することを推奨するようなマニュアル類が存在していたとか,資格者代理人の間では通常QRコードの読取りによる確認が行われていたといった事情が存在していたと認めるに足りる証拠はない。

イ もっとも,登記申請手続を遂行するに当たり職務上知り得た事情に照らし,当該申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを疑うに足りる事情が認められる場合には,上記方法によって本人確認を行ったことによって直ちに注意義務を尽くしたと評価することはできず,さらに,当該事情の内容に応じた適切な調査をする義務を負うというべきである。

 これを本件についてみると,本人確認の追加資料として提出された本件遺産分割協議書は,かえって本人確認に当たり疑義を抱かせる体裁のものであり,本件売買契約の履行態様も不自然なものであったのだから,提示を受けた本件住基カードが一見して真正なものと判断されるようなものであったとしても,成りすましによって発行を受けたり,偽造によるものであるという可能性を疑うべきであり,自らBの自宅に赴くか,Bの自宅に確認文書を送付して回答を求めるなどして,本人確認を行う義務があったというべきである(なお,QRコードの読取りは,スマートフォンなどの電子機器及びアプリケーションが必要であるため,他の方法で本人確認をすれば足り,必ずしも義務とまではいえないし,QRコード自体の偽造や成りすましによる取得も考えられるから,QRコードの読取りを行っても注意義務を尽くしたとは評価できない場合があり得る。)。

 また,本件売買契約の締結までに,上記のような他の手段による本人確認をする時間的余裕がなかったのであれば,被告において,本人確認情報の作成や本件売買契約書調印の機会に,更に本人確認のための調査をする必要があることを指摘し,本人確認が完了するまでは本人確認情報の提供に応じられないことを申し入れ,自称Bが同申入れを拒否するのであれば,本人確認情報の提供を拒絶すべき義務があったというべきである。

 そうであるのに,被告は,上記のような措置を講じることなく,追加資料の提出を受けた翌日である平成26年2月26日に本人確認情報を作成及び提供するとともに,登記申請代理人として登記申請書の作成に関与したのであるから,結果回避義務に違反したというべきである。

ウ これに対し,被告補助参加人は,契約の相手方の本人確認は,専ら契約当事者がなすべきものであり,資格者代理人は,契約の相手方との関係で本人確認義務を負うものではないと主張する。

 しかし,不動産登記制度は,外部からは必ずしも明確ではない不動産に関する権利関係を登記簿により公示して,権利者の権利を保全するとともに,第三者に不測の損害を与えることを防止して,取引の安全を保護しようとする趣旨のものである。したがって,資格者代理人の行う本人確認情報の提供の制度は,登記義務者のみを保護するためのものではなく,登記権利者を保護する趣旨も含んでいると解すべきであり,被告補助参加人の主張は採用できない。

(5) 被告補助参加人は,本件売買契約締結に係る一連の経緯が極めて不自然であり,原告及びGにおいて,自称Bが権利者ではないことを認識していたと主張する。しかし,被告補助参加人の指摘する各事実によっても,原告及びGにおいてかかる認識があったと推認することまではできず,被告補助参加人の上記主張は採用できない。

3 争点(2)(弁護士費用を除く損害)
(1) 前記1(10)において認定したところによれば,原告は,本件売買契約の締結後,Gをして,Fが運転し自称Bの同乗していた自動車に,2億4000万円を運び込ませることによって,同額の売買代金の支払をしたということができる。したがって,上記支出は,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。

 なお,被告は,コフジインテグレーション社に注意義務違反があることを理由に上記因果関係が否定されると主張する。しかし,仮にコフジインテグレーション社に注意義務違反が認められた場合であっても,被告とコフジインテグレーション社がそれぞれ原告に対して損害賠償義務を負うというにすぎず,被告の注意義務違反と上記損害との間の因果関係を左右するものではない。

(2) また,前記認定事実(9)のとおり,原告は,本件所有権移転登記の申請費用として,原告補助参加人に309万7300円を支払ったものであるから,上記支出は,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。(コフジインテグレーション社の注意義務違反によってこの結論が左右されないことは上記(1)と同様である。)

(3) 次に,上記認定によれば,原告がGに対して5000万円を支払ったことが認められるところ,原告は,同額が,本件不動産の購入のためのあっせんの対価であると主張する。しかし,証拠(甲21)によれば,上記5000万円は,原告がGに対して本件不動産の取得についての一切の業務を委託し,Gがかかる業務を行うことの対価として定められたものと認められ,また,前記認定のとおり,Gが宅地建物取引業の免許を有していないこと,原告はコフジインテグレーション社との間で一般媒介契約を締結し,Gは本件売買契約締結のための手配の一部をコフジインテグレーション社に指示して又は共同して行っていること,本件売買契約書の調印の場にはGに加えてIが同席しており,原告がコフジインテグレーション社に対して一般媒介契約の報酬として750万円を支払っていること,以上の事実からすれば,原告がコフジインテグレーション社に対する上記報酬とは別にGに対して5000万円の報酬等を支払ったことが被告の注意義務違反によって通常生ずべき損害であるということはできない。

 そして,本件売買契約書には,本件不動産の売買代金が2億5000万円と記載されているのみであって,上記5000万円の報酬に関する記載はなく,他に同報酬について記載した文書が見当たらないこと,被告は,自称Bから本件売買契約の立会いを依頼されるとともに登記申請の委任を受けたにすぎず,原告とGとの間における報酬合意の内容を知るべき立場にはなかったのであるから,これらの事情からは,原告がGに5000万円の報酬を支払う合意をしていたという事情を予見していたとか,予見することができたと認めることはできず,他にこれらの事実を認めるに足りる証拠はない。

 したがって,上記5000万円は,被告の注意義務違反と相当因果関係を有する損害とは認められない。

(4) 以上によれば,被告の注意義務違反と因果関係を有する損害(ただし,弁護士費用は除く。)は,上記(1)及び(2)の合計額である2億4309万7300円と算定することができる。

4 争点(3)(過失相殺)
(1) 契約当事者は,自らの責任において,契約の相手方と名乗る者が真実の相手方であるかどうかの本人確認をすべきであり,契約の相手方と名乗る者から契約の立会人となること及び本人確認情報の作成を依頼された者がおり,それが弁護士であったとしても,原告自らが被告に本人確認を依頼したものではないから,原告においても本人確認をすべきであることについて何ら変わるところはない。(なお,原告は,被告が本件売買契約について売主代理人として行動したため,そのように認識し信頼していたと主張するが,被告が売主代理人であったと認めるに足りる証拠はない。)

 そして,前記認定事実によれば,原告が本件売買契約の具体的条件を知ったのは契約締結日の4日前である平成26年2月22日であるところ,その後,原告は,自ら及びGをして本件不動産及び本件売買契約についてJ弁護士と相談し問題ないとの回答を得て,同月23日又は24日に,同月26日に代金約2億4000万円を現金で支払うとの内容の本件売買契約を締結することについて,売主と面接することや本件不動産の現地を確認することなく電話でGに承諾をしているのであるから,自ら又はGをして売主の本人確認をした事実はおよそ見出せず,他にかかる事実を認めるに足りる証拠はない。

 もっとも,他方において,被告が本人確認情報を作成したことは,不動産登記規則に基づき資格者代理人となることができる者として限定列挙されている弁護士の地位に基づいて本人確認情報を作成したのであるから,原告においては,被告が作成した本人確認情報について一定の信頼を抱き,それ以上の調査を行わなかったことについて無理からぬ面があったということもできる。

 上記事情を考慮すると,原告が被告の不法行為により被った全損害から4割の過失相殺をすることが相当である。

 なお,被告は,原告補助参加人及びコフジインテグレーション社の過失をも原告側の過失として考慮すべきと主張するが,両者はいずれも原告とは独立して職務を行うものであり,原告と身分上ないし生活関係上一体をなす関係にある者とはいえないから,これらの者の過失を原告側の過失として考慮することはできない。

(2) 以上によれば,過失相殺後の原告の損害は,上記3で認定した損害額2億4309万7300円から4割を控除した1億4585万8380円と算定することができる。

5 争点(2)(弁護士費用相当損害額)
 原告が本訴の提起及び追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であるところ,事案の内容及び当裁判所の認定した弁護士費用以外の損害額その他本件に現れた一切の事情を考慮し,被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当損害額は,上記3(3)の1億4585万8380円の1割に相当する1458万5838円と認められる。

 したがって,弁護士費用を含めた原告の損害額は,1億6044万4218円と算定することができる。

6 結論
 以上より,原告の請求は,1億6044万4218円及びこれに対する不法行為の日である平成26年2月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第23部 (裁判長裁判官 酒井良介 裁判官 児島章朋 裁判官 三浦あや)
以上:5,171文字

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