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祭祀承継者を巡り二人姉妹が争い判断が分かれた裁判例全文紹介

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平成28年 1月14日(木):初稿
○たまに、民法の以下の規定に関して、誰が祭祀承継者になるべきでしょうかと質問を受けることがあります。しかし、被相続人の指定がないときには、「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」ことになりますが、この「慣習に従って」の具体的内容が不明で難問です。
第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。


○「慣習が明らかでないとき」家裁が決めることになりますが、この場合、被相続人との身分関係、過去の生活関係・生活感情の緊密度、承継者の祭祀主催の意思や能力、利害関係人の意見等を総合して判断します(昭和59年10月15日大阪高裁決定、判タ541号235頁)。

○この祭祀承継者を巡って長女と二女が、争い一審平成26年1月27日名古屋家裁審判は二女、二審平成26年6月26日名古屋高裁決定(判時2275号46頁)は長女と判断が分かれた珍しい事例をいずれも全文紹介します。

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平成26年1月27日名古屋家裁審判

主  文
1 被相続人Cの別紙目録記載の祭祀財産の承継者を申立人と定める。
2 被相続人Cの遺骨の取得者を申立人と定める。
3 相手方は申立人に対し,相手方が保管する被相続人Cの遺骨を引き渡せ。
4 手続費用は各自の負担とする。 

理  由
第1 申立ての趣旨

 主文第1項及び第2項と同旨

第2 申立ての実情
1 被相続人は,別紙目録記載の祭祀財産を有していたところ,平成23年×月×日に甲市内の■■病院において死亡し,相続が開始した
2 被相続人の相続人は,申立人(二女)及び相手方(長女)の二人である。
3 被相続人は,祭祀財産について,承継者を指定せず,これを承継すべき慣習も明らかではない。
4 申立人は,墓参り等祭祀主催をしており,祭祀財産の承継者となる意思が明確にある。一方,相手方は,相続開始後,墓参り等をせず,祭祀財産の承継者となる意思が不明である。
5 以上から,申立人が祭祀財産の承継者として相当であるので,申立人は,申立ての趣旨記載の審判を求める。

第3 相手方の主張
1 相手方は,「被相続人Cの祭祀財産(仏壇・墳墓)の承継者を相手方と指定する。被相続人Cの遺骨の取得者を相手方と指定する。」との審判を求める。

2 相手方の自宅は,被相続人の自宅に隣接しており,相手方は被相続人と密接な関係を保ってきた。被相続人は,夫を亡くして一人になってからは,認知症の症状が現れるようになってきたが,その介護療養は相手方が行い,申立人が行ってはいない。被相続人の通夜や葬儀の手配を行ったのも,相手方である。

3 祭祀は,死者に対する心情によって行われるものであるから,被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって,被相続人に対する心情を強く持ち,被相続人から頼りにされていた者とすることが被相続人の意思に適うと考えられ,生前に被相続人の介護看護にあたった相手方がふさわしい。

第4 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1)申立人と相手方との父であるDは,FとGの二男として生まれ,被相続人と婚姻し,二人の間には,長女である相手方と二女である申立人が生まれた。

(2)祭祀財産を管理していたFが昭和23年×月×日に死亡してからは,同人の妻であるCが祭祀承継者となって祭祀財産を管埋し,昭和33年×月×日に同人が死亡すると,Dが祭祀財産を承継し,同人が平成15年×月×日に死亡してからは,被相続人が祭祀承継者として祭祀財産を管理した。

(3)被相続人は,祭祀敗産につき承継者を指定することなく,平成23年×月×日に甲市内の■■病院において死亡し,同人の相続人は,申立人と相手方の二人である。被相続人が有していた祭祀財産は,別紙目録記載のとおり,被相続人の住居にある仏檀1基,乙の丙事務所が所有する「●●墓地」と称する墓地に所在する墳墓3基(Z家先祖代々の墓,Cの墓,Fの墓)である。また,祭祀財産に準ずるものとして被相続人の遺骨があるが,その本骨は相手方が自宅で保管し,分骨は申立人を介して▲▲の○○寺に納められた。

(4)相手方の住居は,被相続人夫婦の住居に隣接しており,Dが死去した際には,被相続人が喪主を勤めた。その後一人暮らしになった被相続人に認知症の症状が見られるようになってから,同人の介護療養は相手方が行い,被相続人が死去した際には,家族葬を相手方が取り仕切ったが,斎場には,申立人は夫や二人の娘と出席したのに対し,相手方は一人で出席した。

(5)申立入は,被相続人の死亡後,●●墓地にある墓へ,父の命日の前後,お盆,お彼岸にそれぞれ赴いているほか,被相続人の月命日には申立人が,命日は家族とともに○○寺における法要に参加している。相手方は,被相続人の死亡後,遺産分割の問題が生じたことなどから,法要は行っていない。

(6)平成23年×月の被相続人の死亡後,申立人と相手方との間で,遺産分割につき紛争が生じ,同年×月の申立人の代理人である弁護士から相手方に送られた書面(乙1)では,祭祀財産で仏壇や墓は相手方が取得することを希望する旨を提案したことがあったが,申立人は相手方による祭祀財産の管理が不十分であると考え,自分が祭祀承継者になることを希望するようになった。

(7)申立人は,自分が祭祀承継人となった場合には,①墓については,別紙Z家関係図からしても,叔父であるEが承継することが適切であるが,同人や相手方の状況から,申立人が承継の上,Eに引き渡すのが相当であり,口頭ではあるが,D及び被相続人から,Eに墓を引き継いで欲しい旨の意向を確認している,②仏壇については,使える状態ではないので,精抜きして処分したい,③被相続人の遺骨は,被相続人がZ家の墓に入りたくないと述べていたので,○○寺に納めたい,との意向である。

(8)相手方は,自分が祭祀承継者となった場合には,①墓については,相手方が管理していくが,相手方が死後この墓に入ることはなく,Eが墓を使いたいのであれば,構わないが,その場合でも相手方が管理して,相手方の死亡後は長女に面倒を見てもらうことを考えており,長女には墓の面倒をみることにつき了解を得ている,②仏壇は,相手方の自宅に引き取る,③遺骨は,夫婦で同じ墓に入るのが適切であるから,先祖代々の墓に入れたい,被相続人と小姑との間に諍いはあったが,被相続人からZ家の墓に入りたくないとの意向は聞いたことがない,と述べている。

2 以上の事実等に照らして,被相続人の祭祀承継者について検討するに,被相続人の生前は,相手方が隣接して居住していたこともあって,長女である相手方が申立人に比して被相続人と親密であったといえるが,被相続人の死亡後,相手方による祭祀財産の管理は申立人が疑問を呈する状況で,申立人の方が頻繁に法要を行うなど祭祀財産への関心が高く,今後の祭祀財産の管理の方針も申立人の方が実際的であると評価することができること,その他本件に表れた一切の事情を勘案すると,被相続人の祭祀承継者には,申立人を指定するのが相当であり,被相続人の遺骨についても,民法897条を準用して,申立人をその所有権の取得者と定めるのが相当である。

3 よって,主文のとおり審判する。 

別紙〈省略〉 


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平成26年6月26日名古屋高裁決定

主  文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 被相続人Cの別紙目録記載の祭祀財産の承継者を原審相手方と定める。
3 被相続人Cの遺骨の取得者を原審相手方と定める。
4 手続費用は,第1,2審を通じ,各自の負担とする。 

理  由
第1 抗告の趣旨及び理由等

 本件抗告の趣旨及び理由は,別紙抗告状及び平成26年×月×日付け主張書面(各写し)記載のとおりである。
 これに対する相手方の主張は,別紙平成26年×月×日付け主張書面(1)(写し)記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被相続人の祭祀承継者及び遺骨の取得者を原審相手方と定めるのが相当と判断する。
 その理由は,以下のとおり補正し,次項に判断を加えるほか,原審判「理由」の第1ないし第3及び第4の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原審判3頁19行目冒頭から4頁2行目末尾までを次のとおり改める。
「(5)原審申立人は,代理人弁護士を通じ,平成23年×月×日,原審相手方に対し,2週間を目処に相続財産の内容を知らせ,遺産分割案を提案するよう求める書面を出した。
 原審申立人の代理人弁護士と原審相手方は,同年×月×日に面談し,以後,相続財産を確定するための作業をし,話し合いをした。
 原審申立人は,遺産分割の話し合いがつかないため,平成24年に遺産分割調停を申し立てた。この調停は不調となり,同年末頃審判に移行した。

(6)原審申立人は,被相続人の死亡後,Dの命日の前後,お盆,お彼岸に●●墓地に墓参りをするほか,○○寺において,被相続人の月命日にお参りをし,命日には家族と共に法要に参加している。

(7)被相続人は,Dの法要において,先祖代々の位牌を使用していた。原審相手方は,被相続人の死亡後,この位牌を被相続人の遺骨と共に自宅に置いている。原審相手方は,法要については,原審申立人と遺産分割の問題が生じたことなどから行っていない。」

(2)同4頁3行目「(7)」を「(8)」に,11行目「(8)」を「(9)」にそれぞれ改め,7行目「確認している,」の後に「もっとも,Eが墓を守ることに対して相応の負担料を要求するのであれば,同人には渡さず,菩提寺である△△寺に相談して決めたい,」を加える。

2 判断
 前記認定事実によれば,原審相手方は,被相続人の住居に隣接して居住し,被相続人が一人暮らしとなり認知症になると介護療養を行っており,被相続人の生前,親密に交流し療養に努めたほか,被相続人の葬儀も取り仕切ったと認められる。

 原審相手方は,被相続人の死後,法要を行っていないが,被相続人の死後間もない時期に原審申立人から遺産分割協議の申し入れを受けて紛争を生じていることからすると,法要を行っていないことをもって祭祀を主宰する意思を欠くということはできない。

 原審相手方は,別紙目録記載の墳墓の近くに住み,これら墳墓を自ら管理し,遺骨を先祖代々の墓に入れ,仏壇を自宅に引き取る意向である。

 これに対し,原審申立人は,▲▲市に居住しており,墳墓を自ら管理する意思はなく,仏壇は使える状態ではないとして処分することを考えている。しかし,仏壇は,写真(乙24)で見る限り,使用に支障があるとは認められない。

 また,原審申立人は,遺骨を○○寺に納める意向であるが,被相続人が先祖代々の墓に入ることを拒んでいたと認めるに足りる証拠はない。被続人がDと不仲であったとも認められず,被相続人が祭祀承継者として別紙目録記載の祭祀財産を管理していたことからすると,被相続人の遺骨を先祖代々の墓に納めるという原審相手方の方針は,被相続人の意向に沿うと推認される。

 なお,原審申立人が将来における墓の引継先となり得るとするEは,当審における事実の調査において,Dから墓を頼むと言われたことはなく,墓のことは原審申立人と原審相手方が仲良く話し合い解決すべきもので,墓の管理を引き受けるのであれば「相応の負担料」があるのが常識であると述べており,同人の認識は,原審申立人の認識と一致するものとはいえない。

 以上によれば,被相続人の祭祀承継者には,被相続人の遺骨を先祖代々の墓に入れて自ら墓を管理する意向を持ち,仏壇や位牌も引き継いで自ら祭祀を主宰することのできる原審相手方を指定するのが相当である。また,被相続人の遺骨についても,民法897条を準用して原審相手方をその所有権の取得者と定めるのが相当である。

3 結論
 よって,上記と異なる原審判を変更することとして,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 戸田久 裁判官 森淳子 裁判官 下田敦史) 
 別紙〈省略〉 
以上:5,077文字

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