仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 相続家族 > 遺言書 >    

花押による遺言を有効とした平成26年10月23日福岡高裁那覇支部判決紹介

相続家族無料相談ご希望の方は、「相続家族相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
平成28年 6月 7日(火):初稿
○「花押による遺言を有効とした平成26年3月27日那覇地裁判決紹介3」の続きで,その控訴審判決である平成26年10月23日福岡高裁那覇支部判決(LLI/DB 判例秘書登載)全文を紹介します。

○事案は,本件土地所有者の亡Aの遺言書1(遺産を被控訴人に継承させる)が検認,その後死亡した亡Bの遺言書2(財産は被控訴人が相続する)が検認され,(第1事件)被控訴人が控訴人らに対し,本件土地の所有権移転登記手続きを求め,(第2事件)控訴人らが被控訴人に対し,遺言書2の遺言無効確認を求めたもので,原審平成26年3月27日那覇地裁判決(平成24年(ワ)第342号、平成25年(ワ)第780号の2 LLI/DB 判例秘書登載)が,被控訴人の請求を認容し、控訴人が控訴していました。

○控訴審福岡高裁那覇支部判決も,遺言書1について,控訴人らの主張することだけでは,亡Aがその財産を被控訴人に包括遺贈する趣旨を否定することはできない、遺言書2について,控訴人主張の事実を認めるに足る的確な証拠がなく,強迫行為又は欺罔行為と評価することもできないとし,控訴を棄却しました。

********************************************

主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 那覇家庭裁判所平成25年(家)第409号遺言書検認申立事件において検認された平成21年11月25日付けB名義の遺言は無効であることを確認する。

第2 事案の概要(略称は特に記載したもののほかは原判決のものを用いる。)
1 A(大正7年○月○日生。A)とB(大正8年○月○日生。B)は,昭和19年9月25日に婚姻した夫婦であり,AとBとの間には,長男である控訴人Y1(以下「控訴人Y1」という。),二男である被控訴人,三男である控訴人Y2(以下「控訴人Y2」という。)が,それぞれ出生した。


 Aは,平成15年7月12日に死亡し,その当時,原判決別紙物件目録記載の土地(本件土地)を所有していたところ,本件土地につき,Aを所有者とする所有権移転登記が経由されている。
 平成17年6月21日,那覇家庭裁判所において,Aのものとされる原判決別紙1の遺言書(本件遺言書1)が検認された(同庁平成17年(家)第192号)ところ,本件遺言書1には「家督及び財産はX1を家督相続人として□□家を継承させる。」,「□□家の相続及運営は家督相続人の責務であることを申し渡すものである。」との記載がある。

 Bは,平成24年4月8日に死亡した。
 平成25年7月29日,那覇家庭裁判所において,Bのものとされる原判決別紙2の遺言書(本件遺言書2)が検認された(同庁平成25年(家)第409号)ところ,本件遺言書2には「私の財産は全てX1が相続する事。Y1 Y2には一切相続させたくありません。」との記載がある。

 第1事件は,被控訴人が,控訴人らに対し,本件遺言書1に係る遺言により,Aが所有していた本件土地の遺贈を受けたとして,所有権に基づき,本件土地の所有権移転登記手続をすることを求めた事案である。

 第2事件は,控訴人らが,被控訴人に対し,本件遺言書2に係るBの遺言が無効であることの確認を求めた事案である。

 原審は,第1事件に係る被控訴人の請求を認容し,第2事件に係る控訴人らの請求を棄却したので,控訴人らが控訴した。

2 前提事実及び争点は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」第2の2及び3のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決2頁26行目の「次男」を「二男」に改め,3頁14行目の「(甲14)。」を「。そして,本件土地につき,Aを所有者とする所有権移転登記が経由されている。(甲14)」に改める。)。
(当審における控訴人らの主張)
(1) 第1事件について

 Aは,沖縄テレビが製作して昭和59年7月20日に放送されたテレビ番組において,□□家は長男が継ぐのが正当であり,自身も□□家を長男である控訴人Y1に継がせる旨の考えを述べていたこと,Aは,自らの死後に□□家の当主である控訴人Y1が沖縄に帰って来られない場合には,三男である控訴人Y2及びその妻であるC(C)が□□家の行事や門中を運営していくべきであるとの考えを明らかにしていたこと,控訴人Y1が沖縄に来て□□家の門中行事に参加した際,Aは控訴人Y1を隣に座らせて門中の人々に対して「嫡子です,跡継ぎです」と紹介したこと,□□家を長男に継がせるというAの意思は「首里士族の継承法」に由来する□□家の伝統に基づくものであり,長男が実在しているにもかかわらず,二男が長男を差し置いて継いだ例はないこと,控訴人Y1が東京にいることは同人によるAの相続を不可能とするような事情ではないことからすると,Aには被控訴人に対して財産を包括遺贈する動機はなかったといえる。

 そして,Aは,契約書等重要な文書については署名に加えてAの印章によって押印し,そのような文書に花押を記すことはなかった上,Aの経歴及び知識に照らすと,自筆証書遺言をする場合には署名及び押印が必要であることを理解していたというべきであるのに,本件遺言書1にあえて印章を用いなかったこと,本件遺言書1においては財産の特定がなく,法律上廃止された「家督相続人」という文言が用いられるなど趣旨が不明確な表現にとどめられており,かつ,本件遺言書1は色紙が用いられ,誤記について線で消すのみの雑なものであることなどを併せ考えると,本件遺言書1について,Aがその財産を全て被控訴人に包括遺贈した趣旨と解釈することはできない。

(2) 第2事件について
 Bは□□家を長男である控訴人Y1に継がせる考え方を有していたこと,被控訴人が平成21年春ころ以降はBと控訴人Y1を会わせず,同年秋ころ以降はBと控訴人Y2及びCを会わせなかったなど,Bは孤立状態にあり,また,被控訴人によって通帳を取り上げられていたこと,Bは被控訴人から「Y2とY1は全財産を売るつもりだ,自分だけが□□家を救うことができる,自分に任せておけば大丈夫だ,Y1は帰って来ない」などと虚偽の事実を申し向けられていたこと,そのような状況のもとで,本件遺言書2は,Bが被控訴人から書くように求められ,被控訴人及びその妻の面前で作成されたことからすると,本件遺言書2は,被控訴人の強迫又は詐欺によって作成されたものであるといえる。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,第1事件に係る被控訴人の請求は理由があるから認容し,第2事件に係る控訴人らの請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり訂正ないし付加するほか,原判決の「事実及び理由」第3の1ないし3のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の訂正)
(1) 原判決10頁21行目の「あった。」を「あったが,控訴人Y1の妻は□□家の門中行事に参加したことはない。」に改め,23行目の「次男」を「二男」に改め,11頁2行目の「□□家の」から3行目の「をした。」までを「□□家の門中行事を手伝い,Aの告別式には挨拶をした(なお,Aの告別式の際に控訴人Y1は挨拶をしていない。)。また,被控訴人は,Aの死後,□□家の門中行事において□□家の当主としての役割を果たしている。」に改める。

(2) 同14頁15行目の「参加していない状況であった。」を「参加しておらず,その妻に至っては□□家の門中行事に参加すらしていない状況であった。」に改め,20行目から21行目にかけての「重要な役割を果たしていたことがうかがわれる。」を「一定の役割を果たしていたことを否定することはできず,他方,控訴人Y1が□□家の門中行事において果たしていた役割は相当に希薄であったものといわざるを得ない。」に改め,21行目の「次男」を「二男」に改め,23行目から24行目にかけての「動機があるというべきである。」を「動機がないなどということはできないというべきである。」に改める。

(3) 同15頁11行目の「次男」を「二男」に改め,18行目の「Aが」から23行目末尾までを「これを裏付ける的確な証拠はなく,たやすく採用することはできない。」に改める。

(4) 同16頁22行目から23行目にかけての「動機が認められること」を「動機がないなどとはいえないこと」に改める。

(5) 同19頁11行目冒頭から15行目の「に加え,」までを次のとおり改める。
「上記1(1)のとおりの被控訴人及び控訴人らの□□家の門中行事への参加状況,特に被控訴人がAの告別式において挨拶を行い,その後の□□家の門中行事も被控訴人のみが行っていたことからすると,Bに本件遺言書2を作成する動機がないとはいえない上,」

(6) 同19頁17行目の「偽造によるものではない。」を「偽造されたものであるなどと認めることはできない。」に改める。

(当審における控訴人らの主張に対する判断)
(1) 第1事件について

 控訴人らは,Aには被控訴人に対して財産を包括遺贈する動機はなかったこと,Aは,契約書等重要な文書については署名に加えてAの印章によって押印し,そのような文書に花押を記すことはなかった上,Aの経歴及び知識に照らすと,自筆証書遺言をする場合には署名及び押印が必要であることを理解していたというべきであるのに,本件遺言書1にあえて印章を用いなかったこと,本件遺言書1には財産の特定がなく,法律上廃止された「家督相続人」という文言が用いられるなど趣旨が不明確な表現にとどめられており,かつ,本件遺言書1は色紙が用いられ,誤記について線で消すのみの雑なものであることなどを併せ考えると,本件遺言書1について,Aがその財産を全て被控訴人に包括遺贈した趣旨と解釈することはできない旨主張する。

 しかし,Aが,昭和59年7月20日に放送されたテレビ番組において,□□家は長男が継ぐのが正当であり,自身も□□家を長男である控訴人Y1に継がせ,自らの死後,当主である控訴人Y1が沖縄に帰って来られない場合には,三男である控訴人Y2及びCが行事や門中を運営していくべきであるとの考えである旨を述べていたとしても,本件遺言書1を作成した時期から20年近く前のものであって,本件遺言書1を作成した時期にこれと異なる考え方を持っていたとしても不自然であるとはいえないこと,Aが□□家の門中行事において控訴人Y1を隣に座らせて門中の人々に対して「嫡子です,跡継ぎです」と紹介したことを認めるに足りる的確な証拠はないこと,家を長男に継がせるという「首里士族の継承法」に由来する□□家の伝統が存在したとしても,それが先祖代々にわたって絶対的に守られていたことはうかがわれないことなどからすると,控訴人らが指摘する事情をもって,Aがその財産を被控訴人に対して包括遺贈する動機がなかったものということはできず,この点において控訴人らの上記主張は前提を欠くことになる。また,本件遺言書1においてAの印章が用いられていなかったり,財産の特定がされていなかったり,「家督相続人」という文言が用いられていたり,色紙が用いられて誤記について線で消すのみであるというだけでは,本件遺言書1について,Aがその財産を被控訴人に包括遺贈するという趣旨であることを否定することはできない。いずれにせよ,控訴人らの上記主張は採用できない。
 控訴人がそのほか縷々主張するところも,第1事件に関する上記判断を左右するに足りるものとはいい難い。

(2) 第2事件について
 控訴人らは,Bは□□家を長男である控訴人Y1に継がせる考え方を有していたこと,被控訴人が平成21年春ころ以降はBと控訴人Y1を会わせず,同年秋ころ以降はBと控訴人Y2及びCを会わせなかったなど,Bは孤立状態にあり,また,被控訴人によって通帳を取り上げられていたこと,Bは被控訴人から「Y2とY1は全財産を売るつもりだ,自分だけが□□家を救うことができる,自分に任せておけば大丈夫だ,Y1は帰って来ない」などと虚偽の事実を申し向けられていたこと,そのような状況のもとで,本件遺言書2は,Bが被控訴人から書くように求められ,被控訴人及びその妻の面前で作成されたことからすると,本件遺言書2は,被控訴人の強迫又は詐欺によって作成されたものである旨主張する。

 しかし,Bが本件遺言書2の作成日である平成21年11月25日当時に□□家を長男である控訴人Y1に継がせる考え方を有していたこと,被控訴人がBの通帳を取り上げていたこと,被控訴人がBに対して「Y2とY1は全財産を売るつもりだ,自分だけが□□家を救うことができる。」と述べたことを認めるに足りる的確な証拠はない。また,被控訴人がBと控訴人らを会わせなかったというだけでは,Bが自発的にその意思を表明できないほどの「孤立状態」にあったと認めるには足りないし,被控訴人がBに対して「Y1が沖縄に戻ってくるつもりはないよ」,「悪いことをせずに,□□家を守っていけるのは自分だけだと思う。」,「私が正式に引き継げば,土地の売却もできるし,また借入れもできるだろう。」と話したとしても,それだけで直ちに強迫行為又は欺罔行為であると評価することもできない。そうすると,控訴人らの上記主張は前提を欠くものであって採用できない。

2 よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
 福岡高等裁判所那覇支部民事部  裁判長裁判官 須田啓之 裁判官 岡田紀彦 裁判官 並河浩二
以上:5,591文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
相続家族無料相談ご希望の方は、「相続家族相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 相続家族 > 遺言書 > 花押による遺言を有効とした平成26年10月23日福岡高裁那覇支部判決紹介