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代襲相続人への遺留分減殺請求と特別受益に関する福岡地裁判決紹介2

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平成29年12月10日(日):初稿
○「代襲相続人への遺留分減殺請求と特別受益に関する福岡地裁判決紹介1」の続きで裁判所の判断部分です。

被相続人A________
     |      |
   長女B___ 二女X
     |  |
     Y1 Y2

○二女Xが主張するAから長女Bに対する贈与は全て特別受益とは認めず、Y1に対する贈与のみ特別受益と認めるも、特別受益不動産の亡A相続開始時(平成23年7月)価額を合計390万4001円とし、遺留分算定の基礎となる財産の総額は1725万2518円で二女Xの遺留分額は、431万3129円(1725万2518円×4分の1)であるところ、Xは、A遺産から1334万8517円取得しており、取得する遺産が二女Xの遺留分額を上回るから、原告の遺留分は侵害されていないと結論づけました。

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第三 争点に対する判断
一 争点(1)(亡Aの遺産たる現金額)について

 原告は、亡Aの遺産たる現金が1696円であったと主張する。しかし、原告が亡Aの成年後見人として亡Aの死亡後である平成23年8月6日に作成した後見等事務終了報告書添付の財産目録には、同日現在の亡Aの現金額として135万2996円との記載があることからすると、同日時点での亡Aの遺産たる現金は135万2996円であったと認められる。そして、本件全証拠に照らしても、同日以降、その現金が減少したことは認められない。
 よって、亡Aの遺産たる現金は、135万2996円であったと認めるのが相当である。

二 争点(2)(亡B及び被告らの特別受益の有無及び金額)について
(1)亡Bに対する贈与の有無及び特別受益該当性について

ア 別紙遺産目録二《略》記載一及び三の各贈与について
 前提事実(3)のとおり、亡Aは、別紙不動産目録一《略》及び別紙不動産目録二《略》記載の各土地をもと所有していたところ、証拠《略》によれば、別紙不動産目録一《略》記載の各土地については、平成2年6月18日、平成元年12月7日贈与を原因とする亡Aから亡Bへの所有権移転登記手続が、別紙不動産目録二《略》記載二の土地については、平成3年5月24日、同日贈与を原因とする亡Aから亡Bへの持分2分の1の移転登記手続が、それぞれ行われている事実が認められる。

 しかし、原告本人は、上記各移転登記手続は、亡Bが亡Aに無断で行ったものであって、真実は亡Aから亡Bに贈与が行われたものではない、亡Aも上記各移転登記手続が行われた後にF町役場の職員から亡Aの不動産がほとんど残っていないと聞いてショックを受けていたなどと、別紙不動産目録一《略》記載の各土地及び別紙不動産目録二《略》記載二の土地が亡Aから亡Bへ贈与された事実を明確に否定する供述をしていることに照らすと、上記移転登記手続が行われた事実のみから、別紙不動産目録一《略》記載の各土地及び別紙不動産目録二《略》記載二の土地について亡Aから亡Bへの贈与が行われた事実を認めることはできない。そして、他に上記各土地について、亡Aから亡Bに対する贈与が行われた事実を認めるに足りる証拠はない。
 よって、別紙不動産目録一《略》記載の各土地及び別紙不動産目録二《略》記載二の土地について亡Aから亡Bへの贈与(別紙遺産目録二《略》記載一及び三の贈与)が行われた事実を認めることはできない。

イ 別紙遺産目録二《略》記載四ないし18、32ないし34、37、38、41、42、45、49、52、57、63ないし65、70、71、81、86、97ないし102の各贈与について
 証拠《略》によれば、亡A名義のゆうちょ銀行通常貯金(記号番号×××-×××)から、別紙遺産目録二《略》記載四ないし18、32ないし34、37、38、41、42、45、49、52、57、63ないし65、70、71、81、86、97ないし102の「受贈年月日」欄記載の日(ただし、同目録記載14は平成4年12月24日、同目録記載63は平成13年8月16日、同目録記載65は平成13年11月6日と認める。)に、「受贈額」欄記載の金額の金銭(ただし、同目録記載86は33万4330円と認める。)が払い戻されている事実が認められる。そして、証拠《略》によると、同目録記載81、86、97ないし102の払戻しの際の払戻金受領書の「おなまえ」欄には、いずれも亡Bが亡A名義の署名を記入していることが認められることからすると、これらの払戻しは亡Bが払戻手続を行い、払戻金を受領したと認められる。

 また、証拠《略》によると、亡Bは、別紙遺産目録二《略》記載四ないし18、32ないし34、37、38、41、42、45、49、52、57、63ないし65、70、71、81、86、97ないし102の払戻しが行われた期間、亡Aと同居し、亡Aの通帳等を管理していたことからすると、これらの払戻しも亡Bが払戻手続を行い、払戻金を受領した可能性がある。しかし、亡Bが亡Aと同居していた事実からすると、亡Bがこれらの払戻金を受領した後、亡Aに払戻金を交付したり、亡Aの生活費その他亡Aのための出費に使用したりした可能性もあり、単に払戻手続を行い、払戻金を受領したという事実から、亡Aから亡Bに対する贈与であったと推認することは困難であると言わざるを得ない。そして、他に、上記各払戻金が亡Aから亡Bに対して贈与されたことを認めるに足りる証拠はない。
 よって、亡Aから亡Bに対し、別紙遺産目録二《略》記載四ないし18、32ないし34、37、38、41、42、45、49、52、57、63ないし65、70、71、81、86、97ないし102の各贈与が行われた事実を認めることはできない。

ウ 別紙遺産目録二《略》記載30、31、35、36、39、40、43、44、47、48、50、51、53ないし56、59ないし62、66ないし69、73ないし76、84、85、92、93、95、96、103の各贈与について
 証拠《略》によれば、亡A名義のゆうちょ銀行通常貯金(記号番号×××-×××)から、別紙遺産目録二《略》記載30、31、35、36、39、40、43、44、47、48、50、51、53ないし56、59ないし62、66ないし69、73ないし76、84、85、92、93、95、96、103の「受贈年月日」欄記載の日に、「受贈額」欄記載の金額の金銭(ただし、同目録記載31は4600円と認める。)が亡Bが所有する不動産の固定資産税として引き落とされている事実が認められる(ただし、同目録記載68は同目録記載66と、同目録記載69は同目録記載67と、それぞれ重複していると認められる。)。そして、本件証拠上、これらの亡B名義の不動産の固定資産税を亡Aが負担する理由は贈与以外見あたらないことからすると、これらの引落しは、亡Aから亡Bに対する贈与である可能性がある。

 しかし、これらは、一回当たりの金額は6000円未満で、合計でも7万4800円といずれも少額であることからすると、これらは、いずれも「生計の資本としての贈与」(民法903条一項)に該当するとは認められない。
 よって、別紙遺産目録二《略》記載30、31、35、36、39、40、43、44、47、48、50、51、53ないし56、59ないし62、66ないし69、73ないし76、84、85、92、93、95、96、103は、いずれも特別受益に該当するとは認められない。

エ 別紙遺産目録二《略》記載23ないし25、77、78、80、87ないし91の各贈与について
 証拠《略》によれば、亡A名義の定額郵便貯金(証書番号×××、×××、×××、×××、×××、×××)から、別紙遺産目録二《略》記載23ないし25、77、78、80、87ないし91の「受贈年月日」欄記載の日に、「受贈額」欄記載の金額の金銭が払い戻されている事実が認められる。そして、証拠《略》によると、同目録記載77、78、80、91の払戻については、払戻金受領書の「おなまえ」欄や定額郵便貯金証書の受領欄に、亡Bが亡A名義の署名を記入していることが認められることからすると、これらの払戻しはいずれも亡Bが払戻手続を行い、払戻金を受領したと認められる。また、証拠《略》及び弁論の全趣旨によると、亡Bは、別紙遺産目録二《略》記載23ないし25、87ないし90の払戻しが行われた期間、亡Aと同居し、亡Aの通帳等を管理していたことからすると、これらの払戻しも亡Bが払戻手続を行い、払戻金を受領した可能性がある。しかし、前記イで説示したとおり、単に払戻手続を行い、払戻金を受領したという事実から、亡Aから亡Bに対する贈与であったと推認することは困難であり、他に、上記各払戻金が亡Aから亡Bに対して贈与されたことを認めるに足りる証拠はない。よって、亡Aから亡Bに対して、別紙遺産目録二《略》記載23ないし25、77、78、80、87ないし91の各贈与が行われた事実を認めることはできない。

オ 別紙遺産目録二《略》記載26ないし28の各贈与について
 証拠《略》によれば、亡A名義のF町農業協同組合の定期貯金(契約番号×××、×××)及びG農業協同組合H支所の定期貯金(契約番号×××)から、別紙遺産目録二《略》記載26ないし28の「受贈年月日」欄記載の日に、「受贈額」欄記載の金額の金銭が払い戻されている事実が認められる。そして、証拠《略》及び弁論の全趣旨によると、亡Bは、別紙遺産目録二《略》記載26ないし28の払戻しが行われた期間、亡Aと同居し、亡Aの通帳等を管理していたことからすると、これらの払戻しも亡Bが払戻手続を行い、払戻金を受領した可能性がある。しかし、前記イで説示したとおり、単に払戻手続を行い、払戻金を受領したという事実から、亡Aから亡Bに対する贈与であったと推認することは困難であり、他に、上記各払戻金が亡Aから亡Bに対して贈与されたことを認めるに足りる証拠はない。
 よって、亡Aから亡Bに対して、別紙遺産目録二《略》記載26ないし28の各贈与が行われた事実を認めることはできない。

カ 別紙遺産目録二《略》記載19ないし22、29、46、58、72、94の各贈与について
 原告は、亡Bの養老生命保険の掛金として、別紙遺産目録二《略》記載19ないし22、29、46、58、72、94の「受贈年月日」欄記載の日に、「受贈額」欄記載の金額の金銭が支払われている旨主張する。しかし、亡Aがこれらの支払を行った事実を認めるに足りる証拠はない。また、仮に亡Aがこれらの掛金の支払を行っていたとしても、養老生命保険の契約内容や契約締結に至る経緯、掛金を亡Aが支払うことになった理由は何ら明らかでないことからすると、これらの支払が、亡Bに対する生計の資本としての贈与に該当するとは認められない。
 よって、別紙遺産目録二《略》記載19ないし22、29、46、58、72、94の各掛金の支払は、特別受益に該当するとは認められない。

キ 別紙遺産目録二《略》記載104の贈与について
(ア)証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
a 亡Aは、亡Bと共に別紙不動産目録三《略》記載の各土地上の亡A名義の建物(以下「亡A居宅」という。)に居住していた。そして、被告Y1は、別紙不動産目録三《略》記載の各土地に隣接する別紙不動産目録二《略》記載二の土地上の被告Y1名義の建物(以下「被告Y1居宅」という。)に居住していた。
b 平成15年7月頃、亡A居宅を取り壊して、別紙不動産目録三《略》記載の各土地上に被告Y1が建物を新築すると共に、被告Y1居宅をリフォームして、そこに亡A及び亡Bが居住する計画が持ち上がり、その後、これらの工事が行われた。
c 平成16年2月4日、被告Y1は、亡Aの承諾のもと、亡Bを通じて、亡A名義のゆうちょ銀行定期貯金証書を受領し、翌5日、郵便局で同貯金の解約手続をして、払戻金303万0904円を受領した。そして、被告Y1は、この払戻金を上記bの工事代金の支払に充てた。

(イ)前記(ア)で認定した事実によれば、亡Aは、被告Y1の自宅新築及び被告Y1居宅のリフォーム工事費用に充てるための資金として、亡Bを通じて、被告Y1に対して、303万0904円を贈与したと認めるのが相当である。
 しかし、いずれも被告Y1名義の建物の新築及びリフォーム工事費用であるとは言え、リフォーム後の被告Y1居宅には亡Aが亡Bと共に居住することが計画されていたことからすると、亡Aが亡Bを通じて被告Y1に対して贈与した303万0904円は、亡Bや被告Y1に利益を与えるための贈与というよりは、亡A自身のための費用負担という意味が強いと認められる。したがって、上記贈与が、亡Bや被告Y1の生計の資本としての贈与であったとは認められない。
 よって、別紙遺産目録二《略》記載104の贈与は、特別受益に該当するとは認められない。

ク 別紙遺産目録二《略》記載2、79、82、83の各贈与について
 原告は、亡Aから亡Bに対し、別紙遺産目録二《略》記載2、79、82、83の「受贈年月日」欄記載の日に、「受贈額」欄記載の贈与が行われた旨主張する。しかし、これらの贈与が行われた事実を認めるに足りる証拠はない。
 よって、亡Aから亡Bに対し、別紙遺産目録二《略》記載2、79、82、83の各贈与が行われた事実は認められない。

ケ 小括
 以上のとおり、別紙遺産目録二《略》記載一ないし104は、いずれも特別受益に該当するとは認められない。

(2)被告Y1に対する贈与の有無及び特別受益該当性について
ア 別紙遺産目録二《略》記載105及び106の各贈与について
 原告は、亡A名義のゆうちょ銀行通常貯金(記号番号×××-×××)から、被告Y1の水道代として、別紙遺産目録二《略》記載105及び106の「受贈年月日」欄記載の日に、「受贈額」欄記載の金額の金銭が支払われている旨主張する。しかし、同貯金口座から上記支払が行われている事実を認めるに足りる証拠はない。また、仮に同目録記載105及び106の水道代の支払が行われていた事実が認められるとしても、その金額は、7066円及び7570円と少額であることに照らすと、これが、被告Y1の生計の資本としての贈与であったとは認められない。
 よって、別紙遺産目録二《略》記載105及び106は、特別受益に該当するとは認められない。

イ 別紙遺産目録二《略》記載107の贈与について
 証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、亡Aから被告Y1に対して、平成16年4月23日、別紙不動産目録三《略》記載の各土地が贈与された事実が認められる。
 そして、この事実に前記(1)キ(ア)で認定した各事実を総合すると、この贈与は、別紙不動産目録三《略》記載の各土地上に被告Y1の新居を建築することになったことを契機に行われたものであると認められる。そして、被告Y1がこの贈与の趣旨について「代がわり」として行われたものである旨供述していることからすると、亡Aの相続の前渡しとして、亡Aから被告Y1に対してこの贈与が行われたと認めるのが相当である。
 よって、別紙遺産目録二《略》記載107の贈与は、被告Y1に対する特別受益と認められる。

(3)以上のとおり、別紙遺産目録二《略》記載107の贈与は、被告Y1に対する特別受益と認められるが、別紙遺産目録二《略》記載一ないし106の贈与は、いずれも亡B又は被告Y1に対する特別受益とは認められない。

三 争点(3)(原告の遺留分侵害額及び被告らの持戻し額)について
(1)亡Aの遺産

 前提事実(1)及び前記一で認定したところによれば,亡Aの遺産は、別紙遺産目録一《略》記載一ないし五の預貯金、同目録記載七の債券及び現金135万2996円の合計1334万8517円である。

(2)遺留分算定の基礎となる財産
 遺留分算定の基礎となる財産は、前記(1)の亡Aの遺産及び被告Y1に対する特別受益と認められる別紙遺産目録二《略》記載107の贈与の目的物である別紙不動産目録三《略》記載の各土地である。そして、別紙不動産目録三《略》記載の各土地の亡Aの相続開始時(平成23年7月××日)の価額を、仮に原告が主張する合計390万4001円とすると、遺留分算定の基礎となる財産の総額は、1725万2518円となる。

(3)原告の遺留分額
 前提事実(1)で認定した事実によると、原告の遺留分割合は4分の1である。よって、原告の遺留分額は、431万3129円(1725万2518円×4分の1)となる。

(4)原告の遺留分侵害額
 前提事実(1)オのとおり、亡Aは、生前、その遺産全部を原告に遺贈する内容の本件遺言を作成していることからすると、上記(1)の亡Aの遺産は、全て原告が相続することになり、原告が相続によって取得する遺産は、1334万8517円となる。
 そうすると、原告が相続によって取得する遺産が原告の遺留分額を上回るから、原告の遺留分は侵害されていない。
 よって、原告の請求は、いずれも理由がない。

四 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 林田敏幸)

別紙 遺産目録1、2《略》
別紙 不動産目録1~3《略》
以上:7,129文字

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