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祭祀財産承継者指定と遺骨の分骨・引渡申立を全て却下した家裁審判紹介

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平成31年 2月 6日(水):初稿
○「遺骨の所有権は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属1」に遺骨の所有権は、慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属するとした平成元年7月18日最高裁判決を紹介していました。

○関係条文は以下の通りです。
民法第897条(祭祀に関する権利の承継)
 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。


○この祭祀承継者指定処分と遺骨の分骨・引渡を求め、いずれも却下した平成29年10月26日大阪家裁堺支部審判(判タ1455号77頁<参考収録・原審>)全文を紹介します。事案概要は以下の通りです。
(1)A母は,B父と昭和46年婚姻して,長男,長女,二女の三子をもうけたが,長男は10歳で死去、相続人はAとB。
(2)B父は,喪主として葬儀を執り行い,AとBは,Bを墓地使用者として甲市に墓地を借りて本件墳墓を設け(墓石には「E家之墓」と刻まれている),被相続人(長男)の本件遺骨を埋葬。
(3)AとBは,平成7年,長女二女の親権者をAと定めて調停離婚し,その際,財産分与の調停において,「墓地はBが管理し,Aは随時墓参すること」という合意が成立。
(4)Bは,離婚後も上記墓地の管理料等の支払を続けて墓参し,Aも随時墓参りをしていた。
(5)Bは,平成27年,死後,本件墳墓(甲市)が無縁仏となることを懸念し,自らの死後もE家の親族による墓参ができるように,実家(乙市)のE家の墓所内(先祖代々の焼骨が埋葬されている)に新たな墳墓(改葬墳墓)を設け,本件遺骨を移動。
(6)Aは,平成27年,本件遺骨が,本件墳墓から他に移されたことを知り,改葬墳墓は遠方にあり,墓参りが困難であることを理由に,同年本件遺骨の分骨を求める訴訟を提起したが,請求は棄却(確定)。
(7)Aは,Bに対し,平成29年,主位的に被相続人の祭祀財産の承継者をAと定める処分を,予備的に本件遺骨の分骨とその引渡しを求めた。


○平成29年10月26日大阪家裁堺支部審判は、Bは,被相続人の喪主として葬儀を執り行い,本件墳墓を設け,本件遺骨を埋葬するなど,被相続人の供養等祭祀を主宰していたから,ABの婚姻中,被相続人の祭祀の主宰者はBと定められていた,そして,本件遺骨は祭祀財産(民法897条)に準ずるから,その所有権はBに帰属する,その後,ABは,婚姻関係を解消した際にも,財産分与の調停においてBが本件墓地を管理する旨合意したから,離婚後も被相続人の祭祀の主宰者をBからAに変更する意思はなかった,このように,婚姻関係解消の前後を通じ,被相続人の祭祀の主宰者は既にBに定められているから,改めて祭祀財産の承継者の指定を求める(民法897条2項)主位的申立ては理由がなく、また,Aは,予備的に同条項に基づき本件遺骨の分骨と引渡しを求めているが,同条項は分骨を請求できる根拠とはならないから予備的申立ても理由がないとして,Aの申立てをいずれも却下しました。

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主   文
1 申立人の本件各申立てをいずれも却下する。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

1 主位的申立ての趣旨
 被相続人の祭祀財産の承継者を申立人と定める。
2 予備的申立ての趣旨
(1) 相手方は,被相続人の遺骨について分骨手続をせよ。
(2) 相手方は,申立人に対し,上記(1)の分骨された遺骨を引き渡せ。

第2 事案の概要
 本件は,申立人と相手方の長男であった被相続人の焼骨について,申立人が,その所有権の取得者を申立人と定めることを求めて,民法897条2項に基づき,主位的に,被相続人の祭祀財産の承継者の指定の処分を,予備的に,上記焼骨の分骨手続及び当該分骨の引渡しを求めた事案である。

第3 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 申立人(昭和22年○○月○○日生)と相手方(昭和22年○○月○○日生)は,昭和46年○○月○○日に婚姻し,昭和48年○○月○○日に長男である被相続人を,昭和53年○○月○○日に長女を,昭和59年○○月○○日に二女をもうけたが,被相続人は,昭和58年○○月○○日,10歳で死亡した(被相続人が所有する祭祀財産は存在しない。)。
 相手方は,被相続人の死亡届出をし,喪主としてその葬儀を執り行った。

 申立人と相手方は,相手方を墓地使用者として,○○寺内のD霊園に墓地を借り,墓石を購入して墳墓を設け(墓石の正面には「E家之墓」と刻まれた。),被相続人の焼骨を埋蔵した(以下「本件遺骨」という。)。

(2) 申立人と相手方との間では,平成7年○○月○○日,長女及び二女の親権者を申立人と定めて離婚の調停が成立し,申立人が申し立てた当事者間の財産分与請求調停(大阪家庭裁判所堺支部平成7年(家イ)第○○号)において,同年○○月○○日,当事者が居住していた○○の宅地建物を売却して売却代金を分配することなどのほか,「墓地については相手方において管理し,申立人は随時墓参すること」について合意が成立し,その旨調書に記載された。

(3) 相手方は,離婚後も,上記墓地の管理料等を支払い続けるとともに,随時,墓参りをし,申立人も随時,墓参りをしていた。
 相手方は,自分の死後,管理料を支払う者がいなくなり,上記墳墓が無縁墳墓となることを懸念し,相手方の死後もE家の親族による墓参り等が可能となるように,本件遺骨を上記墳墓から○○所在のE家墓所(E家の先祖代々の焼骨,相手方の両親の焼骨及び相手方の親族の焼骨が埋蔵された複数の墳墓が設けられた墓地)に移すこととし,平成27年○○月,○○市長に改葬許可を申請し,同月,改葬の許可を受け,墓石を購入してE家墓所に新たな墳墓を設け(正面には「E家之墓」と,側面には「B建立」と刻まれている。),同年○○月○○日,同墳墓に本件遺骨を埋蔵した。相手方は,上記改葬後,年に数回墓参りをしている。

(4) 申立人は,平成27年○○月○○日,D霊園に墓参りに行き,上記(1)の墳墓がなくなっていることを知ったため,相手方に対し,申立人手続代理人弁護士を通じて本件遺骨の所在を問い合わせたところ,相手方から,上記(3)のとおり改葬した旨の回答を得たが,遠方であって墓参りもままならないことを理由に本件遺骨について分骨を求めたが,相手方から拒否された。

 申立人は,同年○○月○○日,相手方を被告として,神戸地方裁判所洲本支部に,本件遺骨について分骨を求める訴訟を提起したが,同裁判所は,平成28年○○月○○日,請求を棄却するとの判決をし,同判決に対する控訴は棄却され,これに対する上告棄却及び上告不受理決定によって,一審判決は確定した。
 申立人は,平成29年○○月○○日,大阪家庭裁判所堺支部に本件を申し立てた。


(1) 上記1(1)のとおり,相手方は,被相続人の死亡届出をし,喪主として被相続人の葬儀を執り行い,墓地使用者として墓地を借りて墳墓を設け,被相続人の焼骨を埋蔵するなど,被相続人の供養等その祭祀を主宰することを開始し,これが申立人の意向に反していたとの事情は全くうかがえないから,当事者は,被相続人の祭祀の主宰者を被相続人の父である相手方と定めたということができ,祭祀財産(民法897条)に準じて考察すべき本件遺骨の所有権は,被相続人の祭祀の主宰者である相手方が取得したと解するのが相当である。

 そして,上記1(2)のとおり,当事者は,婚姻関係を解消した後の財産分与請求調停において,相手方が墓地を管理する旨合意しているのであるから,婚姻関係解消後も,被相続人の祭祀の主宰者たる地位を相手方から申立人に変更する意思がなかったといえる。

(2) 申立人は,被相続人死亡当時,当事者は婚姻関係にあったから,名義にこだわることなく葬儀を執り行い,墓地を借りて納骨したに過ぎない旨主張するが,一件記録によっても,被相続人の母である申立人が喪主として葬儀を執り行ったり,墓地使用者となったりすることが困難であったとの事情はうかがえないから(仮に,当事者間に,当然に父がなるものであるとの考えがあったのだとすると,未成熟子が亡くなった場合にその祭祀を主宰すべき者を父とする慣習があったというべきである。),そうである以上,当事者は,あえて,被相続人の父である相手方を被相続人の祭祀の主宰者にしたといえるのであり,申立人の上記主張は,上記(1)の判断を左右しない。

 また,申立人は,葬儀や納骨,さらには財産分与請求調停における合意の際に,当事者には,いずれが本件遺骨を保有し又は所有するかなどという意識は全く欠如していたから,本件遺骨の所有権を相手方に取得させるとの当事者の合意を推認することはできないと主張する。しかし,遺骨は,祭祀財産に準じて考察すべきなのであるから,相手方が被相続人の祭祀の主宰者であると認められる以上,当然に本件遺骨の所有権を取得するのであって(民法897条1項参照),申立人の上記主張は,上記(1)の判断を左右しない。

(3) 申立人は,本件遺骨が改葬された墳墓は相手方の氏名が刻印された相手方の墳墓であり,このような墳墓に墓参りを強いることは,相手方を憎み離別した申立人や被相続人のきょうだいである長女及び二女に苦痛を与えることは明白であるから,申立人らの墓参りを事実上拒むことに等しく,このような無慈悲な相手方は被相続人の祭祀の主宰者にふさわしくないと主張する。

 しかし,上記1(2)(3)のとおりの改葬に至る経緯(相手方が申立人との離婚後,20年余りにわたってD霊園の墳墓を管理し続けた後,無縁墳墓となることを懸念して改葬したという経緯)を踏まえると,相手方が申立人に無断で改葬したことや,改葬後の墳墓に墓参りすることが申立人や長女及び二女に精神的苦痛を与えることなどを勘案しても,改葬の事実をもって,相手方が被相続人の祭祀の主宰者としての意思や能力を喪失したとはいえないから,申立人の上記主張は,上記(1)の判断を左右しない。

 また,申立人は,当事者双方が亡くなった後,本件遺骨を親身になって祀る意思を有しているのは長女及び二女だけであるが,同人らは申立人と同居している一方,相手方の周囲にそのような人物は存在しないから,相手方は被相続人の祭祀の主宰者にふさわしくないとも主張する。しかし,被相続人の祭祀の主宰者である相手方が亡くなった後に,その祭祀の主宰者となるべき者が長女や二女であるからといって,同人らと疎遠である相手方に被相続人の祭祀の主宰者としての能力が欠如しているとはいえないから,申立人の上記主張は,上記(1)の判断を左右しない。

(4) 以上によれば,被相続人の祭祀の主宰者は相手方であると認められるから,祭祀の主宰者が未だ定まっていないことを前提に,民法897条2項に基づき,祭祀財産の承継者の指定を求める申立人の主位的申立ては理由がない。

 申立人は,予備的に,同条項に基づき,本件遺骨の分骨手続及び当該分骨の引渡しを求めているが,同条項に基づいて分骨を請求できるとは解釈し難いから,申立人の請求は理由がない(申立人は,同条項に基づき,祭祀財産ごとに承継者を定めることができるから,分骨された遺骨を申立人が取得することに何の支障もないと主張するが,申立人は,分骨の引渡しとともに,その前提たる分骨それ自体を請求しているのであるから,上記主張によっても,同条項が分骨請求の根拠となるとは解し難い。)。よって,本件遺骨の分骨手続及びこれを前提とする分骨の引渡しを求める予備的申立ても理由がない。

3 以上より,本件各申立てはいずれも理由がないから却下することとし,主文のとおり審判する。
 大阪家庭裁判所堺支部
 (裁判官 ○○)
以上:4,865文字

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