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生命保険金を特別受益として持ち戻し対象とした家裁審判紹介1

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令和 1年 7月 1日(月):初稿
○「生命保険金は原則として特別受益に該当しないとした最高裁決定全文紹介」の続きです。この最高裁決定は、保険契約に基づき相続人が取得した死亡保険金等は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが原則としましたが、例外として、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金等は特別受益に準じて持戻しの対象となる場合もあるとしました。

○この例外に当たる事案として、死亡保険金等が高額であることなどを総合的に考慮すると、上記の特段の事情が存するものというべきであり、持戻しの対象となると解するのが相当であるとした平成17年4月7日岐阜家裁審判(家庭裁判月報58巻10号74頁)全文を紹介します。

○この事案では、遺産の相続開始時の価額は不動産が8328万5000円,預貯金が312万4190円,保険解約返戻金が80万4693円の合計8721万3883円であり,遺産分割時の価額は不動産が6640万円,保険解約返戻金が18万3257円の合計6658万3257円でした。妻である申立人は,死亡保険金等合計5154万0846円を受け取っており、この額は本件遺産の相続開始時の価額の約59パーセント,遺産分割時の価額の約77パーセントを占めること,被相続人と申立人との婚姻期間は3年5か月程度であることなどを総合的に考慮すると上記の特段の事情が存するものというべきであり,この死亡保険金等は民法903条の類推適用により持戻しの対象となると判断されました。

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主   文
1 被相続人Dの遺産を次のとおり分割する。
(1)別紙遺産目録第1の1ないし5の不動産の競売を命じ,その売却代金から競売費用を控除した残額を,申立人100分の23,相手方B100分の40,相手方C100分の37の割合で分配する。
(2)別紙遺産目録第3の1の保険解約返戻金のうち,100分の23を申立人,100分の40を相手方B,100分の37を相手方Cの各取得とする。
2 本件手続費用のうち,鑑定人Eに支給した鑑定費用40万9500円は,20万4750円を申立人の,10万2375円を相手方Bの,10万2375円を相手方Cの負担とし,その余の手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 本件記録及び審判の全趣旨による当裁判所の事実認定及び法律判断は,以下のとおりである。
1 相続分

 被相続人(昭和7年×月×日生)は,平成14年5月31日死亡し,相続が開始した。

 その相続人は,被相続人と平成11年1月6日に婚姻した妻の申立人(昭和30年×月×日生),被相続人と先妻との長女である相手方B(昭和31年×月×日生),被相続人と先妻との長男である相手方C(昭和35年×月×日生)であり,その相続分は,申立人が2分の1,相手方B及び相手方Cがそれぞれ4分の1である。

2 遺産の範囲等
(1)不動産
 被相続人の遺産である不動産は,別紙遺産目録(以下「目録」という。)第1の1ないし5に記載のとおりである。
 目録第1の1ないし5に記載の不動産の相続開始時の価額は各不動産の(1)欄に記載のとおりであり,合計額は8328万5000円となり,遺産分割(鑑定)時の価額は各不動産の(2)欄に記載のとおりであり,合計額は6640万円となる。
 なお,申立人は,鑑定の価額は相続開始時と遺産分割時を比較すると約20パーセントの下落となっているが,約2年半の経過でそのような大幅な下落となることは考えられず,鑑定全体が信用できないものであると主張するが,鑑定の手法に不合理な点は見られず,上記の申立人の主張は採用できない。

(2)預貯金
〔1〕被相続人の預貯金の相続開始時の残高は目録の第2の預貯金の欄に記載のとおりであり,合計で312万4190円となる。
 なお,株式会社○○銀行の平成14年5月31日現在の預金残高証明書(平成15年1月15日付調査報告者の添付資料7)によれば,目録第2の6の普通預金の残高は6535円が,目録第2の8の定期預金の残高は1万3664円が正確な金額である。
〔2〕被相続人の預貯金は,被相続人の債務の弁済にあてられ,現段階では全く存在しない。

(3)保険解約返戻金
〔1〕被相続人の損害保険の相続開始時の解約返戻金の額は目録の第3の保険解約返戻金の欄に記載のとおりであり,合計で80万4693円となる。
〔2〕被相続人の保険解約返戻金のうち,目録第3の2については相手方Cが平成16年12月20日に解約して3万1410円の解約返戻金を受け取り,目録第3の3については相手方Cが平成16年12月16日に解約して21万4327円の解約返戻金を受け取っており,遺産分割の段階で現存しているのは目録第3の1の18万3257円だけである。

 なお,申立人は,上記の相手方Cが受け取った解約返戻金について遺産分割の対象とすべきであると主張するが,遺産分割の対象となるのは遺産分割時に現存する財産であり,遺産分割時に現存しないものについては遺産分割の対象とすることはできず,相続開始後の遺産の減少については別途民事訴訟で解決すべきものであるから,上記の申立人の主張は採用できない。

(4)相手方らは,被相続人の前妻であり相手方らの母親である亡F(昭和62年12月21日死亡)が所有していた株式会社□□の株式2438株が平成14年2月5日に処分されており,相手方らはこの処分金額のそれぞれ4分の1を請求する権利があると主張するが,仮に相手方らの主張が認められるとしても,それは被相続人の債務の問題となるものであって,被相続人の債務は審判の段階では遺産分割の対象とはならないものであるから,上記の相手方らの主張は本遺産分割審判において考慮することはできない。

(5)まとめ
 以上によれば,本件遺産の相続開始時の価額は不動産が8328万5000円,預貯金が312万4190円,保険解約返戻金が80万4693円の合計8721万3883円であり,遺産分割時の価額は不動産が6640万円,保険解約返戻金が18万3257円の合計6658万3257円である。

3 特別受益
(1)申立人の特別受益

〔1〕申立人は,次の死亡保険金等の合計5154万0846円を受け取った。
ア 保険者を○○生命保険相互会社,保険契約者及び被保険者を被相続人,死亡保険金受取人を申立人とする終身保険特別保障型(契約締結日不明)の死亡保険金等3072万6196円
 なお,死亡保険金受取人については,平成11年1月26日に相手方Cから申立人への変更が請求され,その旨の変更がなされた。

イ 保険者を□□生命保険相互会社,保険契約者及び被保険者を被相続人,死亡保険金受取人を申立人とする保険(契約締結日平成3年8月1日)の死亡保険金358万4848円
 なお,死亡保険金受取人については,平成11年1月29日に相手方Cから申立人に変更された。

ウ 保険者を△△生命保険相互会社,保険契約者及び被保険者を被相続人,死亡保険金受取人を申立人とする保険(契約締結日不明)の死亡保険金等507万8246円
 なお,死亡保険金受取人については,平成11年1月28日に相手方Cから申立人への変更が請求され,その旨の変更がなされた。

エ 保険者を○△生命保険相互会社,保険契約者及び被保険者を被相続人,死亡保険金受取人を申立人とする保険(契約締結日昭和63年11月1日)の死亡保険金等1215万1556円
 なお,死亡保険金受取人については,平成11年1月ころに相手方Cから申立人への変更が請求され,その旨の変更がなされたものと推認される。

〔2〕保険契約に基づき相続人が取得した死亡保険金等は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当であるが,保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金等は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成16年10月29日決定・裁判所時報1375号3頁以下参照)

 これを本件についてみると,死亡保険金等の合計額は5154万0864円とかなり高額であること,この額は本件遺産の相続開始時の価額の約59パーセント,遺産分割時の価額の約77パーセントを占めること,被相続人と申立人との婚姻期間は3年5か月程度であることなどを総合的に考慮すると上記の特段の事情が存するものというべきであり,上記死亡保険金等は民法903条の類推適用により持戻しの対象となると解するのが相当である。


 なお,申立人は,仮に死亡保険金等を持戻しの対象とする場合であっても,平成11年1月6日の婚姻以降は申立人が保険料を負担してきたのであるから,持戻しの対象となる金額を死亡保険金等の全額とするのではなく,払込期間に応じて減額すべきであると主張するが,被相続人は毎月42万5000円程度の家賃収入を得ていたのであるから,申立人がその収入を被相続人との生活のために支出していたとしても,平成11年1月6日の婚姻以降は申立人が保険料を負担してきたものであるとまでは評価できず,上記の申立人の主張は理由がない。

〔3〕したがって,申立人の特別受益の額は,5154万0846円となる。

(2)相手方Bの特別受益
〔1〕相手方Bは,平成14年1月ころに,それまで被相続人が相手方Bの名義で加入して保険料を支払い続けていた○○生命保険相互会社の月払継続保険しあわせ10型という名称の保険の引継を受けたのであるから,その当時の解約返戻金に相当する150万円(平成14年1月ころの解約返戻金の額は必ずしも明らかではないが,少なくとも150万円を下らないものと推認できる。)の贈与を受けたものと評価することができる。

 なお,相手方Bは,上記の保険契約の引継は,相手方Bがそれまで被相続人に貸し付けていた金銭について返済請求をしないことの対価としてなされたものであるから,一種の代物弁済に相当すると主張するが,これを裏付ける的確な資料は存在せず,上記相手方Bの主張は採用できない。

〔2〕したがって,相手方Bの特別受益の額は,150万円となる。

(3)相手方Cの特別受益
〔1〕相手方Cは,平成13年6月ころに,それまで被相続人が加入して保険料を支払い続けていた○□生命保険相互会社の保険について契約名義人の変更を受けて契約を引き継いだが,その当時の解約返戻金等の額は357万2661円である(乙5)であるから,同額の贈与を受けたものと評価することができる。

〔2〕申立人は,相手方Cが平成9年1月から平成14年5月末まで目録5の建物の401号室を,平成13年6月から平成14年5月末まで目録5の建物の402号室をそれぞれ使用してきたことを特別受益として評価すべきであると主張するが,被相続人はその所有する賃貸アパートの二室について実子である相手方Cが使用することを認めていたのであるから,上記使用については被相続人の黙示の持戻し免除の意思表示があったものと評価するのが相当であって,上記の申立人の主張は理由がない。

〔3〕したがって,相手方Cの特別受益の額は,357万2661円となる。

4 具体的相続分の算定
(1)みなし相続財産額
 みなし相続財産額は,8721万3883円(本件遺産の相続開始時の合計額)+5154万0846円(申立人の特別受益額)+150万円(相手方Bの特別受益額)+357万2661円(相手方Cの特別受益額)=1億4382万7390円となる。

(2)各人の具体的相続分額
〔1〕申立人
 申立人の具体的相続分額は,1億4382万7390円(みなし相続財産額)×1
2(相続分割合)-5154万0846円(申立人の特別受益額)=2037万2849円
〔2〕相手方B
 相手方Bの具体的相続分額は,1億4382万7390円(みなし相続財産額)×1
4(相続分割合)-150万円(相手方Bの特別受益額)=3445万6847円(1円未満切り捨て)
〔3〕相手方C
 相手方Cの具体的相続分額は,1億4382万7390円(みなし相続財産額)×1
4(相続分割合)-357万2661円(相手方Cの特別受益額)=3238万4186円(1円未満切り捨て)

(3)各人の具体的相続分率
〔1〕申立人
 申立人の具体的相続分率は,2037万2849
8721万3883=0.23(百分の1未満四捨五入)となる。
〔2〕相手方B
 相手方Bの具体的相続分率は,3445万6847
8721万3883=0.40(百分の1未満四捨五入)となる。
〔3〕相手方C
 相手方Cの具体的相続分率は,3238万4186
8721万3883=0.37(百分の1未満四捨五入)となる。

(4)各人の最終的相続分額
〔1〕申立人
 申立人の最終的相続分額は,6658万3257円(本件遺産の遺産分割時の価額)×0.23=1531万4149円(1円未満切り捨て)となる。
〔2〕相手方B
 相手方Bの最終的相続分額は,6658万3257円(本件遺産の遺産分割時の価額)×0.40=2663万3302円(1円未満切り捨て)となる。
〔3〕相手方C
 相手方Cの最終的相続分額は,6658万3257円(本件遺産の遺産分割時の価額)×0.37=2463万5805円(1円未満切捨て)となる。

5 遺産分割についての意見等
(1)申立人は,申立人が目録第1の1,2,4の不動産を取得し,相手方らが目録第1の3,5の不動産を取得するという現物分割を希望しているが,相手方らが目録第1の3,5の不動産を取得するという現物分割に応じないようであれば,換価分割によることを希望している。
 また,申立人は遺産である不動産について共有分割とすることには反対している。

(2)相手方らは、相手方らが目録第1の1,2,4の不動産を取得し,申立人が目録第1の3,5の不動産を取得するという現物分割を希望しており,相手方らが目録第1の3,5の不動産を取得するという現物分割については反対している。 
 また,相手方らは,現物分割ができない場合には,遺産である不動産について共有分割とすることを希望しており,換価分割することには反対している。

(3)目録第1の4の不動産は,被相続人が営んでいた酒店の倉庫として利用されていた建物であり,目録第1の1,2の不動産はその敷地であるが,現在は目録第1の2の土地が駐車場として利用されている以外は実際には利用されていない。
 また,目録第1の5の不動産は,店舗及び住宅用のアパートであり,目録第1の3の不動産はその敷地であるが,申立人は上記アパートの南棟2階に居住しており,相手方は上記アパートの南棟401号室を使用している。

第2 遺産の分割
1 申立人及び相手方らは,いずれも目録第1の3,5の不動産を取得することを希望しておらず,遺産である不動産を各当事者に振り分ける形での現物分割を行うことは不可能である。
 また,遺産である不動産のうち土地については各当事者に現実に分割することが可能であるが,その場合には土地が細分化されるうえ建物は取り壊さなければならず,分割後の財産の経済的価値を著しく損なうものであるから,土地を現実に分割するという方法もとることはできない。

2 また,遺産である不動産を共有分割するという方法も考えられるが,申立人と相手方らが,被相続人の後妻と先妻の子という関係であって本件遺産分割の調停,審判において対立してきたことを考慮すると,共有分割後の不動産の管理あるいは処分が円満に行われるものとは考えられず,共有分割の方法によることは相当ではない。

3 上記のような事情に加えて,申立人が遺産である不動産について換価分割を求めていることを考慮すると,遺産である不動産については競売に付し,その売却代金から競売費用を控除した残額を各当事者の具体的相続分率に応じて分割するのが相当である。

4 また目録第3の1の解約返戻金についても各当事者の具体的相続分率に応じて分割するのが相当である。

第3 手続費用
 鑑定人Eに支払った鑑定費用40万9500円は,各当事者が法定相続分に応じて負担すべきものである。

以上:6,772文字

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