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民法第910条価額支払請求対象遺産は積極財産のみとした高裁判決紹介

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令和 1年10月20日(日):初稿
○「民法第910条価額支払請求対象遺産は積極財産のみとした地裁判決紹介」の続きでその控訴審である平成30年5月24日東京高裁判決(ウエストロー・ジャパン)関連部分を紹介します。控訴審判決も、民法910条に基づき請求し得る「価額」の算定に当たって考慮される財産は,遺産分割の対象となる積極財産に限られると解するのが相当であるとしました。

○当事者は以下の通りです。

被相続人亡A_____亡C(妻)
   |(死後認知) |   |(養子縁組)
  原告     被告_D(妻)


 被相続人亡Aの相続人は、死後認知前は、被相続人の妻亡Cと被告で、当初、法定相続分は各2分の1でしたが、原告が死後認知されたことで、被告が2分の1から4分の1に減らされ、原告と被告の法定相続分は各4分の1となりました。亡Cの相続人は、被告とその妻で亡Cの養子となっていたDの2人で、各2分の1の法定相続分でした。

○一審平成29年9月28日東京地裁判決の認容部分は
1 被告は,原告に対し,2485万4374円及びこれに対する平成27年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
でしたが、控訴審平成30年5月24日東京高裁判決は、
2 1審被告は,1審原告に対し,2485万5447円及びうち2485万4374円に対する平成27年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
と変更しました。

○変更された部分は、上記下線部分で、ごく僅かです。変更理由は、以下の通りです。
亡Aの都民税37万1700円があり、その4分の1相当額9万2925円について原告が承継していたところ、全額を亡Cが支払ったので、亡Cは、原告に同額の不当利得返還請求権を有していた。この請求権の内2分の1相当額4万6462円を被告が相続承継し、これについて被告は原告に対し相殺の主張が可能であり、原告の被告に対して有する2485万4374円に対する平成27年3月28日から同年4月10日まで14日間に生じた遅延損害金債権4万7535円と相殺し、その後の遅延損害金残額1037円になり、変更後の認容額は、「2485万5447円及びうち2485万4374円に対する平成27年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員」となる。

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主    文
1 1審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
2 1審被告は,1審原告に対し,2485万5447円及びうち2485万4374円に対する平成27年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 1審原告のその余の請求を棄却する。
4 1審原告の控訴を棄却する。
5 訴訟費用は第1,2審を通じて5分し,その1を1審原告の負担とし,その余を1審被告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判

1 1審被告の控訴の趣旨
(1) 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の部分につき,1審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも1審原告の負担とする。

2 1審原告の控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告は,1審原告に対し,3110万4374円及びこれに対する平成27年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも1審被告の負担とする。
(4) (2)について仮執行宣言

第2 事案の概要等(以下,略称は原判決のそれによる。)
1 事案の概要
(1) 当事者等
ア 1審原告(平成元年○月○日生)は,BとA(以下「亡A」という。)との間の子であり,亡Aが平成20年2月3日に死亡した後,認知を求める訴え(死後認知の前訴)を東京家庭裁判所に提起し,平成24年12月14日,1審原告が亡Aの子であることを認知する旨の判決(本件認知判決)が確定した。

イ 1審被告(昭和28年○月○日生)は,亡Aの嫡出子である。1審被告は,医師であり,原判決別紙1物件目録記載の借地権付建物(本件建物)に居住し,その一部において,aクリニックという診療所を営んでいる。
 本件認知判決確定前における亡Aの相続人は,1審被告及び亡Aの妻である亡Cであった。亡Cは,平成27年12月12日に死亡し,1審被告,及び1審被告の妻であり,亡Cの養子であるDが亡Cを相続した。

(2) 亡Cと1審被告の間の遺産分割協議
 1審被告は,平成20年3月31日,亡Cと協議した上,原判決別紙2「遺産分割協議書」(不動産に関するもの)及び原判決別紙3「遺産分割協議書」(預貯金その他の財産に関するもの)の内容で,亡Aの遺産に係る遺産分割(以下,これらの遺産分割協議を「本件各遺産分割協議」という。)を成立させた。
 1審原告は,本件各遺産分割協議の成立に関与していない。

(3) 亡Aの遺産
 亡Aの遺産(積極財産)は,原判決別紙4「遺産目録」記載1ないし14の財産で,それぞれの財産の価格は,当該財産に対応する「価格」欄記載の金額であり,亡Aの遺産(積極財産)の評価額は合計9941万7498円である。

(4) 亡Cによる葬儀費用の支出等
 亡Cは,平成20年2月5日以降,亡Aの葬儀関係費用(葬儀費用,式場使用料,飲食料及び火葬代等)として,合計255万7319円を支出した。また,平成20年度納税通知書に記載された亡Aの特別区民税及び都民税額は合計37万1700円であり,亡Aの死亡後の平成20年6月26日,亡Cにより支払われた。

(5) 本件請求の内容,原審の判断及び本件控訴


         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,1審原告の請求は,2485万5447円及びうち2485万4374円に対する平成27年4月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容すべきであり,その余の請求はこれを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の理由説示(「事実及び理由」第3の1ないし4)のとおりであるから,これを引用する。

 (原判決の付加訂正)

         (中略)

(当審における1審被告の主張に対する判断)
(1) 亡Aの遺産から消極財産を控除すべきこと

 1審被告は,1審原告に支払われるべき民法910条の「価額」の算定において,可分債務の分割承継の原則を理由として,亡AのDに対する借入金を考慮しないこととすると,本件各遺産分割協議の前提自体が覆されることとなり,同条の趣旨が没却され,法定相続分を超えて借入金を弁済した者が,被認知者に対して改めて法定相続分に相当する額の不当利得返還請求をしなければならず,紛争の一回的解決の観点からも問題があるから,上記「価額」は,遺産中の積極財産から消極財産を差し引いた純資産額に対する被認知者の相続分の価額と解すべきであり,本件では,1審原告には,亡AのDに対する借入金の存否について,本件訴訟の中で確認する機会が与えられているから,亡Aの遺産額から当該借入金を控除したとしても,1審原告の利益を不当に害するとはいえないし,1審被告は,本件各遺産分割協議において,亡Aの借入金債務を亡Cが相続することを前提として,亡Cが亡Aの預貯金の大部分を相続し,本件建物の持分2分の1のほか預金350万円しか相続しなかったから,上記「価額」の算定に当たり,亡Aの遺産から借入金債務を控除せず,1審被告が1審原告に対して2500万円近い価額の支払義務を負うとすることは,1審被告にとってあまりに酷であり,民法910条はこのような結論を容認しているとは解されないと主張する。

 しかし,先に引用した原判決の「事実及び理由」第3の3(1)のとおり,民法910条に基づき請求し得る「価額」の算定に当たって考慮される財産は,遺産分割の対象となる積極財産に限られると解するのが相当であるところ,被相続人が負担していた金銭債務については,相続開始後に認知がされた場合,認知の効力が出生時に遡って生じ(民法784条本文),被認知者も,法律上,相続開始の時点において既に相続人であったものとして取り扱われるのであり,その結果,相続の開始により当然に共同相続人にその相続分に応じて分割承継されるものと解されるから,このような金銭債務をその「価額」の算定に当たって考慮すべきものであるとすることはできない。

 そして,被相続人から被認知者が承継した金銭債務については,当該債権者との間で,あるいは,仮に自己の相続分を超えて債務を支払った結果となる共同相続人が存在する場合には,当該共同相続人との間における不当利得返還請求権の存否の問題として解決すれば足り,紛争の一回的解決などという理由により,このような金銭債務を民法910条の価額支払請求権の存否の問題として解決すべき必要があるということはできない。また,本件において,1審被告が主張する金銭債務を上記「価額」から控除しないとしても,本件各遺産分割協議の結果が直ちに覆るわけではなく,1審被告が本件各遺産分割協議の結果取得した積極財産が法定相続分より少ないとしても,それにより生じる不都合は,本件各遺産分割協議の結果及びその前提となった事情を踏まえ,共同相続人であった1審被告と亡C(又はその相続人)の間で,別途,解決を図るのが相当である

 したがって,1審被告の上記主張は採用することができない。

(2) 相殺(予備的主張)
 1審被告は,1審原告は,平成20年度の特別区民税及び都民税37万1700円の4分の1に相当する9万2925円の納税義務を負っていたところ,亡Cは,上記各税全額を支払ったから,1審原告に対し,9万2925円の不当利得返還請求権を取得し,また,亡Cは,亡Aの葬儀関係費用として255万7319円を支出し,1審原告は,他の共同相続人との公平上,上記金額の4分の1に相当する63万9329円を負担すべきであるから,1審原告に対し,63万9329円の不当利得返還請求権を取得したところ,1審被告は,亡Cのこれらの不当利得返還請求権を相続したと主張する。

 なるほど,前提事実(5)のとおり,平成20年度納税通知書に記載された亡Aの特別区民税及び都民税額は合計37万1700円であり,亡Aの死亡後の平成20年6月26日,これを亡Cが支払っている。そして,先に引用した原判決の「事実及び理由」第4の4(2)のとおり,同納税義務は相続債務であり,1審原告は,その相続分4分の1に相当する9万2925円の債務を負担すべきものであるから,その全額を亡Cが支払った以上,亡Cは,同債務額に相当する不当利得返還請求権を取得したということができる。もっとも,前提事実(6)のとおり,亡Cの権利義務については,その子である1審被告及び養子であるDが相続しているから,1審被告が相続した不当利得返還請求権は,法定相続分の2分の1に相当する4万6462円にとどまる。

 一方,前提事実(5)のとおり,亡Cは,亡Aの葬儀関係費用として255万7319円を支払っているが,先に引用した原判決の「事実及び理由」第3の4(1)のとおり,1審原告は,亡Aの葬儀等に係る支出に関与していないばかりか,これらに参列する機会すら与えられておらず,支出した費用に対応する利益も享受していないから,他の共同相続人との公平上,上記金額の4分の1に相当する費用を負担すべきであるなどということはできず,亡Cに対し,同費用相当額の不当利得返還義務を負うということはできない。

 以上によれば,1審被告の1審原告に対する不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の主張は,4万6462円の限度で理由があるところ,受働債権である1審原告の民法910条に基づく価額支払請求権は,期限の定めのない債権であり,その請求の日(訴状送達日)の翌日である平成27年3月28日から遅滞が生じ,その後の亡Cの死亡の日である同年12月12日(前提事実(6)),1審被告において,亡Cが1審原告に対して有していた不当利得返還請求権の2分の1に相当する4万6462円を亡Cの死亡に伴う相続により取得したことにより,相殺適状が生じたと認められるから,自働債権である不当利得返還請求権4万6462円は,相殺適状に達するまでに生じていた受働債権である価額支払請求権の遅延損害金に充当されるべきものであり,具体的には,同年4月10日までの14日間に生じた遅延損害金4万7535円(24,854,374円×0.05×14÷366(同年3月28日から同年4月10日までの間に平成28年2月29日は含まれないものの,平成27年3月28日から1年間である平成28年3月27日までの間は,同年2月29日を含む,うるう年に属する期間であったので,366日で除した。)。ただし,1円未満を切り捨てた後のもの。)の一部に充当され,充当後の遅延損害金の残額は1073円となる。

 そうすると,上記相殺の結果,1審原告の1審被告に対する価額支払請求は,2485万5447円(価額元金2485万4374円と上記遅延損害金残額1073円の合計額)及びうち2485万4374円に対する平成27年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(当審における1審原告の主張に対する判断)
(1) 学費
 1審原告は,1審被告が,生活の基盤も不安定な状態で,両親から何かと援助をしてもらって最低限の生活をしながら,大学の学費を亡Aに返済していたというのは,社会通念に照らして不自然であり,1審被告の陳述(乙68)及び供述のみを根拠に,大学の学費を借り,これを返済したという事実を認めることはできないと主張する。

 しかし,先に引用した原判決の「事実及び理由」第3の2(1)で認定したとおり,1審被告が,奨学金を受給するとともに,大学院に通学する傍で医師として年額300万円程度の収入を得つつ,これらを大学院の授業料及び亡Aに対する返済に充てる中で生活をしていた状況について,生活の基盤も不安定な状態で,両親から何かと援助をしてもらって最低限の生活をしていたと陳述することは,あながち不自然であるとはいえない。また,先に引用した原判決の「事実及び理由」第3の2(3)のとおり,1審被告及び亡Cの陳述(甲9,10)をもってしても,1審被告の陳述(乙68(4,8頁))及び供述(1審被告本人(4,5頁))の信用性を否定することはできず,その信用性を否定するに足りるその余の事情も認められない。
 したがって,1審原告の上記主張は採用することができない。

(2) 寄付金
 1審原告は,医大の寄付金は,医大に通う本人が有形無形の不利益を被らないようにするための支払であり,多額の寄付金を支払った場合に特別受益が認められないのであれば,あまりに不合理であり,また,1審被告のための寄付金として亡Aがかなりの金額を用意したことが明らかであると主張する。

 しかし,医大に対する寄付金の支払が,医大に通う本人が有形無形の不利益を被らないようにするためのものであると直ちにいうことはできず,多額の寄付金が支払われたときに,特別受益が認められない場合があったとしても,あながち不合理であるとはいえない。また,本件においては,そもそも,亡Aがb大学(医学部)へ寄付金として具体的な額を支出したこと自体を認めるに足りる証拠はない。
 したがって,1審原告の上記主張は採用することができない。

(3) 住居に関する費用
 1審原告は,医院併用の二世帯住宅である本件建物の建築に多額の費用がかかったこと,本件建物を第三者が利用した場合の家賃も極めて高額であることからすると,1審被告がかなりの金額の特別受益を受けていることは明白であると主張する。
 しかし,先に引用した原判決の「事実及び理由」第3の2(2)イ(ただし,訂正後のもの)のとおり,親族間における建物の使用貸借関係は,人的なつながりを基礎とするもので,恩恵的性格が強く,亡Aも本件建物に居住しており,被控訴人が本件建物を独占的に使用していたとまではいえず,生計の資本として贈与を受けていたものということはできないから,少なくとも本件建物の無償使用について,特別受益を認めることはできない。
 したがって,1審原告の上記主張は採用することができない。

2 よって,1審原告の請求は,2485万5447円及びうち2485万4374円に対する平成27年4月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余の請求は理由がないから,これを棄却すべきであるところ,これと異なる原判決の一部は失当であり,1審被告の控訴の一部は理由があるから,1審被告の控訴に基づいて上記のとおり原判決を変更し,1審原告の控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 なお,仮執行宣言は,相当でないから,これを付さないこととする。
 東京高等裁判所第10民事部 (裁判長裁判官 大段亨 裁判官西村英樹及び同松本真は,異動のため,署名押印をすることができない。裁判長裁判官 大段亨)
以上:7,067文字

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