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差押債権取立で申立日翌日以降遅延損害金は充当できないとした地裁決定紹介

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平成30年 6月27日(水):初稿
○「差押債権取立で申立日翌日以降遅延損害金も充当できるとした最高裁判決紹介」の続きで、その第一審である平成28年5月17日東京地裁決定(金融・商事判例1529号15頁、最高裁判所民事判例集71巻8号1493頁)決定全文を紹介します。

○同決定は、債権者が、本件債務名義に基づき債権差押命令を申し立てた事案において、強制執行の申立てにおける請求債権の表示は、当該強制執行において請求する範囲を限定する趣旨と解されているから、債権差押命令申立書に記載する請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とした以上、当該差押命令によって請求する範囲は飽くまで申立日までの遅延損害金に限定されており、取立金の充当も当然この範囲に限られるというべきであり、債権者は、第一差押命令において自ら債務者に示した損害金の額と異なる額について第一取立金を充当し、債務名義上の債権の残額を請求することは許されないと解すべきであるとし、本件申立てを却下しました。

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主   文
本件申立てを却下する。
申立費用は債権者の負担とする。

理   由
1 本件申立ては,債権者が,東京簡易裁判所平成27年(ハ)第21392号事件の執行力ある判決正本(以下「本件債務名義」という。)に基づき債権差押命令を申し立てた事案である。

2 一件記録によれば以下の事実が認められる。
(1) 本件債務名義の主文は以下のとおりである。
「1 被告は,原告に対し,109万7743円及びうち106万4318円に対する平成26年8月30日から,うち3万3425円に対する平成27年7月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 この判決は,仮に執行することができる。」

(2) 債権者は平成28年1月12日,本件債務名義に基づき債権差押命令を申し立て,同月20日,当庁平成28年(ル)第153号債権差押命令(以下「第一差押命令」という。)が発令された(なお,申立日及び発令日は当裁判所に顕著な事実である。)。
 同命令の請求債権目録の記載は以下のとおりである。
「1 元金 金109万7743円
 2 損害金 金7万3803円
  (1)上記1の内金106万4318円に対する,平成26年8月30日から平成28年1月12日まで年5分の割合による金員7万3039円
  (2)上記1の内金3万3425円に対する,平成27年7月30日から平成28年1月12日まで年5分の割合による金員764円
 3 執行費用 金8388円
 (内訳省略)
 合計 金117万9934円」

(3) 債権者は,第一差押命令に基づき,平成28年2月22日から同年3月31日までの間に合計117万9934円を取り立てた。

(4) 平成28年4月11日,債権者は本件申立てをした。
 本件申立ての請求債権目録の記載は以下のとおりである。
 「1 元金 金7892円
 但し,金109万7743円から下記の通り支払われた弁済金を控除した残金
 年月日          残元金       弁済金
 平成28年2月22日 109万7743円  32万2048円
 (遅延損害金79,951円)
 平成28年2月29日  77万5695円  30万8643円
 (遅延損害金741円)
 平成28年3月2日   46万7052円  24万5928円
 (遅延損害金127円)
 平成28年3月31日  22万1124円  21万3232円
 (遅延損害金876円)

 2 損害金 金11円
 上記1に対する,平成28年4月1日から平成28年4月11日まで年5分の割合による金員11円

 3 執行費用 金8894円
 (内訳省略)
   合計 金1万6797円」

3 本件申立ては,本件債務名義に基づく二度目の債権差押命令の申立てであるが,上記2(4)の弁済金欄の遅延損害金の額を計算すると,第一差押命令により取り立てた117万9934円(以下「第一取立金」という。)を,第一差押命令の請求債権目録に記載されていない同命令申立日以降,取立日までの遅延損害金にも充当して計算した残元金及びこれに対する最終取立日以降の遅延損害金を請求債権としていることが認められる。

 強制執行の申立てにおける請求債権の表示(民事執行規則21条4号,133条1項)は,当該強制執行において請求する範囲を限定する趣旨と解されているから,債権差押命令申立書に記載する請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とした以上,当該差押命令によって請求する範囲は飽くまで申立日までの遅延損害金に限定されており,取立金の充当も当然この範囲に限られるというべきである。

 そして,前記2に認定したとおり,第一取立金の額は,第一差押命令の請求債権総額と同額である。債務者が債権差押命令の送達を受けた後,その命令における請求債権額全額が取り立てられたことを知った場合には,その命令の請求債権目録に記載された債権の満足が得られたと信頼するのが通常であるから,債権者は,第一差押命令において自ら債務者に示した損害金の額と異なる額について第一取立金を充当して,債務名義上の債権の残額を請求することは許されないと解すべきである。


 そうすると,前記2に認定したとおり,第一差押命令の請求債権目録記載の元金は,109万7743円であって,この額は,債務名義上の元金額と同一であるから,第一取立金が取り立てられた最終日である平成28年3月31日に債務名義上の元金は完済となったことになり,同年4月1日以降はすでに元金は消滅しているので新たな遅延損害金が発生する余地はない。

 したがって,本件申立てにおいて,債権者が請求債権とする「元金7892円」及びこれに対する「平成28年4月1日から平成28年4月11日まで年5分の割合による金員」は,本件債務名義に基づかないものである。また,本件申立てが却下される以上,本件申立てに要した執行費用の取立ても認められない(民事執行法42条2項)。

4 この点,債権者は,福岡高裁平成9年6月26日決定(判例時報1609号117頁)及び民法491条を根拠として,再度の差押命令申立てに当たって,第一取立金を申立日以降取立日までの遅延損害金に先に充当計算すべきである旨主張する。
 しかし,同決定は,債権差押命令の申立てのうち,申立ての日以降に発生する遅延損害金を請求債権とする部分について申立てを却下した原決定に対する抗告を棄却したものであって,先行する債権差押命令による取立てをした上で,後行の債権差押命令を申し立てるに際し,先行の債権差押命令における請求債権に記載された損害金,元本とは異なる充当を行うことを直接是認したものとはいえない。なお,債権差押命令の申立てにおいて,申立ての日以降に発生する遅延損害金を請求債権とすることを認めないのは,第三債務者に,遅延損害金計算の危険を負わせないためであって,債権執行手続に内在する制約である。

5 よって,本件申立ては理由がないからこれを却下することとし,申立費用の負担につき民事執行法20条,民事訴訟法61条を適用し,主文のとおり決定する。
 東京地方裁判所民事第21部
 (裁判官 岩田瑶子)
以上:2,987文字

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