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時効完成後の債権回収-平成13年3月13日福岡地裁判決復習

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平成30年10月31日(水):初稿
○「時効完成後の債権回収-平成28年年6月6日浜松簡裁判決復習」の続きで、この簡裁判決と同様に消滅時効完成後の債務承認に関して、債務者側に有利な最近の判例を紹介します。

○平成13年3月13日福岡地裁判決(判タ1129号143頁)も、貸金業者である控訴人の担当者は、その顧客である被控訴人が債務の一部を支払えば本件消滅時効の援用ができなくなるのを知りながら、威圧的言動を用いて支払を迫り、その結果恐怖心が生じて被控訴人が支払をしたこと等を総合考慮すると、信義則に照らし被控訴人に消滅時効の援用を認めてこれを保護するのが相当であるから、本件支払により被控訴人が本件消滅時効の援用権を喪失したとはいえないとして、消滅時効完成を認めた原判決を相当とし、控訴を棄却しました。

○債権者が貸金業者の場合、担当職員が、消滅時効期間経過が明らかなことを知りながら債務の一部でも支払えば消滅時効の援用を阻止できると考えて、威圧的な態度で支払を迫り、その結果、恐怖心が生じて債務者である顧客が債務を一部を支払った場合は、消滅時効援用権を喪失しないと覚えておいて宜しいでしょう。

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主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金108万5883円及び内金25万4267円に対する平成10年12月25日から支払済みまで年3割6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

二 控訴の趣旨に対する答弁
 主文同旨。

第二 当事者の主張
一 請求原因
1 控訴人は、被控訴人に対し、昭和57年12月8日、40万円を次の約定で貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。
(一)弁済期 昭和60年12月7日
(二)利息 日歩19銭
(三)遅延損害金 日歩22銭
(四)弁済方法 元金自由返済、利息は昭和58年1月8日を第一回とし、以後毎月8日限り同日までの利島を支払う。
(五)特約 右利息の支払を一回でも怠ったときは、催告なくして期限の利益を喪失し、残元本、残利息及び遅延損害金を即時に支払う。

2 被控訴人は、控訴人に対し、別紙計算書の支払日欄及び支払金額欄記載のとおり支払ったが、昭和58年6月8日、同日支払うべき利息の支払を怠った。

3 よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件消費貸借契約に基づき、別紙計算書記載のとおりに被控訴人の支払額を充当した後の残元本25万4267円及び残利息及び遅延損害金83万1616円合計108万5883円並びに右残元本25万4267円に対する期限の利益喪失日の後である平成10年12月25日から支払済みまで利息制限法所定の年3割6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求原因に対する認否

  (中略)

理   由
一 請求原因(本件消費貸借契約の成立)及び抗弁(本件消滅時効の完成)について
 請求原因1の事実及び請求原因2のうち被控訴人が別紙計算書の支払日欄及び支払金額欄記載のとおり支払った事実並びに抗弁1の事実は当事者間に争いがなく、抗弁2の事実は当裁判所に顕著である。
 そうすると、本件消費貸借契約の債務の存否は、被控訴人の時効援用権喪失の有無にかかっていることになるので、次にこの点について判断する。

二 再抗弁(時効援用権喪失)及び再々抗弁1(時効援用権喪失の再抗弁の信義則による制限)について
1 本件支払については当事者間に争いがなく、これに前記一の争いがない事実並びに証拠(乙1、5の1ないし8、6の1ないし6、9ないし11、15、原審証人甲野(ただし後記採用しない部分を除く。)、原審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件支払の経緯として以下の事実が認められ、証拠(原審証人甲野)中この認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 被控訴人は、貸金業者である控訴人との間で本件消費貸借契約を締結した後、別紙計算書の支払日欄及び支払金額欄記載のとおり昭和58年1月8日以降平成3年9月18日まで本件消費貸借契約の債務につき支払を続けてきたところ、控訴人は、被控訴人に対し、当初はその都度領収書兼残高確認書を交付していたが、平成2年11月21日の支払後は、右領収書兼残高確認書その他本件消費貸借契約の残債務を示す書類を交付しなくなった。

 なお、遅くとも平成元年2月20日以降の支払金については、本件消費貸借契約の債務のうち残元金に入金する旨の処理が行われており、被控訴人が本件消費貸借契約に関して昭和58年1月8日から平成3年9月18日までの間に支払った総額は69万5531円に達していた。

(二) 被控訴人は、平成3年9月18日の支払後は本件消費貸借契約の債務を支払わなくなったところ、平成9年4月21日ころ、控訴人から同日付けの本件消費貸借契約の残債務132万5417円につき支払を求める催告書が被控訴人に送られてきた。これに対し、被控訴人は、控訴人に連絡するなどはしなかった。

(三) 平成10年11月18日ころ、控訴人から同日付けの本件消費貸借契約の残債務につき支払を求める催告書が被控訴人に送られてきたが、右催告書には、本件消費貸借契約の残元金が9446円、残利息損害金が132万2025円である旨の記載があるとともに、「本書到着後、7日以内に御連絡ない場合は、返済の意志なきものとみなし裁判所を通じて返済を求める事になりますことを念のため申し添えます」との記載がされていた。

(四) そこで、同月25日夕方、被控訴人は、出先の公衆電話により控訴人に問い合わせたところ、電話に出た甲野は、右催告書送付の理由については何も説明せずに、「残っているので支払ってくれ。5万、10万、20万のどれか払える分だけ払え。そうすれば利息をチャラにしてやる。でなければ集金に行く。とにかく払え」などと怒鳴るような強い口調で言った。甲野のこのような態度に恐怖心を抱いた被控訴人は、どのように対応してよいかわからなかったため、「一回考えます」と言って右電話を切った。

 その後、帰宅した被控訴人は、甲野に対する右恐怖心から、携帯電話の番号を控訴人に控えられることを恐れて、公衆電話により再び控訴人に問い合わせたところ、再び電話に出た甲野は、控訴人に対し、「10万、20万、50万、80万、100万」などときつい口調で言う一方、「いくら払ったらいいんですか」と尋ねる被控訴人に、「自分の一存では判断できない。上司に聞かないとわからない」と答えた。この答えに被控訴人は「さっきと話が違うではありませんか」と尋ねたが、甲野は、同じことを繰り返すのみならず、利息を支払わなくてもよいという話をしなくなったばかりでなく、被控訴人に対して「すぐにでも取りにいく」とも言うようになった。

(五) 被控訴人は、当時アパートの一階で一人暮らしをしていたことから、甲野が集金に来ることに対して恐怖心を感じ、翌26日の朝出勤前に、手持ちの5000円を控訴人宛に振り込み、さらに、5000円では足りないと考え、同日の職場の昼休みには、5万円を控訴人宛に振り込んだ。そして、被控訴人は、電話により甲野にこれを確認したところ、甲野は、「毎月末にまた払ってくれ」と言い、「もう5万円も払えない」と言う被控訴人に対し、甲野は「1万でも2万でも払ってくれ」と言った。そこで、被控訴人は、同年12月24日、2万円を控訴人宛に振り込んだ。

(六) 甲野は、被控訴人に対し右支払請求をする際、本件消滅時効が完成していること及び消滅時効完成後に被控訴人が右債務を一部でも支払えば被控訴人は本件消滅時効を援用できなくなることを知っていた。
 以上の事実が認められる。

 ところで、控訴人は、甲野が被控訴人に対して威圧的な態度で本件消費貸借契約の債務の支払を請求したことはないと主張し、原審において甲野もそれにそう証言をする。
 しかし、右認定のとおり、被控訴人は甲野から電話で支払請求を受けた翌26日の早朝に5000円を控訴人宛に振り込んだ後、さらに同日昼に5万円を控訴人宛に振り込んでいるのであり、この支払の経緯に5万円という金額が別紙計算書の支払金額欄記載の他の金額よりはるかに高額であることを併せ考えると、被控訴人が切迫した心理状態のもとで本件支払をせざるを得なかったことが推測される。そうすると、被控訴人を右のような心理状態に追い込んだ言動が甲野にあったものと推測され、結局甲野の右証言内容は採用できず、ひいては控訴人の右主張も同様である。

2 周知のように、「債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである」とするのが最高裁判所の判例である。

 そうすると、債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をしたとしても、債権者及び債務者の各具体的事情を総合考慮の上、信義則に照らして、債務者がもはや時効の援用をしない趣旨であるとの保護すべき信頼が債権者に生じたとはいえないような場合には、債務者にその完成した消滅時効の援用を認めるのが相当といわなければならない。

 これを本件についてみるに、本件では、前記認定のとおり、控訴人は貸金業者であるのに対し、被控訴人はその顧客のひとりとして控訴人から金銭貸付を受けた者であること、控訴人は被控訴人から平成2年11月21日以降の支払に対して貸金業の規制等に関する法律18条(平成9年6月法律第102号による改正前のもの。)及び同法施行規則15条(平成10年6月総理府大蔵省令第三号による改正前のもの。)に定める書面を交付していないこと、被控訴人は、平成3年9月18日までに控訴人に対して本件消費貸借契約の元金40万円の約1.7倍に相当する金銭を支払っていること、控訴人の従業員である甲野は、本件消滅時効が完成していること及び被控訴人が本件消費貸借契約の債務の一部を支払えば本件消滅時効の援用ができなくなることを知りながら、威圧的言動を用いて本件消費貸借契約の残債務の一部支払を迫り、その結果恐怖心を生じた被控訴人が本件支払をしたものであること、その他本件支払の回数及びその金額などの諸事情が存する。

 そこで、これらの諸事情を総合考慮すると、信義則に照らして、被控訴人がもはや本件消滅時効の援用をしない趣旨であるとの保護すべき信頼が控訴人に生じたということはできず、被控訴人に本件消滅時効の援用を認めてこれを保護するのが相当というべきであるから、本件支払によって被控訴人が本件消滅時効の援用権を喪失したということはできない。
 以上のとおり、再々抗弁1(時効援用権喪失の再抗弁の信義則による制限)は理由があるので、本件消費貸借契約の債務は、本件消滅時効の援用によりすべて消滅していることになる。

三 結論
 したがって、その余の再々抗弁について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であるから、本件控訴は、理由がないものとしてこれを棄却することとする。
 よって、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官・中山弘幸、裁判官・野村朗、裁判官・佃浩介) 

別紙 利息制限法計算〈省略〉
以上:4,867文字

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