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自炊代行業者に自炊行為差止と損害賠償を認めた東京地裁判決全文紹介1

平成27年 3月28日(土):初稿
○超久しぶりに著作権の話題です。
平成26年10月22日知財高裁判決(判時2246号92頁)は、いわゆる自炊代行業者に対し、第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製してはならないとの差止めを認め、さらに損害賠償として弁護士費用相当額の支払を認めた平成25年9月30日東京地裁判決(判時2212号86頁)を支持して控訴を棄却しました。先ず平成25年9月30日東京地裁判決(判時2212号86頁)を4回に分けて紹介します。この訴えを提起したのは、東野圭吾、浅田次郎、大沢在昌、林真理子、永井豪、弘兼憲史、武論尊の各作家7人です。

○なお、ウィキペディアの解説によると、電子書籍に関する自炊(じすい)とは、自ら所有する書籍や雑誌を イメージスキャナ等を使ってデジタルデータに変換する行為(デジタイズ)を指す俗語であり、書籍の電子化の際、データを「自ら吸い込む」ことから「自炊」(「炊」は当て字)と呼ばれるようになったとのことです。

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主   文
1 被告株式会社サンドリームは,第三者から委託を受けて別紙作品目録1ないし7記載の作品が印刷された書籍を電子的方法により複製してはならない。
2 被告有限会社ドライバレッジジャパンは,第三者から委託を受けて別紙作品目録1ないし7記載の作品が印刷された書籍を電子的方法により複製してはならない。
3 被告株式会社サンドリーム及び被告Y1は,連帯して,各原告に対し,それぞれ金10万円及びこれに対する被告株式会社サンドリームにつき平成24年12月2日から,被告Y1につき同月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告有限会社ドライバレッジジャパン及び被告Y2は,連帯して,各原告に対し,それぞれ金10万円及びこれに対する被告有限会社ドライバレッジジャパンにつき平成24年12月2日から,被告Y2につき同月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告らの負担とする。
7 この判決は,1項ないし4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
 以下,被告株式会社サンドリームを「被告サンドリーム」,被告Y1を「被告Y1」,被告有限会社ドライバレッジジャパンを「被告ドライバレッジ」,被告Y2を「被告Y2」という。また,被告サンドリーム及び被告Y1を併せて「被告サンドリームら」,被告ドライバレッジ及び被告Y2を併せて「被告ドライバレッジら」,被告サンドリーム及び被告ドライバレッジを併せて「法人被告ら」という。

第1 請求
1 主文1項及び2項と同旨
2 被告サンドリーム及び被告Y1は,連帯して,各原告に対し,それぞれ金21万円及びこれに対する被告サンドリームにつき平成24年12月2日から,被告Y1につき同月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告ドライバレッジ及び被告Y2は,連帯して,各原告に対し,それぞれ金21万円及びこれに対する被告ドライバレッジにつき平成24年12月2日から,被告Y2につき同月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,小説家・漫画家・漫画原作者である原告らが,法人被告らは,電子ファイル化の依頼があった書籍について,権利者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し(以下,このようなスキャナーを使用して書籍を電子ファイル化する行為を「スキャン」あるいは「スキャニング」という場合がある。),その電子ファイルを依頼者に納品しているから(以下,このようなサービスの依頼者を「利用者」という場合がある。),注文を受けた書籍には,原告らが著作権を有する別紙作品目録1~7記載の作品(以下,併せて「原告作品」という。)が多数含まれている蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれている蓋然性が高いとして,原告らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し,
①著作権法112条1項に基づく差止請求として,法人被告らそれぞれに対し,第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに,
②不法行為に基づく損害賠償として,(ア)被告サンドリームらに対し,弁護士費用相当額として原告1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔被告サンドリームにつき平成24年12月2日,被告Y1につき同月4日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払,(イ)被告ドライバレッジらに対し,同様に原告1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔被告ドライバレッジにつき平成24年12月2日,被告Y2につき同月7日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を
求めた事案である。

1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 原告ら
 原告らは,小説家,漫画家,漫画原作者である(弁論の全趣旨)。

(2) 被告ら
 被告サンドリームは,第三者から注文を受けて,小説,エッセイ,漫画等の様々な書籍をスキャナーで読み取り,電子ファイル化する事業を行う株式会社である。被告Y1は,被告サンドリームの代表取締役である。
 被告ドライバレッジは,上記と同様の事業を行う特例有限会社である。被告Y2は,被告ドライバレッジの取締役である。

(3) 原告らの著作権
 原告X1は別紙作品目録1記載の作品を,原告X2は同目録2記載の作品を,原告X3は同目録3記載の作品を,原告X4は同目録4記載の作品を,原告X5は同目録5記載の作品を,原告X6は同目録6記載の作品を,原告X7は同目録7記載の作品をそれぞれ創作した者であり,上記各作品の著作権をそれぞれ有している(弁論の全趣旨)。

2 争点
(1) 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否(争点1)

ア 法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるか(争点1-1)
イ 法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるか(争点1-2)
ウ 原告らの被告サンドリームに対する差止請求が権利濫用に当たるか(争点1-3)

(2) 不法行為に基づく損害賠償請求の成否(争点2)

(3) 損害額(争点3)

3 争点に関する当事者の主張
(1) 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否(争点1)

ア 法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるか(争点1-1)
(原告らの主張)
(ア) 著作権(複製権)侵害のおそれ
a 法人被告らは,利用者から依頼のあった書籍については,著者,タイトル,ジャンル,出版社等のいかんに関わらず注文を受け付け,権利者の許諾を得ることなく,書籍をスキャンして電子ファイルを作成し,その電子ファイルを依頼者に納品している。
 当該行為は著作物を有形的に再製するものであり,複製権の侵害に当たる。
 そして,原告らは,いずれもわが国を代表する著名な作家であるから,法人被告らが注文を受けた書籍には原告作品が多数含まれている蓋然性が高いし,今後注文を受ける書籍にも含まれている蓋然性が高い。

b 原告らは,本件訴訟提起に先立つ平成23年9月5日,他の作家115名及び出版社7社(株式会社角川書店,株式会社講談社,株式会社光文社,株式会社集英社,株式会社小学館,株式会社新潮社,株式会社文藝春秋)と連名で,法人被告らを含む「自炊代行サービス」などと名乗るスキャン事業者約100社に対して,各事業者の事業の内容等に関する質問書(甲18)を送付した(甲19,21)。

 また,平成23年10月17日には,上記115名の作家に原告らを含めた122名の作家は,質問書に回答を行わなかった被告サンドリームに対し,通知人作家の作品について,スキャン事業を行うことは著作権侵害となる旨を告げた上で,今後は通知人作家の作品について,依頼があってもスキャン事業を行なわないよう警告するとともに,上記質問書における質問への回答を再度要請する通知書(甲25)を送付した(甲26)。

c 被告サンドリームは,これらの質問書や通知書に対し,何らの回答を行わなかった。他方,被告ドライバレッジは,今後は原告らを含む122名の差出人作家についてはスキャン事業を行わない旨回答し(甲23),そのウェブサイトにスキャン対応不可の著作者一覧として原告らを含む122名の差出人作家のリストを掲載しつつ(甲24),実際には原告作品を含む書籍についてスキャン事業を継続し,現に原告らの書籍について注文を受けてスキャニングを行っている。
       したがって,今後も,原告らの複製権が侵害されるおそれが認められ,原告らは,その侵害の停止又は予防を請求する権利を有する。

(イ) 被告サンドリームらに対する再反論
 原告らは,スキャン事業の実態及び侵害行為の事実を把握・確認するため,平成24年7月13日に,被告サンドリームの運営する「ヒルズスキャン」に対して試験的な発注を行っている。被告サンドリームは,当該発注に応じて,同年8月下旬にスキャン済みデータ及び裁断済み書籍を返却した(甲36)。
 当該発注に係る書籍の著作権者は,著作者がスキャン事業を許諾しない旨を明言した作家である(甲18)。それに対して被告サンドリームは質問書には回答もせず,スキャン及び裁断済み書籍の返却を行っている。
 被告サンドリームが現在は一時的に原告らの書籍のスキャンを行っていなくとも,再開のおそれ(将来における著作権侵害のおそれ)は依然として存在するのであるから,差止めの必要性が存することは明らかである。

(ウ) 被告ドライバレッジらに対する再反論
a 被告ドライバレッジは,著作権法上の「複製」といえるためには複製物の数の増加が必要であると主張するが,独自の見解にすぎない。

b 原告らは,スキャン事業の実態及び侵害行為の事実を把握・確認するため,平成24年7月31日に,被告ドライバレッジの運営する「スキャポン」に対して試験的な発注を行った。被告ドライバレッジは,当該発注に応じて,スキャン済みデータ及び裁断済み書籍を返却した(甲36)。
 被告ドライバレッジは,発注された書籍が原告らなどスキャン不可作家の作品であるか否かを目視によりチェックし,該当するものは返却していたと主張するが,原告らの作品のスキャン依頼に応じていた点は,上記のとおり明らかである。
 被告ドライバレッジが現在は一部の書籍のスキャンを行っていなくとも,著作権侵害のおそれ,差止めの必要性の判断において何ら影響を及ぼさない。

c 被告ドライバレッジらは,「(スキャン事業は)ユーザーが購入した書籍を対象としているから,その過程において,原告らには経済的損害は全くなく,損害発生のおそれがない」と主張するが,これ自体正しくない。当該主張を善解すれば,「①ユーザーは新書籍購入の対価を支払済みであり,②スキャンデータはユーザーが自己使用するだけなので」原告らに損害はないという趣旨であろうが,そもそも,これらが事実である保障は何ら存しない。また,①についていえば,書籍とこれをスキャンした電子データとは質的に異なる媒体であるから,当初の価格設定(ないし著作権使用料の額)が異なる可能性は十分にある。さらに,②についていえば,事後的な複製物の大量増加及び転々流通のおそれからすれば,少なくとも損害発生の「おそれ」は厳然として存する。

(被告サンドリームらの主張)
(ア) 原告らの主張(ア)に対する認否
 原告らの主張(ア)aは否認ないし争う。同(ア)bのうち,質問書(甲18)及び通知書(甲25)が被告サンドリームに送付されたこと(甲19,26)は認める。同(ア)c第1段落のうち,被告サンドリームが何らの回答を行わなかったことは認め,原告作品を含む書籍についてスキャン事業を継続し,現に原告らの書籍について注文を受けスキャニングを行っていることは否認する。同(ア)c第2段落は否認ないし争う。

(イ) 反論
 被告サンドリームは,現在,原告らの書籍は取り扱っておらず,原告らに対する権利侵害行為やそのおそれはない。具体的には,ホームページの会員専用ログイン・ページ(甲4のログイン欄)に,その旨を明記しており(乙1),原告らの書籍が送付された場合は,スキャン(電子データ化)せずそのまま返送する対応を取っている。

(被告ドライバレッジらの主張)
(ア) 原告らの主張(ア)に対する認否
 原告らの主張(ア)a第1段落のうち,「著者,タイトル,ジャンル,出版社等の如何を問わず注文を受け付け」の部分を否認し,その余は認める。同(ア)a第2段落は否認ないし争う。同(ア)a第3段落は,原告らが我が国を代表する著名な作家であることは認め,その余は否認する。同(ア)bは認める。同(ア)c第1段落は,被告ドライバレッジが原告作品を含む書籍についてスキャン事業を継続している旨の主張は否認し,その余は認める。被告ドライバレッジは,そのサービスを許容しない作家の作品については,スキャン等の複製を実施しない方針である。被告ドライバレッジは,平成23年10月から平成25年1月までの間にチェック漏れにより,原告ら書籍557冊をスキャンしたことは認めるが,同期間の納品数と比較すると多数とはいえない。同(ア)c第2段落は否認ないし争う。

(イ) 「複製」の不存在
 「複製」といえるためには,オリジナル又は複製物に格納された情報を格納する媒体を有形的に再製することに加え,当該再製行為により複製物の数を増加させることが必要である。けだし,当該再製行為により複製物の数が増加しない場合(情報と媒体の1対1の関係が維持される場合)には,市場に流通する複製物の数は不変であり,著作者の経済的利益を害することがないからである。言い換えれば,「有形的再製」に伴い,その対象であるオリジナル又は複製物が廃棄される場合には,当該再製行為により複製物の数が増加しないのであるから,当該「有形的再製」は「複製」には該当しない。

 これを本件について見ると,本件訴訟において問題となっている小説及び漫画に関する限り,「スキャポン・サービス」(被告ドライバレッジのスキャン事業)においては,複製物である書籍を裁断し,そこに格納された情報をスキャニングにより電子化して電子データに置換した上,原則として裁断本を廃棄するものであって,その過程全体において,複製物の数が増加するものではないから,「複製」行為は存在しない。

 以上のとおり,本件訴訟において問題となっている小説及び漫画に関する限り,スキャポン・サービスにおいては,「複製」が存在せず,著作権(複製権)侵害は成立しない。
以上:6,123文字

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