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将来の退職金請求権は財産分与の対象になるか5

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令和 5年 7月 8日(土):初稿
○「将来の退職金請求権は財産分与の対象になるか4」の続きで、将来の退職金請求権の財産分与について、将来退職金支給時期の財産分与としての支払金額については、現時点で確定的な予測をすることは困難として、予め特定の額を定めず、手取りの退職手当支給額に乗じるべき退職時期を変数とする計算式を定め、これにより定まる金額を将来の退職時に支払うよう命じた平成19年1月23日大阪高裁判決(判タ1272号217頁)退職金関連部分を紹介します。

○この判決では、現在時点での支払金額を定めるのではありませんので、中間利息控除は不要です。しかし、将来退職時点で支払うべき金額が定まっていないため、義務者が任意に支払わない場合は、直ちに強制執行はできず、改めて確定金額の支払を求めて訴えを提起して、判決(債務名義)を取得する必要があると解説されています。

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主   文
1 (中略)
2 本件控訴及び附帯控訴に基づき,原判決主文4項を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,被控訴人が中小企業金融公庫から退職手当を支給されたときは,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の計算式によって求められる退職手当財産分与額の金員を支払え。
3 (中略)

事実及び理由
第1 当事者の求める裁判


         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 判断の大要


         (中略)

(4)退職手当の財産分与について
 中小企業金融公庫の退職手当については,その支給は,ほぼ確実であるものの,金額について現時点で確定的な予測をすることは困難である。
 したがって,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の退職手当財産分与額のとおり,実際の支給額(手取額)から,控訴人の寄与割合に相当する割合を定めて支払を命ずるのが相当である。退職手当の支給額に対する控訴人の寄与割合は,勤続期間に占める婚姻同居期間の割合も考慮し,現時点で退職した場合において支給額の4分の1の割合とするのが相当である。

         (中略)

(2)退職手当について
 19頁11行目から21頁下から8行目までの全文を次のとおり改める。
「イ 退職手当
 被控訴人は,昭和51年4月から中小企業金融公庫の職員として勤務し,55歳となった現在まで30年8か月勤続し,定年まで勤務したとしても5年以内に退職することが見込まれる(甲25,被控訴人本人)。そして,中小企業金融公庫においては,職員が退職したときは,別紙
2「職員退職手当支給規程」(甲17。以下「規程」という。)に定めるところにより職員に退職手当を支給することとされている(規程1条,2条)。
 退職手当の金額は,基準俸給額(退職当時の本俸の額。ただし,満57歳を超えて勤務する職員については,退職当時の本俸の額と満57歳の誕生日の前日における本俸の額のいずれか高い額)に規程4条に定める支給割合を乗じて得た金額とされている(規程3条)。
 支給割合は,勤続30年で100分の5000であり(規程4条1号ないし4号),勤続30年を超える場合は,これに勤続30年を超える勤続期間1年につき100分の100を加えるが(規程4条5号),最大でも100分の5500をこえないこととされている(規程4条柱書のただし書)。

 ただし,職員が懲戒処分を受け,又は禁こ以上の刑に処せられたことにより退職させられた場合には,退職手当は支給せず(規程7条1項),自己の都合により退職する場合又は規程7条1項の規定する事由に準ずる事由により退職させられた場合には,退職手当の額から,これに100分の50以内の割合を乗じて得た額を減額することができるとされている(規程7条2項)。

 また,勤続期間において公庫厚生年金基金の加算適用加入員であったときは,勤続期間30年をこえる場合には,規程3条による退職手当の額から,その額に100分の3の割合を乗じて得た額を減額することとされている(規程7条の2)。

 以上によれば,被控訴人が中小企業金融公庫を退職したときは,被控訴人に対し,規程に基づく退職手当が支給されることには,ほぼ確実な見込みがあるといえる。そして,退職手当には勤労の対価の後払いの性質があり,かつ,婚姻から別居までの期間は,15年5か月余りで,控訴人が,その間,専業主婦として,被控訴人の勤務の継続に寄与してきたと認められることからすると,被控訴人が支給を受ける退職手当には,少なくともその一部には,夫婦が共同して形成した財産としての性質があり,これを考慮して,退職手当の支給額の一部を財産分与することが相当と認められる。

 しかし,実際に支給される退職手当の額は,なお,定年まで5年程度の期間があることを考えると,それまでの間に退職手当の算定基礎である本俸が変動することにより,あるいは退職事由の如何により,相当程度変動する可能性が残されている。ちなみに,規程では,自己都合退職の場合,定年退職の場合の2分の1程度に減額される可能性もある。更には,退職手当に関する制度自体に変更が生ずる可能性もないとはいえない。

 そうすると,本件の場合において退職手当を財産分与するについては,あらかじめ特定の額を定めるのではなく,実際に支給された退職手当の額(退職手当に係る所得税及び住民税の徴収額を控除した額)を基礎として,退職時までの勤続期間に基づいて定まる割合を乗じて得られる額とすべきである。そして,この割合は,後に詳述するとおり,実際の支給額のうち勤続期間30年に対応する額に,勤続期間30年分の退職手当額についての控訴人の寄与割合4分の1を乗じた金額とすべきである。」

         (中略)

8 退職手当の財産分与について
 上記のとおり,夫婦の間の婚姻期間中の財産形成についての寄与割合2分の1,現時点で退職した場合の勤続期間約30年,別居までの婚姻期間はその勤続期間の2分の1の約15年であるから,仮に,現時点で退職した場合には,被控訴人は,控訴人に対し,退職手当が支給されたときに,実際に支給される退職手当(ただし,所得税及び住民税の徴収額を控除した額)の4分の1の割合の額を財産分与として支払うこととするのが相当である。すなわち,勤続期間に占める婚姻同居期間の割合2分の1に,夫婦間の寄与割合2分の1を掛けて得られる4分の1の割合の財産分与をするのが相当であるからである。

 ただし,現時点で退職した場合の支給割合は,基準俸給額の100分の5000(50か月分)であるが,平成19年3月以降に退職する場合には,勤続期間が31年になり,以後勤続期間1年につき支給割合100分の100(1か月分)増えることになる。そして,勤続期間が今後31年を超えることにより支給割合が増えることによる退職手当の増加については,控訴人の寄与はない。そして,この勤続期間の増加による支給割合の上昇は,支給割合が100分の5500(55か月分)に達するまで認められている。

 そうすると,勤続期間が30年を超えて退職した場合には,実際に支払われる退職手当のうち,勤続期間30年の場合の支給割合(100分の5000)に相当する退職手当の額に対し,上記4分の1の割合を掛けるのが相当である。
 勤続期間が30年を超える場合において,勤続期間30年の場合の支給割合に相当する退職手当の額の割合は,次のとおりとなる。

勤続31年の場合(平成19年3月以降,平成20年2月以前に退職した場合) 51分の50
勤続32年の場合(平成20年3月以降,平成21年2月以前に退職した場合) 52分の50
勤続33年の場合(平成21年3月以降,平成22年2月以前に退職した場合) 53分の50
勤続34年の場合(平成22年3月以降,平成23年2月以前に退職した場合) 54分の50
勤続35年以上の場合(平成23年3月以降に退職した場合) 55分の50

 以上によれば,被控訴人が控訴人に対し,退職手当の財産分与として支払うべき額は,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の計算式によって求められる退職手当財産分与額のとおりとなる。

         (中略)

別紙1
 退職手当財産分与計算式

退職手当財産分与額=退職手当支給額(ただし、所得税及び住民税の徴収額を控除した額)÷4×50÷A
(計算式の説明)
 Aは,被控訴人が中小企業金融公庫を退職した時期に応じて次の数値を用いる。 
平成19年2月以前に退職した場合 A=50
平成19年3月以降,平成20年2月以前に退職した場合 A=51
平成20年3月以降,平成21年2月以前に退職した場合 A=52
平成21年3月以降,平成22年2月以前に退職した場合 A=53
平成22年3月以降,平成23年2月以前に退職した場合 A=54
平成23年3月以降退職した場合 A=55
別紙2 職員退職手当支給規程〈省略〉
以上:3,657文字

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