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婚姻実体がないことを理由に婚姻費用請求を却下した家裁審判紹介

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令和 5年12月 1日(金):初稿
○申立人(妻)と相手方(夫)は、令和2年1月に知り合い、同年6月6日交際開始・婚約をして、8月13日婚姻届出をするも、週末に会う程度で同居せず、10月12日に申立人が同居を拒否し、以降会わなくなりました。しかし、申立人は13日に婚姻費用支払を要求し、相手方が支払に応じないため令和3年4月婚姻費用分担調停を申し立て、相手方は夫婦関係円満調整調停申立をしました。然るに、両事件とも申立人が一度も出頭せず、婚姻費用分担調停が審判に移行しました。

○当事者間の婚姻は余りに尚早の婚姻届出であって、本件において当事者間の夫婦共同生活を想定すること自体が現実的ではないということができ、そのような事実関係の下では、当事者間で婚姻が成立しているとはいえ、通常の夫婦同居生活開始後の事案のような生活保持義務を認めるべき事情にはなく、申立人は、現在の申告所得は相手方に及ばないものの、高い学歴と資格を有し、働く意欲も高いため、潜在的な稼働能力が同年代の平均的な労働者に比べて劣るとは考えにくく、婚姻前と同様に自己の生活費を稼ぐことは可能であって、具体的な扶養の必要性は認められないとして、婚姻費用分担申立を却下した令和4年6月17日横浜家裁審判(判タ1512号101頁・判時2567号41頁)全文を紹介します。

○端的に言うと婚姻届をしても婚姻実体がないので生活保持義務はなく婚姻費用支払義務がないとするもので、事案からは妥当な結論と思いましたが、高裁で覆され、高裁決定は別コンテンツで紹介します。

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主    文
1 本件申立てを却下する。
2 手続費用は各自の負担とする。

理由の要旨
第1 申立ての趣旨

 相手方は,申立人に対し,婚姻費用分担金として相当額を支払え。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 事実の調査の結果によれば,次の事実を認めることができる。
(1)申立人(昭和57年*月*日生)と相手方(昭和54年*月*日生)は,令和2年1月からよく会うようになり,同年6月6日頃交際を開始すると同時に婚約し,結婚式や披露宴は行わず,同年8月13日婚姻の届出をしたが,入籍後も週末に会う程度で同居せず,夫婦としての生活を開始しないまま,同年10月12日申立人から同居を拒否し,以後は会わなくなった。申立人は,相手方に対し,同月13日「別居している配偶者にも生活費渡す義務あるよ。毎月お願いします。」とのメールを送信して生活費の支払を要求した。

(2)申立人は,相手方が申立人の浮気を疑うような発言を繰り返し,携帯電話から男性の電話番号の登録を抹消するよう申立人に要求したことから支配欲を感じたこと,相手方が結婚後は家事を完璧にこなすよう申立人に言いつけたことから,行政書士として働き続ける意向の申立人とは夫婦観,人生観に基本的な相違があることを,相手方宛の手紙で主張していた。

(3)相手方は,申立人と同居するため建物賃貸借契約を締結していたが,同居ができないため解約し,契約費用約40万円を無駄にした。相手方は,申立人に対し,令和3年2月25日に10万円を送金したほかは,婚姻費用の支払をしていない。

(4)申立人は,令和3年4月14日,婚姻費用の分担を求める旨の家事調停の申立てをした(横浜家庭裁判所同年(家イ)第1413号)。相手方は,同年7月2日,申立人と相手方間の婚姻関係を円満に調整する旨の家事調停の申立てをした(同第2588号)。上記両事件は,申立人本人が一度も出頭せず,令和4年3月22日調停不成立となり,婚姻費用分担につき本件審判手続に移行した。

(5)申立人は,父母とともに実家に居住している。申立人は,大学院を卒業し,平成27年8月から行政書士業を自営しており,住所地を事業所としている。
 申立人の令和2年の収入は,持続化給付金100万円を含む事業収入約217万円と配当収入約18万円であったが,事業収入については,水道光熱費約9万円,通信費約13万円,接待交通費約7万円,減価償却費約3万円,地代家賃約57万円,その他経費約14万円等の合計約139万円の経費を計上し,青色申告特別控除額65万円を控除した約13万円を事業所得として確定申告している。

 申立人の令和3年の収入は,一時支援金約26万円,月次支援金約30万円,○○支援給付金約8万円を含む事業収入約237万円,配当収入約18万円及び給与収入約3万円であったが,事業収入については,水道光熱費約10万円,通信費約14万円,接待交通費約7万円,減価償却費約3万円,地代家賃約58万円,その他経費約37万円等の合計約174万円の経費を計上し,青色申告特別控除額を控除して事業所得なしと確定申告している。

(6)相手方は,賃料月額約7万円の借家に居住している。相手方は,大学を卒業し,広告代理店のコーポレート業務に従事しており,令和3年の給与収入は約536万円であった。相手方は,同年7月31日,自宅療養及び定期的な通院加療を要するうつ病との診断を受けた。

2 検討
(1)夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用(婚姻費用)を分担する(民法760条)。ここにいう婚姻費用とは,婚姻共同生活を営む上で必要な一切の費用をいう(泉久雄「親族法」有斐閣111頁参照)。

 夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない(民法752条)。夫婦が同居して共同生活を営むと,各自独立して生活していたときとは異なり,共同化した家事や育児を分担することで,夫婦の一方は就労の制約を受けながら,内助の功により他方の勤労を支え,これにより得た収入から扶助を受けるという相互的な協力扶助関係が成立する。そうした夫婦の同居協力関係の下での夫婦間の扶助は,自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務となると解される。

夫婦が同居生活を始めた後で,後に夫婦の別居が開始した場合であっても,育児の分担関係が残っていれば,同居中からの協力関係は継続しているから,同居中の生活保持義務も継続させる必要が認められるし,そうでなくても,同居中の家事や育児の分担の犠牲で就職機会を逃した無責の主婦等に対しては,相当期間,同居中の生活保持義務を継続させる必要が認められる。

(2)申立人は、相手方と婚姻後も一度も同居しないまま,相手方との同居を拒んだ結果,相手方との夫婦生活が成立せず,婚姻前と同様に,両親とともに実家に暮らして行政書士業を続けている。
 申立人の相手方へ宛てた手紙での発言に照らすと,申立人が相手方との同居を拒む主たる理由は,相手方の支配欲や,夫婦観,人生観が基本的に申立人と相容れないことにあると認められる。

そうすると,申立人と相手方が夫婦としての共同生活を始めることは,水と油のように元々無理なことであって,互いに相手の性格傾向や基本的な夫婦観,人生観を理解するのに十分な交流を踏まえていれば,そもそも当事者間で婚姻が成立することもなかったと推認することができる。言い換えると,当事者間の婚姻は余りに尚早の婚姻届出であって,本件において当事者間の夫婦共同生活を想定すること自体が現実的ではないということができる。

(3)以上の事実関係の下では,当事者間で婚姻が成立しているとはいえ,通常の夫婦同居生活開始後の事案のような生活保持義務を認めるべき事情にはないというべきである。申立人は,現在の申告所得は相手方に及ばないものの,高い学歴と資格を有し,働く意欲も高いため,潜在的な稼働能力が同年代の平均的な労働者に比べて劣るとは考えにくく,婚姻前と同様に自己の生活費を稼ぐことは可能であって,具体的な扶養の必要性は認められないから,相手方に婚姻費用分担金の支払をさせる具体的な必要は認められない。

3 結論
 よって,本件申立ては理由がないから,主文のとおり審判する。裁判官 高谷英司
以上:3,249文字

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