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統合失調症入院患者自殺について病院不法行為責任一部認定高裁判決紹介

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令和 6年 2月23日(金):初稿
○「統合失調症入院患者自殺について病院不法行為責任が否認された地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和3年3月12日高松高裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○被控訴人香川県の運営する病院に統合失調症で入院していた亡dが、本件病院から無断外出し、付近のマンションから飛び降りて死亡したことについて、亡dの母である控訴人及び父である原審相原告bが、本件病院が亡dの自殺を防げなかったのは亡dとの診療契約上の安全配慮義務違反に当たる旨主張して、被控訴人に対し、診療契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金等の支払を求め、原審が控訴人及び原審原告bの請求を棄却しました。

○控訴人が控訴するとともに、本件病院の医師が、亡dに対し、本件病院のほかに無断離院防止策を講じている病院と比較して、入院すべき病院を選択できる機会を保障すべき義務があったにもかかわらず、その義務を履行しなかったとして、債務不履行による損害賠償請求を予備的請求として追加しました。

○高松高裁判決でも、本件入院中、本件病院の医師において、亡dが自殺に及ぶことの予見可能性があったとはいえないから、被控訴人が本件診療契約上の債務不履行責任を負うとして、一審同様、主位的請求は棄却し、主位的請求の控訴は棄却しました。

○控訴人の予備的請求については、無断離院防止策の有無・内容が契約上の重大な関心事項になっていたということができ、そうであった以上、亡dが本件病院のほかに、無断離院防止策を講じている病院と比較して、入院すべき病院を選択できる機会を保障する義務を負っていたと解するのが相当であり、その説明を何らしていなかった被控訴人は、亡dに対し、本件診療契約上の説明義務違反による損害賠償義務を負うというべきであるととして200万円の慰謝料を認め、内2分の1を相続した控訴人に対し弁護士費用と合わせて110万円の支払を命じました。

○これに対し、被控訴人が上告し、判例時報令和6年2月21日号掲載令和5年1月27日最高裁判決となっており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 控訴について
 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における予備的請求について。
(1)被控訴人は,控訴人に対し,110万円を支払え。
(2)控訴人の当審におけるその余の予備的請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は,これを10分し,その9を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は,第2項(1)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判

1 控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は,控訴人に対し,1100万円及びこれに対する平成29年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(請求を減縮した。)(主位的請求)。
2 控訴人の当審における予備的請求の趣旨
 被控訴人は,控訴人に対し,350万円を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

(1)亡d(以下「d」という。)は,被控訴人との間で,統合失調症の治療のために,被控訴人が設置及び運営する香川県立丸亀病院(以下「本件病院」という。)に任意入院(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〔以下「精神保健福祉法」という。〕20条,21条)する旨の診療契約を締結し,入院していたが,入院中に本件病院から無断離院し,本件病院付近のマンションから飛び降り自殺を図り,多発臓器破裂による大量出血で死亡した(以下「本件事故」という。)。

 本件は,dの母である控訴人及び父である原審相原告b(以下「原審原告b」という。)が,本件病院がdの自殺を防げなかったのはdとの診療契約上の安全配慮義務違反に当たる旨主張して,被控訴人に対し,診療契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,損害金各2864万3166円及びこれに対する履行催告の日の翌日である平成29年6月20日(控訴人が民事調停の申立てをした日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下,単に「民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(2)原審は,控訴人及び原審原告bの請求をいずれも棄却した。
 控訴人は,原判決を不服として控訴し,前記第1の1記載のとおりの裁判を求めた(原審請求の一部を減縮した。)。
 また,控訴人は,当審において,本件病院の医師が,dに対し,本件病院外に外出する許可を受けていなくても,患者自身で無断離院をしないよう注意しなければ,無断離院して自殺事故の危険性があることを説明して,本件病院のほかに,無断離院防止策を講じている病院と比較して,入院すべき病院を選択できる機会を保障すべき義務があったにもかかわらず,その義務を履行しなかったため,dが他の病院に入院する選択をすることができず,dの自己決定権を侵害し,損害金350万円の損害を被った旨の債務不履行による損害賠償請求を予備的請求として追加した。
 なお,原判決中,原審原告bに関する部分は,原審原告bから控訴がなく確定している。

2 前提事実

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実


     (中略)

3 被控訴人の説明義務違反の有無(予備的請求関係)(争点(2))について
(1)説明義務の発生と説明すべき内容について

ア 医師の説明義務は,患者が自らの意思で当該医療行為を受けるか否かを決定するという人格権の一内容としての自己決定権と直結したものであり,医師は,患者が自らの意思でいかなる医療行為を受けるかを決定することができるように,当該疾患の診断,実施予定の療法の内容,危険性など必要な情報を説明すべき義務がある。

 そして,医師の患者に対する説明義務が発生する典型的な場面は,患者の身体に対する侵襲行為の同意の前提としての説明義務であるものの,説明義務が患者の自己決定権の前提となるものであることからすると,当該患者が自己決定をするにあって必要と考えられる事項の説明をすべきであるといえる。

したがって,医師としては,通常の患者が必要とする情報のほか,特にその患者が関心を持っている情報については,その希望に相応の理由があり,医師においてそうした患者の関心を知った場合には,当該患者が自己決定をする上で必要なものとして,その情報も提供すべき義務,すなわち,説明義務があると解するのが相当である。

イ これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,統合失調症患者の処遇に関して,精神科においては,他の診療科と比較して,無断離院,すなわち,入院患者が医療者側の治療上必要と考える行動範囲あるいは時間を超え,所定の手続をとることなく無断で病院を離れ,患者が所在不明になることが5倍(14.5%÷2.9%=5)にも及び,無断離院をした際には,自殺等の二次的な事故の発生が最も危惧されるとの知見や,統合失調症患者の自殺率は一般人と比較して8~10倍に及び,統合失調症患者の30~50%が生涯に自殺を企図し,4~10%が自殺既遂に至るとの知見があること,e医師も,開放病棟入院中の者については,無断離院中の自殺に注意する必要がある旨述べていることが認められる。そして,前記認定事実によれば,精神科病院の中には,入院患者の無断離院防止策として,そのリスクの高い患者につき,院内の移動に付添いを付けること,当該患者の顔写真を配付すること,当該患者に徘徊センサーを装着することなどの対策を講じている病院が存在することが認められる。

 これらによれば,精神科病院に任意入院をする統合失調症の患者にとっては,一般的に,他の疾病と比較しても,無断離院をした上で自殺に及ぶ危険性が類型的に高いという特質を有するため,統合失調症の診断,実施予定の療法の内容,危険性などのほか,当該病院施設における任意入院患者の無断離院防止策の有無やその実効性についても,重大な関心事項であるといえる。

 加えて,前記認定事実によれば,dは,統合失調症の症状が再発したために自ら本件病院を外来受診して本件入院になったこと,本件入院中には,他の入院患者とトラブルになり,自ら希望して保護室に入室したこともあったことが認められ,これらによれば,dは,自ら自傷他害行為に及ぶおそれがあると認識する一方で,本件病院に入院していれば適切に自己の症状を管理してくれるのではないかと期待していたと推認することができる。そうすると,dにとっても,本件病院における無断離院防止策の有無・内容が重大な関心事項であったということができる。そして,これまでのdの本件病院の入通院歴に照らせば,本件病院の医師やe医師にとっても,dが,本件病院における無断離院防止策の内容に重大な関心を持っていたことを認識していたと認められる。

 そうであるとすれば,dと被控訴人との間の本件診療契約においては,被控訴人が本件病院施設において講じていた無断離院防止策の有無・内容は,契約上の重大な関心事項になっていたということができる。

ウ ところで,前記認定事実によれば,本件病院施設における無断離院防止策は無いに等しかったこと、すなわち,医師が患者に院内単独外出の許可を出すと,院外単独外出の許可を出していなくても,平日の昼間であれば,本件病院の門扉は開放されたままで,守衛や警備員を配置しておらず,また,監視カメラも設置されておらず,入院患者に徘徊センサーを装着させてもいなかったため,病棟外に患者が出てしまえば,事実上自由に院外にもでることができ,患者が無断で院外に出ても,病院関係者はそれに気付かないという実態であったことが認められる。

 他方で,前記認定のとおり,dは,本件入院までに本件病院に過去6回入院をしたことがあったものの,dや控訴人が過去の入院の際に,本件病院施設の無断離院防止策の有無・内容について本件病院関係者から説明を受けた形跡はなく,また現実に無断離院をしたこともなかったのであって,院外単独外出の許可を受けていなくても容易に本件病院の敷地外に無断離院をすることが可能であることを認識していたとは認められない。 

 そうであるとすれば,dにとって,本件病院における無断離院防止策の有無・内容が本件診療契約上の重大な関心事項であった以上,e医師は,本件診療契約上の債務に付随する信義則上の義務として,dに対し,本件病院においては,平日の昼間は,門扉は開放され,その管理をしておらず,特段の無断離院防止策を講じていないため,院内単独外出許可を受けた患者自身で無断離院をしないように注意しなければ,無断離院して自殺事故の危険性があることを説明して,dが本件病院のほかに,無断離院防止策を講じている病院と比較して,入院すべき病院を選択できる機会を保障する義務を負っていたと解するのが相当である。

(2)説明すべき相手方について
ア 上記のとおり,説明義務は,患者の自己決定権を保障するためのものであるから,医師が上記説明義務を履行すべき相手方は,原則として患者本人であるが,患者本人に意思能力があるか疑わしい場合には,患者本人に加えて,患者の法定代理人又はそれに代わるべき近親者の双方に対して説明をする義務を負うと解するのが相当である。

イ これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,dは,統合失調症に罹患しており,本件病院に入院する前の平成21年11月20日頃から言動にまとまりがなくなり,同月26日に被控訴人との間で本件診療契約を締結した時点では,e医師に対し,「衛星に見張られて苦しい。行動をみんな監視されていて苦しい。」などと意味不明の発言をしていたこと,e医師は,上記のようなdの言動に照らして,dの精神状態につき,幻覚妄想状態として関係妄想(他人が自分を監視しているなどと,他人が自己に関係していると思い込む妄想),心気妄想(軽い病気を重く感じて,何もできないと思い込む妄想),思考形式の障害(思考がまとまっていない状態であること)及び奇異な行為(子どもじみた行為に及んだり身なりや衛生面が不適切になったりすること),精神運動興奮状態として滅裂思考(思考が支離滅裂の状態であること),人格の病的状態として欠陥状態(完全な人格荒廃状態に至る前に病勢が停止し,その人格に欠陥像を残している状態)を認めていたことが認められ,これらを前提とすれば,本件診療契約締結時におけるdの意思能力については,これがあるか疑わしい状況にあったと認めるのが相当である。

 他方,前記認定事実によれば,控訴人は,dの1回目の入院から本件入院まで,本件病院に任意入院していたdの見舞いに来ていたほか,dが本件病院の医師の許可を得て外出や外泊をする際には付き添っていたことが認められ,dの実母として療養看護を行っていたことが明らかである。
 そうすると,本件病院の医師としては,本件入院の時点で,控訴人に対し,上記(1)の内容の説明をすべき義務を負っていたと解するのが相当である。


(3)説明義務の不履行について
 前記認定事実によれば,被控訴人(本件病院)は,d及び控訴人に対し,上記(1)の説明を何らしていなかったと認められる。
 したがって,被控訴人は,dに対し,本件診療契約上の説明義務違反による損害賠償義務を負うというべきである。


(4)被控訴人の主張について

     (中略)

4 控訴人の損害額(主位的請求及び予備的請求関係)(争点(3))について
(1)dの死亡による損害について(主位的請求関係)

 前記のとおり,本件事故でdが死亡したことにつき,被控訴人が債務不履行責任を負うとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の主位的請求は理由がない。

(2)説明義務違反による損害について(予備的請求関係)
ア 慰謝料額について
(ア)前記のとおり,被控訴人(本件病院)には説明義務違反が認められるが,被控訴人が説明義務を尽くしていれば,dが本件病院に入院せず,あるいは入院しても自殺を防止できたことを認めるに足りる的確な証拠はないから,説明義務違反に基づいて,dの死亡による損害を認めることはできない。

(イ)そうすると,被控訴人の説明義務違反によって侵害された利益は,dが本件病院に入院するに当たり,本件病院の無断離院防止策の有無・内容について説明されなかったことに係る精神科病院選択の機会における自己決定権に留まる。
 そして,被控訴人においては,この点について慰謝料支払義務が認められるが,その額は,本件に現れた諸般の事情を斟酌し,200万円をもって相当と認める。

イ 控訴人の相続について
 前記前提事実記載のとおり,dは平成22年7月1日に死亡し,上記のdの被控訴人に対する慰謝料請求権を母である控訴人及び父である原審原告bが2分の1ずつ相続した。
 したがって,控訴人は,上記200万円の2分の1である100万円の損害賠償請求権を有している。

ウ 控訴人の弁護士費用
 本件事案の内容,難易度,認容額,その他諸般の事情を考慮すると,本件と相当因果関係の認められる弁護士費用の額は10万円をもって相当と認める。

エ まとめ
 以上によれば,被控訴人は,控訴人に対し,診療契約上の債務不履行により損害金110万円の損害賠償義務がある。

5 結論
 以上によれば,控訴人の主位的請求は理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないが,控訴人の当審における予備的請求は,損害金110万円の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきである。
 よって,本件控訴を棄却し,被控訴人に,控訴人に対し,110万円の支払を命じることとして,主文のとおり判決する。
高松高等裁判所第2部 裁判長裁判官 神山隆一 裁判官 千賀卓郎 裁判官 上田元和
以上:6,528文字

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