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内縁夫交通事故死亡で内縁妻に扶養請求権侵害損害と慰謝料を認めた判例紹介1

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平成28年 1月 6日(水):初稿
○内縁の夫が交通事故により死亡した場合、その内縁の妻の扶養料請求権侵害の損害と慰謝料を認めた平成27年5月19日東京地裁判決(判時2273号94頁)全文を2回に分けて紹介します。判決は、扶養請求権侵害については約1167万円の請求に対し約556万円、固有の慰謝料については、1500万円の請求に対し500万円を認めています。もう少し認めてくれても良いのではとの感想ですが、内縁夫婦間での一方の交通事故死亡による損害賠償請求事例は余りなく、裁判官としては大胆に認めるのはためらわれたと思われます。

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主  文
1 被告は,原告に対し,630万5774円及びこれに対する平成25年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを50分し,その39を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,2868万2731円及びこれに対する平成25年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,亡A1ことA(以下「亡A」という。)が運転する自転車(以下「A車」という。)と被告が運転する普通貨物自動車(以下「被告車」という。)との間で発生した交通事故(以下「本件事故」という。)について,亡Aと内縁関係にあったと主張する原告が,民法709条に基づき,被告に対し損害賠償金及びこれに対する不法行為の日(本件事故の日)である平成25年4月19日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実
 次の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠(枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 以下の本件事故が発生した(甲1,16)。
ア 発生日時 平成25年4月19日午後10時25分頃
イ 発生場所 千葉県船橋市西船4丁目18番12号先路上
ウ A車 亡Aが運転する自転車
ウ 被告車 被告が運転する普通貨物自動車
エ 事故態様 上記発生場所は北西から南東に延びる国道14号線(以下「本件道路」という。)と住宅街に通じる市道が交差する丁字路交差点(以下「本件交差点」という。)付近である。本件道路を南東方面から進行していた被告車が,進路前方を右方から左方に向かい横断進行中のA車に衝突した。

(2) 亡A(当時63歳)は,本件事故により,外傷性びまん性軸索損傷等の傷害を負い,同日午後11時55分頃,死亡した(甲16)。

(3) 被告は,前方左右の不注視等の過失により本件事故を発生させており,民法709条に基づき,本件事故により生じた損害を賠償する責任を負う。

(4) 原告は,被告が加入する保険会社から,損害の填補の趣旨で合計60万円の支払を受けた。

3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 事故態様,過失相殺
(原告の主張)
 被告は,本件
事故直前に進路前方にある電光交通情報板を見ながら運転しており,脇見運転や前方不注視等の著しい過失があった。
 本件事故は,被告の前方不注視と,本件道路を横断しようとした亡Aの横断のタイミングの誤りによって発生したものであり,亡Aには通常想定される程度を越える著しい過失はない。また,本件道路は,片側1車線,車道幅員11メートルに過ぎず,幹線道路に当たらない。
 したがって,本件事故が夜間に発生したものであることを考慮しても,亡Aの過失は25%を超えない。

(被告の主張)
 A車は,被告車が走行している左方の安全を確認することなく,被告車の反対車線側から当該車線を逆走する形で斜め横断を始め,道路中央付近を被告車と同一方向に進行した後,突然,被告車走行車線側に進路を転じてきたため,被告は制動措置を講じるも間に合わずA車に衝突した。夜間であること,本件道路は千葉県と東京都を結ぶ主要幹線道路であり,交通量が著しく多いこと,亡Aは通行車両の確認を十分にしていないこと,亡Aは,事故直前,被告車走行車線に向かって急転回しており,直前横断であることを考慮すると,亡Aには少なくとも60%の過失がある。

(2) 原告の損害及び損害額
(原告の主張)
ア 扶養請求権侵害 1167万5210円
 原告は,本件事故当時,亡Aの事実上の妻として扶養を受けており,本件事故により扶養請求権を侵害された。
 亡Aは,本件事故当時,勤務先のビルの一室にほぼ住み込みで勤務し,月収18万円を得ていたが,そのうち,生活の本拠として原告と居住する埼玉県熊谷市の住居の家賃7万5000円,水道光熱費1万5000円前後を支払い,さらに原告に対して3万円から5万円を渡していたから,亡Aの収入のうち13万円(72.2%)が原告のために費消されていた。これには亡A自身のために消費する分が含まれているため,上記金額の全てが扶養請求権の具体化とみることはできないが,家賃及び水道光熱費の基本料金分は不可分であるし,その他は2人分が1人分になったからといって半分ですむことはないので,亡Aの年収のうち,原告の扶養請求権は70%とみるべきである。

 そして,原告と亡Aの関係が近い将来解消されることをうかがわせる事情は一切ないので,原告が被った扶養請求権侵害の損害額は,年収216万円の70%に,亡A(当時63歳)の就労期間である平均余命の2分の1である10年間(ライプニッツ係数7.7217)となる。
 216万円×(1-0.3)×7.7217=1167万5210円
 被告は,亡Aと原告が重婚的内縁関係にあった可能性があり法的保護に値しないと主張するが,原告は,亡AがBと離婚する意思を伝えたことを契機として交際を始めており,少なくとも,Bと事実上離婚状態となった後に同棲関係が成立した。それ以降,社会的かつ対外的に夫婦と認められながら約29年にわたり生活の本拠を同一にしていたのであるから,原告と亡Aの内縁関係は法的保護に値するものである。

イ 固有の慰謝料 1500万円
 原告は,亡Aと約29年間にわたり事実上の夫婦として共同生活を営んでおり,亡Aの死亡により甚大な精神的苦痛を受けたから,原告固有の慰謝料は1500万円を下らない。

ウ 弁護士費用 200万0641円

(被告の主張)
(1) 原告は,婚姻の障害がなくなった後も入籍手続を進めることはなく,経済状態が不安定な亡Aが職を求めて千葉県船橋市に転居した際も同行せず,本件事故の3年近く前から別居となっていた。その後も亡Aの経済事情に変化はないので別居状態を継続していた可能性が高く,本件当時原告と亡Aの間に婚姻の意思があったのか不明である。

 また,前記のとおり原告と亡Aは別居しており,その状態が変化する可能性は低かった。原告は亡Aの仕事内容や生活状況,収入や資産,負債の状況を詳しく知らず,千葉県船橋市の居所を訪れたこともない。親族との関係も主に原告方との交流であり,亡A方とは疎遠であった。亡Aの葬儀の喪主は兄のCが務めており,原告が両親族から亡Aの妻として認知されていたかは不明である。これらを踏まえると,過去に両者の間に共同生活の実態があったとしても,亡Aが同市に転居した後は質的に変化していたものであり,原告と亡Aに夫婦としての実態があったとは言い難い。

(2) 仮に内縁関係があったとしても,亡Aは,昭和50年にBと婚姻し,その頃,子であるDが出生している。Bと離婚していないのであれば,重婚的内縁関係にあったこととなり法的保護に値しない。

(3) 仮に原告に内縁配偶者の法的地位が認められるとしても,亡Aの生活費控除率は,被扶養者1人として40%とするのが相当である。また,亡Aは長年経済的に不安定であったこと,熊谷市の住居は原告だけでなく亡Aとの共同生活のためのものであること,亡Aには相当額の債務があったと推察されることを考慮すべきである。

 固有の慰謝料は,亡Aの相続人として兄Cらが存在するのであるから,内縁配偶者の慰謝料は相対化されるべきである。


以上:3,370文字

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