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歩行者との非接触事故で自動車運転者過失責任を否定した地裁判決紹介

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平成31年 1月 7日(月):初稿
○原告の夫であるDが死亡した事故について、Dの相続人である原告が、Dは被告Bが運転する自動車の右ドアミラーに接触して転倒し又は自動車の動静に動転して転倒し、死亡したと主張し、被告Bに対し、民法709条、自動車損害賠償保障法3条に基づき、自動車の所有者である被告Cに対し、自賠法3条に基づき、連帯して、約4412万円の損害賠償を求めたました。

○この請求に対し、本件事故後から実況見分の終了までに右ドアミラーに触れた者が皆無であることを認めるに足る証拠はないこと、右ドアミラーには擦過痕や払拭痕は認められず、微物検査でも本件車両からDの着衣等の繊維片が検出されなかったことに照らすと、本件接触があったと認めることはできないなどといて、原告の請求を棄却した平成29年3月23日神戸地方裁判所尼崎支部判決(自保ジャーナル2020号67頁)を紹介します。

○この一審判決に対し、控訴審平成30年1月26日大阪高裁判決は、一審判決を覆し、非接触でも自動車運転者の過失責任を認めており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第一 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して4412万1323円及びこれに対する平成24年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 本件は,原告の夫であるD(以下「D」という。)が死亡した事故について,Dの相続人である原告が,Dは被告Bが運転する自動車の右ドアミラーに接触して転倒し又は自動車の動静に動転して転倒し,死亡したと主張し,被告Bに対し,民法709条,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,自動車の所有者である被告Cに対し,自賠法3条に基づき,連帯して,損害賠償及び本件事故日である平成24年10月23日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定される事実)
(1)本件事故
ア 発生日時 平成24年10月23日午後4時10分頃(以下,月日のみの記載は,平成24年の当該月日を指す。)
イ 発生場所 兵庫県芦屋市<以下略>
ウ 関係車両 被告Cが所有し,被告B(昭和11年生)運転の普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)
エ 被害者  D(昭和8年○月○○日生)
オ 事故態様
(ア)Dは,別紙交通事故現場見取図(以下「見取図」という。)の道路を北から南に向けて歩行し,被告Bは,Dの進行方向前方の交差点(以下「本件交差点」という。)を東側から北側に右折進行した。
(イ)Dは,見取図記載の[ア]地点(以下,丸囲いで標記される各地点はいずれも見取図記載のものである。)で,頭部に出血がある状態で発見された(被告Bの供述)。
(なお,本件車両とDとの接触の有無などについては争いがある。)

(2)Dは,上記同日,q1大学病院に救急搬送されたが,翌日,急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡した。

(3)原告は,Dの唯一の相続人である。

(4)q2地方検察庁q3支部は,平成26年12月28日付けで,本件事故に関し,被告Bを嫌疑不十分により不起訴処分とした。

3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)被告Bの不法行為の成否(争点1)
(原告の主張)
ア 被告Bは,前方の安全を十分確認した上で右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるにもかかわらず,これを怠り,漫然と本件車両を右折進行させて,右ドアミラーをDに接触させて(以下「本件接触」という。),死亡に至らしめた。本件接触が発生したことは,右ドアミラーが内側に屈曲していたこと,Dは身長が約159センチメートル,本件車両の右ドアミラーの地上高は93センチメートル~107センチメートルであり,解剖の際,Dの胸部正中やや右側に0.5センチメートル大から4×2センチメートル大の皮下出血が認められることから明らかである。

イ 被告Bは,車両運転者として,本件車両をDに接触させない義務のみならず,Dを動転させることにより転倒させない義務も負っているにもかかわらず,これを怠って,本件交差点を通過するに際し,一時停止の上,右方確認をし,適切な速度,態様のもと右折進行するなどしなかったため,Dを動転させて転倒させ,死亡に至らしめた。

(被告らの主張)
ア 本件接触について
 否認する。本件事故は,死亡事故であるから,通常の交通事故より初動から慎重な捜査が行われたと考えられるが,捜査の結果,被告Bは嫌疑不十分により不起訴となった。また,右ドアミラーには,擦過痕や払拭痕はないし,Dに関する微物の付着は確認されていない。

イ 被告Bの運転によるDの動転及び転倒について
 被告Bは,本件交差点において一時停止し,安全確認をした上で,時速約10キロメートルで,Dから3.3メートルの距離をおいて右折進行しており,Dが動転して転倒する理由はない。

(2)損害の発生及びその額(争点2)
(原告の主張)
ア Dの損害 3712万1323円
(ア)治療関係費 2万4740円
(イ)入院雑費 3000円
 日額1500円,入院期間2日
(ウ)文書料 3万7420円
(エ)葬儀関係費 150万円
(オ)逸失利益 552万0829円
a 自営業 181万8390円
 基礎収入は60万円,就労可能年数5年(本件事故当時79歳),ライプニッツ係数4.3295,生活費控除率30%とする。
b 公的年金 370万2439円
 年金受給額104万1796円,平均余命約9年間,ライプニッツ係数7.1078,生活費控除率50%とする。
(カ)慰謝料 3003万5334円
a 入院慰謝料 3万5334円
 救急搬送後,2日間入院した。
b 死亡慰謝料 3000万円
 被告Bは,本件接触はなかったなどと虚偽の説明を繰り返し,焼香するなどの誠意を持った謝罪をしていない。
イ 原告固有の慰謝料 300万円
 原告は,50年以上もの間,夫婦としてDと生活していた。
ウ 弁護士費用 400万円
 ア及びイの合計は4012万1323円であり,弁護士費用損害としては400万円が相当である。

第三 当裁判所の判断
1 認定事実

 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件事故の現場の状況は,概ね見取図に記載のとおりであり,被告Bから前後左右の見通しは良い。

(2)被告Bは,10月23日午後4時10分頃,帰宅するためα方面からβ方面に向かって進行中であり,本件交差点の一時停止線をまたいだ〔1〕地点で停止し,本件交差点の南側,西側,北側の順に前方を確認した。被告Bが,一時停止線を越えて停止するのは,本件交差点南側にはq3線の踏切があり,そこから本件交差点方面に進行する車両を確認するためであり,本件事故直前にも踏切の南側に停車している茶色の車両を1台確認している。

(3)被告Bは,上記前方確認をした後,時速約10キロメートル程度で本件交差点北側に右折進入し,〔2〕地点を通過し,本件交差点北側の横断歩道を越えるくらいにハンドルを左に戻したが,〔2〕地点と〔3〕地点の間くらいで右ドアミラーに,倒れているDを[ア]地点に確認した。

(4)被告Bは,Dのもとに駆け寄るため本件車両を停車させようとしたが,Dを確認した驚きもあってハンドル及びブレーキ操作を誤り,[×]地点で本件車両の右前角部を民家の壁に接触させた。

(5)被告Bは,本件車両を壁に接触させたままにしてDのもとに駆けつけたところ,Dは,頭部から出血し,後頭部を前後に動かして石垣にボーンボンと打ち付けていた。石垣は,高さ約60センチメートルで,その上には高さ約63センチメートルのコンクリート壁があり,[ア]地点の後方の石垣には,地上から約25センチメートルの位置に毛髪が付着していた。

(6)被告Bは,側にいた女性に110番への通報を頼み,Dの横に座ってDの首の後ろを抱えた。その頃,上記女性とは別人が,布の切れ端のようなものを持ってきて,Dの頭と首に当てた。

(7)γ市消防署の救急隊員が同日午後4時24分頃に本件事故現場に臨場した際には,Dは,道路に仰臥位で倒れており,後頭部には打撲痕,少量の出血及び鼻部上部に擦過傷が認められた。救急通報者は,救急隊員に対し「おじいさんが倒れています。」「壁に頭が当たっています。」等と通報した。

(8)被告Bは,救急隊員に対し「自動車で西進右折しようとしたところ,男の方が避けようとして転倒,その際,家の石垣で頭を打ち付けました。」と説明した。
(なお,被告Bは,上記説明をした記憶がない旨供述する。しかし,上記説明は,自動車の運転手による説明であることは明らかであり、救急隊員にこのような説明ができる人物は被告Bだけであるから,上記説明は被告Bがしたものと認定した。また,被告Bは,転倒と言った覚えはないとも供述するが,日頃重篤な状況において説明を録取することの多い救急隊員が,説明者の言い分にないことを録取し,活動記録を作成したとは認め難いことを考慮し,被告Bの上記供述を採用しなかった。)

(9)臨場した警察官は,被告Bを立ち会わせて,同日午後5時から5時30分まで実況見分をし,その後,被告Bは,警察署で別の警察官から取調べを受けた。

(10)Dは,10月24日,急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡し,翌25日,死体解剖が行われ,後頭上部に表皮剥脱を伴う5センチメートル大の皮下出血,胸部正中やや右側に0.5センチメートル大から4×2センチメートル大の出血,後頭上部から右側頭前部に向かう長さ約19センチメートルの線状骨折などが確認された。 

(11)本件事故直後である10月23日午後5時から行われた実況見分において,本件車両の右前角バンパー,右前角ボディー,右前輪軸に擦過損が認められたが,右前ボディーから右側ドアミラー,右側面に擦過痕及び払拭痕は認められなかった。また,平成25年3月22日から同月28日まで,本件車両のフロントバンパー,右フロントフェンダー,右ドアミラー等について,Dの着衣の繊維片が付着しているかどうかについて検査されたが,同種の繊維片の付着は認められなかった。

2 被告Bの不法行為の成否(争点1)について
(1)本件接触の有無

 Dには後頭上部に表皮剥脱を伴う5センチメートル大の皮下出血,後頭上部から右側頭前部に向かう長さ約19センチメートルの線状骨折などが確認されていることなどから,Dは,後頭部打撲による頭蓋冠骨折に基づく急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡したと考えられ,[ア]地点の後ろの石垣の路面から約25センチメートルの位置には毛髪が付着していたことに照らすと,そこで後頭部を打撲したものと推認される。

 そして,本件事故直後の右ドアミラーはやや内側に屈曲しており,この状態で走行することは運転席右後方の視界が相当遮られ,通常そのようなドアミラーの開扉状態で走行することはないというべきであり,被告Bは,右ドアミラーの開扉位置を自分では調整しない旨供述していることに照らすと,右ドアミラーにDが接触した可能性がある。

 しかし,本件事故後から実況見分の終了までに右ドアミラーに触れた者が皆無であることを認めるに足る証拠はないこと,右ドアミラーには擦過痕や払拭痕は認められず,微物検査でも本件車両からDの着衣等の繊維片が検出されなかったことに照らすと,本件接触があったと認めることはできない。上記微物検査は,本件事故から約5ヶ月後に実施されているが,その間,本件車両は雨ざらしにならないよう車庫に保管されており,本件事故当時付着した繊維片などが取り除かれたような事情はうかがわれない。

 Dの胸部正中やや右側に0.5センチメートル大から4×2センチメートル大の皮下出血が認められ,右ドアミラーとの接触により皮下出血が形成された可能性がある。
 しかし,証拠(略)によれば,Dの身長は約159センチメートルで,皮下出血部位の地上高(足下からの高さ)は約119センチメートルであるのに比して,右ドアミラーの地上高は93センチメートル~107センチメートルであり,その先端部分の地上高は右ドアミラーのほぼ2分の1の高さである約100センチメートル程度であると認められること,被告Bの運転速度はせいぜい時速10キロメートル程度であり,進行経路に照らしても本件事故直前に急制動をかけて車体位置が静止時よりも低位になったような事情もうかがわれないことなどを考慮すると,右ドアミラーによる接触が皮下出血の原因であるとするには,右ドアミラーの上端からさらに10センチメートル以上高い位置で接触が生じていることになって不自然であるし(右ドアミラーの先端で接触したとすれば,さらに20センチメートル程度の高い位置で接触したことになる。),Dが10センチメートルないし20センチメートル程度前屈みになっていた状態で右ドアミラーと接触したのであれば,右ドアミラーとの接触は整合的であるが,Dが前屈みで歩行していたなどの事情をうかがわせる証拠はない。

 以上によれば,本件接触があったとは認められない。

(2)転倒させない義務違反について
 被告Bが救急隊員に対し「自動車で西進右折しようとしたところ,男の方が避けようとして転倒,その際,家の石垣で頭を打ち付けました。」と説明していることに照らすと,本件事故の原因は,Dが本件車両を避けようとするなどして転倒し,後頭部を石垣に打ち付けたことにあると推認される。
 しかし,被告Bは,〔1〕地点で前方確認をした後,時速約10キロメートル程度で本件交差点の北側に右折進入し,〔1〕地点ないし〔4〕地点に順次至っているが,Dがいた[ア]地点から,本件車両がDに最接近したと認められる〔2〕地点までは3.3メートル離れており,被告Bが本件交差点を北側に右折進行するに際し,上記経路よりさらに[ア]地点に近接するような進行をしたことをうかがわせる証拠はないのであるから,本件車両の動静がDを動転させるようなものであったとは認められず,被告Bが本件交差点を通過するに際し,本件交差点付近の歩行者であるDを動転させて転倒させない注意義務に違反した運転をしたとはいえない。

 なお,被告Bは,〔1〕地点で前方確認した際,人影は全くなかった旨供述するが,証拠(略)によれば,〔1〕地点から[ア]地点はほぼ見通せることが認められる。
 しかし,被告Bが〔1〕地点で前方確認した際,被告Bの進行方向から見てDが何かしらの原因で既に電信柱の背後で,低い位置に倒れているなどしていたのであれば,被告Bが〔1〕地点で前方確認した際,[ア]地点にDの存在を確認できない場合もあるというべきであり,証拠(略)に反するような被告Bの上記供述をもって内容が虚偽の供述であるとはいえない。

第四 結論
 よって,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所尼崎支部第1民事部裁判官 安達玄

以上:6,245文字

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