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歩行者との非接触事故で自動車運転者過失責任を肯定した高裁判決紹介2

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平成31年 1月 9日(水):初稿
○「歩行者との非接触事故で自動車運転者過失責任を肯定した高裁判決紹介1」の続きで平成30年1月26日大阪高裁判決(自保ジャーナル2020号58頁)の裁判所の判断部分全文を紹介します。

○判決は、控訴人の,本件事故の際,本件車両の右ドアミラーがDに衝突したとの主張については、本件車両の右ドアミラーがDに衝突したことを認めるに足りる証拠はないから,控訴人の衝突に係る主張は採用することができないとしました。

○しかし、Dは本件車両を避けようとして転倒し,その際,石垣で頭を打ち付けたことを認めることができると認定し、その結果,急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡したと認めるのが相当であるとして、控訴人Bには,Dの相続人である控訴人に対し,民法709条に基づき損害を賠償する責任が、本件車両の所有者である被控訴人Cにも,自賠法3条1項に基づき,被控訴人Bと連帯して,損害を賠償する責任があるとして、3537万2860円の支払を命じました。

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第三 当裁判所の判断
1 認定事実

 前提事実,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。被控訴人Bの供述証拠(略)中,この認定に反する部分は,採用することができない。
(1)被控訴人Bは,平成24年10月23日午後4時10分頃,兵庫県γ市所在の自宅に帰るため,本件車両を運転して,本件交差点の東側道路を西方に走行し,本件交差点の北側道路に向かって交差点を右折したが,本件車両の右前角部を見取図[×]地点の民家の外壁に衝突させた。

(2)Dは,そのころ,本件交差点の北側道路にいたが,本件車両が本件交差点を右折した直後には,横断歩道上である見取図[ア]地点で,頭部に出血がある状態で倒れていた。

(3)本件交差点の北東角に隅切りがあり,被控訴人Bは,本件交差点を右折するに際し,本件交差点北側の横断歩道上及び北側道路の方向を良好に見通すことができた。

(4)γ市消防署救急隊員は,本件事故の通報を受けて,同日午後4時24分頃に現場に到着したが,その際,Dが横断歩道上である見取図[ア]地点に仰臥位で倒れており,後頭部の打撲痕及び少量の出血,鼻部上部の擦過傷があるのを観察した。

 現場にいた被控訴人Bは,救急隊員に対し,「自動車で西進右折しようとしたところ,男の方が避けようとして転倒,その際,家の石垣で頭を打ちつけました。」と説明した。

(5)δ県γ警察署警察官は,同日午後5時から5時30分までの間,被控訴人Bを立会人として,本件事故現場で実況見分を行い,本件事故現場の状況について,前提事実(3)記載の事実を認め,また,本件車両の損傷箇所について,右前角バンパー,右前角ボディー,右前輪軸に擦過痕を認めたが,右前ボディーから右側ドアミラーまでの部分及び右側面に擦過痕及び払拭痕を認めなかった。

 被控訴人Bは,実況見分の際,見取図〔1〕地点で一時停止をし,右折進行中,見取図〔2〕地点で右方に見取図[ア]地点にいるDを見て(右ドアミラーで見たとの趣旨である(被控訴人B本人),見取図〔3〕地点でブレーキを踏もうとし,見取図[×]地点で民家の壁に衝突して停止した旨の指示説明をした。

(6)Dは,本件事故の翌日である同年10月24日,後頭部打撲を原因とする急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡した。
 q1大学法医学講座医師は,同月25日,Dの死体解剖において,Dの後頭上部に表皮剥脱を伴う5センチメートル大の皮下出血,胸部正中やや右側に0.5センチメートル大から4×2センチメートル大の皮下出血,後頭上部から右側頭前部に向かう長さ約19センチメートルの線状骨折などを確認した。

(7)δ県γ警察署警察官は,平成25年3月17日,同警察署駐車場において本件車両から微物を採取し,同月19日,δ県警察本部刑事部科学捜査研究所に対し,採取した微物が本件事故当時のDの着衣等に付着しているか否かについて検査を求めたところ,同種の繊維片の付着は認められなかった。

2 争点1(本件事故の態様)について
(1)衝突(接触)の有無

ア 控訴人は,本件事故の際,本件車両の右ドアミラーがDに衝突した旨主張する。

イ 確かに,本件事故当日の実況見分で撮影された写真によれば,本件車両の右ドアミラーがやや内側に屈曲していたことが認められるところ,このような状態で走行すると運転席右後方の視界が相当遮られることになるから,本件事故直前の走行時において,このような状態であったことについては疑問があることに加え,右ドアミラーの開扉位置を自分では調整しない旨の被控訴人Bの供述を併せ考えると,右ドアミラーがDに衝突(接触)したため上記屈曲が生じた可能性は否定できない。

 しかしながら,他方,上記実況見分では,本件車両の右ドアミラーに擦過痕や払拭痕が認められず(認定事実(5)),その後に実施された微物検査は,本件事故から約5ヶ月後であるから正確性に問題はなくはないが,本件車両からDの着衣等と同種の繊維片が検出されなかったこと(認定事実(7))に照らすと,右ドアミラーの上記屈曲状態をもって,直ちに本件車両がDに衝突したと認めることはできない。

ウ また,Dの死体解剖において,胸部正中やや右側に0.5センチメートル大から4×2センチメートル大の皮下出血が認められたところ(認定事実(6)),証拠(略)には,上記皮下出血は相当強い力で打撲を受けた結果であり,本件車両の右ドアミラーの衝突以外には考えられない旨の部分がある。

 しかしながら,他方,証拠(略)には,本件車両の右ドアミラーとの接触によって上記皮下出血が発症する可能性は否定できないものの,右ドアミラーの地上高が93センチメートルないし107センチメートルであるのに対し,上記皮下出血部位の足下からの高さが約119センチメートルであって,両者の間で約10センチメートル以上の高さの違いがあるので,衝突したとすればかなり不自然な姿勢となる旨の指摘があることからすれば,Dが通常の姿勢で歩行していた場合には右ドアミラーが上記皮下出血個所に衝突するのは困難といわざるを得ないが,本件事故の際のDの歩行状況や姿勢は,証拠上明らかでない。

 また,本件車両の損傷はそう大きくないことからすれば,本件車両は,本件交差点を右折して走行した際,相当なスピードを出していたと認めるのは困難であり,かつ,上記イのとおり,本件事故後に本件車両の右ドアミラーには擦過痕,払拭痕や微物も認められなかったのであるから,上記証拠(略)のうち相当な力をもって衝突した旨の上記指摘には,疑問が残る。
 以上によれば,上記証拠(略)は採用できない。

エ そして,ほかに本件車両の右ドアミラーがDに衝突したことを認めるに足りる証拠はないから,控訴人の衝突に係る主張は採用することができない。

(2)本件車両を避けようとして転倒した事実の有無
ア 被控訴人Bは,本件事故の通報を受けて現場に到着した救急隊員に対し,認定事実(4)のとおり説明しているところ,本件事故直後になされた説明であり,かつ,救急隊員が職務上聞き取った内容であって,緊急搬送先の病院にも同内容が説明されていることからすれば,その信用性は高いものというべきである。したがって,当該説明どおりの事実,すなわち,Dは本件車両を避けようとして転倒し,その際,石垣で頭を打ち付けたことを認めることができる。

イ 被控訴人らは,被控訴人Bが本件交差点を右折する際,見取図〔1〕地点より少し前に出た地点で一時停止して,交差点右方に歩行者等がいなかったことから,見取図〔2〕,〔3〕の各地点を走行し,見取図〔4〕地点に至るまでの間に右ドアミラーを通してDを視認した旨主張し,これに沿う被控訴人Bの供述証拠(略)がある。確かに,被控訴人Bは,本件事故当日の実況見分において,立会人として,見取図〔1〕地点で一時停止した後,見取図〔2〕,〔3〕の地点を走行して右折した旨の指示説明をしている(認定事実(5))。

 しかしながら,被控訴人Bの供述中,本件交差点を右折するに当たり交差点右方に歩行者等がいなかったとの部分は,被控訴人Bは,本件交差点を右折するに際し,本件交差点北側の横断歩道上及び北側道路の方向を良好に見通すことができたことやDが現に本件事故現場にいたこと(認定事実(2)(3))と整合しない。そうすると,被控訴人Bは,Dが現場におりDを見たにもかかわらず見なかった旨虚偽の供述をしているか,あるいは,Dの動向を十分注視していなかったため気付かなかったものというべきである。

 また,被控訴人Bの供述中,見取図〔4〕地点に至るまでの間に右ドアミラーを通してDを視算したとの部分は,被控訴人Bが,本件事故直後に救急隊員に対してDが本件車両を避けようとして転倒した旨の説明をしたこと(認定事実(4))や,本件事故当日の実況見分において,見取図〔2〕地点で右方の見取図[ア]地点にいるDを見た旨の指示説明をしたこと(認定事実(5))と整合しないから,信用できない。本件事故当日の実況見分において,被控訴人Bが見取図〔2〕地点で右方の見取図[ア]地点にいるDを見た旨の指示説明についても,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,いまだ右折中で本件車両が直進状態ではない見取図〔2〕地点で本件車両の右ドアミラーにより見取図[ア]地点を視認することはできないことが認められるから,信用できない。

 そして,前提事実(3),証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,本件車両は,ハンドル操作の仕方によっては,本件交差点を右折するに当たって,見取図〔2〕地点(同[ア]地点から3.3メートル)よりもかなり右側の同[ア]地点に近接した地点を走行することが可能であることが認められるところ,当該走行方法は,被控訴人Bの救急隊員に対する上記説明と整合する。そうすると,見取図〔2〕地点を走行していた旨の実況見分における被控訴人Bの指示説明には大いに疑問がある

 また,Dは,仮に見取図[ア]地点で転倒していたとしても,本件車両との衝突を避けようとして転倒したことからすれば,本件事故前には転倒地点である見取図[ア]地点よりも本件車両寄りにいたものと推認される。

ウ そして,前提事実(3)イ,認定事実(6)をも併せ考えると,被控訴人Bは,本件車両を運転して,本件交差点を右折して走行したが,交差点北側の横断歩道上又はその付近にいたDに近接した地点を走行したため,Dがこれを避けようとして転倒して,民家の外壁の石垣に後頭部を打ち付けて負傷し,その結果,急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡したと認めるのが相当である

3 争点2(被控訴人Bの不法行為の有無)について
 前記2(2)で判断したことによれば,被控訴人Bは,本件交差点を右折するに当たり,進行方向の安全を十分に確認し,交差点北側の横断歩道上又はその付近にいる歩行者等の動静に注意し,これに危害を及ぼさないよう適切な方法で運転すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,少なくとも本件交差点北側の横断歩道上又はその付近にいたDに気付かないまま右折して,Dに近接した地点を走行したため,これを避けようとしたDを転倒させ,本件事故を発生させてDを死亡させたものということができる。

 したがって,被控訴人Bには,Dの相続人である控訴人に対し,民法709条に基づき損害を賠償する責任がある。そして,本件車両の所有者である被控訴人Cにも,自賠法3条1項に基づき,被控訴人Bと連帯して,上記損害を賠償する責任がある。


4 争点3(損害の額)について
(1)治療関係費 2万4740円
 前提事実(2),証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故による治療関係費は2万4740円であったことが認められる。

(2)入院雑費 3000円
 前提事実(2)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故による入院雑費(入院2日)は3000円であると認める。

(3)文書料 3万7420円
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故による文書料は合計3万7420円であったことが認められる。

(4)葬儀関係費 150万円
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,Dの死亡により葬儀等が行われ,控訴人は葬儀関係費を支出したことが認められるところ,相当因果関係のある葬儀関係費としては150万円とするのが相当である。

(5)逸失利益 259万7700円
 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,D(当時79歳)と控訴人(当時78歳)は,約60年間夫婦として同居しており,本件事故当時,子のEとは別所帯であったこと,Dは,宗教法人q4の代表役員として宗教活動に従事し,給与として年収60万円を得ていたほか,平成23年分の厚生年金の老齢基礎年金として104万1796円を受給していたことが認められる。

 そうすると,逸失利益の算定に当たっては,Dと控訴人が厚生年金支給額の全額を生活費に費消して生計を立てていたものと認めた上で,全額につき生活費控除を行い,上記宗教法人からの収入につき生活費控除をしないのが相当である。
 これに従い,基礎収入60万円,就労可能年数5年(男性79歳の平均余命の約2分の1)に対応するライプニッツ係数4.3295として算定すると,逸失利益の額は259万7700円になる。

(6)死亡慰謝料 2800万円
 Dが本件事故当日に入院し,その翌日に死亡したこと,Dが一家の支柱であり,控訴人が長年にわたりDと夫婦として同居してきたことなど,本件で認められる事情を総合すると,死亡慰謝料は,Dの入院に伴う慰謝料を含め,本人分及び近親者分を併せて2800万円とするのが相当である。

(7)小計 3216万2860円

(8)弁護士費用 321万円
 本件で認められる事情に照らし,弁護士費用は321万円とするのが相当である。

(9)合計 3537万2860円

5 結論
 以上の次第で,控訴人の被控訴人らに対する請求は,連帯して3537万2860円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却すべきである。これと異なり,控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であり,本件控訴の一部は理由がある。
 よって,原判決を上記に従い変更することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官 中本敏嗣 裁判官 橋詰均 裁判官 細川二朗
以上:5,966文字

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