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交通事故と医療過誤の共同不法行為についての高裁裁判決紹介

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令和 1年 8月22日(木):初稿
○「交通事故と医療過誤の共同不法行為についての地裁裁判決紹介」の続きで、その控訴審である平成10年4月28日東京高裁判決(判タ995号207頁、判時1652号75頁)関係部分を紹介します。

○一審平成9年1月30日浦和地裁川越支部判決(民集55巻2号345頁)は、被害者Aの死亡は本件交通事故と本件医療過誤が競合した結果発生し、本件交通事故における運転者の行為と本件医療過誤における医師の行為は共同不法行為であるとし、D病院に、発生した全損害の賠償責任を負わせていました。た上で(なお、原審は、交通事故の関係でAに3割の、Yとの関係でXらに1割の過失相殺事由があるとした。)、

○控訴審平成10年4月28日東京高裁判決は、各行為が共同不法行為であるとしながら、「個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、しかもその行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なり、かつ、共同不法行為とされる各不法行為につき、その一方又は双方に被害者側の過失相殺事由が存する場合には、各不法行為者の損害発生に対する寄与度の分別を主張、立証でき、個別的に過失相殺の主張をできるものと解すべきであり、このような場合は、個々の不法行為の寄与度を定め、個々の不法行為についての過失相殺をした上で、各不法行為者が責任を負うべき賠償額を分別して認定するのが相当である。」とし、本件において、本件医療過誤の寄与度は5割とし、全損害の5割相当額について、1割の過失相殺をする等して、被告が責任を負うべき損害額を、一審の半分に減額しました。

○交通事故の被害者が、その後に受診した医師の診療過誤により死亡したり、症状が悪化した場合、交通事故の加害者の責任と医師の責任との関係をどのように把握し、処理するかについては、従来から学説、判例上見解が分れていました。共同不法行為の成立を認めて、双方の全部責任を認める見解(福永政彦・民事交通事故の処理に解する研究341頁、東京地判昭60.5.31本誌559号88頁、判時1174号90頁など参照)と、共同不法行為の成立を認めながらも、寄与度責任を認める見解(伊藤進・不法行為法の現代的課題208頁、横浜地判昭57.11.2判時1077号111頁など参照)などがありましたが(山川一陽「交通事故と医療過誤の競合」新・現代損害賠償法講座5巻237頁参照)、この高裁判決は後者の見解を取りました。

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主   文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は被控訴人らに対し、各金1007万7317円及び内金917万7319円に対する昭和63年9月14日から支払済みまで年5分の金員を支払え。
2 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第1、2審を通じこれを7分し、その2を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とし、補助参加費用は、第1、2審を通じこれを7分し、その2を控訴人の負担とし、その余を補助参加人らの負担とする。

事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人
1 原判決中控訴人敗訴部分を取消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 本件事案の概要(争いのない事実等)

         (中略)

第三 争点
一 被控訴人らの主張

1 E医師の診断治療行為(以下「本件診療」という。)には、次のとおりの過失が存するので、控訴人は民法44条に基づき不法行為(以下「本件不法行為」という。)による損害賠償責任がある。
(一) 本件事故はAが歩行中に乗用車に軽く接触したに過ぎないなどと本件傷害の契機の認識を誤るなど、正確な問診をすることを怠った。

(二) Aには本件傷害として左頭部打撲挫傷、顔面打撲の他にも左側胸部打撲、左側肺の軽度圧迫、左右膝蓋内側の打撲傷、左下腿前側打撲傷(以下「その他の負傷部分」という。)も存したのにこれを看過するなど、受傷部位の正確な判断を怠った。

(三) 本件傷害後、6時間以内にCTスキャナーによる検査(以下「CT検査」という。)をすれば、本件傷害による硬膜外出血を発見できたのに、CT検査をすることを怠った。

(四) 本件傷害後少なくとも6時間は、Aを控訴人病院に留めてその経過観察をすべきであったのにこれを怠った。

(五) Aに付き添っていた被控訴人田中ひとみ(以下「被控訴人ひとみ」という。)に対し、本件傷害による硬膜外出血等の可能性を教示し、かつ、その具体的症状を説明して、Aの経過観察をすべきことを指示することを怠った。


         (中略)

第四 争点に対する判断
一 本件交通事故について


         (中略)


1 前記認定にかかる本件交通事故に関する事実関係によれば、Cには、本件交差点に進入するに際して自動車運転手として遵守すべき注意義務を懈怠した結果本件事故を惹起した過失があるものと認められる。
 (なお、本件交通事故の発生に関しては、Aにも自転車の運転手として、本件交差点に進入するに際しての一時停止義務、左右の安全確認義務の懈怠が存するのであるから、前記本件交通事故等の状況等を総合勘案するとA側に3割の過失相殺事由があると認めるのが相当である。)

2 本件診療に関して、被控訴人らは、「E医師は、正確な問診をすることを怠った。」旨主張しているが、E医師は、本件傷害の契機となった本件交通事故を歩行中のAが本件自動車に軽く接触したものであると誤って理解していたことは前記のとおりであるが、それに関しては控訴人病院にAを搬送してきた救急隊員も同様に間違った認識を有していたこと、Aの問診を行ったときには被控訴人ひとみも付き添っていたことなどからすると、E医師の問診が不十分であったため、右間違いが生じたものとは到底考えられず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

 また、被控訴人らは、「E医師は、Aの受傷部位の正確な把握を怠った。」と主張しているが、E医師の診断は本件傷害は左頭部及び顔面の打撲と挫傷であるとしたことは前記のとおりであるところ、前掲甲27(鑑定書)によれば、死後Aの身体には、前記打撲傷と挫傷のほかに、左側胸部打撲、左右肺の胸膜下出血、左右膝蓋内側の打撲傷、左下腿前側打撲傷等のその他の負傷部分が存したことは認められる。しかしながら同証拠によれば、右の肺の胸膜下出血が生じた原因は、Aに対する前記救命措置による可能性も否定できないことが認められ、その余の右各傷害が本件死亡事故の死因であることや、右各傷害の看過が本件死亡につながったことを認めるに足りる証拠はない。

 また、被控訴人らは、「E医師は、本件診察ないしその後に際してCT検査を行うべきであった。」と主張しているが、前記のとおり、医師は、その傷害部位、程度またそれが生じた契機等からして頭部に著しい衝撃が加わった虞があって硬膜外血腫の存在の疑いが認められる場合には、脳出血の診断に優れているCT検査を行うべきではあるが、臨床上診察の結果右疑いがないと判断されるときにも必ず同検査を行わなければならない必要はないと解されるので、E医師の前記診断によれば、Aについて直ちにCT検査の必要を認めなかったことは、当初診断の際の状況からしてやむを得なかったものと判断されるが、鑑定の結果及び証人高津光洋の証言によれば、経過観察をしていたらCT検査をすべきであったという状況が出現した可能性も否定できない。

 さらに、被控訴人らは、「E医師は、Aを本件傷害後、少なくとも6時間Aを控訴人病院に留めてその経過観察をすべきであったのに、同人を帰宅させてこれを怠った。」と主張しているが、鑑定の結果によれば、前記本件診療の経緯とAの状況からして、Aを控訴人病院に留めて経過観察をせず帰宅を許可したことにつき、医師の処置判断としてはやや安直過ぎるものといわざるを得ず、この点に過失があるといわざるを得ないが、仮にAを帰宅させるのをやむを得なかったとしても、硬膜外血腫においては、脳内出血が存しても当初相当期間意識清明期が存在することがあることが特徴であり、また、小児の場合には、頭蓋骨骨折を伴わずに硬膜外への出血が発生している可能性もあるのであるから、その診療に当たった医師は、外見上の傷害の程度には拘わらず頭部に強い衝撃を受けている可能性が皆無と言えないことが多い交通事故等による頭部負傷者に対しては、事故後に意識が清明であっても、その後硬膜下血腫の発生に至る脳出血の進行が発生することがあること、その典型的な症状は、意識清明後の嘔吐、激しい頭痛、ぼんやりしてその応答がはっきりしなくなる、異常に眠たがる(傾眠)、睡眠時にいつもより激しい鼾、流涎がある、呼んでも目覚めない等であることを具体的に説明して当該患者ないしその看護者に、右症状が現れる本件事故後少なくとも約6時間以上は慎重な経過観察と、右症状の疑いが生じたことが発見されたときには直ちに医者の診察を受ける必要があること等の教示、指導するべき義務が患者を帰宅させる場合には存するものと判断される。

 本件においては、E医師は、Aの看護者である被控訴人ひとみに対して、前記硬膜外血腫が発生したときの症状については何らの説明もすることなく、また、「明日は、学校へ行ってもよいが、体育は止めるように。」と暫くの間激しい運動を控えるように指導するとともに、Aの本件交通事故後の経過観察等の必要から「明日も診察を受けに来るように。」「何か変ったことがあれば来てください。」と一般的な指示、指導をしたに止まり、右指導、指示の意味が帰宅後Aの硬膜下出血その他の脳内出血の有無の確認に重要である旨の説明、経過観察として注意すべきAの具体的症状についての説明を懈怠し、交通事故によって頭部に負傷した患者に対する経過観察の指示、説明としては不十分であったものと解さざるを得ない。

 したがって、E医師には、本件診療行為につき右の点についても過失が認められる。

 他方、本件医療事故の発生に関しては、本件交通事故の影響以外の原因が存在しない状況下において、Aは、帰宅直後、嘔吐したり、夕食も欲しがらずに鼾をかいて、涎を流して寝込んでしまったもので、Aが普段も睡眠中に鼾をかいたり、涎を流すことがあったとしても、通常、脳の機能障害が生じたことから睡眠に至ったときには、その鼾、流涎は通常の程度を超えるものであり、呼んでも目覚めない等通常の状態とは差異があることが普通であるから、また、被控訴人らにおいてはAの状態が氷枕の使用が必要であると考えたのに、右症状に対する判断の誤りからその後Aに前記除脳硬直が発生して呼吸停止が生じたその4時間ないし5時間後まで何らの措置を採ることもなく、そこに至って初めてAが重篤な状態に至っていたことを気付いたのは前記のとおりであって、E医師の前記指示が具体的でなかったことを考慮しても、これはAの保護者である父母としてのAの経過観察及び保護義務に懈怠があったものというべきである。

 したがって、本件医療事故に関するAないしその相続人である被控訴人らには、1割の過失相殺事由があると認めるのが相当である。

四 以上によれば、被害者であるAの死亡事故は、本件交通事故と本件医療事故が競合した結果発生したものであるが、その原因競合の寄与度を特定して主張立証することに困難が伴うこともあるから、被害者保護の見地から、本件交通事故におけるCの過失行為と本件医療事故におけるE医師の過失行為は共同不法行為として、被害者は、各不法行為に基づく損害賠償請求も分別することなく、全額の賠償請求をすることもできると解すべきであるが(その場合不法行為者同士の内部分担については当該共同不法行為における過失割合に従った求償関係によってこれを処理すべきことになる。)、本件の場合のように、自動車事故と医療過誤のように個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、しかもその行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なり、かつ、共同不法行為とされる各不法行為につき、その一方又は双方に被害者側の過失相殺事由が存する場合は、各不法行為者の各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張、立証でき、個別的に過失相殺の主張をできるものと解すべきである。そして、そのような場合は、裁判所は、被害者の全損害を算定し、当該事故における個々の不法行為の寄与度を定め、そのうえで個々の不法行為についての過失相殺をしたうえで、各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である。

 前記認定にかかる本件死亡事故の経過等を総合して判断するときには、本件交通事故と本件医療過誤の各寄与度は、それぞれ5割と推認するのが相当である。
 控訴人は、Aに対して適切な治療がなされておれば救命率は90パーセント以上であるとして本件医療過誤の寄与度が、90数パーセントであると主張するが、E医師の過失がない場合が即適切な治療が行われたことになるわけでないうえ、救命率が直ちに寄与度に結びつくわけでもないので、右の主張は採用できない。

五 損害について
1 過失相殺前の損害額各金2039万4038円(ただし、弁護士費用を除く)

(一) 逸失利益各金1189万4038円
 A(昭和57年1月13日生)は、前記死亡時(昭和63年9月13日)満6才8か月であって、同人の稼働可能期間は満18才から満67才までの49年間とするのが相当である。昭和63年の賃金センサス第一巻第一表産業別・企業規模計・学歴計によれば、男子労働者の年間給与額は金455万1000円である。そのうえで、生活費控除を5割とし、中間利息をライプニッツ式計算法(係数10.454)により控除して、Aの逸失利益を計算すると金2378万8077円(455万1000円×10.454×0.5)となる。

 被控訴人らは、Aの法的地位を各2分の1の割合で相続により承継していることは前記のとおりであるから、被控訴人各自の承継した逸失利益は各金1189万4038円となる。

(二) 慰籍料各金800万円
 本件によって被控訴人らの被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は、Aの家族内の地位(いわゆる一家の支柱ではない。)等に鑑みて、被控訴人ら各自800万円と判断するのが相当である。

(三) 葬儀費用各50万円
 弁論の全趣旨によれば、Aについては葬儀が行われたので、その葬儀費用についてはAの家族内の地位を考慮して、被控訴人ら各自が出捐した葬儀費用のうち各金50万円を本件と相当因果関係にある損害と認める。

2 本件医療過誤に対する寄与度と過失相殺の適用
 前記のとおり本件死亡事故に対する寄与度を5割、被害者側の過失相殺率を1割とすると、本件医療過誤における被控訴人らの各損害額は、各金917万7317円(2039万4038円×0.5×0.9)となる。
 (因みに前記のとおり本件死亡事故に対する本件交通事故の寄与度を5割、被害者側の過失相殺率を3割とすると、本件交通事故における被控訴人らの損害額は、713万7913円(2039万4038円×0.5×0.7)となる。)
 なお、乙第12号証によって補助参加人Bが加入している保険契約により葬儀費用50万円が補填されていることが認められるが、これは分別された本件交通事故による損害賠償責任分に補填されたものと取扱うのが公平であり、控訴人の負担すべき損害賠償責任の補填の一部とは認められない。

3 被控訴人らは、本件訴訟の追行を弁護士である被控訴人ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払を約していることは明らかであるので、そのうち前記認容損害の約1割である各金90万円が本件Aの死亡事故と相当因果関係にある損害と認める。

六 以上によれば、被控訴人らの本件各請求は、各自金1007万7317円及び内金金917万7317円に対する不法行為後である昭和63年9月14日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、それを超える請求部分は理由がないので棄却すべきである。
 よって、本件控訴は一部理由があるので、原判決を右のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官鬼頭季郎 裁判官佐藤久夫 裁判官廣田民生)
以上:6,758文字

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