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養育料終期等に関する東京地裁平成17年2月25日全文紹介2

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平成26年12月17日(水):初稿
○「養育料終期等に関する東京地裁平成17年2月25日全文紹介1」の続きです。






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(3) 被告の主張に対する原告の反論等
ア 上記アについて
 否認ないし争う。

イ 上記イについて
 本件調停条項7項に基づく本件養育料等増額分の請求は、あくまで同条項に基づく消費者物価指数を反映した増額分の請求であって、過去の養育料等に当たる本件養育料等の請求権(本件調停条項4項、5項に係る請求権)とは別個独立に発生する請求権である。
 よって、原告の本件養育料等増額分の請求は、過去の養育料扶養料等の遡及的一括請求には当たらない。

ウ 上記ウ(ア)について
 本件調停条項4項、5項は、原告と被告の離婚に際し、Aらのその後の生活環境、学習環境を確保するという見地から、被告において、Aらが大学を卒業する月まで原告に対し本件養育料等の支払を約した条項である。それゆえ、同各項所定の「大学」も学校教育法所定の「大学」には限定されないし、また本件建物から通学可能な地域にある大学にも限定されない。被告は、同各条項所定の「大学」についてa大学等を想定していた旨を主張するけれども、被告は、Aがa幼稚舎の入学試験(親子面接)に欠席していることからすれば、本件調停時において、Aらをa大学の系列校に進学させたいとの希望はなかったというべきである。それゆえ、上記各条項は、Aらが、大学を卒業するまで被告による本件養育料等及び本件養育料等増額分の支払義務が継続するとの趣旨で合意されたものといえる。

 加えて、Aは、平成9年9月に米国ニューヨークのb大学に進学しており、成年到達時において本件調停条項4項、5項所定の「大学」に在籍していた。
 また、Bも、ドラム演奏の勉強のため、平成14年4月に英国のcスクールの1年コースに入学し(なお、同学校は同調停条項所定の「大学」に該当する。)、その後、一時帰国したものの、将来、再度同学校に留学する予定である。
 それゆえ、同人らがこれら大学を卒業する月まで、被告の本件養育料等の支払義務は消滅していない。

エ 上記ウ(イ)について
 本件調停条項7項に基づく本件養育料等増額分に係る原告の支払請求権は、原告につき、被告に対する抽象的な権利を付与したものであり、被告に対する具体的な増額分の請求をまって初めて具体化する性質のものである。よって、本件養育料等増額分の支払請求権は民法169条所定の短期定期給付金債権には該当しない。

オ 上記ウ(ウ)(あ)について
 被告が、Aに係る本件養育料等として平成10年1月分から平成14年7月分まで合計1100万円を支払ったことは認めるが、同金員の受領が原告の不当利得となるとの主張は争う。
 上記ウのとおり、Aは、成年に達した以後も米国b大学に在学していたのであるから、同人が同大学を卒業するまでは、原告は、被告から本件養育料等の支払を受領する法律上の原因があった。

カ 上記ウ(ウ)(い)について
 本件建物に係る原告の使用借権が、Aらが成年に達したことにより終了したとの点、原告が本件建物の使用利益相当額を不当に利得しているとの点は、いずれも否認ないし争う。
 本件調停条項6項に係る本件使用貸借契約は、Aらが大学を卒業する月をもって本件建物の返還時期とするものであるところ、上記ウのとおり、Aらはいまだ大学を卒業したとはいえないから、本件使用貸借契約は終了していない。
 また、本件使用貸借契約については、前記のとおり、原、被告の離婚に伴い、Aらの学習環境、生活環境を維持するという目的の合意があるところ、少なくともBについては、成年に達した後も大学に進学する意思を有しているのであり、そうである以上、上記の目的は達成されていないといえるし、また、原告において、本件建物の使用及び収益をなすに足るべき期間を経過したともいえないから、やはり本件使用貸借契約は終了していない。

4 反訴に関する当事者の主張
(1) 被告(反訴請求原因)

ア 債務不存在確認
(ア) 原告は、被告との間で、昭和62年3月30日の本件調停に係る調停期日において、本件調停条項4項ないし7項記載の合意をした。
(イ) 原告は、被告に対し、本件調停条項4項、5項及び7項に基づく本件養育料等、本件養育料等増額分の各支払請求債並びに同条項6項に基づく本件建物の使用借権を有していると主張している。
(ウ) しかしながら、上記3(2)ウ(ア)、同(ウ)のとおり、上記(イ)の各債権は、Aらが成年に達した日の前日をもって消滅した。

イ 本件養育料等の過払分返還請求
 上記3(2)ウ(ウ)(あ)に同じ。

ウ 原告の本件建物の使用利益相当額の不当利得
 上記3(2)ウ(ウ)(い)〈1〉ないし〈4〉に同じ。

エ よって、被告は、原告に対し、〈1〉上記ア(イ)記載の各債権が存在しないことの確認、〈2〉不当利得返還請求として、(1)金2617万1047円(上記イに係る1100万円及び同ウに係る平成9年○月○日から平成15年9月30日までの原告の利得金合計額1517万1047円の合計額)及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成15年10月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、(2)平成15年10月1日から本件建物明渡済みまで1か月当たり金36万5000円の割合による不当利得金の各支払を求める。

(2) 原告
ア (1)アについて
 (ア)、(イ)の各事実は認める。
 しかしながら、上記3(3)ウ、カのとおり、原告は、被告に対し、上記ア(イ)記載の各債権を有している。

イ (1)イについて
 原告が、被告から、平成10年1月分から平成14年7月分までのAに係る本件養育料等として合計1100万円の支払を受けたことは認めるが、その余は否認する。
 上記3ウのとおり、被告のAに係る本件養育料等の支払義務は、同人が成年に達した以後も存続しており、原告の上記金員の受領は法律上の原因に基づくものといえるから返還の義務はない。

ウ (1)ウについて
 原告が、被告との間で本件使用貸借契約を締結したこと、Aが平成9年○月○日に、Bが平成14年○月○日にそれぞれ成年に達したことは認め、本件建物の使用利益が1か月当たり36万5000円であることは知らない。その余は否認ないし争う。
 上記3カのとおり、本件建物に係る原告の使用借権は、Aらが成年に達したこと等によって終了していない。

第3 当裁判所の判断
1 本訴関係
(1) 本訴請求の訴えの利益について

 原告の本訴請求は、本件調停条項を根拠にするものであるが、債務名義(なお、調停調書が債務名義になりうることは明らかである。)が存在している場合に、同一訴訟物について給付を求める訴えを提起することは、原則として、訴えの利益がなく不適法というべきである(東京高裁平成5年11月15日判決参照)。
 しかしながら、本件調停条項7項に係る請求権は、同条項4項、5項と併せみても、その増額の時期、基準、例外の有無については一義的明確であるとはいえず、同条項だけから一定額の金銭給付請求権の存在が判明するものではないから、同条項7項が債務名義になるとは解し難いというべきである。よって、同条項を根拠として給付判決を求める原告の本訴請求も、訴えの利益を肯定するのが相当である。

(2) 被告が、昭和62年3月30日、本件調停において、原告との間で、本件調停条項4項、5項及び7項のとおり合意したこと、本件調停条項7項所定の方式に基いて算出された昭和63年1月1日から平成14年○月○日までの本件養育料等増額分の合計額が856万0515円となることは、当事者間に争いがない。
 しかして、本件調停条項7項は、「第4項、同5項の金員は、原則として年毎に総務庁統計局編集の消費者物価指数編東京都区部の総合指数に基づいて増額し」と規定しており、同項所定の消費者物価指数は、公表されるものと解されるから(弁論の全趣旨)、本件養育料等増額分の数額も客観的に算出することが可能であるということができる。
 しかして、同条項は、上記のとおり、「原則として、年毎に消費者物価指数に基づいて増額する」と規定されているだけで、その増額の時期、原則、例外の区別基準について一義的に明確になっておらず、また、原告主張のように昭和63年1月1日から年ごとに増額されるとの合意にもなっていないことに照らせば、被告が主張するように原告の請求を待って初めて増額の効果が発生するとの見解の当否について判断するまでもなく、同条項から直接、原告主張のような基準に依拠した具体的な本件養育料等増額分の支払請求権が発生すると解することはできない。

(3) 仮に、本件養育料等増額分が毎年1月1日をもって例外なく増額されると解したとしても、以下のとおり、原告の本件養育料等増額分の請求は過去の扶養料を一括して遡及的に請求するものであって、失当であると解される。
 すなわち、本件調停条項7項に基づく本件養育料等増額分は、同条項4項、5項を受け、同各項所定の本件養育料等の額を増額する趣旨であり、その意味で同条項7項は、被告の扶養義務としてのAらに対する養育費等の支払義務を規定したものというべきである。
 この点、原告は、本件調停条項7項に基づく請求権は、本件調停条項4項、5項に係る本件養育料等の請求権とは別個独立に発生する請求権であると主張するけれども、同条項4項、5項の金員について、その増額を定めたものであることは同条項7項の文理からして明白であるから、原告の上記主張は採用することができない。

 そうすると、原告による同条項7項に基づく本件養育料等増額分の請求は、扶養権利者であるAらを扶養してきた扶養義務者である原告が、一方の扶養義務者である被告に対して過去に支出した扶養料を一括して求償しているものと同視することができる。しかして、過去の扶養料については、当事者間に協議が整っていれば、家庭裁判所における審判によらず、通常裁判所である当裁判所が判決手続において定めることは可能であるところ(その意味で、本件調停条項7項により原、被告間で協議が整っているといえるから、当裁判所が判決手続においてその存否を確定することも適法と解される。)、元来、扶養は自己の資産又は収入によってはその生活を維持できない者に経済的給付をなすものであって、扶養に関する権利、義務も時々刻々に発生、消滅するものであり、過去の生活についての扶養ということは観念できず、また不必要でもある。他方で、過去の扶養料の請求を一切否定することになれば、扶養義務者が少しでも履行を遅延させることにより義務そのものを免れるとの不当な結果を招きかねない。それゆえ、扶養権利者(あるいは他の扶養義務者)からの請求の時を基準にして、その請求により義務者が遅滞に陥った以後の扶養料は過去のものでも請求することができると解するのが相当である。

 しかして、証拠(原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、代理人弁護士を通じて、被告に対し、本件調停条項7項により本件養育料等増額分の請求をしたのは平成14年11月22日であると認められるから、上記の理によれば、原告の本訴請求は、上記の請求前の過去の扶養料を一括請求するものであって許さないと解すべきである。

(4) 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は失当というべきである。

2 反訴請求について
(1) 本件養育料等の支払義務(本件調停条項4項、5項)の終期について

 本件調停条項4項、5項は、同各項に係る被告の本件養育料等の支払義務の終期として、「長男長女がそれぞれ大学を卒業する月まで」と定めているところ、被告は、同条項の定めはAらが大学に進学した場合の例外を定めた趣旨であって、同人らが大学に進学しなかった場合には、それぞれ成年に達した日の前日をもって同支払義務は消滅すると主張しているので検討する。

 なるほど、本件調停条項4項、5項には、上記のとおり、本件養育料等の支払義務の終期が明示されているけれども、大学の入学に特段の年齢制限等はなく(弁論の全趣旨)、また、扶養権利者である子が大学に進学するか否かは、その進学意欲、能力のほか、健康状態や進学のための資力等といった様々な諸要素により決定されるものといえるから、扶養の終期を「大学を卒業する月」までと定めたところで、一義的明確に扶養の終期が定められているとは解し得ない。もとより、家事審判において、扶養料の終期を大学卒業まで無制限と定めたとしても、一方において扶養権利者の要扶養状態が継続し、他方で扶養義務者において扶養可能な状態が続くのであれば、終期を定めずに扶養は継続されるべきものであるし、かかる事情が消滅すれば、当事者は、何時でも家庭裁判所に対する申立てにより扶養に関する審判の取り消しを求めることができるのであるから、上記のような定めが一概に違法であるということにはならないけれども、成年を過ぎた子と未成熟な未成年の子に対する扶養の義務は、その本質において異なるといえ、従って、その給付の内容、方法等も自ずと異ならざるを得ないというべきである。

 さらに、本件調停条項4項、5項の合意をした際の調停当事者の意思についてみると、被告は、「昭和62年当時の原、被告間の共通認識として、両者とも大卒であったこともあり、大学を出ていなければ立派な社会人ではないという認識があったので、そのように書いた。」旨供述し(被告本人調書2頁)、原告も「2人の子どもが社会人になって自立するための学識、常識、人間関係を育むことを願っていた」旨供述しているのであって(原告本人調書2頁)、これらの供述からすれば、原、被告両名とも、敢えて具体的終期を定めず、Aらが大学を卒業するまで実質上無期限に被告が支払義務を負担するという趣旨で上記条項に係る合意をしたとまでは認めることができない。

 このようにみれば、本件調停条項4項、5項は、Aらが成年に達した時点において、現に大学に在籍しているか、あるいは在籍していなかったとしても合理的な期間内に大学に進学することが相当程度の蓋然性をもって肯定できる特段の事情が存在する場合には、同人らが大学を卒業する月まで被告の本件養育料等の支払義務は延長され、そうでない限り、同人らが成年に達する日の前日をもって終了するとの趣旨で合意されたものと解するのが相当というべきである。


以上:5,942文字

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