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医学的に説明可能であるかどうかで12・14級を分けた地裁判決紹介

○原告車と被告車の衝突事故に関し、原告が、被告に対し、本件事故により、原告車が損傷し、原告が受傷し、①頸部痛,両手のしびれ感やふるえ、②右趾のしびれ感のいずれも12級後遺障害で、併合11級後遺障害を負ったとして、民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づく約1341万円の損害賠償をしました。

○これに対し被告は、①、②いずれも医学的証明がないとして14級後遺障害は認めるも12級は否認し、併合11級後遺障害は争い、且つ、素因減額を主張して争いました。

○この事案で、本件後遺障害のうち①頸部痛、両手のしびれ感やふるえは後遺障害等級12級相当、②右趾のしびれ感については、後遺障害等級14級相当であり、原告の後遺障害は、併せて後遺障害等級12級相当であるとして、約809万円の損害を認めた令和6年7月19日札幌地裁判決(自保ジャーナル2176号37頁)関連部分を紹介します。

○後遺障害について判決は、①頸部痛、両手のしびれ感やふるえはMRI検査等により明らかとなった本件頸部等の所見により生じたものであると医学的に説明可能であることから後遺障害等級は12級相当であると認め、②右趾のしびれ感は、原告が通院した医師が,X-pの他覚的所見そのものは変性変化であり,外傷性の所見である可能性は低く,それによって生じた症状「右趾のしびれ感」は事故がなければ生じていなかった可能性は否定できないという回答にとどまり、原告に認められるL4/5椎間板腔狭小化等による神経への影響は判然せず医学的に説明可能ではないので14級に留まるとしました。

○被告の素因減額主張については、被告らが指摘する従前の事故は本件事故の10年以上前のもので、本件事故による治療や後遺障害に影響を与えたとは認められないとして排斥しました。なお、本件には過失割合等の争いもありましたがその部分は省略します。

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主   文
1 被告は,原告に対し,808万9530円並びにうち100万0600円に対する令和4年2月10日から支払済みまで年3分の割合による金員及びうち708万8930円に対する令和4年12月26日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

     (中略)

事実及び理由
第一 請求の趣旨
1 第1事

 被告は,原告に対し,1341万6002円並びにうち161万3182円に対する令和4年2月10日から支払済みまで年3分の割合による金員及びうち1180万2820円に対する令和4年12月26日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

    (中略)

第二 事案の概要
 本件は,原告が運転する自動車(以下「原告車」という。)と被告が運転する自動車(以下「被告車」という。)との間で生じた交通事故(以下「本件事故」という。)に関し,原告が,被告に対し,本件事故により,原告車が損傷し,原告が受傷し,後遺障害を負ったなどとして,民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償請求(遅延損害金の起算日は,161万3182円(弁護士費用及び物損の合計額)については事故日である令和4年2月10日であり,1180万2820円(人身損害)については保険支払日である令和4年12月26日である。)をする(中略)事案である。

1 前提事実

     (中略)

2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)過失割合

     (中略)

(2)本件事故による原告の後遺障害の程度
(原告の主張)
 原告には,他覚的所見として,C5/6,C6/7椎間板腔狭小化及び椎間板膨隆・椎体後縁骨棘,並びにL4/5椎間板腔狭小化が認められる。上記所見が外傷性でなかったとしても,本件事故前,原告には当該他覚的所見による症状はなかったにもかかわらず,原告は,本件事故後から,一貫して「頸部痛,両手しびれ感,両手のふるえ」や「右趾しびれ感」を訴え,同症状が症状固定日においても継続している。

 したがって,原告は,本件事故前には無症状であったが,事故後に画像により確認される他覚的所見に起因するこれらの症状(「頸部痛,両手しびれ感,両手のふるえ」や「右趾しびれ感」)が発現したものであり,後遺障害等級12級相当の後遺障害が生じたといえ,それが2以上残存しており,全体として,後遺障害等級併合11級相当の後遺障害が残存したというべきである。

(被告らの主張)
 原告の主張は否認ないし争う。原告の後遺障害が後遺障害等級14級相当であることについては争わないが,いずれについても,本件事故によって原告の後遺障害が発現したことについて,医学的な証明がされているという程度には至っておらず,原告には,後遺障害等級12級相当の後遺障害は認められず,全体として,後遺障害等級併合11級相当の後遺障害が残存したとはいえない。

(3)素因減額の有無
(被告らの主張)
 原告は,従前の事故により,頸部痛,右手しびれ,右手のふるえについて後遺障害等級14級の認定を受けていることから,頸部痛については経年変性を超えた疾患として残存していた。
 このことから,頸部痛に基づく神経障害を原因とした原告の左手しびれ感,左手ふるえ感については,原告の疾患が本件事故による外傷と相まって生じたものである。同頸部痛を原因とする左手しびれ感等の後遺障害について減額を認めない場合,後遺障害を二重評価していることになるから,公平の観点から素因減額が認められるべきである。

(原告の主張)
 被告らの主張は否認ないし争う。

     (中略)

第三 当裁判所の判断
1 認定事実


     (中略)

3 争点(2)(本件事故による原告の後遺障害の程度)
(1)原告に残存した後遺障害

 前記1の認定事実,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告には,症状固定時(令和4年8月9日時点)において,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」及び「右趾のしびれ感」が残存したことが認められる(以下,これらを「本件後遺障害」という。)。

(2)「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」
 原告には,本件事故後において,本件所見のうち,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」に関するものとして,「C5/6,C6/7の椎間板腔狭小」,「C5/6,C6/7変転」(頸椎後弯アライメント),「椎体後縁骨棘あり」,「硬膜のう 軽度圧迫」(以下「本件頸部等の所見」という。)が認められるところ(前記認定事実(1)ア),これらの所見が本件事故によって生じた外傷性のものであると認めるに足りる証拠はない。

 しかし,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故当時70歳ではあったものの,本件事故前において,業務上の支障なく,フレンチ料理の店舗において,自ら調理をするとともに,他の調理人を統括する業務を行っていたことが認められるところ,本件事故後において,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」等の症状が出現したこと(前記(1),前記前提事実(2),(3),(5),前記認定事実(1)),原告は,本件事故があった前年(令和3年)の給与所得(支払金額)は478万6928円であったが,本件事故があった年(令和4年)には給与所得(支払金額)は235万8030円となり,令和5年4月には上記料理店を退職していること(前記認定事実(3))が認められ,これらの事実によれば,本件事故により,原告に「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の症状が発生するようになったと認められる。

 その上,前記認定のとおり,原告が通院していたcクリニックの医師が,原告には椎間板の狭小化,骨棘などの変性変化により,頸部痛が発生,遷延化すること及び脊髄の圧迫により,両手しびれ感,両手のふるえが発生,遷延化することが考えられ,上記所見の状態に外傷が加わることによって症状が発生した可能性は否定できず,原告は,事故前は不自由なく調理人としての仕事を全うされていたことを考えると事故がなければ,原告には「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の症状が発生しなかったと考えられる旨回答している(前記認定事実(2))ところであり,医師による上記回答を踏まえると,本件事故前には「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の症状が特段生じていなかったにもかかわらず,本件事故の衝撃等による外力が本件頸部等の所見に加わり,それに伴って,本件頸部等の所見に伴う症状が顕在化したものと認められる。

 したがって,本件後遺障害のうち,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」は,本件事故と相当因果関係があるものであり,MRI検査等により明らかとなった本件頸部等の所見により生じたものであると医学的に説明可能であることから後遺障害等級は12級相当であると認めることが相当である。

(3)右趾のしびれ感
 原告には,本件事故後において,本件所見のうち,「右趾のしびれ感」に関するものとして,L4/5椎間板腔狭小化が認められるところ,原告が通院してcクリニックの医師が,X-pの他覚的所見そのものは変性変化であり,外傷性の所見である可能性は低く,それによって生じた症状「右趾のしびれ感」は事故がなければ生じていなかった可能性は否定できないという回答にとどまっており(前記認定事実(2)),原告に認められるL4/5椎間板腔狭小化等による神経への影響は判然としない。

 以上を踏まえると,右趾のしびれ感については,原告に認められたL4/5椎間板腔狭小化の所見により,医学的に説明可能であるとまではいえず,後遺障害等級12級相当であるとまではいえず,後遺障害等級14級相当にとどまる。

(4)被告らの主張について
 被告らは,原告に残存した「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」については,原告の主張する神経症状を発現させるほどの圧迫等の痕跡があることは伺えず,有意な神経学的所見は存在せず,本件事故による障害部位と自覚症状が整合しているとはいえないなどとして,医学的な証明がされておらず、後遺障害等級14級にとどまる旨主張する。

 しかし,前判示のとおり,原告には,本件頸部等の所見(「C5/6,C6/7の椎間板腔狭小」,「C5/6,C6/7変転」,「椎体後縁骨棘あり」,「硬膜のう 軽度圧迫」)が存在すると認められるところ(前記認定事実(1)ア),本件頸部等の所見は,頸椎MRIの検査等により明らかとなったものであり,他覚的所見といえる。

また,本件頸部等の所見によると,C6やC7の脊髄,C5/6やC6/7の神経根に障害が生じていると考えられるところであり,これらの所見に伴う神経症状としては,第1から第3指までの感覚障害が生じ得るところであることや,原告の担当医が,原告には椎間板の狭小化,骨棘などの変性変化により,頸部痛が発生,遷延化すること及び脊髄の圧迫により,両手しびれ感,両手のふるえが発生,遷延化することが考えられる旨回答していること等を踏まえると,本件頸部等の所見は,原告に残存した「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」の後遺障害と整合するものといえ,前判示のとおり,本件後遺障害のうち,「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」は,本件頸部等の所見により生じたものであると医学的に説明可能であるといえ,被告らの上記主張は採用することができない。
 
(5)結論
 以上によれば,本件後遺障害のうち「頸部痛,両手のしびれ感やふるえ」は後遺障害等級12級相当であり,右趾のしびれ感については,後遺障害等級14級相当であると認められるところであり,原告に残存した後遺障害は,併せて後遺障害等級12級相当であると認められる。

4 争点(3)(素因減額の有無)
 被告らは,原告が,従前の事故により,頸部痛,右手しびれ,右手のふるえについて,後遺障害等級14級の認定を受けており,素因減額をすべきである旨主張する。

 しかし,被告らが指摘する従前の事故は本件事故の10年以上前のものであり,本件事故前に,原告が,従前の事故の影響による治療を受けていた形跡がうかがわれないこと等に照らすと,従前の事故が,本件事故による治療や後遺障害に影響を与えたとは認められない。
 なお,本件所見は,いずれも加齢に伴うものと考えられるため,これを根拠に素因減額を行うことは相当ではない。

 よって,被告らの上記主張は採用することができない。

5 争点(4)(原告の損害額)

     (中略)

第四 結論
 以上によれば,原告及び被告の請求は,主文記載の限度で理由があり,その余の請求は理由がないので棄却するとともに,原告会社の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第3部
裁判官 濱岡恭平
以上:5,189文字

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