| 令和 7年12月 6日(土):初稿 |
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○原告の配偶者(昭和49年○月○日生、平成16年6月23日原告と婚姻)と被告とは、原告の配偶者を共済契約者・被共済者、被告を共済者とする、平成17年5月1日効力開始の定期生命共済・総合保障2型の共済契約を締結しました。原告の配偶者が18歳~60歳の間に病気で死亡した場合、死亡共済金400万円が原告に支払われるもので、掛金は月額2000円で、契約は1年毎に更新して継続してきました。原告の妻は、令和4年6月3日、病気で死亡し、原告(死亡時点において指定暴力団の暴力団員)は、被告に対し死亡共済金400万円の支払を求めました。 ○被告は、平成26年10月、本件契約に関する約款を変更し、共済者は、共済金受取人が、暴力団員(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を含む。)に該当すると認められる場合、共済契約を解除することができる旨、解除した場合において、該当事由が生じた時から解除した時までに発生した支払事由については、共済金を支払わない旨を規定しました(本件暴力団排除条項)。 ○そこで被告は原告に対し、令和4年7月25日付けで、原告に対し、本件暴力団排除条項に基づき、共済金受取人である原告が暴力団員であることを理由に、本件契約を解除する旨の意思表示をして共済保険金支払を拒否し、原告は支払を求めて提訴しました。 ○これに対し、保険法の遡及適用の点からしても、定型約款の変更による契約の変更の点からしても、平成26年10月約款変更の本件暴力団排除条項は、平成17年5月1日効力開始の本件契約に適用されるとし、また、本件解除は、信義則違反とはいえないとして、原告の請求を棄却した令和6年3月26日広島地裁尾道支部判決(判時2632号○頁、参考収録)関連部分を紹介します。 ○暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)第2条では、暴力団とはその団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいうとされ、暴力的不法行為等とは別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為をいうと定義され、別表には60個の犯罪が記載されています。 ○指定暴力団は、暴対法3条で公安委員会が指定暴力団と指定した団体ですが、指定に至らない暴力団はどのように認定されるのかは、現時点では私の調査不足でハッキリしません。 ○この判決では、暴力団員でいることは、保険金の不正請求を行わないことへの信頼を著しく損なう事情であり、金融機関はいかなる理由であれ、反社会的勢力であることが判明した場合には資金提供を行わないことを求められているとして、暴力団員は、死亡保険金(共済金)は受け取れないことになります。自業自得とは言え、気の毒だとの感もします。この判決は高裁でも維持されており別コンテンツで紹介します。 ******************************************* 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 被告は、原告に対し、400万円、及び、これに対する令和5年9月7日から支払済みまで年3%の割合による金銭、を支払え。 【請求の法的根拠】 主請求:原告の配偶者と被告との間の共済契約 附帯請求:遅延損害金(起算日は催告である訴状送達の翌日、利率は民法所定) 第2 事案の概要 1 前提事実 (1)原告の配偶者(昭和49年○月○日生、平成16年6月23日原告と婚姻)と被告とは、次の通り、平成17年5月1日効力開始、原告の配偶者を共済契約者・被共済者、被告を共済者とする、定期生命共済・総合保障2型の共済契約を締結した(以下「本件契約」という〔甲1~3〕。)。 ア 共済期間 1年(但し、初年度は、初めて迎える3月31日まで。その後は、制度の変更がない限り、満65歳になって初めて迎える3月31日まで、共済契約者の申出がない場合や共済掛金の滞納による失効がない場合、毎年更新される。) イ 共済掛金 2000円/月 (中略) 死亡・重度障害:交通事故 18歳~60歳 1000万円 60歳~65歳 700万円 不慮の事故(交通事故を除く) 18歳~60歳 800万円 60歳~65歳 530万円 病気 18歳~60歳 400万円 60歳~65歳 230万円 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 主たる争点(1)(平成26年10月約款変更の本件暴力団排除条項は、平成17年5月1日効力開始の本件契約に適用されるか)について (1)まず、保険法57条3号(保険者は、保険者の保険金受取人に対する信頼を損ない、生命保険契約の存続を困難とする重大な事由がある場合には、当該生命保険契約を解除することができる。)は、保険法施行日(平成22年4月1日)前に締結された生命共済契約についても適用されるから(保険法附則4条1項)、本件暴力団排除条項が同法同条号に該当するか検討する。 確かに、死亡共済金受取人が暴力団員であること自体は、保険法57条1号(保険者は、保険金受取人が、保険者に保険給付を行わせることを目的として故意に被保険者を死亡させ、又は死亡させようとしたことがある場合には、生命保険契約を解約することができる。)及び2号(保険者は、保険金受取人が、生命保険に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたことがある場合には、当該生命保険契約を解除することができる。)と異なり、不正請求と直接結び付くものではない。 しかし、暴力団は、その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等(詐欺も含む。)を行うことを助長するおそれがある団体であり(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条2号、1号、別表2号)、暴力団員は、暴力団のために資金獲得活動を行っている。したがって、暴力団員でいることは、保険金の不正請求を行わないことへの信頼を著しく損なう事情である。 加えて、被告は、消費生活協同組合法に基づき、厚生労働省の監督を受け、厚生労働省から、反社会的勢力を金融取引から排除していくこと(平成23年改正の共済事業向けの総合的な監督指針〈2〉-3-9-1本文)、いかなる理由であれ、反社会的勢力であることが判明した場合には資金提供を行わないこと(同〈2〉-3-9-2(1)〔2〕)を求められている。したがって、被告は、暴力団員との間で信頼関係を構築することが容認されていない。 よって、本件暴力団排除条項は、保険法57条3号に該当すると認められるから、同法同条号は、本件契約に適用される。 (2)次に、民法548条の4第1項2号(定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき)の場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができるから、本件暴力団排除条項が、同法同条項号に該当するか検討する(ただし、本件暴力団排除条項は、同法同条項号の施行前の約款変更であるから、本件暴力団排除条項が同法同条項号に該当するか否かは、本件契約に適用されるか否かと直接結び付くわけではない。)。 ア 本件暴力団排除条項は、前記(1)の通り、保険法の規定に該当するから、本件契約の目的に反しないといえる。 イ 本件暴力団排除条項は、政府の犯罪対策閣僚会議幹事会が平成19年6月19日に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を申し合わせて、契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込むことが望ましいとしたこと(同指針に関する解説(5))、地方自治体が暴力団排除条例を制定し(広島県は平成22年12月27日)、事業者に契約を締結するときは暴力団排除条例を定めるよう求めたこと(広島県暴力団排除条例は13条3項)を背景に、被告が、厚生労働省から、契約書等に暴力団排除条項を導入することを求められて(平成23年改正の共済事業向けの総合的な監督指針〈2〉-3-9-2(1)〔1〕)、規定したものである。したがって、変更の必要性がある。 本件暴力団排除条項は、死亡共済金受取人が暴力団員(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を含む。)に該当すると認められる場合であり、不利益を被る相手方が限定され、不利益回避の方法がある。また、解除に伴う違約金が高額であるような規定を認める証拠はなく、不服のある相手方には契約離脱の機会がある。したがって、変更後の内容の相当性がある。 ところで、金融庁は、保険会社に対し、平成20年改正の保険会社向けの総合的な監督指針をもって、契約書や取引約款への暴力団排除条項の導入を求め(同〈2〉-4-9-2(3))、保険会社各社は、保険契約において、本件暴力団排除条項と同様の暴力団排除条項を、契約書又は取引約款に規定している(顕著な事実)。したがって、本件暴力団排除条項は、同業他業者が同様の場面で顧客に課している負担の水準と同程度の負担を相手方に求めるものに過ぎない。 よって、被告の約款に約款変更の要件や手続を定める条項の存在を認める証拠がないことを考慮しても、本件暴力団排除条項は合理的なものといえる。 ウ 以上の通り、本件暴力団排除条項は、民法548条の4第1項2号に該当すると認められるから、本件暴力団排除条項について、共済契約者である原告の配偶者の合意があったものとみなし、本件契約の内容を変更することができる。 (3)以上の通り、保険法の遡及適用の点からしても、定型約款の変更による契約の変更の点からしても、平成26年10月約款変更の本件暴力団排除条項は、平成17年5月1日効力開始の本件契約に適用される。 2 主たる争点(2)(本件解除は、信義則違反又は権利濫用か)について (1)前記1(1)で判示したことに加えて、本件は、共済金受取人が暴力団員であること(共済契約者又は被共済者が暴力団員であり、共済金受取人が暴力団員ではない場合とは異なる。また、暴力団員ではない共済金受取人の地位を暴力団員が相続した場合とも異なる。)からすれば、本件解除は、信義則違反とはいえない。 (2)本件契約は、死亡だけではなく交通事故を含む不慮の事故による入通院や病気による入院も共済事故とし、その共済金受取人は、暴力団員ではない原告の配偶者であった。また、共済掛金はその対価でもある。したがって、共済契約者が共済金の給付を一切受けられないわけではないし、被告が共済金を給付する余地なく共済掛金を収受したわけではない。また、本件暴力団排除条項が平成26年10月に規定されてから令和4年6月3日に本件共済事故が発生するまで、原告が、本件暴力団排除条項の対象(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者)を回避する時間は十分あった。したがって、本件解除は、権利濫用とはいえない。 3 結論 以上の通り適法な本件解除により、被告は本件共済事故に関し共済給付を行う責任を負わないから(本件暴力団排除条項、保険法59条2項3号)、原告の請求は、認容されるべきではない。よって、主文のとおり判決する。 広島地方裁判所尾道支部 裁判官 永野公規 以上:4,894文字
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