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抑うつ病退職夫に退職後4割収入ありと扱い婚姻費用支払を命じた家裁審判紹介

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令和 7年11月26日(水):初稿
○妻が別居中の夫に対し婚姻費用分担金の支払を求めたところ、夫が抑うつ症状との診断を受け勤務先を退職して収入が無いと主張してその支払を拒絶しました。

○これに対し、夫の就労が不可能な程度かは疑いが残るとして、退職後も退職前収入の約4割の収入があるものと扱い、基礎収入額をその43%と認めた上で、申立人代理人が相手方夫に対して受任通知を送付した令和3年12月から離婚が確定した令和5年2月までの婚姻費用分担金として161万5000円の支払を夫に対して命じた令和5年2月28日福岡家裁審判(判時2631号7頁)全文を紹介します。

○審判理由として相手方は、令和4年5月に抑うつ症状の診断を受け、同年6月末で退職しているが、診断書及び相手方の主張によっても、申立人の別居以前には特に症状はなく、別居後の長男及び二男との面会交流等を巡って発症し悪化したというもので、受診及び退職の経緯、本件調停への対応状況等を考慮すると、相手方の症状が就労不可能な程に重篤なものかについては疑いが残ると、夫に厳しい認定がなされています。

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主   文
1 相手方は、申立人に対し、161万5000円を支払え。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての要旨

 相手方は、申立人に対し、婚姻費用分担金として、毎月相当額を支払え。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 本件記録によれば、次の事実が認められる。
(1)本件申立てに至る経緯等
ア 申立人(平成4年生)と相手方(平成3年生)は、平成30年1月1日、婚姻し、同年×月×日、長男であるAが、令和3年×月×日、二男であるB(以下、長男及び二男をあわせて「未成年者ら」という。)がそれぞれ出生した。
イ 申立人は、同年8月21日、未成年者らを連れて別居し、申立人代理人は、同年12月、相手方に対して受任通知を送付し、その中で婚姻費用を請求した。
 申立人は、令和4年5月12日、福岡家庭裁判所に対し、婚姻費用分担金の支払を求める調停(令和4年(家イ)第888号。以下「本件調停」という。)を申し立てた。

ウ 相手方は、同年3月28日、自宅を売却すると、同年5月24日、抑うつ気分、不眠、不安等を訴えて病院を受診し、抑うつ状態で、就労は困難であるとの診断を受けて、同年6月末、それまで勤務していた銀行を退職した。
エ 本件調停は,同年11月25日、不成立となって、本件審判に移行した。
 なお、両当事者間の夫婦関係調整(離婚)調停事件(福岡家庭裁判所令和4年(家イ)第889号)において、離婚等を認める調停に代わる審判(以下「別件離婚審判」という。)が、令和5年2月16日に確定し、申立人と相手方は離婚している。 

(2)当事者の生活及び収入状況等
 申立人は、実家で、長男及び二男とともに暮らしているが、現在は無職で収入はない。
 相手方は、以前は銀行に勤めて、令和3年の年収は678万6334円であったが、令和4年6月末に退職してその後は就職しておらず、現在無職で収入はない。出生地である大分県中津市で暮らしている。退職後に雇用保険受給の申請を行ったが、就労可能でないことを理由に支給を受けられなかった。

2 婚姻費用分担額等について
(1)夫婦は、互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条)、別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合でも、影響を受けるものではなく、自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。

 そして、婚姻費用分担額は、各総収入に対応して税法等により算出された公租公課の標準的な割合並びに統計資料に基づいて推計された職業費及び特別経費の標準的割合から基礎収入を推計して、その合計額を世帯収入とみなし、これを生活保護基準等から導き出される標準的な生活費指数によって算出された生活費で按分して算定する方式を用いることが相当である(司法研究報告書「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」。以下、同報告書の算定方式を「改定標準算定方式」という。)。

(2)上記認定を基に、改定標準算定方式に基づいて、相手方が負担すべき婚姻費用の分担額を算定する。
ア 基礎収入額
(ア)申立人については、2歳未満の二男を養育していること等を考えると、収入は0として扱うのが相当である(申立人が実家の援助を受けていたとしても、直ちに婚姻費用の算定に影響を与えるものではない。)。


イ(相手方については、令和4年6月までは、令和3年の収入の41%にあたる278万2000円(千円未満切捨て。以下同じ。)と認めるのが相当である。
 相手方は、令和4年5月に抑うつ症状の診断を受け、同年6月末で退職しているものの、診断書及び相手方の主張によっても、申立人の別居以前には特に症状はなく、別居後の長男及び二男との面会交流等を巡って発症し悪化したというもので、受診及び退職の経緯、本件調停への対応状況等を考慮すると、相手方の症状が就労不可能な程に重篤なものかについては疑いが残る。

 相手方の提出する診断書には、就労は困難との記載があるものの、令和4年5月24日付け診断書は、初診当日に作成されたものであり、また、同年10月25日付け及び令和5年1月31日付け診断書もSDS(自己評価式抑うつ性尺度=患者が質問に答えていく心理検査)の数値の記載はあるが、症状の具体的内容及び程度、通院の頻度、投薬内容等は明らかではなく、直ちに就労不可能と判断できるものではない。

 申立人が具体的診療内容等を明らかにするよう求めるのに対して、相手方はこれ以上の立証を拒否していること、相手方が直ちに退職せずに休職の申請等を行うことで相応の収入が得られたことなどを考慮すると、令和4年7月以降も、婚姻費用の算定にあたっては少なくとも従前の収入の約4割である270万円の収入があるものと扱った上で、その43%にあたる116万1000円と認めるのが相当である。

イ 生活費指数に基づく婚姻費用分担額
 生活費指数について、申立人及び相手方を各100、長男及び二男を各62として、相手方の婚姻費用分担金を算定すると、相手方の婚姻費用分担金は、令和4年6月までは、月額16万円、同年7月以降は、月額6万6000円と算定され、これに本件に顕れた一切の事情を考慮して、相手方が負担すべき婚姻費用分担金は、上記算定結果のとおりと認めるのが相当である。
(計算式)
(令和4年6月まで)
2,782,000×(100+62+62)/(100+100+62+62)=約1,923,000
1,923,000/12=約160,000

(令和4年7月以降)
1,161,000×(100+62+62)/(100+100+62+62)=約802,000
802,000/12=約66,000

(3)上記1(1)で認定した事実に照らすと、本件審判において婚姻費用分担金を定めるべき始期は、申立人代理人が相手方に対して受任通知を送付した令和3年12月とするのが相当であり、また、離婚が確定した令和5年2月については、月額の半分である3万3000円とするのが相当であるから、令和5年2月までの婚姻費用分担金は、161万5000円となる。
(計算式)160,000×7+66,000×7+33,000=1,615,000
 なお、相手方の既払金についての主張は、別件離婚審判において撤回されている。

第3 結論
 以上によれば、相手方は、申立人に対し、161万5000円を直ちに支払うべきである。
 よって、主文のとおり審判する。
(裁判官 小田島靖人)
以上:3,125文字

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