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婚約に至らない交際で妊娠した場合の男の責任を認めた地裁判例紹介

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令和 1年 9月23日(月):初稿
○「合意による性関係後妊娠・中絶した女性の保護程度1」以下で、妊娠・中絶自体で、それに伴う損害賠償請求として女性が男性に対し治療費・慰謝料等合計905万円を請求し、114万円の請求が認められた一審平成21年5月27日東京地裁判決を維持した平成21年10月15日東京高裁判決(判時2108号57頁)の要旨を紹介していました。

○今般、これに関連する質問を受けましたので、一審平成21年5月27日東京地裁判決(判時2108号59頁)関連部分を紹介します。事案は、被告と交際して性行為をし、妊娠して中絶をしたとする原告が、被告に対し、被告は妊娠及び中絶に関して条理上の責任を負うと主張して、慰謝料等約905万円の損害賠償を請求したものです。

○一審東京地裁判決は、原告と被告が共同して性行為を行ったのであり、その結果である妊娠は、その後の出産又は中絶及びそれらの決断の点を含め、主として原告に苦痛や負担を与えるものであるから、被告はこれを軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があったにもかかわらず、被告は、どうしたらよいか分からず、具体的な話し合いをしようとせず、原告に決定を委ねるのみであったのであって、その義務の履行には欠けるものがあったとして、損害の2分の1を賠償すべきであるとして男性に対し約114万円の支払を命じました。

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主   文 
1 被告は,原告に対し,114万2302円及びこれに対する平成20年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
2 原告のその余の請求を棄却する。 
3 訴訟費用はこれを7分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。 
4 この判決の主文第1項は仮に執行することができる。 

事実及び理由 

第1 請求
 
 被告は,原告に対し,905万9839円及びこれに対する平成20年3月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 

第2 事案の概要 
 本件は,被告と交際して性行為をし,被告の子を妊娠して手術による人工妊娠中絶(以下「中絶」という。)をしたとする原告が,被告に対し,被告は妊娠及び中絶に関して条理上の責任を負うなどと主張して,原告が被ったとする損害(精神的苦痛及び肉体的苦痛等による損害,治療費及び逸失利益等)の分担又は賠償を求める事案である。 

1 前提事実 

              (中略)



第3 当裁判所の判断 
1 事実認定
 
 原告と被告との間の経緯(交際,妊娠,中絶,納骨等)は,前提事実(2)のとおりであるが,若干補足する(なお,以下の証拠の記載における「原告」「原告の供述」は甲15及び甲52の陳述書の記載を,「被告」「被告の供述」は乙5の陳述書の記載を含み,いずれも認定に反する部分を除くむ。)。  

(1) ①の交際の開始等について 
 相談所は,配偶者を求める独身男女に配偶者候補を相互に紹介する会社で,男性は学歴と年齢等のほか一定の年収があること,女性は学歴と年齢等が入会資格として揚げられ,会員は異性の会員ファイル(申込書兼用の身上書,調査書及び写真を収録)を閲覧して見合いを希望する相手を選択し,相談所は相手に連絡をして見合いが成立するよう努力し,相手から承諾があれば見合い日時を決定し,見合い後の交際の諾否の返事も相談所を介して行い,双方が希望したときは交際を進めてその経過を相談所に報告し,交際開始後に断りたいときは相談所に知らせると相談所が代わって相手に伝え,了解を得るようにする(ただし,数か月交際が継続したときの断りは,直接当事者間で了解し合うようにする。)といった運営がされている(乙1)。 

(2) ②の被告宅訪問と③の本件性行為について 
 原告は,バレンタインデー近くの2月12日の②のデートの際,被告に高級チョコレートを贈り,被告に誘われて被告宅に行き,深夜まで滞在した。 
 原告は,③の2月16日夜,被告と会い,食事をした後,被告に誘われるまま被告宅を訪ね,泊まっていくことを承諾し,被告から渡された部屋着を使用した。原告と被告は,同夜,初めて性行為をしたが,いずれも避妊具を用意しておらず,原告は避妊具を装着しない性行為を拒むことはなく,被告は膣外射精をした。原告は,このような避妊の仕方では妊娠する可能性は十分考えられると思っていたが,それでもよいと思っていた。 
 原告と被告は,同月23日にも会い,原告が被告に泊まり,同月16日と同様に性行為をした(原告,被告)。 

(3) ④の浮気の疑いについて 
 原告は,3月10日に約2週間ぶりに被告と会って食事をした後,被告方に泊まることになったが,入浴の際に洗濯機内に入っていた部屋着を見つけて被告が浮気(原告とそれ以外の女性との二股交際)をしていると疑った。被告はこれを否定したが,原告と被告は,同夜,互いに体を触れることもなかった。なお,原告は,同月11日午後,相談所が設定していた他の男性との見合いをした(原告,被告)。 

(4) ⑤の交際の終了について 
 被告は,④の出来事から原告との交際を終了することを決め,3月12日に相談所にその旨を連絡し,相談所は原告にこれを伝えた。原告は,同日午後7時49分ころ,「でんわで,話をききました。ロンドンにいく前にもう一度会って話をするの?きょう手が空いたら,電話してください。今から家にかえります。」とのメール(甲42の5)を送り,また,3月17日,「何も言わないで行っちゃうの? 私はおわりにしたいなんて,少しも思っていなかったのに…」「どうか,きもちを変えてください。…もう会えないなんて言わないで。どうか考えなおしてください。…」とのメールを送るなどしたが,被告は一切返信等をしなかった(争いのない事実,原告,被告)。 

(5) ⑥ないし⑩の妊娠の判明から中絶直後までの連絡等について 
 原告は,5月24日に山王病院婦人科を受診し,検査等の結果,妊娠と診断され,医師から妊娠16週ないし17週で中絶手術のリミットまで4週間程度であるとの説明を受け,冬城医院宛の「妊娠16週です。人工中絶を希望なさっています。」等と記載した同日付け紹介・診療情報提供書を受領した。原告は,同月25日に冬城医院を受診し,同月29日朝入院,同月30日中絶手術を予約したが,同医院の医師には「継続か中絶か検討中」と述べていた(甲7,8,原告)。 

 原告は,上記予約どおり同月29日に同医院に入院し,同月30日に中絶手術を受け,その日の夕方に退院した。原告と被告は,この間に,別紙3の「原告が送信したメール一覧」及び「被告が送信したメール一覧」の各メール(甲42の6ないし9,乙8,9)を送受信し,原告は退院後の同月30日午後7時56分ころ「大丈夫だからゆっくり寝てね。ただ,赤ちゃんは明日火葬されるので,お願いだから,きょうのうちに拝んであげてください。あのね,Yさんにとてもよく似ていたの。私にそっくりな女の子,とずーっと思っていたのに。」とのメール(甲42の10)を送信した。 

 被告は,原告から5月24日午後9時38分ころのメールで妊娠5か月である旨伝えられた直後に原告に電話した。被告は,妊娠に驚き,困惑してどうしたらよいか分からない状態であったが,原告に子を産んでほしいとは思っておらず,また,原告も子を産みたいとの意向を被告に伝えることはなかった。原告と被告は,それ以降も子を出産するか中絶するか等について何ら協議をすることがないまま,中絶をすることが前提とされ,被告は,同月26日に原告と会って中絶手術の同意書(甲51)に署名捺印し,中絶手術費用として30万円を渡したが,原告は,なお悩み,入院前日の同月28日午前2時3分ころにもメールを送信したが,被告は返信をしなかった(前掲のほか,原告,被告)。 

2 子の父について 
 本件性行為の際に被告は膣外射精をしたこと,5月24日の時点で原告が妊娠16週と診察されていること等の上記事実関係からすれば,原告が妊娠し中絶をした子の父は被告であったと認められる。 
 被告は,被告が膣外射精で避妊していることや妊娠週数の診断には誤差があること,あるいは原告が3月11日に見合いをしているなど他の男性との性行為の可能性があることを挙げて,子の父が被告であるか不明であると主張する。 
 しかし,膣外射精は避妊具を装着する場合等に比べて不完全な避妊方法であり(甲48,49),上記診察が誤っていること及び原告が他の男性と性行為をしたことをうかがわせる証拠がないこと,被告は5月24日のメールで妊娠5か月と伝えられていたが,本件訴訟に至るまで子の父であることに疑念を示したことはなく,父であることを前提に同書に署名捺印し,納骨に同行していることなどからすれば,被告の主張を採用することはできない。

3 中絶の決定等について 
 上記認定の事実によれば,中絶を決定したのは原告であるといえる。 
 しかし,その決定は,妊娠が16週と進んでいて中絶可能なリミットが迫っている一方,子の父である被告との交際は既に終了しており,妊娠を伝えても,被告は驚き,困惑するだけで,どうしたらよいか分からず,具体的な話し合いをしようとせず,原告も産みたいとの意向を被告に伝えることもなかったことの結果であり,その決定の全責任を原告が負うべきものとはいえない。 

 この点につき,被告は,原告が中絶を既定路線として決定したなどと主張するが,被告は,5月25日の原告へのメールで「これからのこと,相談してください。」とはいうものの,「正直どうしたらいいかわからない」(乙9)との対応しかとらず,原告一人にその決定を委ねていたのであって,原告が被告の関与を排除するような既定路線を定めていたとはいえない(原告は,中絶手術のために冬城医院を受診したが,なお「継続か中絶か検討中」であったのであり,被告から出産に賛成又は中絶に反対などの意向が示されれば,中絶をしなかった可能性が高い。)。なお,被告は,原告の勤務先や法制度等を挙げて,原告が出産を決定することも可能であった旨主張するが,それらのことから直ちに原告が出産を決定することに妨げがなかったとはいえない。 

4 損害の分担又は賠償責任について 
(1) 条理に基づく責任分担等について
 
 原告は,条理あるいは条理上の義務違反に基づき,被告が責任を分担しあるいは損害賠償責任を負う旨主張する。 
 しかし,私人間の紛争において,損害を分担あるいは賠償する責任を負うのは,民法等の実定法が定める債務不履行及び不法行為等の要件を充足する場合に限られ,条理によって義務が観念され,その義務に違反することによって債務不履行又は不法行為を構成することがあるとしても,条理あるいは条理上の義務違反に基づき,直ちに責任を分担しあるいは損害賠償責任を負うとすることはできない。 

 したがって,原告の主張は,この点で失当というほかない。 
 もっとも,条理に基づく義務があるときにそれに違反することは債務不履行又は不法行為を構成し得ることは上記のとおりである。そして,本件において,原告は被告の不法行為に基づく損害賠償の請求をしているところ,原告の上記主張は不法行為における義務とその違反についての主張であるとも解することができる(被告はこれに具体的反論をしている。)から,その点については次の不法行為に基づく損害賠償責任の対する判断において更に検討することとする。 

(2) 不法行為に基づく損害賠償責任について 
ア 暴力を理由とする不法行為について 
 原告は,男性が妊娠・出産に対する周到な配慮と準備をしないまま,避妊をせずにする性交渉は,男性の女性に対する暴力であり,不法行為を構成するなどと主張する。 
 妊娠や出産が女性に対し身体的・精神的負担等の様々な影響を与える重要な事柄であり,婚姻していない女性が子を出産して養育することに大きな困難があり,出産するか中絶するか等を決断するには深刻な精神的葛藤が生じ得ることは,容易に理解することができる。 

 しかし,本件性行為のように,原告と被告が合意の上,しかも,原告が避妊具を装着しない性行為により妊娠する可能性を認識しながらそれを容認し,拒むことなく行った性行為の結果,原告が妊娠したからといって,その性行為が被告の原告に対する暴力であるなどと法的に評価し得ないことは明らかである。 
 上記原告の主張及びこれに沿う甲62の意見書等は,事実の一部のみを過大視し,実定法の規定あるいは解釈に基づかない独自の意見を述べるものであり,これを採用することはできない。 

イ 経緯における不法行為について 
(ア) 原告の妊娠は,本件性行為の結果であるが,避妊方法の不完全さ等を理由に被告の責任を問うことができないことは上記のとおりである。 
 しかし,共同して行った先行行為の結果,一方に心身の負担等の不利益が生ずる場合,他方は,その行為に基づく一方の不利益を軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があり,その義務の不履行は不法行為法上の違法に該当するというべきである。 

 本件性行為は原告と被告が共同して行った行為であり,その結果である妊娠は,その後の出産又は中絶及びそれらの決断の点を含め,主として原告に精神的・身体的な苦痛や負担を与えるものであるから,被告は,これを軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があったといえる。しかるに,被告は,どうしたらよいか分からず,具体的な話し合いをしようとせず,原告に決定を委ねるのみであったのであって,その義務の履行には欠けるものがあったというべきである。したがって,被告は,義務の不履行によって原告に生じたということができる後記損害を賠償すべきである(ただし,その不履行も原告と被告との共同の行為であるといえるから,賠償すべきは後記損害の2分の1とするのが相当である。)。 

(イ) 以上に関し,被告は,原告が中絶を決めており,被告は原告が中絶を望んでいないなどとは想像もできず,原告に対して最大限真摯に対応していたなどと主張する。 
 しかし,上記のとおり,原告は中絶を既定路線としておらず,中絶に至ったのは被告の対応との相関によるものである。原告は,被告に対し,出産したいとの意向を示したことはないが,妊娠を告げた5月24日のメール(甲42の6,乙8)において,「いちど,できたら私たちもお話したほうがいいかもしれません。お話できそうですか?」として協議することを求めており,中絶直前の同月28日午前2時3分ころのメールにおいても,「いろんな状況を考えぬいて決めたことだけど,あとー日しか一緒にいられない,と思うと,だめなの。赤ちゃんが可愛くて仕方ないの。私やっぱりできないかもしれない。どうしよう?どうしたらいい?私がしんでしまいたい。…」と書き送っているのであって,これらを見れば,被告は原告が協議を求めていることや中絶を望んでいないことを認識し得たというべきである。被告は,同意書に署名捺印するなど受動的な対応に終始しており,これをもって上記義務を完全に履行したとはいえない。 
 したがって,上記主張は採用することができない。 

5 原告の損害について 
(1) 以上の認定判断並びに証拠(甲1ないし甲44,甲50ないし甲52,甲55ないし甲57,甲63ないし甲66(枝番を含む。),原告)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,妊娠して中絶手術を受けたが,その後に心身症の胃炎,不眠症,重篤なうつ状態といった精神的疾患等を発症し,現在においてもその症状が残存し,これらによって精神的・身体的苦痛を受け,また,治療費等の費用の支出による経済的損害を受けていることが認められる。 

 上記精神的苦痛等に対する慰謝料は併せて200万円とするのが相当であり,また,前掲証拠によれば治療費等は合計68万4604円(別紙1及び別紙2期の金額の合計)であると認められるから,上記損害について被告が賠償すべき損害(上記合計の2分の1)は134万2302円となる。また,原告が本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任したことは顕著であり,被告にはその費用中の10万円を負担させるのが相当である。 

 したがって,被告は原告に対し,以上の合計144万2302円の賠償義務があるところ,既に30万円を賠償しているから,その残額は114万2302円となる。 

(2) 原告は,上記のほか,妊娠によるつわりが始めるまで得ていた月平均約15万7500円の原稿料や企画構成料を逸失した旨主張するが,その収入がなくなったことが本件による妊娠及び中絶等の結果であると認めるに足りる的確な証拠はない。 

(3) 被告は,本件性行為と中絶との間に相当因果関係はない旨主張するが,本件の経緯は上記認定のとおりであり,婚姻していない男性の子を妊娠した女性が中絶をするに至ることは母体保護法においても想定されていることであり,上記主張は理由がない。 

6 よって,主文のとおり判決する。 (裁判官 笠井勝彦)
 
以上:7,042文字

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