仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 男女問題 > 財産分与・慰謝料 >    

別居の際の一部共有財産の持出を不法行為にならないとした地裁判例紹介

   男女問題無料相談ご希望の方は、「男女問題相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 1年10月 4日(金):初稿
○夫婦の一方が別居するに際し、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもつて持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とならないとした平成4年8月26日東京地裁判決(判タ813号270頁)関連部分を紹介します。

○この判決では、夫婦の一方が婚姻中に他方の協力の下に稼動して得た収入で取得した財産は、実質的には夫婦の共有財産であり、その最終的帰属は、財産分与の際に決すべきであるとしています。

*********************************************

主  文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

事  実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨

1 被告は原告に対し、金3651万円及びこれに対するうち金1293万円については昭和63年10月22日から、うち金2358万円については平成4年2月20日から各支払ずみに至るまで、いずれも年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権の名義を、原告に移転せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁
 主文同旨

         (中略)


理  由
一 債券類について

1 請求原因(一)の事実および被告が別居の際別紙債券目録(1) ないし(20)の債券を持ち出した事実は当事者間に争いがない。

2 〈書証番号略〉、ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ、右各証拠中右認定に反する部分は信用できず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
(一) まず、(20)の債券の金額および別紙債券目録欄外記載の債券の存否並びに持ち出した債券類の大半は被告の実父である乙川から贈与を受けた特有財産である旨の被告の主張について、判断する。
(1)  乙川陳述書の信用性について
 乙川は〈書証番号略〉において、同人が被告の主張に沿う贈与をした旨、述べている。しかし、被告は当初、債券番号(11)、(19)について、その購入資金を乙川から贈与を受けた旨主張し、その証拠として乙川の陳述書(〈書証番号略〉)と野村証券発行の計算書(〈書証番号略〉)をあげていたが、〈書証番号略〉の野村証券発行の計算書からは、右の金銭の送金主は明らかとはならず、右債券番号(11)、(19)は、〈書証番号略〉伝票〈11〉、〈15〉により、原告の取引銀行である第一勧業銀行からの送金で購入されたことが明らかとなったところ、被告は、右各債券は家計費で購入したと主張を改めた。右事実によれば、被告が贈与を受けたというのは誤解であったと訂正した点について、乙川の陳述書も同じ誤りをしているので、被告が乙川を誘導して誤った陳述書を作成させた疑いが否定できない。したがって、乙川の陳述書の信用性には疑問があり、以下の認定に反する部分は採用できない。

(2)  債券番号(1) 、(2) 、(7) 、(9) について
〈1〉 被告は、昭和55年7月25日、乙川と日本興業銀行に同行し、(1) の債券を現金で購入したと主張し、乙川の陳述書(〈書証番号略〉)をあげるが、右証拠のみによって被告主張の贈与を認めることはできず、他に右贈与を認めるに足る的確な証拠はない。

〈2〉 また、被告は、同年8月23日、乙川より贈与を受けた240万円で(2) 、(7) の債券を購入したと主張し、第一勧業銀行の出入記録(〈書証番号略〉)と前述の乙川の陳述書をあげるが、右出入記録からは送金主が誰かは明らかではなく、乙川の陳述書の信用性は乏しいので、右各証拠により、被告の主張を認めることはできず、他に右贈与を認めるに足る的確な証拠はない。

〈3〉 さらに、被告は、同年10月17日、乙川から30万円を贈与されたが、家計費に費消したので、後に家計費より30万円を捻出して、昭和58年1月17日、(9) の債券を購入したと主張し、乙川の陳述書及び第一勧業銀行の送金記録をあげている。しかし、〈2〉と同様の理由、および、右債券については、送金から債券購入までの期間が長く、送金との関連性が希薄であるから、乙川からの贈与で右債券の購入したとは認められない。

〈4〉 他方、原告は債券番号(2) 、(7) 、(9) の購入資金は、原告が乙川に預けておいた日立製作所の株式の売却代金であると主張しているが、原告自身の供述の外に的確な証拠がないので、原告の右主張も認められない。

〈5〉 また、原告は、別紙債券目録欄外記載の31万円の債券を持ち出したと主張するが、右事実を認めるに足る的確な証拠はない。

(3)  債券番号(18)について
 被告は、昭和56年8月18日、乙川より127万8848円の送金を受け、これを原資として被告名義の国債150万円分を購入したと主張する。そして、〈書証番号略〉の伝票〈9〉によれば、昭和56年8月18日に三井銀行津田沼支店より、野村証券の口座に127万8848円送金があった旨の記載があり、津田沼から送金したのは千葉在住の乙川であると推認され、原告から乙川に株式を預けた事実は認められないので、この債券は乙川から贈与された資金で購入したものと認められる。

(4)  債券番号(16)、(17)について
 被告は、昭和56年11月13日、乙川が104万0116円を野村証券新宿支店に持参し、二郎、夏子名義の国債を60万円分ずつ購入したと主張する。そして、〈書証番号略〉の三井信託銀行新橋支店発行の普通預金受払明細表によれば、同日乙川の長男の太郎名義の三井信託銀行新橋支店の口座から、金額も全く同一の104万0116円が引き出されているので、被告の主張事実が認められる。

         (中略)

(8)  原告は、以上の債券のほか、別紙債券目録欄外記載の31万円の債券を被告が持ち出したと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

(9)  結局、被告が別居に際し持ち出した債券は、別紙債券目録記載(1) ないし(20)であり、うち510万円分は、乙川の贈与による被告の特有財産であると認められるから、被告が右特有財産に属する債券を持ち出したことはなんら違法ではない。

(二) 次に、被告の右特有財産以外の債券について判断する
(1)  被告の右特有財産を除く債券は、原被告の婚姻中に、形成された財産であると認められるところ、被告は、婚姻中専業主婦として収入を得ておらず、一家の生活費等は専ら原告の収入に依存していたと認められるので、右債券類は、婚姻中の原告の収入を原資として購入されたものということができる。

 ところで、民法762条1項によれば、婚姻中一方の名で得た財産はその特有財産であるとされているが、夫婦の一方が婚姻中に他方の協力の下に稼働して得た収入で取得した財産は、実質的には夫婦の共有財産であって、性質上特に一方のみが管理するような財産を除いては、婚姻継続中は夫婦共同で右財産を管理するのが通常であり、婚姻関係が破綻して離婚に至った場合には、その実質的共有関係を清算するためには、財産分与が予定されているなどの事実を考慮すると、婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居決意して家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とならないものと解するのが相当である。

 そして、被告は婚姻関係が悪化して離婚を決意して別居したものであり、被告が離婚及び財産分与を提起して訴訟中であって、被告が別居に際し持ち出した債券等が財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するものでないことは、当裁判所に顕著な事実である。また、被告が不当な目的で債券を持ち出したことを認めるに足りる証拠はないから、被告がこれらの債券を持ち出したことに違法性はなく、不法行為は成立しないというべきである。

3 以上によれば、被告が債券を持ち出したことによる損害賠償請求は、いずれも理由がない。

二 ゴルフ会員権について
1 〈書証番号略〉を総合すると(ただし、右各証拠中以下の認定に反する部分は信用しない。)、本件ゴルフ会員権は、いずれも、原被告が婚姻中主として原告の収入により形成した実質的な夫婦の共有財産である預貯金等を資金として、嵐山の会員権については明示の、伊豆下田の会員権については、被告に許された財産管理として、原被告合意の上、被告名義で購入したものであると認められる。したがって、特に被告の名義は便宜上のものであり、原告の特有財産とする合意があったような場合を除いては、原告が一方的に被告に対し名義の変更を求めることはできないと解するのが相当である。

 原告は、本件会員権は将来退職後に予定していた事業資金に当てる目的で購入したものであり、被告に対しても、その趣旨を説明し、被告が自由にプレーをすることができるように便宜被告名義とするが、将来原告が事業を始める際には原告に返還し、処分して事業資金に当てるとの了解が成立していたと主張する。

 そして、前掲各証拠によれば、原告および被告は、これら会員権を取得する際、実際にプレーする目的の外、投資をも目的としていたことが認められる。また原告の供述中には、嵐山の会員権は当初から退職後の事業資金に当てる目的で買ったものである等原告の右主張に沿う部分があり、〈書証番号略〉によれば、昭和59年7月ころ、原告は右会員権を新会社設立のための資金に当てる予定であったことが認められる。しかし、投資の目的があったこと、昭和59年に原告が右会員権を事業資金に当てようとしていた事実があるからといって、右会員権を原告の特有財産とする合意があったといえないことは明らかであり、被告の供述ないし陳述書と対比すると、原告の供述等のみによって、当初から右各会員権の被告名義は便宜上のもので、原告の特有財産とする合意があった事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

 なお、前記のとおり、原被告の夫婦関係は破綻し、離婚と財産分与を求める訴訟が係属しているのであるから、夫婦の実質的共有財産である右会員権の最終的な帰属は、財産分与の際に決すべきものである。
 したがって、右会員権の名義書換請求も理由がない。

三 その余の金銭の請求について
1 原告の請求は、必ずしも明らかではないが、原告は被告に対し、次のとおり被告に対し金銭を交付したが、被告はこれを保留し、または乱費したので、所有権または不法行為に基づき、その返還ないし損害賠償を求めるというのである。
(1) 昭和59年8月6日付で被告に送金した金228万円
(2) その後に送金した金500万円
(3) 嵐山平日会員権売却代金400万円(昭和56年4月売却)
(4) 10数回にわたり海外出張から帰った際に一回50万円ないし100万円ずつ手渡した金1200万円
 そして、被告が(1) の228万円、(2) のうちの300万円、(3) の400万円を受領したことは被告の自認するところであり、また、(4) については、金額回数等は確定できないが、昭和55年ころ以降、原告が出張から帰った際、度々数十万円から100万円程度の金銭を受領したことは被告の自認するところである。(2) のうち200万円については、〈書証番号略〉等原告の供述中には、右主張に沿う部分があるが、これを裏付ける的確な証拠はない。

2 ところで、婚姻継続中、夫から妻に交付される金銭は、特定の目的を指定して交付されたものでない限り、妻において生活費に当てたり、従前の夫婦の慣行にしたがって預貯金、債券の購入等適宜運用するなどして管理費消することが許される性質のものであるから、少なくとも、現に(または別居時点に)妻が手元に保留している場合とか、特定の目的を指定して交付したのに、妻がその趣旨に反して不当に費消したなど、妻に違法な行為があるといえる場合でなければ、多少の浪費、使途不明金があったとしても、当然に、返還義務が生じたり、費消したことによる損害賠償義務が生じるものでないことは明らかである。

 原告は、右各金銭を交付した目的についは、特に主張してはいないが、〈書証番号略〉と弁論の全趣旨によれば、(1) ないし(3) の金銭は、一部は電気製品の購入等家計に当てる目的であり、その余は特に目的は指定せずに交付したものであり、(4) の金銭は、主として家計に当てる目的で交付したものである。そして、被告は、右金銭の相当部分を家計に当て、その余も大部分を従前の慣行にしたがって債券の購入等に当てたことが窺われ、被告が別居時まで右金銭を手元に留保していた事実、または被告が右金銭を違法に使用して原告に損害を与えた事実を認めるに足る証拠はない。
 したがって、この点に関する原告の請求も理由がない。

四 結語
 よって、原告の本件各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判官 小田原満知子)

別紙 ゴルフ会員権目録
一 経営会社 株式会社嵐山カントリー倶楽部
  所在地 埼玉県比企郡嵐山町鎌形1146番地
  ゴルフ場の名称 嵐山カントリークラブ
  会員番号 C/2812
  経営会社  株式会社横浜国際ゴルフ倶楽部
  所在地 静岡県加茂郡南伊豆町入間2383番地一
  ゴルフ場の名称 伊豆下田カントリークラブ
  会員番号 YA-094

別紙 債券目録〈省略〉
以上:5,644文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
男女問題無料相談ご希望の方は、「男女問題相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 男女問題 > 財産分与・慰謝料 > 別居の際の一部共有財産の持出を不法行為にならないとした地裁判例紹介