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養育監護費用返還義務と引渡義務の同時履行関係否認最高裁判決紹介

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令和 2年 6月 1日(月):初稿
○幼児引渡しの請求は、幼児に対し親権を行使するにつき、その妨害の排除を求める訴えであり、幼児引渡義務は、その性質上、養育監護返還義務(不当利得返還義務)と同時履行の関係に立つものではなく、同時履行の抗弁は、主張自体失当であるとした昭和59年9月28日最高裁判決(判時1137号54頁、判タ544号123頁)全文を紹介します。

○事案は、次の通りです。
・Xら夫婦は、昭和49年5月29日、長男Aを儲けたが、経済上等の理由から養育が困難であるとして、A出生の約2か月後に弟夫婦であるYらにAを預け、その養育を依頼
・Xらは、Aが3、4歳になつたころ、Yらに対し、その引渡を求めたが、Yらは、XらのAに対する接し方が無責任であり、Yらに対し身勝手であるとしてAを引渡すことを拒否
・そこで、Xらは、親権に基づき、Yらに対し、Aの引渡を求める本訴を提起
・これに対し、Yらは、Xらの請求は、権利濫用ないし信義則違反であつて許されない等と主張
・さらに、原審において、仮に、YらにAの引渡義務があるとしても、Xらには、Yらが支出したAの養育費等につき不当利得返還義務があり、右引渡義務と不当利得返還義務とは同時履行の関係にあるので、Xらが右養育費等の不当利得返還義務を履行するまで、Aの引渡しを拒絶すると主張
・一審および原審とも、Xらの本訴請求が権利濫用であるとか信義則に違反するとはいえない等として、Aの引渡しを求めるXらの請求を認容
・原審は、Yらの同時履行の抗弁について、仮に、Yら主張のような利得がXらに生じたとしても、その額を認めうる的確な証拠はないので、その余の点について判断するまでもなく右抗弁は失当であるとして、これを排斥
・Yらは、上告し、原審が証拠調べもせずに同時履行の抗弁を排斥したのは審理不尽である等と主張


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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理   由
上告代理人○○○○の上告理由第二の二について

 上告人らは、上告人らのAの引渡義務と被上告人らの不当利得返還義務(上告人らが負担したAの養育費等の返還義務)とは同時履行の関係にあるから、上告人らは、被上告人らが右不当利得返還義務を履行するまで、Aの引渡を拒絶すると主張し、これに対し、原審は、被上告人らの利得した額を認め得る的確な証拠はないとして、上告人らの右同時履行の抗弁を排斥した。

 ところで、本件のようないわゆる幼児引渡の請求は、幼児に対し親権を行使するにつきその妨害の排除を求める訴えであつて(最高裁昭和32年(オ)第1166号同35年3月15日第三小法廷判決・民集14巻3号430頁、同昭和36年(オ)第835号同38年9月17日第三小法廷判決・民集17巻8号968頁参照)、幼児引渡義務は、その性質上、上告人らの主張する不当利得返還義務と同時履行の関係に立つものではないから、上告人ら主張の同時履行の抗弁は、主張自体失当であるというべきである。そうすると、上告人らの同時履行の抗弁を排斥した原審の判断は、結論において是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断及び審理上の措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審で主張しない事項に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (島谷六郎 木下忠良 鹽野宜慶 大橋進 牧圭次)

上告代理人○○○○の上告理由
第一、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな違背(経験則又は条理を含む法令の違背)並びに審理不尽、理由不備、釈明権不行使更に加えて証拠採用上の採証法則違背があり、重大な事実の誤認もあるので、破棄が相当である。

第二の一(法令の違背について)
(一) 被上告人らの証言を綜合して考えると、被上告人らは、不動産取得という極めて低次元の、且つ時機を待てばいつでも可能な出来事の為に、生後間もない乳飲み児を手離したものであり、親に課せられた法律上の義務(養育義務)及び子に対する親の愛情を冷酷にも放擲したものであり、新民法(親と子の関係を、子を中心として子の人権を最大限尊重する趣旨が示されている)の規程を踏みにじるものであつて、権利の濫用、公序良俗違反であることは、経験則上、又、条理上も明らかであり、且つ民法第一条第三項(権利の濫用の禁止)、第二項(権利の行使、義務の履行に於ける信義誠実の原則)、第90条(公序良俗違反行為の排斥)の条項を間違つて判断しない限り原判決のような結論は生じないというべきである。原判決は破棄すべきである。

(二) 原判決は、親権の放棄又は譲渡は、法律上出来ない旨判示するが、現実には、養子縁組の形で実質的に親権を譲渡することは認められており(民法第818条第二項「子が養子であるときは子の養親の親権に服する」と規定されている)、本件では、養子縁組の届出等は為されていないが、当事者間では、実際上養子として、親権の譲渡が為され、事実上の養子縁組が為されていたものと解釈されるので、上告人は、親権の譲渡が為された旨主張した次第である。したがつて、親権の譲渡すなわち実質的な(事実上の)養子縁組が成立したことの主張であつたが、この点の審理が不十分であり、且つ原判決では判断が為されていないことの外、判断自体が間違つた判断であり、民法の養子縁組の条項に関する、又、親権の条項に関する違背があることは、明らかであり、又、条理上、経験法則上も判断を誤つているので、原判決は破棄されるべきである。釈明権の不行使も存しているものと解される。

(三) 上告人は、原審に於いて、昭和58年10月13日付及び同年12月20日付にて証拠申出を為したが、上告人甲野太郎以外は全て却下したけれども、右には、本件につき重大な証人もおり、且つ立証趣旨も明らかにしての申出だつたので右申出につき、子本人(A)については、少なくとも何らかの形でその意見を徴すべきが相当であつたと判断されるし、その方法についても上告代理人は各種提案した次第であるが、この点につきことごとく無視、却下したことは、採証法則違背であり、原判決は破棄を免れない。

第二の二(審理不尽、理由不備、釈明権不行使について)
(一) 原審は、上告人らの同時履行の抗弁について、何らの適確な審理を尽さず、「このような抗弁は、この訴訟では相当でない」旨の裁判所の法廷での話があり、それだけで全く審理をしないまま、証拠申出も却下して終結したことは、審理不尽であり、判決書に、当然のことながら理由が書けない状態となり、原判決は理由を欠いていることは極めて違法であるので原判決は破棄されるべきである。
 以上のとおり、原判決には、違法があり、破棄を免れないものであるので、最高裁判所に於かれて、慎重に審理の上、破棄差戻しを下され度(又、破棄自判下され度)上告する次第である。

第三、(事実の誤認について)
 被上告人らは、子の引渡の為に愛情を以て努力したとするが、被上告人甲野順子、上告人両名の各証言に照らすと、つぶさに審査すれば、本当の意味で愛情を以て努力したとは到底いえないものであるのでこの点は重大な事実の誤認である。尚、前記、親権の譲渡に関しても、事実上の養子縁組の存在について誤認がある。以上は判決に影響を及ぼすものである。原判決は破棄を免れない。


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