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別居期間15年有責配偶者離婚請求を棄却した高裁判決紹介

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令和 2年 6月 4日(木):初稿
○「別居期間13年有責配偶者離婚請求と慰謝料財産分与支払を認めた家裁判決紹介」の続きで、その控訴審の平成20年5月14日東京高裁判決(家庭裁判月報61巻5号44頁)関連部分を紹介します。

○原審平成19年8月31日東京家裁判決(家月61巻5号55頁)は、離婚請求をした夫に対し、慰謝料・財産分与合計1004万円の支払を命じて、離婚の請求を認めていました。妻は、夫に対し予備的反訴として夫に5000万円の支払を命じての離婚を求めていましたので、1004万円では到底足りないとして控訴していました。

○私は、破綻主義の立場で、有責配偶者だからと言って、完全に婚姻破綻状態になっているのに離婚請求を認めないのは不合理と考えています。しかし、本件については、夫としての責任のみならず、何より、身体的障害及びその成育状況に照らすと後見的配慮が必要とされる長男Cについて父親としての責任を全く果たして来なかった無責任さから離婚請求を棄却されてやむを得ないと思います。

○妻に毎月14万円の婚姻費用を支払っていますが、50歳の妻には平均余命37年程度はあり、離婚が認められないと平均余命まで14万円×12ヶ月×37年=6216万円を支払う必要がありますので、原審が認めた1004万円の2割増しなんてケチな提案ではなく、3倍の3000万円程度の提案を考えるべきでした。

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主   文
1 控訴人の控訴に基づき,原判決を取り消す。
2 被控訴人の本訴請求を棄却する。
3 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,一審及び当審を通じて被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨等

1 控訴
(1)本訴
ア 原判決を取り消す。
イ 被控訴人の請求を棄却する。

(2)予備的反訴
 原判決中,控訴人の予備的反訴に係る部分を次のとおり変更する。
「被控訴人は,控訴人に対し,5000万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」

2 附帯控訴
 原判決中,控訴人の予備的反訴に係る部分を次のとおり変更する。
「被控訴人は,控訴人に対し,504万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」

第2 事案の概要等
1 前提となる事実は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1記載のとおりであるから,これを引用する(甲1,2及び弁論の全趣旨)。

         (中略)

3 控訴人の主張については,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」3の記載を引用した上(ただし,同3の(2)(3)を,後記(1)のとおり改める。),当審における補充主張を,後記(2)のとおり付加する。
(1)仮に,本件離婚請求が認容された場合の慰謝料,財産分与については,次のとおりである。
ア 慰謝料
 控訴人は,3人の子供との同居を許されず,やむなく別居に至ったが,他方で,被控訴人は,前記のとおりの多大な資産収入がありながら,控訴人や長男Cが生活に困窮して経済的援助を求めても,これを拒絶し,婚姻費用分担の調停が成立するまで何らの金銭的給付をしなかったのであって,控訴人らを悪意で遺棄したものというべきである。

 控訴人は,被控訴人の提起した本件離婚訴訟に対する対応等が原因で抑うつ状態に陥っているところ,控訴審においても離婚を認容する判決がされた場合には,更に症状が悪化することが懸念される。そして,被控訴人から経済的援助が得られなかったことから所在不明となってしまったCのことでも心労が重なっており,このような状態を作出した主たる原因は,被控訴人が十分な資力を有しながら妻や長男に対して満足のいく経済的援助・財産的給付を拒んでいることにあるのであって,そのことにより,控訴人は,多大な精神的苦痛を被っている。
 以上の事情に加えて,控訴人の主張立証している一切の事情を斟酌すれば,控訴人の受けた精神的苦痛を慰謝するには4000万円をもって相当というべきであり,内金として1500万円を請求する。

イ 財産分与
(ア)控訴人は,現在同居している娘夫婦の社宅を近いうちに退去しなければならないため,○○所在のリゾートマンションについては,ローン残額を被控訴人において全額負担した上で,これを財産分与の対象とすべきである。同マンションの現在価格に相当する500万円が分与の対象となる。

(イ)そのほか,金地金36万4482円(平成19年11月20日の金地金1g2765円による算定価格),預貯金1347万0786円,生命保険解約返戻金70万円,退職金約135万円が財産分与の対象とされるべきである。

(ウ)また,離婚請求が認容されたときは,控訴人は将来の配偶者としての相続権を失い,将来における婚姻費用分担の請求も不可能となり,今後の生活不安が増大することは避けられない。また,長男Cの高校再入学や就職についても被控訴人からの援助を期待できないことから,控訴人において,Cを監護し,その生活を保持させていかなければならない事情もある。他方,被控訴人においては,現在でも時価2億8000万円を下らない土地共有持分を有し,母Dの所有する土地についても近い将来相続により取得する可能性が高く,加えて有限会社○○○○の代表者としての収入もある。このような事情を考慮すれば,被控訴人は控訴人に対して,平均余命の範囲である今後20年間の生活費(月額14万円)として3360万円の負担をすべきである。
 上記の諸事情を考慮すれば,財産分与の額は,少なくとも5448万5268円であるところ,内金として3500万円を請求する。

ウ 合計額
 以上のとおり,慰謝料1500万円(4000万円の内金)及び財産分与3500万円(5448万5268円の内金)の合計5000万円を予備的反訴として請求する。

(2)本件は,いわゆる有責配偶者からの離婚請求であるところ,原判決は,被控訴人からの離婚請求を認めることが,信義誠実に反するとまではいえないと判断した。しかしながら,本件においては,次に掲げるような事情が存在するものであり,これらの事情に照らせば,有責配偶者である被控訴人の離婚請求は,信義誠実の原則に反するものであって,これを認めることはできない。

ア 被控訴人は,長男Cに対して,父親として適切な監護養育をしてこなかった。すなわち,Cが生まれつき口蓋裂という障害を負っていたことから,被控訴人は,その母親であるDと一緒になって,Cを厭い,十分な食事を与えないなど,他の2人の子供と差別した取り扱いをしてきた。Cが,高校中退後,少年院に収容された際も,被控訴人は,退院後の身元引受人とならず,退院後にCが自宅に戻ることも拒絶した。その後,定職に就けないCが,被控訴人に対して,経済的援助を求めた際にも,被控訴人がこれを拒絶し,その結果,Cは現在所在不明となっている。

イ Cは,年齢は成人に達しているものの,未だ,親の監護なしでは生活を保持し得ない状況にあり,未成熟子ないしはそれに準ずる存在である。すなわち,Cは,幼少期から父である被控訴人から冷淡に接され,十分な養育監護をされず,高校中退後は,被控訴人から怒鳴られたり,暴力を振るわれたりした上,少年院に収容されることとなったものであり,退院後,現在でも,高校に再入学して自動車整備士の資格を取得する希望を有しているものの,両親からの経済的援助が得られないことから,日雇労働で毎日を過ごしており,仕事を得られないときには浮浪者同然の生活をしているという状況にある。

加えて,前述のように,Cは生まれつきの障害を有していたにもかかわらず,被控訴人から何らの愛情も受けることなく育ったことが影響し,精神的未発達ないし精神的障害を有していることがうかがわれる。被控訴人のCに対する従来の冷淡かつ不誠実な態度に照らせば,離婚請求が認容されるならば,長男Cとの間での親子関係を修復することは,ほとんど不可能となり,直接Cの福祉に重大な影響を及ぼすことになる。

ウ 被控訴人は,亡父から相続した広大な土地の持分(共有物分割により単独所有とした場合には,約950平方メートルに相当する。)を有するほか,有限会社○○○○の代表者として○○家の所有する約2800平方メートルの土地を管理し,多大な駐車場収入を得ている。被控訴人の有する不動産持分だけでも,2億8000万円を下らない価値があり,配偶者としての控訴人の相続分は,遺留分だけでも7000万円相当にも達する。原判決の認める程度の離婚給付(慰謝料500万円,財産分与504万円の合計1004万円)では,夫婦としての扶養と,配偶者としての相続権を到底確保し得ないものであるから,破綻した婚姻関係であったとしても,控訴人にとっては継続される実益がある。

エ 被控訴人は,別居後,控訴人の再三の求めを拒み,妻である控訴人と長男Cの生活費を一切負担せず,本件離婚請求に際しても,財産関係の清算につき何ら誠意ある提案をしていない。その上,一審判決が言い渡された後においても,附帯控訴して,自らは有責配偶者ではないと主張して,慰謝料支払義務さえ否定する態度を示している。控訴人は,現在,家事調停に基づき被控訴人から婚姻費用分担金として支払われる月額14万円の給付で何とか生活をしており,他にめぼしい資産も収入もない。その上,更年期障害に加えて腰痛及び精神障害(抑うつ状態)を患っており,50歳という年齢からも,就労して収入を得ることは,極めて困難である。今後の生活のことを考えると,本件離婚請求は,控訴人を経済的・精神的に極めて苛酷な状況に置くものであって,到底許されるものではない。

オ 被控訴人は,控訴審において,原判決の認容した離婚給付額1004万円の2割増の金員支払を提示しているが,その程度の金員は,更年期障害に加えて腰痛及び精神障害を抱える控訴人にとっては,これらの疾病の治療費の負担等もあって,6年程度で費消してしまう金額であり,被控訴人の上記金員支払提示は,被控訴人による離婚請求が信義誠実の原則上許されないとの前記結論に影響するものではない。

第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,被控訴人の離婚請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 離婚原因の有無
 当裁判所も,控訴人と被控訴人間の婚姻関係は破綻しているものと判断する。この点に関する事実認定及び判断は,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1及び2(1)(2)記載のとおりであるから,これを引用する。

2 被控訴人からの離婚請求の許否
 そこで,有責配偶者である被控訴人からの本件離婚請求を認容することができるかどうかについて,判断する。
(1)上記引用に係る原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1冒頭に摘示の各証拠に加えて,当審において取り調べた証拠(甲39,乙12ないし22,24ないし27)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア 平成14年×月に長男Cが医療少年院を退院した後,控訴人は,Cを引き取り,それまで勤務していた□□□を辞めて□□に転居して,Cと共に生活していたが,預貯金等の蓄えが底をつき,被控訴人からも経済的援助を得られなかったことから,同年×月に,Cが勤務先の寮で生活することとなったことを契機に,単身で△△所在の実家で生活した。しかし,Cが下記のような行動であったことから,同16年×月ころ,Cの更生を見守るために上京し,そのころから××所在の長女方に寄宿している。

イ この間,Cは,平成16年×月に車上荒らしを犯して,警察に逮捕,勾留される事件を起こし,その後,○□で派遣社員として勤務していたが同18年×月には無断欠勤等の理由で解雇され,□△に戻って,路上生活者として生活するなどし,新聞配達員や建設作業員として働くこともあったがいずれも長続きしなかった。控訴人は,Cに対して,同年×月から×月の間に合計26万円を送金するなどの金銭的援助を行うとともに,Cの相談相手となるなどしていたが,Cは,同18年×月に所在不明となり,長期にわたって全く連絡がとれない状態であったところ,同20年×月になって,ようやく連絡がとれ,所在が確認された。

ウ 控訴人は,従来から,更年期障害に加えて,腰痛を患っていたところ,被控訴人との間の紛争やCの将来に対する心労から,不安焦燥,抑うつ気分,集中力減退,不眠等の症状を呈するに至り,精神科医師から「抑うつ症」の診断を受けている。

エ 控訴人は,現在,家事調停に基づき被控訴人から婚姻費用分担金として支払われる月額14万円の給付で何とか生活をしており,他に資産も収入もないが,上記の疾病に加えて50歳という年齢からも,就労して収入を得ることは極めて困難な状況にある。また,現在寄宿中の長女方も,長女の夫の勤務先の社宅であり,同人の将来の異動等を考慮すれば長期間の滞在は困難である。

オ 被控訴人は,Cが医療少年院に収容されている間,一度も面会に行かなかったばかりか,書簡等により連絡を取ることも一切せず,同人が医療少年院を退院する際にも,身元引受人となることを拒絶した。そして,退院後に,Cが被控訴人宅を訪れた際にも追い返し,Cが高校再入学や就職のために経済的援助を求めた際にも一切これを拒絶している。

カ 被控訴人は,現在,□△□所在の宅地1076.82平方メートル,□△△所在の田825平方メートルにつき共有持分(2分の1)を有するほか,Dや被控訴人等の所有する土地を駐車場等として管理する有限会社○○○○の持分(2分の1)を有し,その社員(持分権者)ないし役員(代表取締役)としての収入も得ている。

(2)上記引用に係る原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1記載の事実関係に上記(1)記載の各事実を総合すれば,被控訴人は,平成5年×月に別居を始めて以来,同17年×月に婚姻費用分担に関する調停が成立するまで,控訴人に対して,婚姻費用として何らの金銭給付も行っていないところ,控訴人は,現在,資産も,安定した住居もなく、被控訴人から給付される月額14万円の婚姻費用分担金を唯一の収入として長女方に寄宿して生活しているものであり,高齢(※50歳)に加えて,更年期障害,腰痛及び抑うつ症の疾病を患い,新たに職に就くことは極めて困難なものとうかがわれ,仮に被控訴人からの離婚請求が認容された場合には,被控訴人から婚姻費用分担金の給付を受けることができなくなり,経済的な窮境に陥り,罹患する疾病に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況となることが容易に予想されるところである。

加えて,長男であるCについては,生まれつきの身体的障害に加えて,その後の生育状況に照らし,控訴人がその生活について後見的な配慮を必要と考えるのも,無理からぬ点がある。この点,被控訴人は甲39の陳述書の末尾においてCの処遇に関する決意を記載しているが,被控訴人のCに対する従来の態度が愛情を欠き,Cに対する金銭的援助を一切拒絶していることに照らせば,離婚請求が認容されれば,被控訴人とCとの間で実質的な親子関係を回復することはほとんど不可能な状態となることは,控訴人の危惧するとおりであり,経済面,健康面において不安のある控訴人において,独力でCの生活への援助を行わざるを得ないことになれば,控訴人を,経済的,精神的に更に窮状に追いやることになるものである。


 被控訴人は,当審において,離婚に際して,1204万8000円(原判決の認容した1004万円の2割増)の金員支払を提示しているが,この点を考慮しても,離婚を認容したときに控訴人が上記のような窮状に置かれるとの認定は左右されるものではない。 
 そうすると,本件において,被控訴人の離婚請求を認容するときは,控訴人を精神的,社会的,経済的に極めて苛酷な状態に置くこととなるといわざるを得ないから,被控訴人の離婚請求を認容することは著しく社会正義に反するものとして許されないというべきである。

3 結論
 以上によれば,被控訴人の離婚請求は理由がない。
 よって,被控訴人の離婚請求を認容し,控訴人の予備的反訴を一部認容した原判決は相当でないから,控訴人の控訴に基づき,原判決を取消し,被控訴人の本訴請求を棄却することとし(したがって,予備的反訴についての判断は要しない。),被控訴人の附帯控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 南敏文 裁判官 安藤裕子 三村量一)

以上:6,794文字

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