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標準を上回る婚姻費用支払分について財産分与前渡とした家裁審判紹介

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令和 2年 7月28日(火):初稿
○「同居9年別居44年後離婚で年金按分割合を0.35とした家裁審判紹介」の続きで、申立人(妻)が、相手方(夫)に対し、財産分与および年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めることを求め、これを認めた平成21年4月17日奈良家裁(家庭裁判月報62巻10号61頁)全文を紹介します。

○この事案では、年金分割の外に、申立人(妻)は、相手方(夫)に対し、その根拠の詳細は不明ですが、財産分与等として3000万円の支払を求め、相手方は、申立人と別居後、いわゆる標準算定方式により算定した額を上回る婚姻費用を分担してきており、その超過額は、事後的扶養というべき財産分与の前渡しの意味を有しているとみることができるとして、超過額を控除した額を分与すべきであるとして、52万円のみの支払を認めました。

○申立人妻は、これを不服として抗告し、抗告審では覆されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 相手方は,申立人に対し,52万円を支払え。
2 申立人と相手方との間の別紙1記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める。
3 申立人の第1467号事件申立てを却下する。

事実及び理由
第1 申立て

(第1307号事件)
 相手方は,申立人に対し,3000万円を支払え。

(第1308号事件及び第1467号事件)
 申立人と相手方との間の別紙1,2記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合をいずれも0.5と定める。

第2 判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)申立人と相手方は,昭和47年×月×日に婚姻し,昭和48年×月×日に長女,昭和51年×月×日に二女をもうけたが,平成19年×月×日に当庁において申立人と相手方とを離婚する旨の判決が言い渡され,申立人はこれに控訴したが同年×月×日に大阪高等裁判所において控訴棄却の判決が言い渡され,平成20年×月×日に最高裁判所において上告棄却の判決が言い渡され,離婚判決が確定した。

(2)申立人は,平成17年に相手方に対して婚姻費用分担分担を求める調停を神戸家庭裁判所へ申し立て,平成18年×月×日に,平成17年×月から平成18年×月までの不足分14万円と同年×月以降は月額20万円を支払うことを合意する調停が成立した。平成20年×月×日に申立人は,当庁へ財産分与(当庁平成20年(家イ)第××号),慰謝料(当庁平成20年(家イ)第××号),年金分割(平成20年(家イ)第××号)を求める調停を申し立て,併せて調停期日がもたれたが,同年×月×日にいずれも調停不成立となり,財産分与(平成20年(家)第1307号)及び年金分割(同第1308号)は審判移行し,年金分割につき同第1467号事件が追加申立された。申立人と相手方との間の離婚時年金分割制度に係る第1号改定者及び第2号改定者の別,対象期間及び按分割合の範囲は,別紙1,2のとおりである。

(3)申立人は,相手方との婚姻後専業主婦であったが,昭和56年ころ以降は宗教活動にのめり込むようになり,昭和59年×月には洗礼を受け,同年×月ころからは年間1000時間以上の伝道活動をするようになっていた。相手方との同居中,申立人は相手方の朝食昼食を準備し夕食の支度をしてから聖書の勉強会に行くなどして,家事はしていたが,申立人の宗教活動につき相手方と申立人はしばしば話合い,口論をするようになっていた。申立人は別居後の平成10年×月からは○○により通院するようになり,平成13年にはめまい等を訴えて約1週間入院し,平成17年×月には上記のほか○○,○○との診断を受けている。

(4)相手方は,昭和49年×月から□□に勤務していたが,平成6年×月×日に退職し,退職金として1030万3700円の支払いを受けた。同年×月からは△△へ勤務することになり,現在に至っている。相手方は,申立人の宗教活動をめぐって家庭内で対立するようになると,昭和59年×月ころからは自室にこもるようになり,平成6年×月からは自宅に申立人と長女二女を残して実家で生活するようになった。

しかし,別居後も年間合計で,平成6年度(同年4月から翌年3月まで)には252万7910円,平成7年度には246万7932円,平成8年度には255万3114円,平成9年度には291万8670円,平成10年度には293万8150円,平成11年(同年4月から12月まで)は180万7358円,平成12年には298万4112円,平成13年には297万5026円,平成14年には303万9969円,平成15年には308万3932円,平成16年には353万7743円,平成17年には281万4936円,平成18年には246万円,平成19年には240万円を送金していた。

これら送金など事務手続上のやりとりはあったものの,別居後申立人と相手方は各々の親族の葬儀や長女の結婚式に参加することなく,平成18年×月に申し立てた離婚調停で顔を合わせるまで12年ほどは直接会うことはなかった。前記(1)のとおり申立人と離婚した後,相手方は平成20年×月×日に○○国籍の女性と再婚した。

(5)平成6年×月×日時点において,○○銀行○○支店には相手方名義の普通預金口座(口座番号×××)の残高は18万5427円であったが,この口座に相手方からの前記(4)の送金がされており,同口座は申立人において管理していたものである。


(1)申立人と相手方が別居した平成6年×月当時,両名の財産として存していたと認められるのは,前記1(4)(5)から,相手方の取得した退職金1030万3700円と銀行預金18万5427円である。
 申立人は,相手方が平成6年から平成11年までに賞与として計1675万2813円を受領しており,その後も同程度を受領していたから平成19年分までを合計すると4294万2149円に上り,これも分与対象財産であると主張する。しかしながら,別居後両名は前記1(4)のとおり,多少の事務的やりとりがあったほかはほとんど没交渉だったのであり,別居後の相手方の収入に申立人の寄与があったものとみることはできず,上記額が分与対象財産であるとはいえない。

(2)前記1(3)(4)のとおり,平成6年×月に相手方が実家で生活するようになるまで,申立人と相手方は同居して,申立人は家事をして長女二女を養育し,円満とはいえないものの共同生活を送っていたのであり,相手方の資産形成につき申立人の寄与がないということはできない。申立人が宗教活動に熱心であったことは上記のとおりであるけれども,上記別居時において長女は21歳,二女は18歳であり,それまでの養育はかなりの労力を要するものであったといえる。そうすると,分与対象財産に対する寄与は原則どおり2分の1とみるべきである。

 前記(1)の分与対象財産のうち,退職金は相手方が,銀行預金は申立人が所持しているものであるから,相手方は以下のとおり財産分与として506万円程度を申立人に支払うべきこととなるようにも思われる。
1030万3700+18万5427=1048万9127/1048万9127÷2=524万4563
524万4563-18万5427=505万9136

(3)相手方は,申立人に対して,別居後過大な婚姻費用を送金してきており,財産分与の前渡しとみるべきであると主張する。

たしかに,平成6年の別居時,長女は既に成人していたけれども,相手方の収入も平成8年以降は1000万円を超えていたのであり,相応の婚姻費用を分担すべき義務があったものである。申立人は,相手方との婚姻後別居までの間は無職だったのであり,別居後当然に賃金センサスの平均賃金相当の稼働能力があったとみることはできず,申立人の収入が0であったとして,標準算定方式により相手方が支払うべきであった婚姻費用を検討する。

別居後二女が成人に達する平成8年までは相手方の収入も728万円,979万円,1004万円程度であり,表12によると月額14~16万円,18~20万円を支払う必要があった。平成9年以降は相手方の収入も1100万円を超えていたので表10によると月額16~18万円,年額でも216万円程度を支払う必要があったところ,前記1(2)のとおり平成17年×月以降は月額20万円の婚姻費用分担を合意している。

しかしながら,相手方は上記のとおり月額20万円,年額240万円程度を支払う必要があったのに対して,前記1(4)のとおりこれを上回る婚姻費用を分担してきたのであり,その超過額は(平成8年までは二女が未成年であるから算入せず,平成11年の不足分は控除し,平成17年×月以降は調停での合意に従っての履行であるから算入しないとしても)計454万円余に及ぶ。これは,事後的扶養というべき財産分与の前渡しの意味を有しているとみることができる。

(4)以上の事情を考慮すると,相手方から申立人に対して,現時点において分与すべき財産は,以下のとおり52万円ということになる。
506万-454万=52万


(1)年金分割の対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は,互いの協力によりそれぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと考えられるから,特別の事情がない限り,互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。

(2)別紙1の情報通知書にかかる保険料納付期間は,相手方が平成6年×月×日までの□□に勤務していたものであり,この間申立人と相手方は一応同居して生活していたのであるから,その年金分割の割合は前記(1)のとおり0.5とするのが相当である。

(3)しかしながら,別紙2の情報通知書にかかる期間は,平成6年×月×日以降の相手方が△△へ勤務していた間に保険料が納付されているのであって,この間申立人と相手方は前記2(1)のとおり既に没交渉で,共同生活が再開されることは期待できない状態であり,しかも申立人は相手方から前記2(3)のとおり収入に照らしてもやや多めの婚姻費用分担額を受領していたのである。この間,被保険者たる相手方が負担した保険料につき,申立人が保険料を共同して負担したものであるとみることはできず,前記(1)にいう特別の事情があるということができる。

(4)以上のとおり,別紙1の情報通知書にかかる年金分割の割合は0.5とするのが相当であり,別紙2の情報通知書にかかる年金分割の申立てを認めるのは相当でない。

4 よって,主文のとおり,審判する。
以上:4,339文字

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