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事情変更による養育費減額と過払金について判断した高裁決定紹介

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令和 2年10月21日(水):初稿
○和解等で取り決めた養育費について当事者に再婚等の事情変更が生じた場合、家庭裁判所に対して、その金額を増減の申立をするすることができます。
第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。


○養育費支払義務者の父(抗告人)に再婚・退職による収入減少等の事情変更により、和解離婚時に定めた養育費月額8万円の減額を求める申立に対し、原審審判は、退職後の平成31年3月から2万円を減額するとして、同月から令和元年7月までの減額分合計額10万円については,双方の生活の安定を考慮して,令和元年8月分から同年12月分までを月額4万円と,令和2年1月分以降を月額6万円と,それぞれ減額変更する旨の審判をしていました。

○抗告人父は、なお、減額幅が小さいとして、平成30年10月から平成31年2月までの間は月額2万2500円、平成31年3月から令和3年4月までの間は月額3000円に減額すべきとして、抗告したところ、月額8万円の養育費について、平成30年10月から平成31年2月まで1か月3万円,同年3月から未成年者が満20歳に達する日の属する月まで1か月2万円と大幅減額した令和元年11月27日高松高裁決定(家庭の法と裁判27号44頁)を紹介します。

○高裁弁論終結の令和元年9月まで抗告人は月額8万円を支払いしてきたため合計88万円が過払いになります。この過払金は不当利得と認めながら、過払金返還請求は民事訴訟事項なので家事事件としては処分できないとしています。将来の養育費の前払いとして処理してもよさそうなものですが、養育費は現実の支払が必要として、前払いの扱いもしなかったことに注意を要します。

○しかし、過払金返還について民事訴訟事項で家事事件では扱えないとの杓子定規な考えについて「家事事件手続法で財産分与当事者に明渡命令可能とした最高裁判決紹介」の趣旨からすると、家事事件手続法第154条3項「家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判において、子の監護をすべき者の指定又は変更、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項の定めをする場合には、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。」を使って過払金返還を認めても良さそうな気がします。

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主   文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 抗告人・相手方間の広島家庭裁判所平成18年(家ホ)第76号,第111号事件において平成19年8月22日に成立した和解の和解条項3項のうち,平成30年10月以降の部分を次のとおり変更する。
 抗告人は,相手方に対し,未成年者の養育費として,平成30年10月から平成31年2月まで1か月3万円を,同年3月から未成年者が満20歳に達する日の属する月まで1か月2万円を,毎月末日限り,B名義のD銀行E支店の普通預金口座(口座番号○○)に振り込む方法により支払う。ただし,振込費用は,抗告人の負担とする。
3 手続費用は,第1,2審とも各自の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨
1 原審判を取り消す。
2 抗告人は,相手方に対し,未成年者の養育費として,以下のとおり支払え。
(1) 平成30年10月から平成31年2月までの間,月額2万2500円
(2) 平成31年3月から令和3年4月までの間,月額3000円

第2 事案の概要
 本件は,未成年者の父である抗告人が,未成年者の母である相手方に対し,和解離婚した際の和解条項に基づく未成年者の養育費の額(月額8万円)を減額するよう求めた事案である。
 原審は,抗告人が定年退職したことは事情の変更にならないが,抗告人が再婚相手との間に子をもうけたこと及び抗告人が定年退職後の再就職先を退職して無職になったことは事情の変更になり得るとした上で,平成31年3月(定年退職後の再就職先の退職の翌月)から養育費の額を月額2万円減額するのが相当であるところ,同月から令和元年7月までの減額分合計額10万円については,双方の生活の安定を考慮して,令和元年8月から5か月分の養育費において調整するとして,令和元年8月分から同年12月分までを月額4万円と,令和2年1月分以降を月額6万円と,それぞれ減額変更する旨の審判をした。

 これに対し,抗告人が,原審判を不服として,本件抗告を提起した。
 抗告人が,定年退職が事情の変更にならないというのは不当であり,また,原審判による減額後の養育費の額がなお高額に過ぎると主張するのに対し,相手方は,養育費の額を変更すべきでないと主張する。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 事実の調査の結果及び手続の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 当事者等
 抗告人(昭和33年○○月○○日生まれの男性)と相手方(昭和39年○○月○○日生まれの女性)は,婚姻して,長女である未成年者(平成13年○○月○○日生)をもうけたが,平成19年8月22日に和解離婚した(広島家庭裁判所平成18年(家ホ)第76号,第111号。以下「本件和解離婚」という。)。

(2) 現在の債務名義の定め
 抗告人と相手方は,本件和解離婚の際,その和解条項3項において,抗告人が,相手方に対し,未成年者の養育費として,平成19年9月から未成年者が満20歳に達する日の属する月まで月額8万円を毎月末日限り支払う旨合意した(以下「本件和解条項」という。)。

(3) 抗告人の再婚及び子の出生
 抗告人は,平成21年11月18日,相手方と別の女性(以下「再婚相手」という。)と再婚し,平成24年○○月,再婚相手との間に子(以下「再婚相手との子」という。)をもうけた。

(4) 抗告人の定年退職,再就職先の退職
 抗告人は,従前勤務していた株式会利Fを平成30年9月30日に定年退職し,同年10月1日,Fの関連会社である株式会社Gに再就職した。その後,抗告人は,めまい症が生じて仕事に支障が生じたことから,平成31年2月28日にGを退職し,以後,稼働していない。なお,同年5月に実施された平衡機能の検査における重心動揺検査結果やパワーベクトル分析結果では,測定値が基準範囲外であった。

(5) 抗告人の収入,生活状況等
ア 抗告人が平成30年1月から同年9月(定年退職)までの9か月間に得た給与収入は,1235万0885円であった。
 また,抗告人が平成30年10月(再就職)から平成31年2月(再就職先の退職)までの5か月間に得た給与収入は,170万3994円(=平成30年分の収入1314万0749円-平成30年中の定年退職までの収入1235万0885円+平成31年分の収入91万4130円)であった。
 抗告人は,平成31年3月以降,無職無収入である。

イ 再婚相手の平成30年分の給与収入は,94万8428円であった。

ウ 抗告人がFを定年退職した後にGに再就職したことにより,Fからの退職金受領時期は,令和5年10月(再就職先の雇用契約が終了する時期)に繰り下げられており,抗告人は,Fからの退職金をいまだ受領していない。
 抗告人が受給する予定の年金は,受給開始時期が到来していない。
 抗告人は,年金の支給や退職金の支払が受けられるまでの間,預貯金を年間120万円取り崩して生活していく方針である。

(6) 相手方の収入
 相手方の平成30年分の給与収入は,296万9777円であった。

(7) 本件申立ての経緯等
 抗告人は,相手方に対し,平成30年10月15日,未成年者の養育費の減額を求めて調停(広島家庭裁判所平成30年(家イ)第1581号)を申し立てたが,同調停は,平成31年4月19日,不成立で終了し,原審審判手続に移行した。

(8) 平成30年10月分以降の養育費の支払状況
 抗告人は,相手方に対し,本件和解条項で定められた養育費月額8万円につき,平成30年10月分から令和元年7月分までを支払った。
 また,抗告人は,相手方に対し,養育費として,令和元年8月26日及び同年9月11日にそれぞれ4万円を支払った。

2 検討
(1) 事情の変更の有無及び変更の始期

ア 子の監護に要する費用の分担について協議又は審判がされた場合であっても,家庭裁判所(及び抗告裁判所)は,必要があると認めるとき,具体的には,その協議又は審判の基礎とされた事情に変更が生じ,従前の協議又は審判の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には,事情の変更があったものとして,協議又は審判による定めを変更することができる(民法766条3項)。

(ア) 抗告人は,再婚し,再婚相手との子をもうけたことを事情の変更として主張するところ,平成24年2月に抗告人に新たな扶養義務者が生じたことは,本件和解条項の基礎とされた事情の変更に当たる。

(イ) また,抗告人は,定年退職により収入が減少したことを事情の変更として主張するところ,抗告人の収入は,定年退職の前後で大きく異なるから,定年退職により平成30年10月以降の収入が減少したことは,本件和解条項の基礎とされた事情の変更に当たる。

 この点,原審審問において,抗告人が,本件和解離婚当時,定年が60歳であることは分かっていたと述べていることから,未成年者が満20歳に達する日の属する月の前に抗告人が定年退職を迎えることは,本件和解離婚当時,抗告人において予測することが可能であったといえる。しかし,予測された定年退職の時期は,本件和解離婚当時から10年以上先のことであり,定年退職の時期自体,勤務先の定めによって変動し得る上,定年退職後の稼働状況ないし収入状況について,本件和解離婚当時に的確に予測可能であったとは認められないのであって,本件和解条項が,定年退職による抗告人の収入変動の有無及び程度にかかわらず,事情の変更を容認しない趣旨であったとは認められない。したがって,本件和解離婚当時,抗告人において定年退職の時期を予測することが可能であったことは,定年退職による抗告人の収入減少が事情の変更に当たることを否定するものではない。

(ウ) さらに,抗告人は,再就職先を退職したことを事情の変更として主張するところ,上記(イ)と同様,再就職先の退職により平成31年3月以降の収入がなくなったことも本件和解条項の基礎とされた事情の変更に当たる。

イ 変更の始期は,当事者双方の公平と明確性の観点から,抗告人が養育費の減額を求める調停を申し立てた平成30年10月とするのが相当である。

(2) 変更後の養育費の額の算定
ア 養育費の額を算定するに当たっては,①権利者及び義務者の各基礎収入の額(総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して推計した額)を定め,②義務者が子と同居していると仮定すれば,子のために充てられたはずの生活費の額を,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって算出し,③これを権利者と義務者の基礎収入の割合で按分して義務者が分担すべき養育費額を算定する,いわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照)に基づいて検討するのが相当である。

イ 平成30年10月から平成31年2月まで
 上記期間中の抗告人の給与収入は,170万3994円であったから,これを年額に換算すると,408万9585円(=170万3994円÷5か月×12か月。円未満切捨て。以下同じ)である。
 相手方の給与収入(年額)は,296万9777円である。

 再婚相手は,再婚相手との子の年齢や再婚相手の収入状況から,自己の生活費を賄う程度の収入を得ることが可能であると考えられるから,未成年者の養育費算定に当たってその生活費指数を考慮する必要はない。
 以上を前提に,子らの年齢を考慮し,抗告人の生活費指数を100,未成年者の生活費指数を90,再婚相手との子の生活費指数を55とすると,別紙1養育費計算表の「義務者の分担額」欄記載のとおり,月額2万7559円となる。
 以上の検討結果に加え,当事者双方の生活状況等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,上記期間中の養育費の額を月額3万円に変更(減額)するのが相当である。

ウ 平成31年3月以降
 抗告人が再就職先を退職するに至った経緯,平成31年5月の検査等の結果,抗告人の年齢によれば,抗告人が現在無収入の状態であることにはやむを得ない事情があるといえる。もっとも,標準的算定方式は,義務者が子と同居していると仮定すれば,子のために充てられたはずの生活費の額を算出し,これを権利者と義務者の基礎収入の割合で按分して義務者が分担すべき養育費額を算定するという考え方に基づいているところ(前記ア②③),抗告人が預貯金を年間120万円取り崩して生活していく方針であることから,未成年者の養育費を算定するに当たっては,抗告人の基礎収入の額を年額120万円とみるのが相当である。

 そして,別紙1養育費計算表の義務者の基礎収入を年額120万円に変更すると,別紙2養育費計算表の「義務者の分担額」欄記載のとおり,月額1万8931円となる。
 以上の検討結果に加え,当事者双方の生活状況等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,上記期間中の養育費の額を月額2万円に変更(減額)するのが相当である。

(3) 既払額について
 以上によれば,平成30年10月分から審理終結日までに支払期が到来した令和元年9月分までの養育費は,合計29万円(=3万円×5か月+2万円×7か月)であるところ,抗告人は,上記期間中の養育費として合計88万円(=8万円×10か月+4万円+4万円)を支払っているから,59万円の過払が生じている。

 この過払金については,相手方が抗告人に返還すべきものであるが,過払金の返還は,民事訴訟事項である不当利得の問題であるから,家事事件についての本決定において,その返還を命ずることはできない。
 なお,この過払金については,裁判所の裁量判断で,将来の養育費の前払として扱うことも不可能ではないが,養育費の性質上,現実の支払がなされることが原則であり,また,本件で前払として扱った場合,長期間,養育費の全部又は一部の支払がなされない事態が生ずることから,将来の養育費の前払として扱うことはしない。


3 結論
 以上によれば,本件和解条項に基づいて抗告人が支払義務を負う養育費の額は,平成30年10月分から平成31年2月分までの間は月額3万円に,同年3月分から未成年者が満20歳に達する日の属する月までの間は月額2万円に,それぞれ減額するのが相当であるから,原審判を変更し,上記のとおりの決定をすべきである。
 よって,主文のとおり決定する。
 広島高等裁判所第3部 (裁判長裁判官 金村敏彦 裁判官 絹川泰毅 裁判官 近藤義浩)
以上:6,334文字

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