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親権妨害禁止仮処分で妻から夫への子の引渡を命じた地裁判決紹介

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令和 2年10月31日(土):初稿
○子供が作成した母(妻)に対する父(夫)と一緒に居たいとの手紙を残して、夫が子供を連れて別居し、離婚調停申立予告をしてきたことに対し、妻は子供の手紙を真意ではないと確信し、子供を取り返したいとの相談を受け、関連判例を探しています。

○別居中の夫から妻に対する未成熟子の親権妨害禁止仮処分申請事件において、子が母のそばにいたいとの希望を持っている場合でも、子が小学校1年生で肉体的にも精神的にも不安定かつ柔軟な幼児であって、将来の健全な育成のためにはその子の一時的な感情を無視しなければならない場合があり、本件の妻の養育環境が劣悪であり、夫の養育環境は経済的にも中流以上で父親の愛情としても欠けるところはなく、子の安定した成長のためには、夫から妻に対する子の引渡請求の仮処分を認容するのが相当であるとした昭和51年2月12日東京地裁判決(判例時報822号72頁)を紹介します。

○この夫婦の婚姻破綻の原因は、母(妻)側の一方的責任に着せられるところ、子の養育環境は、母(妻)側が、母及びその実母いずれも無職で、且つ、実父は詐欺被告事件で服役中と極めて劣悪であるところ、父(夫)側は、子供の世話をする家政婦が居て、実兄家族は従前勤務先家族等子の養育支援者がおり、且つ、年収も500万円あり安定した生活が可能であるとして、さらに母(妻)は、目的を遂げるためには子供に嘘までつかせるといった態度は教育上はなはだ問題であるとして、夫側での養育が子供のためになるとして、養育環境を詳細に認定しています。

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主   文
一、昭和51年(ヨ)第186号事件債務者(同50年(ヨ)第7805号事件債権者)は同51年(ヨ)第186号事件債権者(同50年(ヨ)第7805号事件債務者)に対し、右当事者間の長女甲野春子(昭和44年4月1日生)を仮に引渡せ。
二、昭和50年(ヨ)第7805号事件債権者(同51年(ヨ)第186号事件債務者)の申請を棄却する。
三、申請費用は本件両事件とも昭和50年(ヨ)第7805号事件債権者(同51年(ヨ)第186号事件債務者)の負担とする。

理   由
一、昭和50年(ヨ)第7805号事件につき、同事件債権者甲野花子(以下単に「花子」という)は、
「一、債務者は本案(当庁昭和50年(タ)第243号、同第254号離婚請求、同反訴事件)判決の確定するまで、債権者が申請外甲野春子及び同甲野秋子に対する監護権を行使することを認め、債権者の指定した住所地から右申請外人らを連れ出してはならない。
二、債務者は債権者に対し、申請外甲野秋子を引渡さなければならない。
三、債務者は、債権者の指定した住所から右申請外人らの住所を移動してはならず、債権者の指定した学校から同申請外人らの他の学校への転校手続をしてはならない。
四、債務者が前三項に違反した場合、債権者は裁判所執行官と共に前三項の趣旨の通りに原状回復の処置をとることができる。
五、債務者は債権者に対し、本仮処分決定の日の翌日より養育料として、それぞれ成年に達するまで毎月末日限り一人当り一ケ月金3万円を支払え。」
との決定を求め、同事件債務者甲野太郎(以下単に「太郎」という)は主文第二項と同旨の決定を求めた。
 昭和51年(ヨ)第186号事件につき、太郎は主文第一項と同旨の決定を求めた。

二、本件各申請に至るまでの経緯は、本件疏明資料および審尋の結果によると、つぎのとおりである。
 太郎は昭和5年3月3日生の男子、花子は同22年12月18日生の女子であるが、昭和43年1月ごろ東京都内で知合い、同年3月ごろには同棲し、花子が長女春子を懐胎した後の同年12月7日婚姻届出をなした。そして、翌44年4月1日に長女春子が、同46年1月16日に次女秋子が出生し、親子四人で東京都内で生活していたが、同49年6月4日ごろ、花子は太郎との離婚を決意して春子と秋子を連れて家出した。太郎は八方手を尽して花子の居所をつきとめ、同年7月13日ごろ同所で花子に子供らを連れて戻るように説得したが、花子の決心は堅く、容易に応じようとしなかったので、春子と秋子のみを連れ帰った。

そのころ、東京家庭裁判所に対して、太郎から夫婦関係調整の調停を、花子から離婚等調停をそれぞれ申立てたが、いずれも調停が成立するに至らず、昭和50年7月1日、太郎から当庁に対して離婚請求、同年11月7日、花子から同事件の反訴が提起された。その間,太郎は春子および秋子の監護養育をしていたが、花子が同児らにひんぱんに会うのを嫌って、昭和50年3月末ごろ東京から太郎の郷里の肩書住所に転居し、ここで春子は00市立00小学校1年に入学、秋子は同市立00幼稚園に入園した。

ところが、花子は同年11月14日朝登校途中の春子を連れ出し、花子の母乙山初子とともに同児をその支配下において○○県○○市付近に一時仮住した後(花子は昭和50年12月25日付報告書で、直接東京に帰ったかのように述べているが、これは審尋の結果から事実に反することはあきらかである)、現在東京都内ないしその周辺に仮住している。これに対して、太郎が春子を取り戻そうとしてしつように花子および同児の行方を探索するので、これを阻止するために花子は本件の昭和50年(ヨ)第7805号事件を申請し、これに対して太郎が同51年(ヨ)第186号事件の申請に及んだ。

三、つぎに、本件いずれの事件についても被保全権利の前提となる離婚原因の有無について判断する。
 本件疏明資料によると、昭和49年5月31日、太郎は椎間板ヘルニアにより入院したが、入院中の同年6月4日ごろ、花子は春子と秋子を連れ、その当時夫婦の住居であった東京都○○区○○×丁目のマンションから160万円余の現金を持ち出して前記のとおり家出して太郎から姿を隠し、これが夫婦別居の端緒となったことが認められる。してみると、花子が右家出をするについてこれをやむをえないとするだけの特別の事情のないかぎり、花子に悪意の遺棄があったものとの疏明があると言わざるをえない。

 そこで、右のような事情があったかどうかを検討するに、この点に関する花子の主張はつぎのとおりである。
(一) 太郎は当初ゴーゴークラブを経営し、その経営が行き詰るやスーパーマーケットを経営したが、何れも他人まかせの経営で、自分は外車を乗り廻し遊び歩くだけの生活を送っていた。

(二) 週に幾度も麻雀と称して2、3日は連絡もなくして帰宅せず、一晩に数十万円にのぼる賭金を賭して遊びにふけっていたが、花子に対する生活費は必要な額だけ交付していたにすぎなかった。

(三) 前記スーパーマーケット内の使用人たる特定の女性にのみマンションを世話したり、ドライブに誘ったり、夕方電話で女性と外出の約束をする等、とかく女性関係の噂を裏づけるような行動がまま見られた。

(四) 飲食代その他諸雑費の支払については、予め日時を指定して集金に来させたりしたが、当日になって何らの理由もなく居留守を用いたり、大声で怒鳴りつけたり、やくざ者の取立に対し花子を応待させたりして、一人で悦に入っていたことが少なからずあった。

(五) 時には、前記スーパーマーケット内の他の店の売上げを気にし、予め合鍵を用意したうえ深夜店内に侵入し、値段等を調べるなど常識では考えられない行動をとることもあった。

(六) 前記スーパーマーケットの経営はすべて申請外月山四郎に任せ切っていたのにもかかわらず、時折店に顔を出しては右支配人月山四郎に相談もなくただ急に気に入らないとの理由で使用人を解雇し、そのまま給料の不払、割引等をしていた。

(七) 花子が忠告したのにもかかわらず、10年以上も無免許のまま自動車を乗り廻し、駐車違反等が見つかるやそのまま乗り捨て、従前の月賦の未払いがあっても新たに高級外車を購入し遊びに使用していた。

(八) 以上のごとく、太郎は仕事に熱意を示さず花子との共同生活を顧みないで消費生活を繰り返し、かつ通常人では判断できない性格異常や奇行が目立ちそのため花子に精神的苦痛を与えていたものであって、そのために花子は耐えきれずに前記のとおり別居を余儀なくした。

 ところで、以上の諸事実のうち(二)および(三)以外のものは、それ自体花子の家出を正当化するに足りるかという点で疑問があるばかりてなく、これらは右(二)および(三)の事実をも含めて充分な疏明があるとは認められない。すなわちまず第一に(七)の無免許運転の点については、本件疏明資料によると太郎は昭和45年12月25日に普通免許を取得し、昭和48年12月24日に更新して現在もこれを保持していることが認められるから、この点に関する花子の主張および前記報告書中の陳述は全く事実に反する。

また、(三)の女性関係ないし不貞行為の点については、花子は前記本案訴訟における昭和50年8月20日付準備書面で、太郎の素行調査を興信所に依頼した旨の主張をしておきながら、その調査結果について何ら主張をなさず、当裁判所に対してもこれに関する疏明資料を提出していない(花子は当裁判所に対して興信所の調査報告書を二通も提出しているのに、右の家出別居前の女性関係ないし不貞行為に関しては一通も提出していないのである)。

してみると、そもそも花子が右の調査依頼をしたのかという点について疑問が残るし、かりに調査の依頼をしたことが事実であったとしてもその結果は花子の予測ないし期待に反していたのではなかったのかとの疑問が残る。そして、これらの点を含めて、太郎は花子の前記の主張ないし陳述に対して真向から対立しており、また、花子は当裁判所に対して明らかに事実に反する主張および陳述をしていること(前記00から春子を連れ出した後の行程および無免許運転の件)および本件審尋の全趣旨にてらすと、花子の陳述をそのまま採用することができないので、前記の(一)ないし(八)の主張はいずれも疏明なしないし疏明不十分といわざるをえない(本件の事案の性質上保証を立てさせてこれらの点についての疏明にかえることも相当でない)。

一方本件疏明資料によると太郎は春子が出生した後、花子を伴って約2週間のヨーロッパ旅行をしたり、時価数百万円のブルーダイヤの指輪やパティック腕時計を花子に贈るなど、20歳を過ぎて間もない若妻に対する愛情の表現として賢明であったかどうかは別として、花子に対して太郎なりの愛情をもって接していたことが認められるのであって、このような状態のもとで花子が前記のように夫婦共同の住居からしかも夫の入院中に家出したことは、前記のように花子にはこれを正当化する何らの理由がない以上、ひとえに花子の我侭と言わざるをえない。

そして、本件疏明資料および審尋の結果にてらすと本件当事者間の婚姻関係はすでに相当程度に破綻していることがうかがわれるが、その原因は以上の諸事実からして一方的に花子の責任に帰せられるべきである。


 なお、本件疏明資料によると、太郎は現在肩書住所に申請外丙川雪子(昭和13年9月7日生)を同居させていることが認められる。この点について、太郎は、同申請外人は東京以来家政婦として本件二児の世話をしているものであって、同申請外人との間に事実上の夫婦関係などは全くない旨主張するが、本件疏明資料によると、太郎が○○市の現住所に転居したさいには、同申請外人は東京から右同所に住民票まで移していることが認められるのであって、たしかに事実上の夫婦関係にあると断定はできないが、単なる家政婦にすぎないと言い切ることも躊躇せざるをえない。

しかし、それはともあれ、本件疏明資料によると、太郎が右申請外人を同居させるようになったのは、花子が家出した後で、しかも太郎が花子のもとから本件二児を連れ戻した後のことであることが認められるし、幼い二児(現在は秋子のみであるが)を養育するのに女手が必要なことは容易に首肯できるところであるから、この点で太郎を責めることはできない。

 以上のとおりであるから、花子は自ら婚姻関係の破綻の原因を作ったものとして、太郎に対して離婚請求をすることは許されないので、この点で花子を債権者とする昭和50年(ヨ)第7805号事件の被保全権利を欠くことになり、花子が春子および秋子の親権者ないし監護権者に指定されるべきかを判断するまでもなく、同事件の花子の申請はすべて理由がないことに帰するが、太郎を債権者とする昭和51年(ヨ)第186号事件については、さらに進んで太郎が春子の親権者ないし監護権者に指定されるべきかどうかを判断する必要がある。

四、本件疏明資料によると、春子は前記のとおり昭和50年4月に○○市立○○小学校に入学したが、同年11月14日に花子が連れ去るまで、無欠席、無遅刻で通学し、成績も良好であったこと、太郎は父子3名の住居として○○市内の文京地区に借家し、ここから春子を小学校に、秋子を幼稚園に通わせていたこと、同児らの日常の世話は前記丙川雪子が見ているが太郎も休日などにはその兄申請外甲野一夫の家族や、申請外丁村次郎(○○市に住む弁護士で太郎は以前その事務員として世話になっていた)の家族と連れ立って小旅行をしたり、近くの海岸や公園などで同児らの遊び相手をしていること、太郎の収人は所得税確定申告上経費を控除して年額約500万円で通常の生活をする分には支障ないことが一応認められる。

 これに対して、花子側の養育環境としては、本件疏明資料および審尋の結果によると、住居は東京都○○区内にマンションを買ったものの、現在はここに居住せず、今なお仮住であり(これは太郎の探索から逃れるためある程度やむをえない面もあるのだが)、花子自身は、夜の仕事は子供の教育のために好ましくないとの当裁判所の示唆に従って、日本医療事務専門学院の医科コースを受講中であるが、現在のところ無職であること、花子の実母の申請外丁山初子も無職であり、実父甲請外東田松夫は服役中であるが(昭和49年6月ごろ詐欺被告事件の上告審において病気のため勾留執行停止入院中に逃走し、家出中の花子および本件二児と同居中に捜査官に発見され、これが太郎が右二児を連れ戻す契機となったことなどからして)服役後また花子と同居する蓋然性が大きいことが認められる。

また、昭和51年1月7日の審尋期日において、当裁判所が、子供の教育に関する花子の態度を強く批難するまで、昭和50年11月以来一度も春子の転校について配慮をした形跡が見受けられず、その後の再面会期日において教科書を買い与えて勉強をさせているとはいうもののその効果もはなはだ疑わしい。さらに、本件審尋の結果によると、昭和51年1月14日およびその前後半月にわたって花子および春子は東京都内には住んでいなかったし、そのころの春子の友だちというのは従前○○区○○×丁目に太郎と同居していたころに知り合った女児一名だけであることがうかがわれるのに、前同日提出された春子の作成の上申書には現在は非常に楽しく東京にも多数の友だちがいる旨の記載があり、このような事実に反する記載は花子が春子に強いたものと解さざるをえず、目的を遂げるためには子供に嘘までつかせるといった態度は教育上はなはだ問題といわざるをえない。

五 ところで、地方裁判所が人訴法16条による子の監護に関する仮処分を審理する場合、家庭裁判所におけるような調査機関もなく、ただ疏明によってその当否を判断しなければならない。しかも、子の教育環境の安定という配慮を入れるとすると、本案訴訟の進行には相当の日時を要する現状からして、仮処分の結果がそのまま本案訴訟で維持される可能性が大きいことも否定できない。そうしてみると、地方裁判所は子の引渡を命じる仮処分を発するには極めて慎重でなければならない。そして、本件の場合、春子自身母親である花子に懐いており、その側に居たいとの希望を持っていることが認められるから、この点をも充分に考慮に入れなければならない。

 しかし、春子はまだ小学校1年生であり、内体的にも精神的にも極めて不安定かつ柔軟な幼児であるから、同児の将来の健全な育成のためにはその一時的な感情を無視しなければならない場合があることも否定できず、本件の場合花子側の養育環境は、太郎側のそれと比較するまでもなく、前記の各事実から明らかなように劣悪かつ不安定というほかないのに対して、太郎側のそれは前記のとおり経済的にも中流以上でかつ父親の愛情としても欠けるところなく、小学1年生の女児の成育環境として一応満足できるもので、本件仮処分により春子を花子から引き離しても一時的には動揺が伴うであろうが、間もなく安定した成長を遂げるものと思われる。

六 以上の次第であるから、昭和50年(ヨ)第7805号事件については花子の申請を棄却し、同51年(ヨ)第186号事件については太郎の申請を認容し、かつ、事案の性質上保証を立てさせないこととし、申請費用の負担については民訴法89条を適用して主文のとおり決定する。(裁判官 水沼宏)
以上:6,984文字

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